DMOのプレイス・ブランディング
観光デスティネーションのつくり方

宮崎裕二・岩田賢 編著
長崎秀俊・光畑彰二・山本さとみ・武田光弘・
辻野啓一・佐野直哉・加藤英彦・西松卓哉 著

内容紹介

感染症の流行、オーバーツーリズム等のリスクに直面する観光業のパラダイムシフトを先取りする戦略とは。集客を追求するプロモーションから、住民や他産業と連携しエリアの価値を磨くブランディングへ。レジリエントな競争力を高める10のブランディング手法と、イギリス、アメリカ、ニュージーランド、京都、岐阜等の実践。

体 裁 A5・220頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2744-0
発行日 2020/06/15
装 丁 上野かおる


目次著者紹介はじめにおわりに

1章 ブランドとは

1 ブランドに対する3つの誤解
2 企業ブランドの生い立ちからブランドを理解する
3 3つの機能からブランドを理解する
4 企業側のメリットからブランドを理解する
5 消費者側のメリットからブランドを理解する
6 概念モデルからブランドを理解する

2章 プレイス・ブランディングとDMO

1 プレイス・ブランディングの概要
2 DMOの概要

3章 プレイス・ブランディングを実践するための10の手法

手法1 目的を明確化する
手法2 ブランドを適切に管理する
手法3 ブランド・ツールキットを作成する
手法4 マーケティングを統合する
手法5 ブランドに適合した行動をとる
手法6 ブランド中心の組織をつくる
手法7 スタッフを教育する
手法8 地域住民の当事者意識を高める
手法9 KPI(重要業績評価指標)を設定する
手法10 ブランドを評価する

4章 プレイス・ブランディングの先進事例

事例1 イギリス:国を統合的にプロモーションする「グレート・キャンペーン」
事例2 イギリス:文化と観光を結びつけた英国政府観光庁の取り組み
事例3 ニュージーランド:新しいターゲットを開拓したキャンペーン「100% PURE NEW ZEALAND」
事例4 アメリカ・カリフォルニア州:多様なプレイヤーと目標を共有するブランド・ツールキットの活用
事例5 アメリカ・ハワイ州:観光客と住民の満足度を高めるDMO とDMC の連携
事例6 アメリカ・フロリダ州オレンジ郡:テーマパーク都市から進化するプレイス・ブランディング
事例7 岐阜県:昔から続く営みをブランディングする「飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト」
事例8 京都市:「京都らしさ」を軸にしたデスティネーション・ブランディング

5章 日本におけるプレイス・ブランディングの確立に向けて

1 プレイス・ブランディングを取り巻く日本の現状
2 日本版DMOの概要
3 日本におけるプレイス・ブランディングの必要性
4 日本におけるプレイス・ブランディングの確立に向けた提言

編著者

宮崎裕二

東洋大学国際観光学部専任講師。プレイス・ブランディング研究会座長。2000年法政大学経営学修士(MBA)。大手総合電機メーカーのマーケティング職を経て、英国政府観光庁、日本政府観光局、カリフォルニア州観光局マーケティング・ディレクター。国家ブランド戦略クール・ブリタニアやカリフォルニア・ドリーム・ビッグのマーケティングやブランド・マネジメントに従事。2019年より現職。

岩田賢

一般財団法人運輸総合研究所主任研究員、企画部長。1972年生まれ。一橋大学経済学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)規制学修士。1996年運輸省(現:国土交通省)に入省し、交通、観光担当を経て、2012年三重県庁雇用経済部観光局次長、2014年日本政府観光局本部およびニューヨーク事務所長を歴任。2018年より現職。

著者

長崎秀俊

目白大学社会学部情報学科教授。同大学院国際交流学科教授。1965年生まれ。明治学院大学経済学部卒業。法政大学大学院経営学修了、博士課程単位取得退学(MBAマーケティング)。大手事業会社を経て、世界最大のブランドコンサルティング企業インターブランド・ジャパンにてストラテジィ・ディレクターを経て、2014年より現職。日本マーケティング学会常任理事。

光畑彰二

株式会社インターブランド・ジャパンCMO。早稲田大学第一文学部卒業。オムニコムグループ広告会社での19年の経験を経て、2004年よりインターブランド・ジャパンに参画。Best Japan Brandsなど日本独自のマーケティング活動をリード。ホスピタリティ、自動車、金融、食品・飲料、住宅・不動産をはじめ幅広い業種でのブランディングプロジェクトの経験を有する。

山本さとみ

ダブルシックス・マーケティング代表。東京成徳大学経営学部講師。1965年生まれ。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科修了。経営管理修士(MBA)。ウォルト・ディズニー・デスティネーションズにてマーケティング・マネジャー、アラスカ観光協会、オーランド観光局、グアム政府観光局の日本代表を務める。リッツカールトン東京、ヒルトン東京ベイではマーケティング部の責任者として従事。

