ゲストハウスがまちを変える

渡邊 崇志 著 前田 有佳利 著 宿場JAPAN 監修

内容紹介

宿泊業で街を面白くする!10年の実践を凝縮

まちに開かれた宿を営むことは、最高のローカルビジネスだ! 品川で4軒の宿を営み全国で開業を支援する経営者と、200軒の宿を取材した編集者が語る、宿泊業でまちを面白くするノウハウ。多様な人が行き交い、まちの魅力を発信する場の作り方、それを起点にした変化のプロセスとインパクトを解説。日本のゲストハウス史も収録。

体 裁 四六・288頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2814-0
発行日 2022-04-10
装 丁 藤田康平(Barber)

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計50ページ公開中!(はじめに、1章)


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はじめに

1章 日本のゲストハウス・カルチャーの歴史

1 外国人向け宿の変遷
2 規制緩和と供給過多によるゲストハウスの危機
3 アメリカの新しいホテル・カルチャーに学ぶ
4 コロナ禍におけるゲストハウス市場

2章 地域融合型ゲストハウスの運営

1 東京のゲストハウスの先駆け「ゲストハウス品川宿」の開業まで
2 東京で一番小さなホテル「Bamba Hotel」と「Araiya」
3 アパルトマンとアルベルゴ・ディフーゾに学ぶ新しい宿泊スタイル
4 ホテルと民泊のいいとこどりのアパルトマン「Kago#34」
5 スキルを上げてスモールラグジュアリーな宿をつくる
6 地域融合型ゲストハウスを実現するポイント
|ゲストの満足度を高める一元化されたサービス
|地域の等身大の日常を提供する
|居場所だと感じられるコミュニケーション
|地域の人々の価値観を理解することで接客の幅が広がる
|再訪したくなる宿の前提条件は、未完型の経営モデル
|ゲストと地域との通訳者になり、感動のサイクルを回す
|地域融合型ゲストハウスを実現するステップ
|目的を共有できる多様な仲間を増やす

3章 ゲストハウスの事業計画、サービスのつくり方

1 エリア選定
2 コンセプトづくりと物件選定
3 事業計画書づくり
4 施設づくりとサービスづくり
5 有事に備えてゲストハウスができること

4章 宿の価値を高め、地域と連携する運営

1 集客・サービス改善のノウハウ
2 付加価値を磨くノウハウ
3 採用・人材育成のノウハウ
4 多店舗展開のノウハウ
5 効率化のノウハウ

5章 開業支援事業のケーススタディ

1 開業を支援する「Dettiプログラム」とは
〈個人事業者支援事例〉
2 「ゲストハウス蔵」 ─女性オーナーがUターン移住して開業
3 「神戸ゲストハウス萬家」 ─韓国人オーナーが異国で開業
〈企業支援事例〉
4 「大阪西成ゲストハウスDOYA」 ─地域文化の消失を防ぐ拠点づくり
5 「Yumori Onsen Hostel」 ─震災で窮地に追い込まれた温泉街を再生
〈自治体支援事例〉
6 「北海道網走郡津別町」 ─チームで取り組むエリアリノベーション

6章 これからのゲストハウスの可能性を探る対話

1 大阪のゲストハウス事業の先駆け「由苑」 溝辺佳奈
2 街を一つの宿と見立てる「HAGI STUDIO」 宮崎晃吉/「NOTE奈良」 大久保泰佑
3 多拠点生活プラットフォーム「ADDress」 佐別当隆志

おわりに

渡邊 崇志

株式会社宿場JAPAN 代表取締役。1980年生まれ。明治大学商学部卒業。リッツカールトンなど複数のホテル勤務を経て、2009年外国人旅行者向け宿泊施設「ゲストハウス品川宿」を開業。2011年株式会社宿場JAPANを創業し、地域融合型宿泊事業のビジネスモデルを構築する。東京で一番小さいホテル「Banba Hotel」(2014年)と「Araiya」(2016年)、アパルトマンタイプの民泊「kago#34」(2018年)を運営。また、2011年からゲストハウス開業希望者を支援する事業も展開し、これまでに全国7地域で実現。

前田 有佳利

ゲストハウス情報マガジン「FootPrints」代表。全国200軒以上のゲストハウスを旅する編集者。1986年生まれ。同志社大学商学部を卒業後、株式会社リクルートに勤務。2011年FootPrints(https://www.footprints-note.com)を立ち上げ、2014年和歌山にUターンし、2015年からフリーランスのライター「noiie」として独立。2016年『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』(ワニブックス)を出版。ゲストハウスや和歌山のまちづくりを専門分野に、さまざまなメディアやプロジェクトで執筆・編集・企画を担当。

