まちを変える都市型農園 コミュニティを育む空き地活用

新保 奈穂美 著

内容紹介

まちのスキマを使う課題解決の仕組みと効果

郊外の耕作放棄地、都市公園の一角、商業施設の屋上、団地の敷地――。まちに点在する未活用空間に、都市住民の手による農園が増えている。空き地の利活用、コミュニティの再生、都市緑化、環境教育や食育といった地域課題解決に貢献する都市型農園について、国内外の先進事例や実践者への取材を交え、最新の知見を整理する。

体 裁 四六・208頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2821-8
発行日 2022-09-15
装 丁 南部良太
装 画 五味健悟

 

イラスト:五味健悟

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計15ページ公開中!(はじめに、1章の一部)


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Prologue いま都市型農園に注目する理由

1 | 都市における農

2 | 農地・空き地活用に向けた可能性

3 | コミュニティ拠点としての役割

Chapter 1 まちのスキマを活かす戦略

CASE. 1  大規模な公有の空き地を有効利用する

プリンツェシンネンガルテン(ドイツ・ベルリン市)

CASE. 2  公民連携で条件不利な公園を再生する

平野コープ農園(兵庫県・神戸市)

CASE. 3  まちの小さな隙間をゲリラ的に使う

レンゲンフェルトガルテン(オーストリア・ウィーン市)

CASE. 4  未利用の民有地を民間主導で活用する

ラファイエット・グリーンズ(米国・デトロイト市)

CASE. 5  住宅地内の農地を住民の居場所に変える

せせらぎ農園(東京都・日野市)

CASE. 6  再開発と保全のバランスを設定する

クラインガルテン発展計画(ドイツ・ベルリン市)

CASE. 7   都市緑地計画に位置付けて環境保全・農業振興と両立させる

クラウトガルテンとグリーンベルト計画(ドイツ・ミュンヘン市)

Chapter 2|コミュニティの課題に向けたアプローチ

CASE. 8   都市計画助成プログラムを活用して地区内の生活環境を改善する

フローベンガルテン(ドイツ・ベルリン市)

CASE. 9   アートとガーデンの融合で多様な住民同士の交流を活性化する

グーツガルテン(ドイツ・ベルリン市)

CASE.10  居住可能な不動産への転用で若年世代の定住を促進する

クラインガルテン(オーストリア・ウィーン市)

CASE.11  被災後に日常性を取り戻す生活復興の場として計画する

ニューブライトン・コミュニティガーデンズ(ニュージーランド・クライストチャーチ市)

CASE.12 住民主導でマイノリティの居場所をつくる

シュペッサートガルテン/シュタイガーヴァルトガルテン(ドイツ・ハノーファー市)

CASE.13  外国人住民が慣れ親しんだ食を得るために耕す

ベトナム人住民が創る農園(兵庫県・姫路市)

CASE.14 地域における多文化共生のハブとして運営する

ワールド・スマイル・ガーデン一ツ木(愛知県・刈谷市)

CASE.15  利用者の自己実現を支えながら農の後継者育成につなげる

ブラック・クリーク・コミュニティファーム(カナダ・トロント市)

CASE.16  農を通じて学び合える生涯教育プログラムを提供する

カルティベイティング・コミュニティ/ボックスヒル・コミュニティガーデン(オーストラリア・メルボルン市、ホワイトホース市)

CASE.17 団地に暮らす高齢者のアクティビティを誘発する

金町駅前団地コミュニティガーデン(東京都・葛飾区)

CASE.18  過密な住宅地での地域活性化と防災・減災に貢献する

たもんじ交流農園(東京都・墨田区)

Chapter 3|都市に農を取り入れるためのポイント

1 | 土地を確保する―農園? 公園? 空き地?

2 | 担い手・協力者を探す―無理なく仲間を集めよう

3 | 財源を確保する―目指せ自走化

4 | 現場をつくり運営する―実現したい目的を意識する

5 | 実践者に聞くノウハウ

6 | 中間支援組織に求められること

コラム | コーディネーターとしての心得

Epilogue 持続可能なまちづくりと農

1 | 農は持続可能なまちの要素―SDGs の実現に向けての課題解決

2 | 新しい豊かなライフスタイルへ

〈著者〉

新保奈穂美(シンポ・ナオミ)

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科講師、兼、兵庫県立淡路景観園芸学校景観園芸専門員。東京大学農学部環境資源科学課程緑地生物学専修卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻修士課程、同博士課程修了。博士(環境学)。筑波大学生命環境系助教を経て、2021 年4 月より現職。2021 年8 月より東北大学大学院国際文化研究科特任講師も務める。博士課程時にウィーン工科大学(オーストリア)に留学、ポスドク時にリンカーン大学(ニュージーランド)に研究滞在。

〈寄稿者(執筆順)〉

瀬戸徐映里奈(セト・ソ・エリナ)

近畿大学人権問題研究所特任講師、近畿大学農学部環境管理学科卒業。京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻修士課程修了、同博士課程研究指導認定退学。2021 年4 月より現職。修士(農学)。

● Chapter 2 CASE. 13

村松賢(ムラマツ・ケン)

株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(契約社員)。沼津工業高等専門学校専攻科機械電気システム工学専攻、千葉大学工学部都市環境システム学科卒業。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。修士(工学)。

● Chapter 2 CASE. 14

別所あかね(ベッショ・アカネ)