武田光弘

愛知県観光コンベンション局観光推進監。1967年生まれ。青山学院大学経済学部卒業。国際ロータリー財団より親善奨学金を得て米国ジョージワシントン大学スクールオブビジネス修了。ニュージーランド政府観光局、タヒチ観光局、香港政府観光局において観光マーケティングに従事。2017年から日本政府観光局に勤務、2018年より現職。

辻野啓一

流通経済大学社会学部国際観光科教授。1952年生まれ。東京外国語大学英米科卒業。株式会社日本交通公社(現:JTB)入社。JTBサンフランシスコ支店、香港支店長、アジア支配人室(在シンガポール)企画部長、JTBハワイ社長と18年間海外業務に従事。2014~19年NPO法人日本エコツーリズム協会の理事・事務局長。2019年4月から現職。

佐野直哉

上野学園大学音楽学部准教授。1969年生まれ。青山学院大学大学院総合文化政策学研究科および英国王立音楽大学大学院オルガン科修了。日系レコード会社での国際渉外業務を経て、ブリティッシュ・カウンシルおよび駐日英国大使館広報部にてマーケティング・マネジャーとして勤務。2017年より現在まで青山学院大学総合文化政策学部非常勤講師、2019年より現職。

加藤英彦

岐阜県商工労働部海外戦略推進課インバウンド推進監。1971年生まれ。南山大学法律学部卒業。1994年株式会社ジェイティービー(JTB)入社。アトランタ五輪での長野五輪PRなど10年間勤務した後、2004年に岐阜県庁へ入庁。2011年から4年間、日本政府観光局シンガポール事務所へ派遣となり、訪日促進に尽力。2015年に岐阜県へ戻り、2019年より現職。

西松卓哉

京都市産業観光局観光MICE推進室観光戦略課長。1971年生まれ。同志社大学商学部卒業。ジョージワシントン大学大学院観光管理学修了。1995年京都市役所入庁。観光振興課国際事業係長、日本政府観光局ニューヨーク事務所出向などを経て、現職にて観光振興計画、観光調査などを担当。

日本政府観光局(JNTO)によると、日本を訪れる外国人の数は、2018年時点で年間3千万人を突破している。政府は、2020年までに4千万人、2030年までに6千万人の目標を掲げている。

一方、外国人観光客が増加傾向にあるのは日本だけにとどまらない。国連世界観光機関(UNWTO)は、2030年までに年間18億人が国境を超えて観光すると予測しており、その数は世界的に右肩上がりの様相を呈している。そして、こうした国際的な観光客の増加が観光地間の競争を激化させている。

このような昨今の訪日客の増加、観光地間の競争の熾烈化の動きを受けて、日本では国・地域のブランドを構築・強化し、世界に発信していく動きが急速に高まっている。そこで新たな観光の取り組みとして世界的に注目を集めているのが「プレイス・ブランディング」である。観光地全体の価値を高めるには、集客だけを目的とする従来の「デスティネーション・ブランディング」だけでは事足りない。そこには、「文化」「芸術」「伝統」への共感、「住民」の魅力の創出、「環境」への配慮、「社会」への貢献、さらには「輸出」「対日投資」「留学生誘致」への寄与といった様々な観点から「プレイス」のブランドを構築していく「プレイス・ブランディング」の視点が不可欠である。

日本においては、ブランド研究の第一人者である田中洋氏が、著書『ブランド戦略全書』(2014年、有斐閣)において、国・地域間のグローバル競争が激化し、観光客の獲得競争が熾烈化するなか、イギリスや韓国をはじめとして国・地域ブランディングが国家の支援によって活発に行われるようになっていると問題提起し、その後マーケティングやブランドの研究者の間でプレイス・ブランディングへの関心は着実に高まりを見せている。ところが、残念なことに、日本のDMOを含む観光業界では、このプレイス・ブランディング関する議論がまだまだ高まりを見せていないのが現状である。また、プレイス・ブランディングが「地域ブランディング」と捉えられ、「プレイス」の観点から取り組みが展開されず、地域特産品に関するプロモーションや一過性のイベント開催に終始しているような事例も散見される。世界的には1990年代後半から議論され、各地のDMOで実践されているプレイス・ブランディングだが、日本はその潮流に乗り遅れていないだろうか。

こうしたプレイス・ブランディングを取り巻く現状を受け、2019年3月、一般財団法人運輸総合研究所内に「プレイス・ブランディング研究会」が設立された。メンバーは、ブランドや文化創造マネジメント、サービス・マーケティングを専門とする大学教員、大手ブランドコンサルティング会社のコンサルタントに加えて、海外DMOの実務経験者と有識者、日本政府・都道府県・都市単位のDMOの実務経験者らで構成され、「プレイス・ブランディングを言葉として普及させていく必要性があるのではないか」「グローバルな視野からプレイス・ブランディングを相対化しつつ、理論と実践の両輪から研究していく必要があるのではないか」という問題意識を共有しながら、日本におけるプレイス・ブランディングのあり方について多様な視点から議論が展開された。

