第18回「大統領選を左右するラストベルトの近況(3)――ハイテククラスターの形成に伴走して街が活性化する」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

創造階級の受け皿になったデトロイト

デトロイトが財政破綻したのは2013年でした。しかし、自動車産業に過度に依存した産業構造からの転換を目指す動きは、21世紀を迎えたころから始まりました。地元のウエイン州立大学がハイテク系の起業センター(TechTown)を2004年に開設しました。

それから10年余の間に、Twitter(2012年)、Amazon(2016年)、Google(2017)などIT系の専門職が働くオフィスがダウンタウンに勢揃いしました。SSCでジェントリフィケーションが激しくなった時期と重なっています。デトロイトも、SSCを逃げ出す創造階級の受け皿になりました。

住宅ローンのQuichen Loansは、本社を一時期、デトロイトの郊外に転出していました。それが2007年、突然、ダウンタウンに回帰する方針を示しました。2011年には、傘下に都市再開発のディベトッパー会社を設立しました。

以来、ダウンタウンに点在していたA級、B級の空きビルを怒涛の勢いで買収し、修復し始めました。その数100棟以上。そこにハイテク企業やスタートアップが入居しました。ビルの1階には、衣装店、飲食店が開店しました(矢作弘「財政破綻から3年、デトロイトの最新事情」『世界』2017年1月)。試験的に開業したポップアップ型の日用品店やカフェ、衣料品店が入店しました。

実際のところ、デトロイトの街の変化は、もう少し早く始まっていました。ダウンタウンから大学/病院キャノパスを抜ける幹線道路のWoodward Ave.沿いがさきがけでした。タウン誌に掲載される自家焙煎の珈琲ショップやワインハウス、写真画廊、アートスタジオがアベニューの交差点を跨いで飛び飛びに開店しました。

建物の外壁にはグラフティが描かれ、椅子やテーブル、それに照明器具は不揃いの中古品を並べ、店員は長髪に髭ズラ・・・そうしたカフェでは、Tシャツ/ジーンズ姿のプロフェショナル風が、珈琲をすすりながらアップルコンピューターを叩いている風景を見受けました。

2017年に、<ダウンタウン-大学のあるミッドタウン-New Center>の間にQ-line(路面電車)が開通し、新型デザインの車両が快走し始めました。<ダウンタウン、Woodward Ave.、それに大学界隈>の一体化が進みました。昼のダウンタウンには、キチンカーが並びます。夜歩きは危険でしたが、最近はレストランが深夜まで営業しています。夜半も、女性グループが闊歩しています。都市観光のツーリストが増えました。市内にあるホテルの宿泊料は、SSCにあるホテルと並ぶほど高くなっています。