第20回「高速道路は時代遅れになる⁈(2)――〈Highways to Boulevards〉の成功事例・苦戦事例」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
遅々として進まないニューオーリンズの事例
〈Freeways without Futures〉が遅々として進まない事例に、I-10 Claiborne Expressがあります。ニューオーリンズの旧市街フレンチクオーターの西縁を走る高速道路です。
高速道路の建設がアメリカ各地で沸き立っていた時代に、ニューオーリンズでも大陸横断高速道路I-10の工事が進展しました。その交通をどのようにダウンタウンに誘導するか、あるいはニューオーリンズを通過させるかをめぐってルイジアナ交通局(Louisiana Highway Department, LHD)は、当時、ニューヨークの高速道路計画で辣腕を発揮し、「都市開発の帝王」と崇められていたR.モーゼスを招聘し、提案を求めました。
モーゼスは、ミシシッピー川岸の、フレンチクーター沿いの大通りを高架にする案を示しました(Riverfront Express)。しかし、「フレンチクオーターは歴史的街並み地区でニューオーリンズの財産である。その衰退につながる」と猛烈な反対運動が起きました(「ニューオーリンズの戦い」と言い伝えられている)。幸いまちの実力者が運動の中心にいました。おかげで計画は頓挫しました。
同じ時期にClaiborne Avenueを高架にし、I-10を走らせる計画が持ち上がっていました。楠の並木、初夏にはツツジが咲き誇る美しいアベニューでした。しかし、工事では、18街区で街路沿いの黒人住居500戸、300以上のスモールビジネスが解体されました。楠の並木も伐採されました。それでもさしたる障害なく完工し、高架のI-10 Claiborne Expressが実現しました。こちらのプロジェクトでは、反対運動を牽引する有力者がいなかったのです。
高速道路の見直しに着手していたバイデン政権が、2021年、I-10 Claiborne Expressを〈Freeways to Boulevards〉の戦略的候補に掲げました。ところが運輸省はそれを覆し、2022年、補助金の支払いをモラトリアムにする決定をしました。「地元の意見がまとまっていない」というのがその理由でした。当初、市役所は高架を解体し、アベニューにする計画に賛成していました。ところが市港湾局が「解体は物流コストの高騰につながる」と言い募ると、一転して沈黙を決め込むようになりました。
それに加えてなによりも、当該コミュニティで意見が割れ、収拾がつかなくなっています。アベニューに戻すことに賛成派がいますが、以下のように反対、あるいは心配するグループがいます。
- 高架を解体し、界隈の整備が進展するとジェントリフィケーションが起き、新たに立ち退きを迫られる。
- ハリケーン・カトリーナでは、高架下が最後に逃げ場になった。いざというときに高架下がシェルターになる。
- 高架のある風景がそれなりにコミュニティに馴染み、人々もI-10と共生する暮らし方を学び、それが日常になっている。それをわざわざ壊す必要があるのか、疑問。
50年余が経過し、コミュニティは、高架のI-10 Claiborne Expressに対して愛憎半ばしているのです。