坂井 文 著

内容紹介

公共空間から都市を変えるしくみのデザイン

イギリスとアメリカでは不況下に荒廃した公共空間を、民間活用、都市再生との連動により再生し、新たに創出してきた。その原動力となったのは、企業や市民、行政、中間支援組織など多様なステークホルダーが力を発揮できる公民連携だ。公共空間から都市を変えるしくみをいかに実装するか。ロンドン、ニューヨーク等の最前線。

体 裁 A5・236頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2768-6
発行日 2021-04-10
装 丁 藤田康平


紙面見本目次著者紹介はじめにおわりに

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はじめに

1部 イギリス

1章 民間の力を引き出すイギリスの公民連携

1 公共空間の非営利組織によるマネジメント

1-1 ロンドンの取り組み
1-2 ニューカッスルの取り組み

2 民間の力を活かした公共サービスの提供

2-1 強制競争入札制度
2-2 アセット・トランスファー

3 公共空間の質を保つ評価のしくみ

3-1 グリーンフラッグ賞
3-2 行政の自己評価と住民参加のサポート

4 民間の都市開発による公共貢献

4-1 106条計画協定
4-2 ロンドン・サザーク区の都市開発による公共貢献
4-3 コミュニティ・インフラストラクチャー税

2章 イギリスの都市再生と連動した公共空間の再生

1 公共空間の再生を支える都市政策と組織

1-1 ブレア政権下のオープンスペース政策の強化
1-2 オープンスペース計画策定の推進
1-3 ウォーカブルな都市再編
1-4 技術支援や人材育成を担うケーブスペース

2 公共空間の再生を支える財源

2-1 宝くじ基金
2-2 宝くじ基金によって再生されたバーケンヘッドパーク
2-3 ニュータウン開発事業後の基金の活用
2-4 ポスト・オリンピック再開発で創設された固定不動産チャージ

