まちのゲストハウス考

真野洋介・片岡八重子 編著

内容紹介

まちの風情を色濃く残す路地や縁側、近所のカフェや銭湯、居合わせた地元民と旅人の何気ない会話。宿には日夜人が集い、多世代交流の場や移住窓口としても機能し始めている。商店街の一角や山あいの村で丁寧に場をつくり続ける運営者9人が綴った日々に、空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性を探る

体 裁 四六・208頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2640-5
発行日 2017/03/25
装 丁 Yone(米村知倫)

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chapter 1 ゲストハウスが始まるまち/片岡八重子

1.1 ことのはじまり。まちの空き家再生

・移住先で出会った新たなライフワーク
・〈みはらし亭〉と〈あなごのねどこ〉:初めての大型空き家再生
・まちの居場所づくりのお手伝い

1.2 人とまちとマッチング

・〈かじこ〉:さまざまな出会いの原点、そして松崎へ
・〈たみ〉:まちの人たちに支えられたゼロからの拠点づくり

1.3 まちを変える頼もしいプレーヤーたち

・〈NAWATE〉:入念なプロセスメイキングとチームづくりが生んだ場所
・宿の外へ。広がり続ける小さな変化

chapter 2 九つのまちのゲストハウス

 2-1 そのまちに似合う宿をつくる人たち

1〈港町〉広島「あなごのねどこ」

40mの路地奥で出会う下町風情の後継者たち/豊田雅子

2〈門前町〉長野「1166バックパッカーズ」

ご近所さんともてなす門前町の一期一会/飯室織絵

3〈農村温泉〉岡山(西粟倉)「あわくら温泉元湯」

子どももお年寄りも!笑顔が集う山村の温泉宿/井筒もめ

column「ゲストハウスプレスが探す “日本の旅の、あたらしいかたち” 」
ゲストハウスプレス編集長・西村祐子

4〈住宅地〉富山「ほんまちの家」

普段着の高岡を伝える。まちなか暮らしに溶け込む宿/加納亮介

5〈地方都市駅前〉福井「SAMMIE’S」

時間をかけて手でつくる。福井の旬を届ける編集拠点/森岡咲子

6〈商店街〉岡山「とりいくぐる」

商店街に佇む、日常と非日常をつなぐ小さな結界/明石健治

7〈郊外駅前〉鳥取「たみ/Y pub & hostel」

他者と遭遇する場所を営み続けて気づいたこと/蛇谷りえ

 2-2 ゲストハウスのあたらしい役割

8〈集落存続〉秋田「シェアビレッジ」

コミュニティが古民家を救う!過疎の山村を支える仕組みとしての宿/武田昌大

9〈復興支援〉熊本「山麓園」・宮城「架け橋」

距離を縮める場づくり。復興ボランティア拠点としてのゲストハウス/田中惇敏

chapter 3 暮らしをつなぐ小さな宿/真野洋介

3.1 なぜ彼らのゲストハウスには人が集まるのか

・人と場所の物語を貯蔵する小さな宿
・「まち考現」の窓として見るゲストハウス
・まちの時間と居場所をつなぐ結節点づくり
・地域を支える「場のビジネス」を再構築する
・ゆるやかに伝播する変革の波

3.2 滞在の先に続く日常への関心の高まり

・「暮らしに滞在」するという宿泊ニーズの変化
・2000年以降のアートシーンに見るゲストハウスの原型
・滞在から日常への展開:ネイバーフッド、コミュニティ、サードプレイス

3.3 マス・インバウンドと対極の小さな流れを掴む

・個人のささやかな物語に次の時代を見出す
・場のビジネスから、小さなイノベーションをエンパワメントする
・二拠点化・流動化が引き起こす地方回帰の機運

3.4 小さな宿から考える、小さなまちの未来

・まちの趣と履歴を伝える器として、空き家を捉え直す
・ゲストハウスにみる日常のリ・デザイン

編者

片岡八重子(かたおか・やえこ)

株式会社ココロエ代表、一級建築士、宅地建物取引士、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト理事。1974年千葉県出身。1995年青山学院女子短期大学卒業、1995年-2000年スターツ株式会社(不動産建設業)勤務後、2000年東京理科大学工学部2部建築学科編入学し、大月研究室で住宅問題を研究。岡村泰之建築設計事務所を経て、2008年独立。共著書に『地方で建築を仕事にする』(学芸出版社)ほか。

真野洋介(まの・ようすけ)

東京工業大学環境・社会理工学院建築学系 准教授。 1971年生まれ、岡山県倉敷市出身。早稲田大学理工学部建築学科卒業 同大学院博士課程修了、博士(工学)。東京理科大学助手等を経て現職。 共著書に『まちづくり市民事業』(学芸出版社)、『復興まちづくりの時代』(建築資料研究社)、『まちづくり教書』(鹿島出版会)ほか。

