ワーケーション企画入門
選ばれる地域になるための受け入れノウハウ

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松下慶太 著

内容紹介

ステークホルダーと三方良しの企画をつくる

コロナ禍で高まったワーケーションへの注目。観光振興や移住促進に期待する地域が増える一方で、実施する企業・ワーカーや移動・居住等に係わる事業者など、多様なステークホルダーを巻き込む企画づくりに苦心するケースも多い。先進的な地域・企業・個人の実践から、三方良しのワーケーションに必要な要素を解き明かす一冊

体 裁 A5・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2809-6
発行日 2022-04-01
装 丁 北田雄一郎


紙面見本目次著者紹介まえがきあとがき関連ニュース関連イベント

はじめに

Part.1 なぜワーケーションなのか?

第1章 コロナ禍が何を変えたのか?

1.1 テレワークの加速と働く場所の自由の到来
1.2 ニューノーマルな観光のあり方
1.3 人生100年時代のキャリアと地域

第2章 日本型ワーケーションの誕生と展開

2.1 デジタル・ノマドの潮流
2.2 地方創生と関係人口としてのワーケーションへの期待
2.3 日本型ワーケーションの誕生
2.4 ワーケーション2.0に向けて:日本型ワーケーションの可能性

Part.2 どのようにワーケーションを行っているのか?

第3章 ワーケーションを誰が行っているのか?

3.1 ワーケーションのステークホルダー
3.2 ワーケーションにおける企画・活動の分類

第4章 ワーケーション受け入れ地域・企業の取り組みから学ぶポイント

4.1 既存資源の活用
(1)和歌山県 ――ワーケーションの聖地をつくる
(2)ひがし北海道 ――DMOを中核とした体制づくり
(3)沖縄県 ――新しい観光形態の創出
(4)JTB――既存の観光を転換する
4.2 関係人口増加・移住促進との連動
(1)鳥取県 ――副業推進・連携による関係人口創出
(2)長崎県五島市 ――離島の魅力を活かした移住促進
(3)HafH ――「泊まる」と「住む」をつなげる
4.3 モビリティへの着目
(1)静岡県・伊豆 ――MaaSと連動したワーケーション
(2)ANA ――既存の「旅」からの転換
(3)JR西日本 ――移動そのものの価値を見出す
4.4 場・コンテンツの創出
(1)長野県 ――エリア連携によるリゾートテレワークの展開
(2)三菱地所 ――イノベーション・生産性向上のための拠点をつくる
(3)日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)――社員の学びにつながるコンテンツをつくる
4.5 テクノロジーの導入
(1)兵庫県神戸市 ――スマートシティ戦略への位置づけ
(2)NTTコミュニケーションズ――新しい働き方の実験場をつくる
(3)LIFULL ――自治体DXの推進につなげる
4.6 体制・仕組みの構築
(1)宮城県 ――協議会によるワーケーションの展開
(2)ADLIV ――おもしろい人が集まるコミュニティのつくり方
(3)パソナJOB HUB――地域・個人・企業マッチングのビジネス化
コラム|アート・アーティストとワーケーション

第5章 実践企業・個人から探るワーケーションのニーズと課題

5.1 働き方をアップデートするワーケーション
(1)JAL(大企業/旅行)――働き方改革と自社ビジネスの見直し
(2)ユニリーバ(大企業/メーカー)――働く場所・時間の多様性をどう受け入れるか
(3)ミクル(中小企業/IT・不動産)――生産性アップだけではないワークスタイルの実現
5.2社会課題解決を目指すワーケーション
(1)セールスフォース(大企業/IT)――企業の強みを地域とどうマッチングするか
(2)ニット(中小企業/コンサルティング)――現地の地域課題を拾い上げるために必要なこと
(3)ヌーラボ(中小企業/IT)――企業課題を地域での活動から解決する
5.3 暮らしと仕事の自由度を活かす個人ワーケーション
(1)個人裁量型――良き出会いをどう演出するか
(2)親子ワーケーション型――健やかなワーケーション環境の必要条件
(3)バンライフ型――住まいを必要としない実践者
(4)デジタル・ノマド型――根を張るレベルにある温度差

Part.3 どのようにワーケーションの受け入れを事業化するのか?

第6章 ワーケーションをどのように活用するのか?

6.1 企画・事業の基本的なプロセスと構造
6.2 ステークホルダーとの共創的なアプローチ
6.3 自律型人材の育成環境・施策としての展開
6.4 「創造的脱力」による企画・事業の創出プロセス

第7章 「三方良し」なワーケーションをつくるために

7.1 ハード資源からソフトのヒト・コト資源へ
7.2 地域における「3つのH」を見つける
7.3企画・事業化・検証のための「3つのS」を明確にする

松下慶太

関西大学社会学部教授。1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員、実践女子大学人間社会学部専任講師・准教授、ベルリン工科大学訪問研究員などを経て現職。専門はメディア・コミュニケーション、ワークショップ・デザイン。近年は新しいワークプレイス・ワークスタイルをメディア論、都市論、コミュニケーション・デザインなどの視点から研究している。近著に『ワークスタイル・アフターコロナ』(イースト・プレス、2021)、『モバイルメディア時代の働き方』(勁草書房、2019)。

この本を手に取っていただいたみなさんの関心は、ワーケーションをどのように企画や事業として展開していくのか、にあると思います。それにあたって一番のポイントを、さっそく指摘しましょう。