3 BIDの導入

3-1 タウンマネジメントからBIDへ
3-2 イギリスのBIDの運用
3-3 パーク・インプルーブメント・ディストリクト

3章 ロンドンとニューカッスルの事例

1 キングスクロス

ロンドン最大規模の都市開発と公共空間の創出

2 クイーンエリザベス・オリンピックパーク

ポスト・オリンピックの持続可能でインクルーシブな再開発

3 ラッセルスクエア

所有者・事業者・利用者の連携によるマネジメント

4 レスタースクエア

BIDによる観光商業エリアの改善

5 ニューカッスル

地方都市のBIDによるプレイスメイキング

2部 アメリカ

4章 アメリカの公民連携による公園のマネジメント

1 公園のマネジメントにおける公民連携

1-1 コンサーバンシーの全米への展開
1-2 プロジェクト・フォー・パブリックスペース
1-3 公民連携を進めるための四つのポイント

2 BIDによる都市公園のマネジメント

2-1 財源としてのBID導入の検討
2-2 マディソンスクエアパークとユニオンスクエア
2-3 BIDとNPOの協働スタイルの違い

3 身近な公園の公民連携を促す行政のサポート

3-1 ニューヨーク市の都市公園基金
3-2 パートナーシップ・フォー・パークス
3-3 ニューヨーク市の公園再整備基本計画
3-4 他の都市の動き

4 郊外の大規模公園の公民連携

4-1 ニューヨーク州立公園の公民連携
4-2 カリフォルニア州立公園の公民連携

5章 アメリカの都市開発による公共空間の整備

1 ニューヨークの容積率移転

1-1 歴史的な建造物の保全と容積率移転
1-2 特別地区のTDRとハイライン整備

2 ボストンの空中権の活用

2-1 空中権によって創出されたグリーンウェイ
2-2 グリーンウェイのマネジメント
2-3 マサチューセッツ・ターンパイクへの波及

3 都市開発事業者による公共空間の整備

3-1 リバーサイドパーク・サウス
3-2 ブルックリンブリッジパーク

4 公開空地の進化

4-1 ニューヨークの公開空地の変遷
4-2 公開空地のマネジメントの実態
4-3 公開空地の再整備に向けたデザイン誘導

6章 ニューヨークとボストンの事例

1 セントラルパーク

コンサーバンシーによる再生のデザインとマネジメント

2 ハイライン

容積率移転による公共空間の創出

3 マディソンスクエアパーク

公園と周辺エリアのマネジメントの連携

4 ブライアントパーク

公園への投資がエリアの価値を向上

5 ポストオフィススクエア

地下駐車場収入を活用した公園のマネジメント

終章 公民連携による公共空間マネジメントに向けて

1 公民連携のしくみの展開

2 多様な「民」を活かすしくみの設計

3 所管・部局を超えた「公公」連携の必要性

4 情報提供と技術支援

5 行政と民間のプラットフォームの形成

6 持続可能なマネジメントに向けた財源確保

7 行政と民間のシームレスなマネジメントへ

 

おわりに

坂井 文

東京都市大学教授。東京都出身。横浜国立大学建築学科卒業。ハーバード大学ランドスケープ・アーキテクチャー修士。ロンドン大学Ph.D。一級建築士。JR東日本、ササキ・アソシエイツ(アメリカ・ボストン)にて勤務。北海道大学工学部建築都市コース准教授を経て現職。国土交通省(新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会等)、内閣府、スポーツ庁、文化庁、東京都等の地方自治体の都市計画に関わる委員会などの委員を務める。

注目を集める公共空間の価値

近年、行政が所有し管理してきた公共空間に変化が起きている。それぞれの地域のコンテクストの中で公共空間を捉え直し、新たなしくみのデザインによって持続可能に管理し、豊かな都市生活に資する空間として活用するマネジメントが模索されている。

一歩先に進めているイギリスやアメリカの公民連携による公共空間マネジメントは、成熟都市が直面した制度や財政の課題、施設の老朽化等への対応から始まった。しかし、最近の取り組みを見ると、多様な人々が共に生活する都市において、より快適な時間を過ごすための場をつくりだし、継続的にマネジメントするためのしくみのデザインへと進化している。

日本においても近年、都市公園へのPark-PFIの導入、河川空間のオープン化、道路法の改正等によって、各地で公共空間が活用されるようになった。その一方で、公共空間の質を継続的に維持しより活用するうえでのマネジメントのしくみを考えていく必要もある。

公共空間の持続可能なマネジメントへの模索

現在の公共空間の整備と管理のしくみは、都市の近代化とともに構築されてきた。しかし21世紀になる直前に、イギリスとアメリカではその管理に変化が出始めた。

イギリスでは1980年代、保守党のサッチャー政権の時代に民間活用による公共サービスの提供が推進されたが、90年代には公共空間の質の低下等の課題が浮上し、対応策が求められた。その後、都市環境の向上に力を入れた労働党のブレア政権下では、多様な公民連携による公共空間のマネジメントが展開されていく。

一方、アメリカでは、公民連携による都市開発が活発化する1980年代に公共空間のマネジメントにおいても公民連携の動きが始まった。90年代後半からの景気回復や治安改善の追い風もあり、たとえば2000年代のニューヨーク市ではブルームバーグ市長の下、公共空間の再整備や公民連携によるマネジメントが推進された。

いずれにも共通するのは、時の政策や経済の影響を受けて公共空間のマネジメントが不安定になった経験と、その後の都市再生との連動を経て、公民連携による持続可能なマネジメントのしくみが模索されてきたという経緯である。

新たな「共」によるマネジメント

そして今日、直面する地球環境問題やグローバル化の進展、加えて日本では人口減少に伴う課題にも他国に先駆けて対応する必要がある。さらに、直近の新型コロナウイルス感染症の拡大は、日常生活のデジタル化を加速させ、私たちの身体を通したコミュニケーション活動の場としての都市のあり方も変化していく。

良質な公共空間を創出する動きは、人と人の関係性を体感できる都市への回顧の表れなのかもしれない。これまで必要な機能ごとに分化し整備されてきた公共空間を人の生活に密接な場、共に利用する共用の場と捉え、新たな「共」によるデザインとマネジメントが模索され始めている。

公民連携による公共空間マネジメントは、行政が民間事業者にマネジメントを委託してきた民間活用の段階から、非営利団体や市民という新たな民間の主体と行政が連携してマネジメントを行う段階へと展開してきた。さらには、多様な主体が連携する新たな「共」によるマネジメントも始まっている。それは、社会資本として構築してきた公共空間を、社会関係資本の構築を通してその空間とマネジメントのしくみをデザインし直す、持続可能な社会への展開の一つなのかもしれない。

