がくげい連載「都市はどうなっていくのか会議」第3回 “都市の使い手はだれか”

主催 学芸出版社
※詳細は主催団体等にお問い合わせください。

10/9に千鳥文化さんで開催された「がくげいラボvol.8」。がくげいラボは、学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!という企画です。

今回、がくげいラボvol.8から派生して、全7回の連載「都市はどうなっていくのか会議」がスタート!

\当日の登壇者 都市の自由研究会※)と参加者の皆さんによる、今直面している都市の問題や課題についての議論を、レポート形式で連載します。/

第3回「都市の使い手はだれか」

連載第3回目は、園田さんと竹岡さんのプレゼンをレポートします!

まずは、大阪拠点のコンサル会社・ハートビートプランで働く園田聡さん。
元々は埼玉の生まれで、大学から20代の10年間は新宿で研究をされていました。公共空間をはじめ、都市をつくる・使うときのプロセスのデザインをする「プレイスメイキング」の研究がご専門です。ドクターをとった後、大阪へ拠点を移されたそうです。

さて園田さんのラインナップは以下の通り。
①モア4番街(東京・新宿)
②ホイツマルクト(ドイツ・ベルリン)
③スケボーパーク(愛知県・豊田市、プロジェクト進行中)

 

―居酒屋でもあり、道路でもあり、寄合所でもあり、カラオケでもある場所

1枚目の写真は、金曜夜の新宿・歌舞伎町に手前のモア4番目街の様子。この時間のこの場所では、道路で立ちながら飲んでる人がいたりと、とても賑わっています。この絵がきれいかどうかは別として、こうやって集まっていても、怒られることはありません。

園田さんは、自分自身でアフター5の12時間をどう楽しむか、ということを重視されており、それが楽しめる街が良い街だと思われるとのこと。

園田さん:今、街に住んでいて、自分で選択して意思決定するとか、例えば外でのんだり気持ち良く遊びたいときに、自分で選択できる余地がなくなっているのでは、という問題意識があります。都市にいるとき、思ったことを実現できる機会をどれだけ増やせるか、ということが重要で、かつてのように道で子供たちが遊んだり、寺社の境内では自由に商いをやっていたり、都市にはそういった選択性があるべきです。

しかし近代都市計画によって、商業施設は商業施設、オフィスはオフィス、住宅は住宅、さらに風俗営業店は細分化されて、それぞれが「施設」になってしまいました。
それまでは公園という存在は規定するまでもなく、道路が公園になることだってあったのです。
そうして都市空間が規定されるに連れ、遊びたい人はお金を持たねばならず、遊び先もすべて用途になっていきました。

園田さん:写真の場所は、居酒屋でもあり、公園でもあり道路でもあり、寄合の場所でもあり、カラオケでもある。そういう余地が街の中にもっと増えたらいいと思っています。そういう都市の余白をどうつくれるか、プライベートも仕事も通して実現したい。

 

―欲しい・楽しい、だからつくる

①モア4番街(東京・新宿)

2枚目のお写真は、今年のゴールデンウイークに3週間ほど会社の皆さんで行かれたヨーロッパの1枚。シュプレー川の向こうがかつての西ベルリンで、写真手前が東ベルリンです。
東西統一後、なにもなかったこの場所にDJの人がきて、クラブをつくったことが始まりでした。
彼は、自分が週末楽しく過ごすための場所をつくったと言います。
そうしてクラブで踊ると、お腹が減るからレストランもバーもつくり、さらに帰るのが面倒になってことで、ホテルもつくってしまいました。
ここは元々ベルリン市の土地ですが、彼らは一応許可を取り、東西統一後のなんの価値もない場所だったために、自由に使うことが許されたのです。

そして彼らにとっては、エリアマネジメントや地域の価値をあげることが目標ではありませんでした。

園田さん:ただ自分たちが楽しいから、その土地でやりたいことをやっています。そして自分たちが楽しければみんなが楽しいはずだから、その場所を開放していくのです。

そうしてパブリックマインドを持つ人々が自分の場所を開放することで、街が豊かになったり行動の選択肢が増えていきます。

園田さん:これと同じようなことをやりたいかどうかは別としても、自由にやれる・都市にコミットできるようなことをやりたいと思っています。

 

