ストリートファイト
ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ 著
中島直人 監訳
石田祐也、関谷進吾、三浦詩乃 訳
内容紹介
歩行者空間化したタイムズスクエア、まちに溢れるプラザや自転車レーン。かつて自動車が幅を利かせていたニューヨークの街路は、歩行者と自転車が主役の空間へと変貌を遂げた。小さな実践を足掛かりに大きく都市を変え、人間のための街路を勝ち取った、元ニューヨーク市交通局長による臨場感とアイデアに満ちた闘いの記録。
体 裁 A5・400頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3261-1
発行日 2020/09/15
装 丁 見増勇介、関屋晶子(ym design)
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イベント情報
日本のストリートファイターズが見る街路の未来|『ストリートファイト 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』から考える(2020/11/27|オンライン)
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※下記イベントは終了しています
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日本語版によせて ──ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ
日本は、驚異的な交通を誇る国です。軽々と何千もの人々を乗せ、まちの中心どうしを結ぶ高速鉄道網は世界に刺激を与えています。都市部の地下鉄と通勤電車は、その効率性、信頼性、現代性で名声を得た例であり、日本で培われた力強い公共交通の文化を他の都市は熱望しています。このような投資は、国土の持続可能性に寄与するものです。自家用車のニーズを最小限に抑えることで、仮にさらに何百万人もの人々が車を保有した場合に発生し得る都市部の渋滞、大気汚染、経済損失を免れているのです。
公共交通を洗練してきたのと同じように、日本の街路、大通り、路地を人々のための場所へと改革していくことができます。しかし、それは日本の自治体が公共交通を歴史的に勝利に導いてきたのと同等の構想力、貢献力、創造力を引き出した場合に限ります。
新型コロナウイルス感染症の大流行という目に見えない脅威に直面し、将来都市が果たし得る機能の想定が困難な今こそ、日本は、街路によって都市の活気を取り戻し、人々と経済を動かし続ける方法を考える時期にあります。これは、車のために街路を拡幅し、橋やトンネルを建設するという、過去70年間日本の自治体を支配してきたような計画手法では為し得ません。また、屋内ショッピングモールや地下通路といった街路の生命力を失わせてきたものをさらに建設しても達成されることはありません。その代わりに、日本は、人々が常に拠り所にしてきた街路を、人々の手に取り戻していくために足を踏み出し、再設計していかなければなりません。
世界中の素晴らしい都市には、歩いたり自転車に乗るのに優れた、素晴らしい街路があり、それによって豊かなストリートライフが実現されています。人々を惹きつける魅力的な街路は、地域の事業にとっても良く、安全性を高め、健康的な活動と運動を促し、暮らし、仕事、遊びをさらに楽しめるようにします。街路は、他の場所へと移動するための単なる経路である必要はありません。街路は、人々が座り、近所の住民と会話をし、本や新聞を読み、天気を楽しむ、あるいは一息ついて、世の移りを眺める目的地となり得るのです。
私は、2019年の春に来日し、東京、大阪、京都、神戸のいくつかの界隈を歩く、素敵な体験をしました。日本の都市にはすでに、他の多くの界隈でも参考にできるような、活気のあるストリートライフのあらゆる兆候がありました。たとえば下北沢の曲がりくねった路地や、神楽坂の飲食店や店舗にもそれは見られました。また、単なる観光地と思われがちな京都の祇園や大阪の道頓堀、幸いにも三社祭を見ることができた東京の浅草にも、各地の都市に応用することができる都市の原則が凝縮して反映されていました。
いずれの界隈も、明らかに日本固有のものですが、コンパクトな街路のつくり、建物の高さ、人の密度、店舗、飲食店と歩行者の年齢層の多様性を測ると、パリ、ロンドン、ニューヨーク、メキシコシティなどにも見られる世界最高峰の街路に共通した要素によって成り立っていることが分かります。こうした小さな場が人々を引き寄せて集め、都市を輝かせているのです。