著者

明石健治(あかし・けんじ)

ゲストハウス&ラウンジ〈とりいくぐる〉共同オーナーのひとり。1986年生まれ。中肉中背。運動神経は悪く、納豆が嫌い。前職にて仕事中に交通事故に遭い、どうせ死ぬならもっと何か面白いことをやってからという考えに至り、2013年、生まれ育った岡山にてゲストハウスを開業。少しマニアックな映画作品になると途端に岡山まで回ってこない以外は概ね満足なこの街で、もっと楽しく可笑しく暮らせないかと考えている。

豊田雅子(とよた・まさこ)

ゲストハウス〈あなごのねどこ〉を運営するNPOの代表理事。1974年に尾道に生まれ、坂や路地に囲まれて幼少時代を過ごす。関西外国語大学を卒業後、JTBの専属のツアーコンダクターとして海外を飛び回る生活を8年ほど続ける。渡航歴は100回以上。帰郷して結婚後、その経験を生かして尾道らしいまちづくりを提唱する「尾道空き家再生プロジェクト」を2007年に発足し、現在も様々な空き家と格闘しながら尾道暮らしを満喫中。

飯室織絵(いいむろ・おりえ)

1980年兵庫県出身。カナダ、オーストラリア、日本国内で働きながら10年間で20回の引っ越しを経験。就職で長野県に縁があり、2010年に長野市善光寺門前に素泊まり相部屋の宿泊施設・1166バックパッカーズを開業。ガイドブックに載っている情報だけでは満足できない観光客と地元民を緩やかにつなぐパイプ役を目指す。2012年に結婚、2016年に長女を出産。家事と育児と仕事のバランスを模索中。

加納亮介(かのう・りょうすけ)

1989年千葉県千葉市生まれ。現在は東京工業大学大学院社会工学専攻に在籍。歴史的な資源が残る地方都市でのまちづくりを勉強したくて2014年に富山県高岡市へ移住。町家体験ゲストハウス〈ほんまちの家〉の管理人をしながら遠距離通学中。趣味はまちの住民が集う昔ながらの食堂や喫茶店、銭湯めぐり。

蛇谷りえ(じゃたに・りえ)

1984年大阪生まれ。2012年に「うかぶLCC」を三宅航太郎と共同で設立し、鳥取県東伯郡湯梨浜町にて複合型の滞在スペース〈たみ〉を開業、2016年1月には鳥取県鳥取市中心市街地に〈Y Pub&Hostel〉を開業し、各店舗の経営を行う。その他、県内外での印刷媒体を中心としたデザイン企画および制作、アートやメディアに関する企画立案やコーディネート、運営などを務める。

井筒もめ(いづつ・もめ)

1984年神戸生まれ。京都の大学生、大阪の専門学校生、神戸の会社員として京阪神でたっぷりお世話になった後、2009年より岡山の田舎で暮らし始める。自宅を開いてイベントを企画したり、田畑やご近所を耕し、旬のものをいただいたり、獣をさばいて食したりと里山の暮らしを楽しんできた。ひょんなことから岡山東部を北へ北へと漂い続け、現在3カ所目の田舎、最北東部の西粟倉村に漂着しゲストハウスを営むことに。2児の母。

森岡咲子(もりおか・さきこ)

福井ゲストハウス〈SAMMIE’S〉オーナー。1986年福井市生まれ、2008年東京大学経済学部卒業。
18歳で上京し故郷には二度と戻らないと決意するものの、2015年福井にUターン。同年8月、福井駅東口の空き家をセルフリノベーションし、ゲストハウスを開業。アメトーークとブラタモリが好き。人生のステージが劇的に変化するなかで、福井の楽しい暮らしを開拓中。

武田昌大(たけだ・まさひろ)

1985年秋田県北秋田市生まれ。 2008年立命館大学情報理工学部卒業、東京にてデジタルコンテンツ業界に従事。 2011年8月株式会社kedama設立。2016年5月内閣府が運営する地域活性化伝道師に選ばれる。2015年、築133年の茅葺き古民家を活用した新ビジネス「シェアビレッジ(sharevillage.jp)」を立ち上げる。

田中惇敏(たなか・あつとし)

1993年1月福岡県北九州生まれ。九州大学工学部在学中。NPO法人Cloud JAPAN代表理事。株式会社おかえり代表取締役社長。気仙沼ゲストハウス「架け橋」代表。熊本ボランティアハウス山麓園ブーストマネージャー。NPO法人HOME-FOR-ALL事務局。大学を4年間休学して宮城県気仙沼市に移住。全国各地の空き家を地域のパートナーと共にゲストハウス・カフェ・シェアハウスなどの機能にすることでまちづくりに取り組んでいる。

