根っからの実測好き建築家・政木哲也さんが、日本中の「本のある小空間」の魅力を解き明かすべく、測って・描いて・綴り歩きます。連載の第一回目は、本好きに知らない人はいない京都の個人書店・誠光社さんです。店内を測りつくしながら、店主の堀部さんに、お店の空間について、まちで店を営むことについてお聞きしました。

vol.1 誠光社 | 6枚の袖壁がつくる没入感

 

― 使い慣れた書架のサイズ ―

「設計者には自由に使えるシンプルな箱を用意してもらいました。見てほしいのは本だから」と、店主の堀部さんは話してくれた。その言葉どおりメインの書架ゾーンはいわばシンプルな“合板の箱”だ。書架や什器は、長年の書店員経験で染みついた最も使い慣れた寸法と納まりを指示し、知り合いの大工・DIY仲間に頼んで形にしてもらったという。

 

― 6枚の袖壁 ―

特徴的なのは両側の壁から突き出る6枚の袖壁である。古い町家を店舗へ改修するにあたり、耐震性を高めるのに必要だったものだ。その結果、袖壁によって途切れるように配置された書架は、ゆるいジャンルで括られた“溜まり”を作り出した。絵本や児童、文芸、農や食のライフスタイル関係、芸術やエッセイ。あまり長く独り占めするのは気が引けるが、心地良いパーソナルスペースとなっているので、だれにも邪魔されず書架の世界に没入できてしまう。

 

 

 

― 2つのゾーン ―

店の構成は、手前の書架ゾーンと奥のギャラリーゾーンの2つに分けられる。取材に伺ったお昼どき、大きな全面窓から入る外の光で店内は思いのほか明るかった。すぐ目に飛込んでくるのが、真正面のテーブルに平積みされた新刊本であった。中央の島は新書から分厚い単行本、雑誌まで、すべて本の表紙を見せる面出しで陳列され、個性豊かな表紙につい手が伸びる。

 

― 店は分身 ―

一番奥のギャラリー兼オフィスゾーンは店主の普段の居場所である。数十分おきにレコードの針を落とし、カウンターで時折やってくる常連客を迎える。店づくりで最も重視したのは「仕事が日常と地続きだからこそ、毎日そこで過ごすことが気持ち良い」ことだとか。物件の決め手となったのも、裏手にあけられた窓からバックヤードへ風が抜けるところだった。天井に吊り下げられた無指向性スピーカーからは「毎日の気分にあわせて居続けたくなる曲」が流れる。そんな話を聞くと、間口二間の小さな箱に詰まった本やZINE、雑貨、音楽の一体となった空間が、だんだん堀部さんご自身に思えてきた。

 

― フレキシブルな什器 ―

1人で切り盛りできるサイズだという小さな店内には、空間をフル活用する仕掛けが盛りだくさんである。人を集めたイベントもよく行うため、中央の什器たちはキャスター付きで容易に移動できるつくりだ。町家には珍しい3m近い天井高を活かして、天井にはプロジェクターが、壁にはロール状のスクリーンが取り付けられている。1人でも30分もかからずに設営できてしまうそうだ。

 

― 仕事と日常が地続きなまち ―

思う存分書架を散策したあとは、足をまちに向けるといい。大通りの喧騒から離れたエアポケットのようなこの路地付近には、個性豊かな店が集まっている。地価や賃料が急騰する京都でもかろうじて自由な商いを維持しているエリアだからだろう。隣のカフェで空腹を満たしてもいいし、近くの銭湯、雑貨屋、パン屋を渡り歩いてもいい。働く場と生活の場が近いまちは散策が楽しい。店主の人となりが通りの風景をつくり、いつも誰かが世間話をしていて活気がある。同世代の店主同士、家族ぐるみの交流も日常だという。ちょっと疲れたら、すぐ近くを流れる鴨川で夕涼みしよう。

 


店舗情報

誠光社

住所:〒602-0871 京都府京都市上京区俵屋町437
営業時間:10~20時
定休日:無
URL:https://www.seikosha-books.com/


著者プロフィール


政木哲也
京都橘大学客員研究員。1982年大阪府生まれ。2007年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社久米設計、株式会社メガにて設計業務に従事したのち、2016年より現職。京都の地蔵盆にまつわる都市生態をはじめ、建築設計・都市研究をなりわいとし、趣味で実測した国内外のホテルを小冊子にまとめてしまうほどの実測好き。

 


その他の連載記事

連載|図解 本のある小空間|vol.2

記事をシェアする