ワーケーションはご存知の通り「ワーク」と「バケーション」をつなげたものです。ポイントは両者を単に「足す」のではなく、それぞれが良い影響を与えるように「重ねる」ことができるかにあります。それでは、ワーケーションを一時的な対策としてではなく「骨太」な企画・事業にしていくために、どのように両者を「重ねる」ことができるのでしょうか。

みなさんは立体視をしたことがあるでしょうか? そもそも、なぜ私たちはモノを立体的に見ることができるのでしょうか? 私たちの右目と左目はそれぞれ別の角度から見ています。そこで見た映像を脳内でまとめることで初めて立体に見えるのです。
ワーケーションの企画・事業は、立体視のようなものだと思います。ワークすなわち仕事の領域だけ、あるいはバケーションすなわち観光だけを見ていても立体的には見えません。また地域だけ、都市部だけを見ていても同様です。

さまざまなワーケーションの企画、事業の中には、残念ながら片方の視点だけで立案されたものが少なくありません。もちろん、それぞれの視点ではしっかりとした内容なのですが、「重ねる」ではなく「足す」発想から立案すると、どうしても「オン」と「オフ」、「プライベート」と「パブリック」、「都市」と「地域」、「行く」と「迎える」といった二項対立で、両者のバランスをどう取るかという話になってしまいます。

本書はワーケーションのWhy, What, How から構成されています。
パート1 は「Why」を考えます。なぜ地域、企業、ワーカーがワーケーションに取り組むのかを社会変容から考えていきます。特に日本型ワーケーションとも言える「ワーケーション2.0」へとアップデートすることの重要性を述べています。パート2 は「What」を見ていきます。ここではなるべく具体的に、地域や企業、ワーカーがどのような目的で、どのように連携しながらワーケーションをしているのか、ポイントが掴めるようにしています。パート3 は「How」にあたります。先行事例も参照しつつ、自分たちが独自性のあるワーケーションをどのように企画・事業化していくのか、を解説しています。

筆者が聞いたり、経験したりして面白いと思った事例をなるべく多く詰め込みました。ワーケーションは「人」が大きなポイントですが、本書も同様です。調査に協力いただいた地域、企業、ワーカーのみなさまには本当に感謝いたします。紙幅の関係上、残念ながら取り上げることができなかった魅力的な地域、企業、ワーカーも多くあります。本書を手にとっていただいた方々には自らのワーケーションでそれを見つけることも「楽しみ」としていただければ幸いです。

2022年3月吉日
松下慶太

本書をほぼ書き終えた2022 年の初頭、新型コロナウイルスの感染は再び拡大しています。どうやら本書は、そんな時代もあったという社会の1ページを切り取ったというよりも、むしろそのさなかでの経過観察の報告となりそうです。

そのため、日本国内や海外の状況も含め、ワーケーションが今後どのように展開するのか、まだ想像がつきません。私たちが好きな場所に自由に移動したり旅行したりできるようになるまでには、もう少し待つ必要がありそうです。

一方で、働き方については刻々と変化していると言えそうです。2021年からメルカリ、ヤフー、NTT など大手IT 企業を中心に、社員の居住地制限を撤廃する動きが広まりつつあります。例えばヤフーでは、片道の上限を撤廃し、特急や飛行機も含めて1 カ月で最大15 万円までの交通費を支給すると発表しました。こうした企業の社員が(全員ではないにせよ)地方に住み、たまに東京に行ってミーティングする、という光景が見られる日は、すぐそこに来ています。

就活や就職を控えた学生たちからはよく「働くのは嫌だ」と聞きます。彼ら彼女らは、根は真面目ですし、能力も高く、意欲もあります。そうした学生たちが、働くことの何を不安に思っているのか。それは、不透明な経済状況もありますが、むしろそれ以上に、満員電車での通勤やハラスメント、出産・育児や介護などとの両立といったさまざまな課題を抱えながら働くことへの不安です。それは言い換えると「働きたいように働けない」ことへの不安です。

これから多様な働き方を探り、実践していく、そしてその選択をポジティブに選べるようになることが、「働きたいように働ける」社会の実現につながると信じています。

多様な働き方の1つでもあるワーケーションは、働くことやキャリアについて、また都市だけ・地方だけで生活することで生じる閉塞感を破るものとして、有効なアプローチです。しかし、現在のワーケーションは、ともすれば過当競争になりつつあり、ワーケーションを企画・実践する上で多くの課題に直面することもあるでしょう。

そこで1つ心に留めておいて欲しいのは「プレイフル」というコンセプトです。プレイフルの提唱者である教育学者の上田信行は、プレイフルを「本気で物事に取り組んでいるときのワクワクドキドキする心の状態」であり「どんな状況であっても、自分とその場にいるヒトやモノやコトを最大限に活かして、新しい価値(意味)を創り出そうとする姿勢」と定義しています。せっかくワーケーションに取り組むのであれば、こうしたプレイフルな心持ちで臨みたいものです。

最後に、雲散霧消ともなりかねなかった筆者の原稿と向き合い、粘り強く並走いただいた学芸出版社の編集者・松本優真さん、そして原稿執筆中に、出産や進学などさまざまな転機を「重ねる」生活に一緒にチャレンジした洋子、環空、新たに加わった奏空、の家族全員に心から感謝いたします。

注:上田信行(2020)『プレイフル・シンキング』宣伝会議

2022年3月吉日
松下慶太