第18回「大統領選を左右するラストベルトの近況(3)――ハイテククラスターの形成に伴走して街が活性化する」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

この連載について

アメリカで展開されている都市政策の最新事情から注目の事例をひもときつつ、変容するこれからの都市のありよう=かたちをさぐります。

筆者

矢作 弘(やはぎ・ひろし)

龍谷大学フェロー

前回の記事

ハイテククラスター形成の前兆

連載の前回では、昨今、幾つかのラストベルト都市でITハイテク/バイオクラスターの形成が急ピッチで進展している話題を紹介しました。

しかし、物事には前段があります。
ラストベルトでは、ハイテククラスター形成の前兆は、経済危機(2008年)前後に遡ります。このころからITハイテク/バイオ系のプロフェショナルがラストベルト都市に流入し始めました。当初は漸進的な動きでした。それがやがて前回記述したように、大きなハイテク投資を誘発する流れになりました。それには以下の事情がありました。

ラストベルト都市の、ハイテク化の前段は、ニューヨーク、ボストン、ワシントン、サンフランシスコ、シアトル、ロサンゼルスが「スーパースター都市(SSC)」と呼ばれるようになった時期と重なっています。
SSCでは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が高学歴で高額所得を稼ぐ創造階級を大量に雇用しました。この階級の人々は、贅沢なコンドミニアム、高家賃のアパートに暮らすことを歓迎しました。そのため界隈では、住宅費が急騰し、激しいジェントリフィケーションが起きました。