これには何億円もの投資や建設年数は要しません。小さな空間でも、都市を偉大にすることができるのです。東京のような大都市でも、こうした最初の一歩を踏み出し始めています。私は、100時間限りの「緑の歩行者天国」へと変貌した丸の内仲通りで、何千もの人々が座って春日和を楽しむ中を光栄にも小池百合子東京都知事とともに歩くことができました。長谷部健渋谷区長とは、宮益坂や道玄坂など渋谷の街路を歩き、混雑したスクランブル交差点が、単に他の場所へ向かうために通り抜けるだけではなく、立ち止まって周囲を楽しめる雄大な歩行者空間へと変わる姿を想像しました。豊島区では、地下駐輪場と変電施設の上に建設された南池袋公園を訪れ、家族が日光を浴びて、子どもが遊び、大人もヨガクラスに参加する様子を拝見しました。日本のまちはこのようにして1本の街路や1つの界隈から、変革を実現することができるのです。人々は何が実現できるのかが目に見えると、空間を使い、楽しみ、そしてより多くを求めるようになります。
日本が築き上げるべき未来は、すでにある街路の中に見ることができます。おそらく日本には、私が訪れたどの国よりも、コペンハーゲンやアムステルダムと同じくらい、あるいは中国の最大規模の都市よりも素晴らしい自転車の都市をつくり出すための資産がすでに存在しています。しかし、東京都、京都市、大阪市、神戸市におけるサイクリストの数は、アメリカ、カナダ、あるいはヨーロッパの大多数の都市より多いにも関わらず、自転車インフラがほぼ整備されていません。
日本に基礎的な自転車レーン網が備われば、自転車人口を容易に倍にしてみせることができるでしょう。日本の自治体のリーダーは、この重要性を認識して、優先的に取り組む必要があります。自治体がもし現在自転車を利用している人数に即して道路空間再配分をしたら、ほぼ全ての街路に自転車レーンが整備されるでしょう。言い換えれば、今ある街路だけで自転車の都市を実現することができるのです。
このメッセージは、多くの自治体のリーダーが私を案内するために時間を割いて、街路について紹介していただいた際にお伝えしました。青木由行国土交通省都市局長、青柳太氏、奥田謁夫氏、今佐和子氏を含む同局の主導者の多くの方々とたくさんのアイデアについて意見交換できました。佐藤伸朗東京都都市整備局長、今村保雄建設局次長とともに活発な議論をすることもできました。
京都市では、光栄にも門川大作京都市長と職員の方々とお会いすることができ、どのようにして歴史地区と同じくらい魅力的でアクセスしやすい都市街路をより多く構築できるか意見交換しました。大阪市では、吉矢康人建設局企画部道路空間再編担当課長、小松靖朋氏とともに御堂筋を中心とした都心部をより歩きやすくするための取組みを拝見しました。神戸市では三ノ宮駅を核とした都心部の大きな変化を、清水陽神戸市都市局都心三宮再整備課長と同部局の方々とともに視察しました。
日本の学界と非営利団体からの高い関心と厚い支援は心強いものでした。青山佾元東京都副知事・明治大学名誉教授、明治大学・小林正美教授、東京大学・中島直人准教授、各者による各所のご案内に厚くお礼申し上げます。森記念財団理事の明治大学・市川宏雄名誉教授には、深い洞察を共有していただきました。深く感謝申し上げます。横浜国立大学・中村文彦教授、国際交通安全学会、大丸有エリアマネジメント協会の廣野研一理事、中嶋美年子氏に手厚くご協力いただいたことについて、心より感謝申し上げます。
そして、翻訳者である関谷進吾氏、三浦詩乃氏、石田祐也氏には特に感謝しております。日本滞在中、彼らは一貫して示唆を与えてくれた仲間であり、鋭い都市の教え子でした。日本の未来の都市改革を牽引するのは彼らであり、そして他の多くの若いプランナーと実務者です。
また、本書の実現に向けて、編集を手がけていただいた学芸出版社の神谷彬大氏に厚く感謝申し上げます。
私の経験が何か示唆を与えられるとすれば、これから進む道には、ストリートファイトが待ち受けているということでしょう。日本の街路を、歩きやすく、自転車が乗りやすく、人に優しい世界的な街路へと変えていくには、街路をこれまでと違った視点で見る必要があります。そして、現状に対して挑戦し、車両交通を必然的なものとして見るのではなく、新たな方向へとマネジメントできるものとして捉える必要があります。新型コロナウイルス感染症の大流行によって地域経済と交通パターンが混乱している今こそ、各都市を新たな方向へと導くときです。私たちは、全ての交通、騒音、汚染を以前の状態に逆戻りさせることなく、まちを復興することができます。私たちが出会うことができた人々の構想力とエネルギーによって、日本は、街路が出ずる国へとなり得るのです。
2020年6月
はじめに
序章:新たな街路のコードづくり ──主役は車から歩行者へ
1章:街路をめぐる闘い
2章:都市の命運を握る高密化
3章:まちを変える都市アジェンダ
4章:街路の読み解き方
5章:歩行者に従おう
6章:生まれ変わったタイムズスクエア ──歩行者空間化への闘い
7章:良いアイデアは盗むもの ──メデジン、ボゴタ、ロンドン
8章:自転車レーンへの反発
9章:シェアバイク ──シェアリングエコノミーの最前線
10章:数字から見る安全性
11章:避けては通れないバスの話
12章:「データ」が変える街路の豊かさ
13章:交通インフラストラクチャーの本質
14章:闘いは終わらない
訳者解題
開催が決まり次第、お知らせします。