連載|図解 本のある小空間|vol.4 Title
根っからの実測好き建築家・政木哲也さんが、日本中の「本のある小空間」の魅力を解き明かすべく、測って・描いて・綴り歩きます。連載の第四回目は荻窪にあるTitleさんです。
◆武蔵野の香りが漂う木造民家
Titleという書店を開業するまでの経緯を詳らかにしたドキュメンタリー、『本屋、はじめました増補版』(ちくま文庫、2020)は、書店を開業したい人やすでに開業した店主たちのバイブルである。書店のことや今読むべき本について広く発信している著者・辻山良雄さんは、本好きの間で名物店主として一目置かれる存在だ。ファサードのさわやかな青い日よけテントの印象と、店内の印象は全く異なり、露出する柱梁の無骨な存在感に圧倒される。荻窪に暮らした作家・井伏鱒二の『荻窪風土記』を紹介しつつ、辻山さんはこの地の歴史と店のつながりを嬉しそうに語ってくれた。そうなのだ、この店の空気は土地の記憶を含んでいるのである。
大型店舗のような書架
いわゆる町家風の奥行きの深い店内には、長い両側の壁を利用して大型書店でよく見られる収容量の大きいスチールラックが並ぶ。入って右側の壁際の書架は全長9mを超え、壮観だ。
奥に長い平面は、手前から奥へと3つのゾーンに分けられる。
一番入口に近いゾーンは上階にギャラリースペースがあり、天井が張られた分だけ高さを抑えている。新刊書や話題の本は入口のすぐ前に配置された平積み用の台に置かれ、常にフレッシュに保たれたスポットとなっている。
中間ゾーンは小屋組が露出し気積の大きい空間で、店主の辻山さんの座席があるレジカウンターと上階への階段がコンパクトに収まっている。中央にロングセラーや常備している文庫本が詰まった可動式棚が置かれる。
隠れ家的カフェスペース
一番奥はカフェと厨房のゾーンである。30㎝程度上がった床と奥へ行くほど低くなる天井で、ちょっとした隠れ家的な雰囲気がある。きれいなブルーグレーの壁が店の中でも特別な空間として目を引く。2つのテーブル席とカウンター席が用意され、手製のスイーツやドリンクがこだわりの食器でサーブされる。多くのカフェ併設書店はカフェ席を店の表側に配置するが、ここでは奥に引っ込めているのは、あくまで書店だからだ。カフェは本を求めに来た客の、とっておきの楽しみなのである。
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