―自己責任の文化がある街

②ホイツマルクト(ドイツ・ベルリン)

そして3枚目には、愛知県豊田市の写真。人口43万人で、そのうち7割がなにかしらの形でトヨタ自動車に関わっている仕事をしている街です。
園田さんは市役所と仕事を始めて5年目。駅前広場の再編プロジェクトに関わる中で、スケートパークを整備できないか進めているそうです。ちなみに仕事で関わるようになって自前のボードを買ったのだとか。
スケートはオリンピックの正式種目にも関わらず、日本ではほとんどの場所でスケートが禁止されています。スケーターたちはとくに悪いことをしていないにも関わらず、施設に行きお金を払わないとスケートができません。
マナーの悪いスケーターが一部にいることもありますが、正当に節度をもっているスケーターたちがなぜか、社会的な暗黙のルールによってマイノリティに捉えられています。

園田さん:彼らも、自分たちでルールを決めてやれば自立的に場所の運営ができます。そしてこの駅前広場に、そういう場所をつくれるのではないかと考えています。

行政には、最終的な意思決定をするときに、広く市民の意見を聞くことを重視する方もいます。もちろん近隣の方や地域の自治体の方には挨拶に回りますが、43万人の都市で全員がここを使うわけではなく、使う人は限られています。
若いスケーターのための場所ができれば、毎月子供たちにスケートを教えたり、自発的に清掃したり、メンテナンスもする、という声が彼らから上がっています。
一部にかかるコストは、民間がお金儲けのために投資して利益があるような場所ではないため、市がもつことが理想的です。

園田さん:大都市の名古屋ではなく、豊田に行けば、駅前でスケートができる。そういう民度・自己責任の文化がある街だ、となれば、きっと若い彼らも自分たちの街に愛着が湧きます。43万人いる都市の一角、たったの1000平米に、そういう場所があってもいいのでは、と思っています。それも選択と余地の実現です。

③スケボーパーク(愛知県・豊田市、プロジェクト進行中)


そして最後は竹岡さん。
滋賀県を拠点に、グラフィックデザインのお仕事などをされています。近藤さんと同じとんち研では、変化の激しい時代において、とんち力を高めてうまく社会を渡っていこうというコンセプトで活動されています。
元々は京都の出身で、滋賀県立大で建築を学ばれていました。卒業後に大阪で働いた後、今は滋賀で暮らしているそうです。

そんな竹岡さんのラインナップは以下の3点。
①碓氷峠(群馬/長野)
②大道芸ワールドカップ(静岡)
③湖畔ジェンガ(滋賀・大津)

 

―道を求めて、中山道へ

竹岡さんは学生時代、東京の日本橋から京都の三条大橋まで歩いた経験があるそうで(!)、1枚目にはそのときの写真。
もともと、道という繋がった存在に興味があり、そこからいろいろと考えるようになったそうです。この写真は、日本橋から関東平野を抜けるまで5日間ほど歩き、はじめにさしかかった山、碓氷峠から見た坂本宿の様子。標高はそこまで高くない山ですが、それでも結構な傾斜だとか。

竹岡さん:この峠から後ろを振り返ると、中央に自分が通ってきた道が見えます。道という空間を体験しながら、その道を中心に宿場町が形成されていることがわかります。

中山道は別名木曽街道と呼ばれ、木曽の谷あいを抜けていきます。そこは、木曽の谷筋を旧街道と新しい国道、木曽川や鉄道が並走する場所で、旧街道が大きく分断されずに往時の様子を残していて、歩いていてとても気持ちがいい道だそうです。

竹岡さん:そういう繋がりこそ、道の特性だと思います。さらに、そういう道が繋ぐ都市というものに興味をもっています。道や川や鉄道など、様々なものの成り立ちのなかで都市がどう形成されるのか、体験を通して都市はどう認知されるのか、ということに興味があります。

