第18回「大統領選を左右するラストベルトの近況(3)――ハイテククラスターの形成に伴走して街が活性化する」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

創造階級の移住で加速した「街の改善」

やがてジェントリフィケーションを誘発した創造階級自身が、今度は生活費が高騰するのを嫌ってSSCから逃亡し始めました。逃亡者の受け皿になったのが、「その他の都市(=SSC以外の都市)」と呼ばれる――オースチン(テキサス)、フェニックス(アリゾナ)などのサンベルト都市、それと並び歴史的レガシー(有力大学、Academic Medical Complex)に恵まれたラストベルト都市でした(拙著『都市危機のアメリカ』岩波書店 2020年)。

創造階級が逃亡先に選択したラストベルト都市では、ほぼ同じ時期に、それまで荒び、衰退していたダウンタウン、あるいはその周縁のインナーシティにファショナブルな珈琲ショップやレストラン、ライブハウスが散発的に開店し始めていました。ラストベルト都市の、そうした「街の改善」を、新聞やTVが驚きを持って報じました。

一般的に創造階級は、時代の先端を嗅ぎ取るのに長けています。そのため「街の改善」が始まったラストベルト都市は、「高いQOL(生活の質=相対的に安い住宅費、緑豊かな環境、優れた大学/医療機関)」をアピールし、SSCに嫌気を抱き始めた創造階級を誘致する戦略に打って出ました。また、創造階級の移住が、「街の改善」をさらに加速しました。

ラストベルト都市で「Silicon Heartland」の胎動、そしてダウンタウン界隈の「街の改善」――双方の動きが伴走した背景には、同時性がありました。その間には相互作用がありました。