がくげい連載「都市はどうなっていくのか会議」第6回 “都市の合理性とはなにか”

主催 学芸出版社
※詳細は主催団体等にお問い合わせください。

10/9に千鳥文化さんで開催された「がくげいラボvol.8」。がくげいラボは、学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!という企画です。

今回、がくげいラボvol.8から派生して、全7回の連載「都市はどうなっていくのか会議」がスタート!

\当日の登壇者 都市の自由研究会※)と参加者の皆さんによる、今直面している都市の問題や課題についての議論を、レポート形式で連載します。/

第6回「都市の合理性とはなにか」

パネル枠3人目は、関西大学大学院の修士1年、堀さん。
まちを歩いているときによく見る、ビルの「背中」のお写真を持ってきてくれました。
なぜ「背中」が見えるのかというと、手前のビルが取り壊されたことが理由と考えられますが、更地になった土地が遊休地として駐車場に変わることに疑問を感じていると言います。

堀さん:最近、公共空地の活用ではおもしろい事例が増えてきてるのですが、こういう私有空間である遊休地が人のための空間になったら魅力的だと思っています。さきほど石原さんのお話にあったサンフランシスコのSalesforce Parkや、銀座のソニーパークなど、私有地だからこそ実現できる公共性があるのではないでしょうか。こういった私有地の空間が、駐車場に変わるだけでなく、より公共性のある空間になることが、都市の自由を担保する1つのきっかけになるかもしれません。例えば、こういった駐車場などが地域に固まっているという状況を、地域や都市全体のスケールで計画できるコーディネーターがいたら良いなと思っています。


研究会みなさんからは、次のような意見がでました。

―経済性と賑わいのどちらを優先するのか

近藤さん:プライベート空間にパブリックを開くという議論は、いかに使われ続けるかという問題をはらんでいます。例えば所有権や担当者が変わったときにどうか。公私を使い分けるビジネスの論理もあるし、都市の論理もあります。経済性重視でつくられたはずなのに賑わいが欲しい、というのは本末転倒かもしれません。

―利用の選択性

榊原さん:昔浜松に「わいわいやらまいか広場」という、公共活動をしたい人に民間企業が一定期間貸し出す更地がありました。そこは浜松の中心部なので、駐車場にすれば賃料はかなり稼げたはずです。しかしその広場のように意欲的な都市の実践にオープンな事例も聞きます。これはバランスの問題だと思うところもありますが。
一方で、多くの更地が駐車場になるという問題もありますね。未利用期間の場つなぎとして、一番手っ取り早く収益があがるからでしょう。これは利用の選択性が全くない状態です。経済合理性のレベルだけで考えると駐車場が正しい答えですが、それとは違う論理が成立すれば良いと思います。そしてそれが制度的に担保されるべきではないでしょうか。

―ニーズに対応した都市計画が実現されているか

園田さん:ここでさっきの写真のように鍋をしたらどうでしょうか(笑)。駐車代が30分500円つまり1時間1000円なら、4人で割れば250円なので、お通し代くらいです。それにここならきっと誰にも怒られません。一方で、この価格が成立するほど車のニーズに対応しきれていないのなら、そもそも都市計画などに問題がありそうです。公営の駐車場整備などの都市政策が必要でしょう。駐車場が整備されてニーズが落ち着いたら、自然とこのような場所では別の土地利用が考えられると思います。
確か福井で、民有地と市有地を等価交換していたことがありました。民有地のほうが条件が良いなら、行政と民間で賃貸し合って、民有地に行政が広場をつくる一方、市有地では民間の駐車場をやるなどの解決策もあります。駐車場が必要な場所で無理矢理採算の合わないことをするのは、そもそも続かないと思います。

―駐車場から避難所へ

石原さん:木造密集市街地の空き家・空き地が、防災空地に変わっていくという実情もあります。避難場所は、地域のニーズと一致するのです。しかし非常に場当たり的で、全体的な計画はありません。昔なら駐車場になっていたであろう場所が、今は避難場所に置き換わり始めています。

京都四条河原町辺りの駐車場 Photo by Hori Hiroki

会場の外にも人が集まるほど! Photo by Gakugei


連載第6回目は、都市における経済的合理性と魅力的な空間のせめぎ合いについての議論をレポートしました。近年、写真のようなスキマ駐車場は一般的な都市風景となりましたが、一歩引いてみるとアーバンデザインや社会実験の場としてとても有益な資源と言えます。しかし研究会からの意見にあったように、そもそもそれが駐車場(さらには避難所)になる文脈を考えてみると、地域全体のニーズや経済的論理に対応しきれていないからこそ発生している状況だとわかります。
また、都市の合理性を経済的な尺度だけではなく、より多くの視点から考えられるような仕組みが必要だという声もあがりました。
ニーズがあり「とりあえず駐車場にしよう」という便宜的な解決方法だけではなく、より多くの選択が提示されている状況になれば、いつかこのようなスキマ駐車場が懐かしくなる日が来るのかもしれません。

さて第6回で後半戦も終わり、最終回の第7回目は会場全体の議論の様子と、イベントの総括をレポートします!最後までどうぞお付き合いください!
(最終回は11月29日公開予定です!)

(※)都市の自由研究会とは、正式名称が「都市生活における自由度の価値化と、その職能に関する研究ユニット」と言い、「都市の自由について研究する」「小学校の自由研究のように自発的に研究する」というダブルミーニングを持ちます。
この研究会には、都市生活が経済活性化など大きな社会的制御のための手段に据えられようとしている、という問題意識があります。本来、都市生活は手段でなく目標・目的であるべきだとし、目的が手段化すると、自由度の低減という課題が浮き彫りになります
そこで、改めて都市の「自由」とはなにか、まちづくり・福祉・モビリティ・防災・デザイン・・・などなど、都市生活を取り巻く様々な側面から問い直してみよう、というのが研究会の趣旨です。


担当:中井希衣子

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