北欧のスマートシティ

安岡 美佳・ユリアン 森江 原 ニールセン 著

内容紹介

辺境国が世界最先端の都市を実現できる理由

北欧の人々は理想の生活を追求し、知恵を持ち寄り、テクノロジーを活用して新しいしくみを次々に実験する。オープンデータ、電子政府、リビングラボ、グリーンモビリティ、クリーンテック、ヘルステック等を実装し、多様なプレイヤーが共創する、サステイナブルな経済と環境をいかに実現するか、世界が羨む辺境の実践に学ぶ。

体 裁 四六・288頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2838-6
発行日 2022-12-25
装 丁 藤田康平(Barber)

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はじめに

1章 北欧のスマートシティの特徴

1 北欧でスマートシティが進展する背景

社会的背景:人口増加や気候変動に伴う都市課題の解決
技術的背景:テクノロジー活用が進んだ社会
経済的背景:イノベーションのニーズと戦略的な支援のしくみ

2 ウェルビーイングな都市づくり

ウォーカブルな街
サステイナブルな再開発
自然と近接したライフスタイルの創出
最新技術で快適な室内環境を実現
実験を重ねて製品・サービスを開発
強みである産業・技術から生まれるイノベーション
多様な市民が参加しやすいプラットフォームの設計

2章 デジタル化が暮らしを変える

1 電子政府の進展

電子政府政策の始まり
電子政府サービスの概要
市民のための電子政府
デジタル化政策を浸透させる工夫

2 生活のデジタル化

行政手続きのデジタル化
ヘルスケアのデジタル化
キャッシュレス社会
教育のデジタル化

3 オープンデータとコロナ禍の効用

オープンデータの活用
データ・マーケットプレイスの試み
デジタル化がコロナ禍に果たした役割

4 デジタル・デバイドへの対応

5 プライバシーとセキュリティ

北欧の個人情報の考え方
サイバーセキュリティ対策
利便性とセキュリティを両立させるしくみ
北欧人のマインドセット
個人情報保護が拓く新市場

6 人を幸せにするテクノロジーの追求

3章 スマートシティが新しい産業を生みだす

1 グリーンモビリティ

スタートアップが牽引するMaaS
街に広がるサイクルロード
電気自動車の推進:ガチャ

2 クリーンテック

再生可能エネルギーの推進
大気環境の保全

3 ヘルステック

オープンデータ化されるヘルスケア・データ
ヘルスケア・テクノロジー
ヘルスケア・エコシステム

4 フード・イノベーション

新北欧料理を牽引するレストラン
街に食物を栽培する食栽の広がり

4章 スタートアップのエコシステム

1 北欧のスタートアップ・エコシステム

北欧のスタートアップ・エコシステムの特徴
北欧はユニコーン創出工場
ベンチャーキャピタルが支えるスタートアップ

2 北欧のイノベーション支援スキーム

EUの支援プログラム
北欧諸国の支援プログラム
初期段階を支える公的ファンドとエンジェル投資

3 スマートシティ・スタートアップの資金調達

4 日本企業の北欧スタートアップへの投資

5章 ステークホルダーをつなぐハブ

1 産官学民連携のプラットフォーム

北欧の都市をつなぐ
特定の産業の企業をつなぐ
スマートシティのプレイヤーをつなぐ公的機関

2 交流や参画を促す新しい図書館

コペンハーゲン中央図書館
オーフス中央図書館ドッケン
ヘルシンキ中央図書館オーディ
オスロ中央図書館ダイクマン・ビヨルビカ

3 イノベーションを創発するラボ

ファブラボ
ビジネスイノベーション・ラボ

6章 共創をデザインするリビングラボ

1 参加型デザイン

参加型デザインの歴史
参加型デザインのメソッド

2 リビングラボ

リビングラボの定義
リビングラボの二つのタイプ
リビングラボの手引きとマニフェスト
リビングラボのエコシステム

3 スマートシティで活用されるリビングラボ

テクノロジーとリビングラボ
コラボレーションとリビングラボ

4 コラボレーションを促進するしくみ

フォイーニング:プロジェクトを迅速・円滑に実現する
ダオスオーデン:会議を主体的に運営する

5 自律と参画を育むアクティブラーニング

おわりに

安岡 美佳(やすおか・みか)