本書は、2009年10月に「ゲストハウス品川宿」を開業し、2年後の2011年3月、株式会社宿場JAPANを立ち上げ、スタッフと共にこれまで4軒の直営ゲストハウスを開業し運営してきたノウハウや、他の事業者さんのゲストハウス開業を支援してきたノウハウをまとめたものです。

僕がゲストハウスを開業した2009年当時、ゲストハウスという存在は国内でほとんど認知されておらず、東京でもゲストハウスと看板を掲げている店舗は2~3軒ほどしかありませんでした。旅館やホテル、コテージ、グランピングなど数ある宿泊施設の中でも、ゲストハウスはインバウンド比率が高く、他のゲストとの交流を重視した空間設計がなされているのが特徴です。

日本のゲストハウスは、1970年代のオイルショックを受けて、80~90年代に代々続く旅館を外国人向けの小さな宿に展開させたことからスタートします。2000年代に入って、物件を借りて小規模なゲストハウスを始める個人事業者が登場しました。2010年代になると、空間のデザイン性の向上や飲食店の併設、まちづくりや遊休不動産の活用など、付加価値を高めた宿が増加したことから認知度や稼動率が上昇し、初期投資をかけても成立する事業として、異業種からの参入も相次ぎました。並行して、女性オーナーの宿も増え、女性ユーザーも増加していきました。

2019年までの観光業界は、インバウンドが年々増加し、東京オリンピックを見据えて、宿泊施設が急増していました。2010年ごろは国内に200~300軒ほどしかなかったゲストハウスが、2020年には約2500軒と、10年で約10倍に増加したのです。しかし、こうした観光業界の盛り上がりに反して、現場にいる僕らはモヤモヤした気持ちを抱いていました。大手企業の新規参入による価格・サービス競争の波を受け、小規模宿泊施設の存続を考えさせられることが度々あったからです。

ゲストハウスをはじめとする小規模宿泊施設は、売上という目的以外に、たくさんの社会的役割を果たせると僕は考えています。その役割の一つとして、地域の課題を解決し、多様な文化を醸成するまちづくりが挙げられます。僕らが掲げる理念は「『SHUKUBA』の輪を全国に」です。ここで言うSHUKUBAとは、世界中のさまざまな人々を受け入れ、お互いの文化を尊重し、地域の人々と共に暮らすコミュニティを意味しています。そういった多様な文化が共生する地域のハブ=ゲストハウスをつくりたいと考えてこれまでやってきました。どの街にもさまざまな地域づくりのプレイヤーが活動されていますが、そのなかに、もし“宿”をきっかけに多様な文化が生まれる地域づくりを行いたいと思っている方がおられたら、僕のこれまでの経験が何かの役に立つかもしれない。そんな思いで、「スタートアップから10年後の現在に至るまでの、小規模宿泊施設の開業や多店舗展開、人材育成、サービスデザイン、他の事業者への開業支援、そして地域づくりのノウハウを伝えること」を目指して、本書を出版することにしました。

本書は多くの方々にご協力いただいて完成することができました。まず、「ゲストハウス情報マガジン FootPrints」の運営者で業界に最も精通する1人として自らの知見も織り交ぜながら膨大な執筆・編集作業を担当してくださった前田有佳利さん、インタビューや取材でお世話になった各地の運営者の方々、そして出版を実現してくださった学芸出版社の宮本裕美さんほか、多くの皆さんのご協力に心よりお礼申し上げます。

本書の制作の過程で新型コロナウイルス感染症という予期せぬ事態に直面し、何度か挫折しそうにもなりましたが、逆境に屈せず、地域と連携した宿泊事業の可能性を信じて自社の運営をなんとか継続できたことで、本書にもその経験を反映し、より一層深く強いメッセージが盛り込めたと感じています。本書が、宿泊事業者だけでなく、地域づくりや多様な文化交流などに取り組む方々にも参考にしてもらえることを願っています。

地域に根ざした宿を運営する日常は、まるで旅のようです。日々顔を合わせる地域の人々と、さまざまな場所からお越しくださるお客様、多様な人々と出会いながら、暮らしの楽しみを共有する時間は素晴らしいものです。僕がこれまで、東京の品川をメインエリアに宿泊施設を10年以上続けてこられたのも、こうしたさまざまな出会いのおかげだと思っています。その出会いに心より感謝申し上げます。