本書の構成

イギリスとアメリカの取り組みを1冊にまとめた最大の理由は、この数十年の間に展開されてきた公民連携による公共空間マネジメントの手法を整理し、事例を紹介することによって、日本での今後の展開を探るヒントになると考えたためである。当然ながら、イギリス、アメリカ、そして日本では、公共空間を巡る歴史的背景や制度、そして現状も異なる。しかしながら、行政が単独で整備し管理してきたシステムに民間が積極的に参画する、公と民の連携の模索には共通する点も多い。

本書は、イギリスとアメリカの取り組みについて2部構成で紹介している。

1部のイギリスでは、一足先に取り入れた民間活用による公共サービスの提供とその課題への対応として公共空間マネジメントの質を保つ評価のしくみや、民間の都市開発による公共貢献としての公共空間の再整備など、民間の力を引き出す公民連携の手法について、1章で紹介する。続く2章では、都市政策と連動した公共空間の再生を推進したブレア政権以降の取り組みを中心に、財源確保の手法についても解説する。その後3章では、ロンドンとニューカッスルの先進事例を具体的に紹介している。

なお、イギリスの都市計画では、公共のレクリエーションに供するスペースを示す言葉として“open space”が使われている。よって、原書の“open space”“park”の表記は「オープンスペース」「公園」と訳し、オープンスペースを含む広義の公共の利用に供する空間を「公共空間」として扱った。

次に2部のアメリカでは、公民連携による公園の再整備やマネジメントについて、NPO組織やBIDによる取り組みとともに、行政による施策について4章で紹介している。続く5章では、都市開発を通して公共空間を整備しマネジメントするしくみを構築してきた経緯や事例について述べる。その後6章では、ニューヨークとボストンの先進事例を具体的に紹介している。

アメリカの都市計画では、“public space”は日本語の「公共空間」に、また“park”は「公園」に近いイメージで使用されていると考え、原書の表記もそのように訳出した。

終章では、イギリスとアメリカの取り組みから、公民連携による公共空間の実装に必要なポイントを、日本での展開を踏まえて具体的にまとめている。

都市の公共空間は変わることができる。ただし、そのためには政策や都市計画、空間デザインとマネジメントの連動が重要であり、その実装には公民連携の取り組みが不可欠である。そのことを、イギリスとアメリカでの実務経験と調査研究を通して痛感している。

1990年代にアメリカ・ボストンにて留学・就職し、その後2000年代前半にイギリス・ロンドンで共用空間が公共空間へ変容する経緯について研究していた同時期に、それぞれの国の公共空間では大きな変化が起きていた。90年代にニューヨークのセントラルパークを恐る恐る足早に歩き、ボストンの物騒な高速道路の高架下を走って通過していた私にとって、その後の変わり様はにわかには信じられなかった。

思い返せば、CABE Spaceから日本の公園緑地の管理についてレポートを依頼された2003年は、まさにイギリスが公共空間マネジメントの課題に取り組んでいる最中であった。後日送られてきた“Is the grass is greener…?”と題する調査報告書では見事にエッセンスのみが抽出・編集されており驚いた。この公園緑地マネジメントがCABEを知るきっかけであった。

広場への興味から始まった実務経験、それに続く調査研究を通して、平面的に広がる公共空間とそれを取り囲む景観の双方のデザインとマネジメントが、心に残る都市空間の創造には不可欠であると考えるようになった。

景観マネジメントの研究が先行したが、並行して遂行してきた公共空間の再整備とマネジメントに関わる科研費調査の知見をもとに本書は執筆されている。どちらも近年の取り組みを中心に取り上げているが、いずれはその源流に立ち返った、不特定多数の利用に供する公共空間が近代都市とともに形成され、マネジメントされてきた経緯から未来を考えたいと思っている。

最後に、書籍としてまとめることを提案いただいてから3年、本書の出版を牽引してくださった学芸出版社の宮本裕美さんに感謝を申し上げたい。

2021年3月 坂井 文

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