東京の創発的アーバニズム


ホルヘ・アルマザン+Studiolab 著

内容紹介

小さな商いや居住が集まる東京の魅力を図解

世界のどこにもない東京の最大の魅力は、再開発ラッシュで危機に晒されるヒューマンスケールの商いや居住の集積にある。横丁、雑居ビル、高架下、暗渠等で営まれるパブリックライフを現地調査とデータ解析により図解。大企業主導の再開発から、ボトムアップでレジリエント=創発的な都市設計へのシフトを説く画期的都市論。

街を強くするという拡大志向の開発が、
実際には東京を硬く脆くしているのではないかと、
この本に集められた柔らかい東京は問いかける。
東京の「成長なき繁栄」はここから始めるしかない。

建築家・東京工業大学教授 塚本由晴氏

体 裁 A5・224頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2830-0
発行日 2022-10-09
装 丁 neucitora

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計43ページ公開中!(1章・2章(一部))

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1 東京に探る都市設計の創発的アプローチ

1.1 東京の魅力を構成する五つの都市パターン
1.2 企業主導アーバニズムが招いた危機
1.3 戦後の歴史から東京の未来を探る
1.4 東京を六つの地域モデルに分解する
1.5 ダイナミックで親密な都市構造はいかに発生するか
1.6 都市を設計する創発的アプローチ

2 横丁

2.1 ディープな東京を発見する横丁
2.2 横丁とは?
2.3 闇に隠れた始まり、不透明な未来
2.4 スタートアップを支える現代の横丁
2.5 新宿・ゴールデン街:世界一密集した飲み屋街
2.6 渋谷・のんべい横丁:再開発を免れた極小の飲み屋街
2.7 西荻窪・柳小路:多国籍感あふれるローカルな飲み屋街
2.8 横丁から学ぶこと
Case01 新宿・ゴールデン街
Case02 渋谷・のんべい横丁
Case03 西荻窪・柳小路

3 雑居ビル

3.1 誰も語らない、東京を象徴する建築
3.2 雑居ビルとは?
3.3 建物はどのようにして雑居ビルになるのか?
3.4 新宿・靖国通り:多様な業種が集積した歓楽街
3.5 神楽坂通り:規制緩和と闘う江戸情緒漂う商店街
3.6 新橋・烏森地区:駅前広場の喧騒を逃れた裏路地の小さな賑わい
3.7 雑居ビルから学ぶこと
Case04 新宿・靖国通り
Case05 神楽坂通り
Case06 新橋・烏森地区

4 高架下建築

4.1 高架下に広がる都市空間
4.2 高架下建築の100年の変遷
4.3 アメ横:400店がひしめく高架下商店街
4.4 高円寺:気さくでオープンな都心周縁の商店街
4.5 銀座コリドー街:高速道路下の出会いの聖地
4.6 高架下建築から学ぶこと
Case07 アメ横
Case08 高円寺
Case09 銀座コリドー街

5 暗渠ストリート

5.1 東京を流れる川のようなストリート
5.2 日本のストリートライフを退屈にする政策
5.3 暗渠ストリートの歴史
5.4 原宿・モーツァルト通り~ブラームスの小径:商業地の喧騒を癒すオアシス
5.5 代々木の裏通り:住宅街のプライベートとパブリックの狭間
5.6 九品仏川緑道:緑地に変えて実現した豊かなパブリックライフ
5.7 暗渠ストリートから学ぶこと
Case10 原宿・モーツァルト通り~ブラームスの小径
Case11 代々木の裏通り
Case12 九品仏川緑道

6 低層密集地域

6.1 都市を埋め尽くす膨大な住宅
6.2 低層密集地域とは?
6.3 低層密集地域の魅力
6.4 政策や経済の複合的要因で変質した住宅地
6.5 東中延:都心周縁に広がる典型的な生活空間の集積
6.6 月島:人工島のグリッドの街区が育んだ公共性
6.7 北白金:都心に残された再開発の緩衝地帯
6.8 低層密集地域から学ぶこと
Case13 東中延
Case14 月島
Case15 北白金

7 新しい東京学を目指して

7.1 東京学の六つのアプローチ
7.2 自己オリエンタリズム:東京学の「日本人論」
7.3 東京を批評する新しいアプローチ

8 企業主導アーバニズムから、創発的アーバニズムへ

8.1 東京で拡大する企業主導アーバニズム
8.2 企業主導アーバニズムの失敗の要因
8.3 均質化の口実としての安全
8.4 創発的アーバニズムvs.企業主導アーバニズム
8.5 創発的な都市づくりを実現するために

ホルヘ・アルマザン(Jorge Almazán)