 

―非日常のアイコンとふるまい

①碓氷峠(群馬/長野)

2枚目には、竹岡さんが最も好きな都市イベントの写真。静岡で毎年11月に「大道芸ワールドカップ」が開催されており、1992年から続く人気のイベントです。毎年、立派なガイドブックが作られ、世界から集まった大道芸人がパフォーマンスをします。
普段車道である場所を歩行者天国にしてステージをつくったりと、そういう賑やかな活動やふるまいがまちに滲み出している良い事例です。

ちなみに、1枚目の写真を撮った当時、竹岡さんは菅笠をかぶって歩いていたそうで、色々な人が話しかけてくれたり、手土産や小遣いをくれたりしたのだとか。

竹岡さん:このときの菅笠は、旅人としてのアイコンだったのだと思います。大道芸イベントで言えば、普段と違ったアイコンがまちに発生したときに、色々なアクションが起こります。

20年以上続くこのイベントも、次第に規模が大きくなり、始まった当初の子ども達は今はすっかり大人になりました。今ではイベントをやっていないときにも、大道芸の練習をしてる子たちがいたり、そういった盛り上がりを見せています。

竹岡さん:このイベントを通して、都市においてはこのような非日常のアイコンの存在が重要だと感じるようになりました。都市と自分の身体やふるまいの関係に興味があります。

 

―自分たちでアクションをおこす

②大道芸ワールドカップ(静岡)

最後の3枚目には、本日お休みの笹尾さんが撮ってくれた写真を持ってきてくれました。前回、研究会を滋賀で開いたときの1コマだそうです。
写真の背後が大津駅で、駅を降りて1kmほど歩いたところのどんつき。手前には湖があり、駅と湖に挟まれた場所でジェンガをやっていたのだとか。

竹岡さん:湖畔の公園でどんなアクティビティがあるのか研究ユニットのメンバーで見に行ったところ、使い方の多様性はかなり少なく感じました。そこで、持ってきた公園で楽しめる道具を使って、自分たちでやってみたのです。

その中の1つが、写真にあるジェンガ。すると、公園に変化が起こったと言います。

竹岡さん:6人でやっていたので、たむろ感がでていたのか参加してくれる人はいませんでしたが、周りから見てくる人がいて、段々人のアクションが変わっていくことを実感しました。

だれもだめって言わないのなら、ここでこういうジェンガみたいなことをやってもいいんだ。そういう発見を実際に示すことで、周りの人が乗っかってきたり、空気の読み合いのような雰囲気が緩和していったと言います。

竹岡さん:ちょっとしたアイコンが都市にあることで、そこに発生する波紋のようなものに興味があります。もしかしたらそれが、都市の自由への役割を担うのかもしれません。

③湖畔ジェンガ(滋賀・大津)


第3回目には、ハートビートプランの園田さん、とんち研の竹岡さんのプレゼンをご紹介しました。
「都市的課題を象徴する写真」というテーマに対し、場所の自由気ままな使い方、欲しいものを自分でつくる精神、自己責任の文化、道と都市のつながり、非日常のアイコンとふるまい、率先的実践、
といった課題が投げかけられました。
今回のお二人のプレゼンからは、トップダウン的に与えられるだけではなく、自ら巧みに都市を使い倒し、欲しい場をつくるという姿勢こそが要であるとわかります。また豊田市の事例のように、そうした願望がある人たちをすくいあげ、場に導くことこそ、日々都市に向き合うことを職能としている人々の課題とも言えるかもしれません。(それにしても晴天下のジェンガ、超楽しそうですね・・)

さて第3回目までは、都市の自由研究会の皆さんのプレゼンをご紹介しました。第4回からの後半戦は、パネル枠として参加してくださったお客さんのプレゼンから派生して、議論が始まります。都市の自由をめぐって、さまざまな視点からアプローチがありますよ。お楽しみに!
(連載第4回目は11月20日公開予定です!)


担当:中井希衣子

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