その研究会での成果をまとめた本書では、ブランド理論に加えて、海外を中心とした国単位・地域単位・都市単位のDMOの先駆的事例を紹介している。1章でブランドの基礎を整理した上で、2章ではプレイス・ブランディングとDMOを概観する。続く3章では、DMOで実際にプレイス・ブランディングを適用していくために必要な10の手法について述べる。

4章では、国内外のDMOとしてイギリス、ニュージーランド、アメリカのハワイ州とカリフォルニア州、オーランド市(フロリダ州)、岐阜県、京都市を取り上げ、各地のDMOで具体的にどのような取り組みが実践されているのかを紹介していく。
ここで取り上げている海外のDMOでは、ブランド戦略が一定の思想や理念に裏づけられており、スタッフだけでなく、外部のステークホルダーやビジネス・パートナー、時には地域住民にもそれらが共有されることで、一貫したメッセージが持続的に発信されている点が共通している。それゆえ、ロゴやホームページを作成すれば完了とするような一過性のプロモーションに依存していないことは注目に値するだろう。

これらを踏まえ、最終章である5章では、日本に焦点を当て、プレイス・ブランディングに関する課題の所在を明らかにした上で、日本で取り組みを進めていくにあたっての提言を示す。

マーケティングは消費者に選ばれるための仕組みづくりであるのに対し、ブランディングは消費者に選ばれ続けるための仕組みづくりだと言われる。マーケティングの技法をうまく活用すれば、あるデスティネーションに一時的に一定数の観光客を呼び込むことは決して難しいことではない。難しいのは、その状態を持続させることである。ここにブランディングを学ぶ意義があるはずだ。
各地で観光に携わる読者の皆さんが「プレイス・ブランディング」の考え方を効果的に取り入れ、自身のプレイスを持続的に盛り上げる取り組みを実践していく上で、本書がお役に立てば幸いである。

2020年4月
宮崎裕二

1990年代後半以降、漠然とした不安や行き詰まり感が日本社会に蔓延するなか、インバウンド観光の好調ぶりは、我が国の将来に希望を与えるものであり、日本経済や地域の復活に向けた大きな柱となっている。訪日外客の高みを目指す時代を迎えるにあたり、我々は何をすべきだろうか。

国際的に認められる真のデスティネーションとなるには、熾烈化している観光地間競争に打ち勝つ必要がある。そこでは、競合との差別化を図り、継続的に優位な立ち位置を保ちつつ、超富裕層や知識層にまで訴求していくことが求められるが、一過性の性質を有するプロモーションに依存していては、いずれ限界が訪れることになる。「真の観光立国に向けて、国際的なデスティネーション競争に勝ち抜けるか」との問いに、我々は的確な答えを持ち合わせているだろうか。

海外の先進的なデスティネーションは、常に先手を打つ形で動いている。例えば、「単に多くの観光客を誘致するプロモーションの時代は終わった」と表明しているオランダ政府観光局では、オーバーツーリズムへの対応策として、2019年末に観光戦略を大転換させ、住民および地方に恩恵がもたらされる業務に注力する新たな観光戦略を打ち立てている。このことは、国連世界観光機関(UNWTO)が指摘するように、来訪者数を追求するデスティネーション・ブランドから、生活者をも配慮したプレイス・ブランディングへのパラダイムシフトが起きていることを示唆している。

本書の3章においては、現実問題として日本の各DMOではまだ対応不可能と思われる手法についてもあえて記述している。実際、4章で取り上げた先進的な事例を見ても、すべての手法を用いているDMOは存在しない。しかしながら、先進的な取り組みを実施している海外のDMOでは、本書で紹介した用語や考え方は少なくとも共通言語として認知されている。国際的なデスティネーション競争に参戦するためにはグローバル・スタンダードへの適応が必要であり、こうした事柄も基礎知識として身につけておくことが求められるはずだ。

繰り返しになるが、これからのインバウンド観光には国際競争力が必要である。そのためには、国として、広域として、都市として、観光のみならず分野横断的に連携し、「プレイス・ブランディング」を進めていくことが不可欠である。マーケティングによりニーズやウォンツを把握し、プロモーション等を行い、観光客に「選ばれる」ことが短期的には重要だが、ブランディングにより観光客に「選ばれ続ける」という中長期的視座を忘れてはいけない。

本書の執筆中に新型コロナウイルスが発生し、世界の観光産業は様々な意味で緊張に直面している。ひとたび状況が回復すると、さらなる国際的な競争力が必要になる。この時期に自身のデスティネーションをじっくり検証し、プレイス・ブランディングを確立させてほしい。そのために本書がお役に立てば大変うれしく思う。

本書の出版にあたっては、ともに研究を深めた執筆者の皆さん、学芸出版社編集部の宮本裕美さん、森國洋行さんに大変お世話になった。加えて、貴重な示唆をいただいたキース・ディニー教授、UNWTOハンドブック(2009年)のサマリーを翻訳いただいたUNWTO駐日事務所、および本書の推薦をいただいた本保芳明駐日事務所代表、また研究会を支援してくれた運輸総合研究所の同僚諸氏に多大なる感謝の念を申し上げる。

2020年4月
岩田賢

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