株式会社宿場JAPAN 代表取締役
渡邊崇志

本書を最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。執筆・編集を担当させていただきました前田です。2010年、私は初めてゲストハウスに出会いました。十人十色の暮らしの選択肢に溢れる空間に感動し、こういう場所をいつか自分もつくりたいと、日本各地のゲストハウスを巡って情報を集めていきました。将来の自分に向けた備忘録をブログに綴り、やがてそれが「ゲストハウス情報マガジン FootPrints」となり、「noiie」という屋号のもと地元の和歌山を拠点に全国200軒以上のゲストハウスを旅するフリーのライターとして活動するようになりました。

宿場JAPANの渡邊さんから本書の制作のお誘いをいただいたのは、2019年2月のことです。そのころはまだ、約1年後に新型コロナウイルスの脅威が世界中に及ぶとは微塵も想像できていませんでした。日本ではインバウンドへの機運が異様な高まりを見せ、ゲストハウスの軒数が急増して個性が均一化し始めていました。それまでは、「日常に新たな風を吹き込んでくれる、こんな素敵な場所が日本にあるんだよ」と過去の自分に手紙を送るような気持ちで、国内のゲストハウスの情報を発信していました。ですが、軒数の増加とともに「私が好きなゲストハウスってこういうものだっけ…?」と違和感を覚える場面が少しずつ増えていきました。

その違和感の中で立ち止まりそうになっていた私の手を引くように、書籍の制作という形で、ゲストハウスとは何かを改めて考えるきっかけをくださったのが宿場JAPANさんでした。制作の途中でコロナ禍に見舞われ、ゲストハウス業界に吹く風は追い風から向かい風へと完全に逆転し、出版の話も度々中断せざるえなくなりました。ですが、ゲストハウスをはじめとする多くの宿泊施設が経営の危機に直面している今だからこそ、今後の有事における対応策まで盛り込んだ情報が必要なのではと関係者全員で話し合い、出版に踏み切ることにしました。

本書は「僕」という一人称で渡邊さんの知識と経験を主軸に語りを展開させながら、その大きな骨に細かく肉付けするように私の約10年間の知見を織り混ぜるといった、ちょっと変わった構成で執筆しています。このスタイルに挑戦させていただけたのは、渡邊さんの懐の深さと、裏の立役者である宿場JAPANのマネージャー・今津歩さんのサポートあってこそです。宿場JAPANさんが長年の試行錯誤の末に手にされたノウハウを、ここまで大々的に開示されるという貴重な機会にご一緒させていただくことができ、大変光栄に思っています。学びに溢れた楽しい取材の時間を本当にありがとうございました。

また、約3年間にわたるロングスパンの企画となったにもかかわらず、最後まで丁寧に寄り添ってくださった学芸出版社の宮本裕美さんにも深く感謝申し上げます。なかでも「世の中には旅人目線でゲストハウスを紹介した書籍やまちづくりの事例を紹介する書籍はありますが、ゲストハウスという小さな宿泊施設を起点としたまちづくりをテーマに、ここまでビジネスのノウハウに言及した書籍は他にありません」と、宮本さんが本書の特徴を客観的に示してくださったことが制作の励みとなりました。加えて、宮本さんと共に編集にご尽力くださった森國洋行さんや、素晴らしい装丁を手掛けてくださったデザイナーの藤田康平さんとイラストレーターのサヌキナオヤさん、本書の制作に携わってくださった皆様に心より御礼を申し上げます。

そして何より、本書を世に送り出すうえで、これまでゲストハウスのカルチャーを築いてくださったすべての皆様にお礼と敬意をお伝えさせてください。本書でお名前を紹介させていただいたのは、全体のうちのほんの一握りに過ぎません。ゲストハウスの前身となる外国人向け宿のオーナーさんをはじめ、さまざまな方々の努力の集積があり、現在があると感じています。次々と訪れる逆境の中、ゲストハウス・カルチャーを創り、築き、時に守り、新たな進路を開拓しながら、思いのバトンを受け継いで、現在へとつないでくださった皆様に、言い尽くせないほど感謝しております。

コロナ禍という有事を経験し、1人1人がさまざまな変化を迎えたことと思います。ゲストハウスの未来はこれからどうなっていくのか。それぞれの今日が昨日よりほんの少しでも色鮮やかな日となりますように、この書籍がどこかで誰かの役に立てることを心から願っています。

ゲストハウス情報マガジン FootPrints 代表
前田有佳利

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