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻都市計画講座助教。メリーランド芸術大学建築デザイン科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科サステナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。2022 年4 月より現職、および東京大学社会連携講座「サステナブルなまちの創生」研究メンバー。

● Chapter 2 CASE. 15

鈴木杏佳(スズキ・キョウカ)

静岡県の株式会社在職。静岡県出身。静岡県立静岡農業高校卒業後、静岡県立大学国際関係学部に進学。大学在学中に、農福連携の取り組みに興味を持つ。その後、コミュニティガーデンの概念に出会い、実践地で学ぶため留学を決意。2018 年度にオーストラリア・メルボルンへ1年留学をする。現地で10 カ所以上のコミュニティガーデンを訪れフィールドワークを行う。帰国後、大学内においてコミュニティガーデン「ひだまりの丘ガルテン」を設立。2020 年度に大学を卒業し、現職。現在も静岡市登呂博物館での古代米栽培や地域農家への援農活動など、農を中心とした地域での活動を継続している。

● Chapter 2 CASE. 16

木村智子(キムラ・トモコ)

コミュニティガーデンコーディネーター。有限会社スマイルプラス代表取締役、認定NPO 法人浜松NPO ネットワークセンタ―理事、NPO 法人GreenWorks 所属。千葉大学園芸学部造園学科卒業。インターミディエイター®、1 級造園施工管理技士。造園設計コンサルタントで公園等の計画・設計実務を経て独立。2010 年より現職。公園やガーデンを活用し、市民自らが動いてまちの課題解決をする場を、異なる領域をつなぎ、対話と協働を促しながら各地でコーディネートしている。

● Chapter 3 コラム

都市住民が、都市のあらゆる空間を使って土を耕し、野菜や花を栽培する活動「アーバンガーデニング」(urban gardening)1)。世界的に人気が高まっているこの活動は、生業の農業と区別する形で、日本では「農的活動」と呼ばれることもある。かつては都市のなかから排除されようとしていた農地をはじめとする農的空間は、日常の楽しみや健康的な生活をもたらし、環境保全にも貢献するものとして、むしろ積極的に都市に組み込まれようとしている。本書では、アーバンガーデニング・農的活動の場となる、自宅外の空間を「都市型農園」と呼ぶことにする。

潮目が変わった背景には、先進国を中心として、気候変動や少子高齢化、社会格差の拡大などさまざまな社会課題に対応できる新たな都市や暮らしのあり方が模索されていることが考えられる。食料生産のための生業としての農業に留まらない「農」が持つ多様な可能性に多くの人が気付き、行動を起こしつつあるのだ。

こうした状況にあって、都市型農園に期待できるメリットは多い。日本の状況を踏まえて本書で特に注目しているのは、「土地活用」と「コミュニティ醸成」の観点だ。前者については、相続の問題を抱えている都市農地のほか、人口減少により利用率の下がる公園や新たに発生する空き地の活用策として都市型農園を捉えている。そして後者については、少子高齢化が進行するなかでの世代間の助け合いや、増える外国人も包摂するコミュニティの醸成の場として、都市型農園を提案しようとしている。

都市型農園は、行政に計画的に設立されるよりは、まずは課題意識を持った住民の手によって自発的につくられることが多い。その分、運営のノウハウが共有されづらく、土地の利用権が保障されにくいために、活動が不安定であることも多い。さまざまな国や地域で同じような方向性に動きつつあるいま、知恵と経験を共有し、よりよい都市における農的空間のつくり方を学び合うときだ。

一方で、有する資源や直面する課題は、地域ごとに異なる。たくさんの事例を参照し、自分の実践に役立つ部分を探さなければならない。しかし、現場で動く人々にとっては、時間や地理的な制約から、他の事例を横断的に見ていくことは困難だろう。

そこで本書では、筆者がこれまでの研究活動のなかで見てきた国内外の先進事例を多数紹介し、そこから得られるヒントをまとめている。一部は寄稿者の経験もお借りして、これまでにあまり取り上げられていなかった事例まで射程を広げ、バリエーションを持たせた。直接目で見て話を聞き、資料を読み解かなければわからない情報まで、豊富に含めたつもりだ。この本を手に取ってくださった方々が、都市型農園をツールとしてまちを変える仕組みと効果について理解を深め、それぞれのフィールドで実践につなげていただければ幸いである。

本書の構成は以下の通りである。

  • Prologueでは、都市型農園が現代の都市の問題解決に効果を上げる可能性について、その歴史もたどりながら解説する。
  • Chapter 1 では、土地の利活用におけるスキームや戦略のユニークさに着目した視点から、都市型農園の事例を紹介する。
  • Chapter 2 では、地域に与えている効果に注目した視点から都市型農園の事例を紹介する。
  • Chapter 3 では、非農家である市民が都市型農園を開設するケースを主に想定して、都市に農を取り入れるポイントについて解説する。
  • Epilogue では、都市型農園を活用した持続可能なまちづくりとライフスタイルをキーワードに展望を示し、本書を締めくくる。

2022 年9月
新保奈穂美


補注

1) 日本では「アーバンファーミング」(urban farming)という言葉も使われつつある。アーバンガーデニングとの明確な違いはないが、「耕す」ということにより重点が置かれている印象がある。ほか、「アーバンアグリカルチャー」(urban agriculture)も、両者を包含する概念として世界的によく使われる類語である。

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