ロスキレ大学准教授。北欧研究所代表。1977年生まれ。京都大学大学院情報学研究科修士課程修了、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学で博士号取得。コペンハーゲンIT大学助教授、デンマーク工科大学リサーチアソシエイツ等を経て現職。2005年に北欧に移住。専門はユーザーセンターデザイン、デザインイノベーションの共創手法(デザインシンキング、参加型デザイン、リビングラボ等)、AI・ロボットを含めたITの社会実装など。2000年代からデジタルシティの研究に取り組む。

ユリアン 森江 原 ニールセン(Julian Morie Hara Nielsen)

Nordic Asian Venture Alliance(NAVA)のオペレーション・マネジャー。1987年生まれ。コペンハーゲン商科大学アジア研究学部卒業、同大学院ビジネス開発学部修士課程修了。2018~22年環境技術のスタートアップ企業M-PAYGのソーラーホームシステム製造会社、ドローンスタートアップ製造会社UPTEKOの両社で資金調達やプロジェクトマネージャーを務め、2020年以降、現職。現在、北欧のスマートシティとその技術を開発するスタートアップに関する調査・研究を実施。

北欧諸国は、欧州北部の辺境に位置し、各国の人口は600~1000万人程度、基幹産業も限られた小国群である。にもかかわらず、生活の質、幸福度、SDGs、競争力、といった国際ランキングで、北欧諸国は軒並み上位を占める。なぜ、北欧諸国はこのように高く評価される価値を創出できるのだろうか。その問いについて、本書ではスマートシティという切り口から解き明かしていきたい。

近年、世界各地でスマートシティの取り組みが活発化している。スマートシティとは、ICTやIoT、AIなどのテクノロジーを用いて、社会、生活、産業のインフラやサービスを効率的・効果的に運用し、人々の生活の質を高め、持続可能な経済発展を目指す都市のことである。北欧のスマートシティの特徴は、自分たちの幸せを追求する姿勢にある。「幸せ」というのは、曖昧で主観的な表現だが、どんな都市をつくりたいかを考える際には、ぜひとも取り入れたい重要なベンチマークである。

では、なぜ、北欧では自分たちを幸せにする都市づくりができるのだろうか。ここではスマートシティの背景にある、北欧の人々のマインドセットについて少し紹介したい。

北欧の人々は、この50年、「こうありたい」「こうあるべき」という自分たちの理想や欲望を素直に表明し、それを実現できる社会づくりに実直に取り組んできた。

教育においては、1960年代以降、権威主義的な知識の伝達、暗記中心の学習方法に疑問が投げかけられ、学習者が主体的に課題を見つけて取り組むことが重視されるようになり、教育者の役割はそれを支援することだと考えられるようになった。こうして北欧の教育は大きく変わった。

70年代には、女性の社会進出も進んだ。女性が男性と平等に扱われるのが当然だと考えられるようになり、女性の権利を保障する法律がつくられた。さらに、子供や性的マイノリティ、移民・難民など、多様な立場の人々に寛容な社会制度の整備も進んだ。環境破壊が深刻化した20世紀末には、環境を持続可能にする政策や技術を導入する動きが活発化した。

時にはそうした取り組みが急進的すぎて、見直しを迫られることもあるが、自分たちの理想や欲望を実直に追求する姿勢が今の北欧の社会をつくってきた。

北欧のスマートシティの鍵となっているのは、こうした北欧の人々が培ってきた自分たちの理想や欲望を追求する姿勢である。北欧と総称しているが、各国の人口や産業構造、社会状況は異なるし、地域の特徴も実にバラエティに富む。しかしながら、その根底に流れる、スマートシティを促進するマインドや目的は、大枠では合致している。それは、そこで暮らし、働き、訪れる人々のための街であること、生活を豊かにするものであること、環境に配慮し自然を身近に感じられること、皆が平等で民主的なプロセスでつくられることだ。

では、人々の「こうありたい」「こうあるべき」という理想や欲望を、どのように街に実装していくのか、それを本書では6章構成で紐解きたい。

1章では、北欧のスマートシティの特徴と、ここ20年間の都市の変化を七つのトピックから考察する。2章では、デジタルインフラがいかに人中心で設計され、暮らしの豊かさを高めているかを概観し、3章では情報通信・環境技術を活用した産業成長戦略について、4章では新しい産業を牽引するスタートアップのエコシステムについて紹介する。