西村祐子(にしむら・ゆうこ)

ゲストハウスプレス編集長。大学卒業後、株式会社良品計画にて無印良品店長、ウェブマーケティング会社にてディレクター職を経たのち独立。アメリカ留学で習得したメディカルマッサージを武器にボディセラピーサロン経営する傍ら、旅の楽しさを伝えるツアー・イベントなどを開催。現在は、ゲストハウスプレス運営のほか、大阪を拠点にあたらしい旅の情報発信、事業プロデュース等を行っている。

今この本を手に取った皆さんは、ゲストハウスのことをどれくらいご存じだろうか。ゲストハウスが好きで毎週末のように各地を泊り歩いている人や一度くらいは利用したことがある、という人ももちろんいると思うが、おそらく本書を手に取った多くの人は「話には聞くけれど実際に利用したことはない」のではないだろうか。旅行は好きだけどまだゲストハウスを利用したことがないという人は、ぜひ頁をめくってみてほしい。

本書では9人のゲストハウス運営者たちに、それぞれの宿を始めたきっかけ、試行錯誤し続ける運営の日々を綴ってもらった。商店街の一角や山あいの村で営まれる彼らの宿は、不足するインバウンド需要を受け入れるハコでも、空きスペースを活用し効率よく利益をあげることを優先したビジネスでもない。まちに根を下ろし、独自の視点でその地域と関わりをもちながら丁寧に宿をつくっている。今そうしたゲストハウスが全国にたくさん生まれている。宿を紹介するだけではこぼれてしまう、彼らの考え方や宿の日常を知ることこそ「まちのゲストハウス」を理解してもらうことになるのではないかと思った。

本書の構成は、そうした多面的な面白さをできるだけ正確に伝えるため、3章から成り立っている。1章ではいくつかのゲストハウスが生まれる“前夜”の話を、2章では各宿の運営者たちが綴る9編の日常を、そして3章では社会背景を踏まえた空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性を探る論考をまとめた。

それぞれ気になるところから、自由に読み進めてほしい。いずれにしてもこの本を読み終えたら、きっとゲストハウスに泊まってみたくなるだろう。

2017年2月 片岡 八重子

本書の企画は、今からちょうど一年前の厳寒の時期に始まった。雪がしんしんと降り積もる高岡の町家に始まり、岡山、尾道など、本書にも登場するおなじみの場所で、執筆者やスタッフの皆さんと話すなか、少しずつ企画は煮詰まっていった。そこでは、東京や京都・大阪など、外国人に人気の都市で過熱する民泊現象や、リノベーションの文脈で語られるゲストハウスではなく、小さなローカル都市で、運営者たちが一人称で語る宿とまちの関係が映った。若干矛盾と自虐が混じるが、専門職や学者の第三者的な視点ではなく、場所を運営する当事者自身が日々接しているまちや出来事を組み立て、描き出すと、どのような結晶が紡ぎ出されていくのかを伝えたい、それが本書の出発点である。

さて、本書の編者である私と片岡さんは、豊田雅子さん率いるNPO尾道空き家再生プロジェクトの役員であり、もうひとりの建築士、渡邉義孝さんとともに、通称「建築チーム」を担っている。豊田さんが次々と持ち込んでくる、想像を超える難度の空き家に対して、チームは何とか前向きに環境を捉え直してきた。毎度の無理難題に頭を抱えながらも、スタッフや職人、移住者、サポーターたちとの絶妙なつながりのなかで、建物再生のプロセスが動き始める。こうした始まりと葛藤をいくつも経たのちに、ゲストハウスという未知の世界に遭遇したのである。

ゲストハウスという宿の形態は、年々認知度を高めているが、自分が、そして自分たちが、そのまちで初めて宿をおこし、運営するということは並大抵のことではない。周辺にも大きな負荷と波紋を起こすことになるということを、本書の書き手たちは各地で経験してきた。本書が、そうした負荷と波紋のリアリティをささやかながら伝え、それぞれのまちで、日々の暮らしの望みや喜びに少しでも接続していくことを願っている。

本書の制作に当たっては、多忙な日々の運営のなかで、細かいリクエストに応えながら、熱いエネルギーを原稿に注いでくださった10人の書き手たちと、その書き手を支える多くのスタッフ・サポーターの皆様に感謝したい。また、そのまちのゲストハウスをとりまく環境と風景に敬意を表したい。

最後に、本書の企画を提案してくださり、書くことに不慣れな我々書き手たちを的確にゴールへとアシストしてくださった、学芸出版社の岩切江津子さんの飽くなき情熱と粘りに感謝を申し上げて、筆を置きたい。

2017年2月  真野洋介

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