第18回「大統領選を左右するラストベルトの近況(3)――ハイテククラスターの形成に伴走して街が活性化する」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
歴史的街区を抱えるコロンバスの再生
非煤煙型都市のコロンバスも、郊外化の影響を受けてダウンタウン、及びインナーシティの空洞化が深刻でした。ダウンタウとオハイオ州立大学(OSU)の間がインナーシティです。そこを走る幹線道のNorth High St.沿いは、20世紀後半期には空き家が連棟していました。治安が悪く、昼間でも一人歩きが危ない界隈でした。
筆者は1980年代半ばに客員研究員としてOSUに滞在しましたが、界隈では、殺人や通りすがりのレイプ、強奪などの凶悪犯罪がしばしばニュースになりました。
街路沿いは、ヴィクトリアン様式の住宅が並ぶ歴史的街区です。「そうした街の特性を生かして界隈を再生しよう」という呼びかけで再生運動が始動しました。2010年前後の話です。地元ディベロッパー、商店主らが2011年にコミュニティ活性化組織のThe Short North Arts District(SNAD)を立ち上げました(Short North Arts District : Columbus, OH, American Planning Association, 2024)。
OSUが沿道の荒廃地を買い取り、都市計画を立てるなどし、大学が街区再生の旗振り役になりました。荒れて朽ちていた建物や住宅の改修が進みました。
最近は、内装がおしゃれで工夫されたメニューを提供するトレンディなカフェ/エスニックレストラン、もっぱら地元デザイナーが創作した衣服を陳列するブティック、DIYフード店、コンテンポラリーアートの画廊、アート工房・・・それにブティックホテル(中小規模の高級ホテル)など300店が軒を並べています。90%が地元オーナーの経営です。
件のヴィクトリアン様式の住宅地区は、人口が2010年に比べ30%増えました。SNAD界隈で働くファッションピープル(流行に敏感な人々)に加え、IT系、バイオ系ビジネスに勤めて高給を稼ぐ創造階級が入居しています。OSUの研究室からスピンオフしたスタートアップが空き建物をオフィスや研究スタジオに改装して使っています。また、界隈は、「LGBTQにフレンドリーなコミュニティ」としてメディアに紹介されました。
昨今はジェントリフィケーションが起き、家賃が高騰しています。