後半の章では、スマートシティの実装を支えるプレイヤーたちが業種や組織を超えて共創する社会システムについて解説する。5章では、多様なステークホルダーをつなぎ、活動を活性化するために設けられるハブについて、6章では、北欧の民主的な社会づくりの哲学・メソッドともいえる参加型デザインやリビングラボについて紹介する。

北欧の人々は、環境も経済もサステイナブルな都市を志向している。それを実現するしくみを産業や政策で支え、さまざまな制約の中で最適解を追求した結果、社会全体でテクノロジーが活用され、それがスマートシティと呼ばれるようになった。北欧のスマートシティは、テクノロジー主導で始まったわけではなく、あくまでも人々が望む都市の姿がテクノロジーによって具現化されているにすぎない。

もちろん人々は、テクノロジーが人を幸せにも不幸にもすることを知っている。だからこそ、テクノロジーをどのように使いたいか、使わないでいたいかをとことん議論する。北欧の人々にとって、テクノロジーをどう使ってどういう街にしたいかは、行政や企業から与えられるものではなく、自分たちで決めることなのだ。

北欧のスマートシティは、自分たちの住みたい街をつくろうとする市民のボトムアップな活動と、コストを削減しつつ公共サービスの質を確保する政策を実行しようとする行政のトップダウン、そして持続可能な経済成長を目指す民間企業、この三者の真摯な協働から始まっている。こうした多様なステークホルダーがそれぞれの目指すゴールを重ねあわせた先にあったのが、スマートシティだったのである。

なお、本書で取り扱う「北欧」は、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイスランドの5カ国を指す。近年、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)も合わせて「ニューノルディック」として語られる傾向があるため、従来の北欧5カ国に加えてバルト諸国も適宜紹介する。

安岡美佳

北欧のスマートシティは先進的らしいという噂を聞きつけ、海外から多くの問合せが筆者の元に寄せられる。「スマートシティの先進事例を教えてください」と尋ねられたとき、私たちはいつも途方に暮れる。それは、都市の風景として視覚的に体験できる部分がとても限られているからだ。実際に北欧に暮らす人々も、スマートシティに暮らしていると意識することはほとんどない。ここまで読んでくださった皆さんにはその理由がわかってもらえると思う。

本書で紹介するスマートシティは、読者の皆さんが考えるスマートシティのイメージとは違っていたかもしれない。北欧のスマートシティは、テクノロジーに支配されていない街だからだ。スマートシティを構成する一つ一つのシステムはとても普通で何がスマートなのかよくわからないかもしれない。ただ、個々のシステムが、強固な技術インフラと社会インフラによってネットワーク化され、人々が心地よく生きていくための仕掛けが街に張り巡らされ、一つのエコシステムとしてシームレスに街が機能している。

北欧のスマートシティを体感されたければ、実際に北欧の都市に1週間でも滞在して、街中を歩き回って、人々の暮らしぶりに触れてほしい。さらに欲を言えば、数カ月、数カ年、北欧に滞在してみたら、きっとこの本で紹介した以上に多くの発見をされることと思う。

筆者は、ロスキレ大学での研究および北欧研究所での調査活動を通して、過去20年にわたり、「私たちの幸せを向上するためにテクノロジーは何ができるか?」を追求してきた。本書ではその知見をできるかぎりわかりやすく日本の読者の方々に伝えるべく執筆してきたつもりだ。本書で紹介した北欧の実践が、日本の皆さんの活動の場で役立ててもらえることを願っている。

本書の出版にあたり、公益財団法人 KDDI財団の著書出版助成をいただいた。また、原稿の細かな文章やデータのチェックなどを北欧研究所のメンバー(内田真生、桜井紀子、佐藤奈々葉、宮下祐真)、高橋渚紗さんにいただいた。原稿執筆においては、学芸出版社の宮本裕美さんをはじめ、書ききれないほど多くの方々の貴重な支援をいただき、本書の出版が実現した。心からの感謝を表したい。

2022年12月 安岡美佳

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