フィヨルド観光にバッテリー駆動型フェリーを 船舶への環境規制強化の中で存在感

ノルウェーのフィヨルド観光用フェリーとして、有害なガスを排出しないバッテリー駆動型の新型船の運行がスタートし、環境規制の高まりの中で期待が寄せられています。

炭素繊維を使用した高速船の開発で世界的に知られるノルウェーの造船会社「Brødrene Aa」が製造した”Future of the Fjords“は、全長42メートル、最大400名が搭乗可能な双胴船で、船体に搭載した5.5トンの蓄電池を動力源として航行。
充填する電力は、ノルウェーの電力のほとんどを賄っている水力由来のものであるため、100%クリーンなエネルギーで運行できるしくみになっています。

ディーゼルエンジンで航行するフェリーとは異なり、エンジンの駆動に伴う騒音がほとんどないほか、燃料の燃焼によるガスを排出しないため、静謐で壮大な景観が見もののフィヨルド観光の魅力を高めることも期待されています。

この船の開発・導入が歓迎される背景には、ユネスコの世界遺産にも指定されている、フィヨルドの環境保護をめぐる情勢の変化があります。

船舶に関する環境規制は、2015年12月に採択された気候変動抑制に関する多国間合意「パリ協定」でも対象外となるなど、その他の分野に比べて対策が遅れてきました。

そんな中、2018年4月には、国連の専門機関である「International Maritime Organization(IMO/国際海事機関)」が、CO2の排出に関する独自の国際的な数値目標を設定。2008年と比較して、2030年までに40%、2050年までに70%の削減を掲げました。
さらに2025年までに、新しく造られる船は、2014年製造の船と比較してエネルギー効率を30%高めるよう求めています。

また2018年5月には、ノルウェー議会が船の環境対策に関する新たな規制法案を可決。2026年までに、世界遺産に指定されているGeirangerfjord(ガイランゲルフィヨルド)とNærøyfjord(ネーロイフィヨルド)への航行はガスを排出しない船舶のみに制限するほか、今後4年間で、その他の地域の航行についても排ガスに基づいた規制を広げることが決まっています。

こうした規制強化が進む一方、ディーゼルエンジンや、ディーゼルとLNG(液化天然ガス)のハイブリッドエンジンで駆動するクルーズ用の大型船や貨物船が船舶全体に占める割合は依然として多く、ノルウェーのクルーズ大手Hurtigruten社などが今後対応に苦慮することも予想されています。

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公開日:2018/10/11/最終更新日:2023/08/30
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