[ブックレビュー]まちづくり職員にとって、専門性や人材育成は本当に必要なのか?|橋本隆

この書籍は、『まちづくり協議会読本』の著者である鳥山千尋さん(元杉並区)の最新作。本書は、著者の40年間の実務に基づく失敗や試行錯誤を紹介しつつ、まちづくりにどう対峙していくべきかが語られています。自治体職員なら誰でも経験する「現場で立ちすくむ状況」や協働のあり方など、きっと多くの読者が共感しながら読むことになるでしょう。

そんな本書をうなずきながら読み終える頃、専門家2人による寄稿「まちづくり職員の専門性と人材育成」で本書は完結します。この展開は予想していませんでしたが、この寄稿こそ本書の企画の核心を示すものではないかと思う内容でした。
つまり、著者をはじめとした自治体のまちづくり職員にとって、専門性や人材育成は本当に必要なのか?という根源的な問いです。これは、私にとっても非常に興味深いテーマであり、もしかしたら永遠のテーマかもしれません。

職員数の削減が進む自治体の職場において、著者のような熱い心を持った職員がまちづくりの現場で活躍し、その失敗や試行錯誤を伝えることは、今後ますます重要になっていくでしょう。40年間の経験を有するベテランの生の声を届けた本書は、それだけで価値があり、まちづくりの実務に携わる人にとって一読の価値があります。

また、本書を読むことによって、素朴な疑問が湧いてきたことも事実です。まちづくりの書籍は、学者が執筆する専門書が多い反面、なぜ本書のような現場で奮闘する自治体職員による書籍が少ないのかということです。ニーズがなかったのか、書き手がいなかったのか、多くの出版社が興味を示さなかったのか、はたまたこれら全てなのか。

そのように考えると、本書からは色々なことを考える機会をいただきました。「また少し時間をおいてから読み直してみよう」そんな気持ちになる、さまざまな示唆を与えてくれる新書ですので、ぜひご興味のある人には読んでいただければと思います。


筆者プロフィール

橋本隆(はしもと・たかし)

伊勢崎市建設部治水課長。職務経歴は合計30年。9年間勤務した建設会社を退職後、伊勢崎市入庁。区画整理課長、都市計画課長、都市開発課長、土木課長などを経て現職。博士(工学)、技術士(建設)など20以上の資格を持つ。主な著書は『自治体の都市計画担当になったら読む本』、『これだけは知っておきたい!技術系公務員の教科書』(ともに学陽書房)。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2022」受賞。

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