第19回「高速道路は時代遅れになる⁈(1)――解体、拡張/延伸計画の中止急増」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

「交通渋滞の緩和」と「都市景観の向上」を訴える撤去運動の限界

この時期に、他の理由で解体された高速道路があります。ニューヨーク・マンハッタンのハドソン川に沿って走るウエストサイド・ハイウエーは、1973年末、崩落事故を起こしました。
再建計画が提案されましたが、実現せずに終わりました。土木工学的には再建は可能でしたが、「工費が嵩み過ぎる」という判断でした。当時のニューヨーク市は、脱工業化と郊外化のダブルパンチを受け、ほぼ財政破綻状態でした。市の財政危機がウエストサイド・ハイウエーの再建話を破綻させました。また、サンフランシスコ都心の、高架高速道路(Central Freeway)が1989年に地震で崩壊し、その後、解体されました。

以上が20世紀の高速道路の撤去事例です。ニューヨークとサンフランシスコの事例は「高架が崩落し」――すなわち、建築的、物理的な条件がきっかけになって解体につながりました。
一方、ポートランドとボストンの事例では、高速道路が交通渋滞、及び都市景観を害する迷惑構造物になっていることに対し批判が上がり、それが引き金になって撤去を求める社会運動が起き、実際に解体に至りました。

しかし、その後、21世紀を迎えるまで、高速道路の解体事例が他になかったことを考えると、「交通渋滞の緩和」と「都市景観の向上」を訴えて高速道路を撤去する運動には、限界があったことを示唆しています。

高速道路支持を打破したエネルギーとは?

高速道路をめぐる反対運動に対しては、常々、解体に異議を唱える強力な抵抗勢力がいます。高速道路翼賛者は「道路の拡張/延伸が交通渋滞を緩和する」と頑迷に信じています。
この抵抗勢力を追撃し、撃破するためには、さらに大きなエネルギー(時代の力)が必要だったのです。それを、I-710を事例に調べたのが以下です。

ロサンゼルス都市圏を南北に走るI-710の拡張、延伸計画が2022年初夏に頓挫しました(I-710 Freeway expansion dropped after decades of planning, marking a milestone for L.A., Los Angeles Times, May 26, 2022)。

計画が浮上したのは21世紀を迎えて間もなくでした。計画発表後、直ぐに反対運動が起きました。しかし、計画が撤回され、反対運動が成就するまで20年弱の歳月がかかりました。「一度動き出した公共事業は止まらない」の好事例です。I-710では、道路官僚が車大好きの保守派と結託して反対運動の押し潰しに動きました。

I-710はロサンゼルス/ロングビーチ港に発し、ロサンゼルス市内に向かって北上する高速道路です。ロサンゼルス/ロングビーチ港は、アジア、豪州、南アメリカからの貨物の受け入れ港です。
両港には、大型のコンテナ船が発着し、アメリカ全体で扱うコンテナ量の1/3以上を取り扱っています。

したがってI-710には、昼夜、大型の貨物トラックが大量に走ります。交通渋滞が酷い。大気汚染が深刻です。交通事故も多い。大型トラックですから、燃料はディーゼルです。沿道にあるコミュニティでは、呼吸器系の疾病が多く報告され、界隈は「Diesel Death Zone」の異名で呼ばれています。

それでも拡張/延伸計画をなかなか阻止できなかったのです。計画を担当していたのは、カリフォルニア州交通局(CalTrans)とロサンゼルス都市圏交通局(LA Metro)でした。「交通量の増加に道路の拡張で対応する。車線を増やせば渋滞が緩和し、大気汚染の改善につながる」と詭弁を弄してきました。