建築家、慶應義塾大学准教授。博士(工学)。1977年生まれ。マドリード工科大学修士課程修了。東京工業大学博士課程修了。2009年より慶應義塾大学にて教鞭をとる。2011年から建築設計研究室「Studiolab」を主宰。ホルヘ・アルマザン・アーキテクツ代表。環境に配慮したインクルーシブな空間づくりに取り組む。地域再生のためのリノベーション設計で2018年度日本建築家協会優秀建築選、2019年度太田市景観賞大賞受賞。ソウル都市建築ビエンナーレ(2017、2019)にて東京に関する研究を展示発表。著書に『Emergent Tokyo: Designing the Spontaneous City』(ORO Editions、2021)。その他東京に関する研究論文を多数執筆。

1 東京に探る都市設計の創発的アプローチ

1.1 東京の魅力を構成する五つの都市パターン

東京が持つ最も優れた特性とは何だろうか? そして、そうした優れた特性を持つ都市を我々は設計することができるのだろうか? 筆者はこの問いを解くために、長年、調査と研究を重ね、本書を執筆している。「なぜ、どのように、東京という都市ができあがったのか」、手短に言うと、それを解き明かすことが本書の目的だ。
アーバンデザインは芸術と科学の融合である。時代が変われば、都市に関する新しい考え方が注目されるようになり、それまで主流だった考え方は廃れていく。その結果、若い都市計画家や建築家は、当たり前のように上の世代を驚愕させるような新しいアプローチを模索するようになった。たとえば、1950年代のモダニストの都市計画家や建築家は、都市はトップダウン方式で設計できると語っていた。しかし、そのやり方が行き詰まり、彼らの後継者たちは真逆の方向に転換し、都市の進化を市場の力に委ねることにした。市場主導型の開発によって、世界中の都市は不毛で排他的なものとなり、次世代の若い都市計画家や建築家はこれに反発して、再び別のアプローチをとり始めた。
これらの新たな価値観を持つ世代は、市場原理主義に幻滅してはいるが、かつてのモダニストのようなトップダウンの強引な手法も回避しようとしている。彼らの世代は世界各地の都市でグローバルな思考とローカルなコンテクストを結びつけ、不透明な官僚政治や企業の利害に流されることなく、市民のダイナミックなエネルギーを都市形成のツールとして活用している。この世代には公共政策に積極的にコミットしている者も多い。
そうした若い都市計画家や建築家にとっても、東京は魅了される都市の一つだろう。東京の都市としての素晴らしさは、インクルーシブで適応力に富む多様な都市空間にある。それは、大小さまざまな形で、市民の日常のごく小さな活動の集積によって形成され、その独特なパターンやエコシステムは、行政主導のマスタープランや企業の利潤優先の開発の限界を超えて、独自の発展を遂げてきた。
本書では、東京の魅力を形成する最も特徴的な五つの都市パターンとして、横丁[2章]、雑居ビル[3章]、高架下建築[4章]、暗渠ストリート[5章]、低層密集地域[6章]を考察する。詳しくは後述するが、これらのパターンは、市民によってボトムアップに構築され、親密さ、レジリエンス、ダイナミズムを備えた東京の核を形成している。

1.2 企業主導アーバニズムが招いた危機

しかし今、東京は劇的な変化を遂げようとしている。都心部では大々的な再開発が行われ、伝統的な街並みが壊されて、低層住宅地域が一変しつつある。東京というと一般的には超高層ビルが立ち並ぶ巨大都市のイメージがあるが、1980年代まで高層ビルは少なく、主に西側は新宿、東側は丸の内に集中していた。新しい開発は特定の地域にとどまらない。今後数十年のうちにそれらは転換点を迎えて、人口だけでなく、人々のライフスタイルも変化し、東京の活気ある現在の状況は、将来まったく異なるものになっていくかもしれない。
東京を超高層ビルで覆い尽くす一連のプロセスは1980年代から始まったが、2002年に都市再生特別措置法が制定されると、それは一気に加速した。日本の法制度は、長い間、個人の財産権を守ってきた。それは地域の社会的・経済的構造を維持するためだったが、同時に大規模再開発を妨げるものでもあった。しかし都市再生特別措置法は、特定の地域を従来の規制が一部適用除外される特別地区に指定することによって、従来の制度では認められなかった、民間のデベロッパーと自治体の個別の交渉を可能にした。これによって、それまで国が法律の下で握っていた巨大な権限が、大手デベロッパーに与えられることになった。汐留、品川、丸の内、六本木などの地域では、新しい超高層ビルによってスカイラインが形成され、渋谷などの主要駅周辺では、大規模開発によって急激に高密度化が進んでいる。
東京は常にダイナミックに変化し続けてきたが、現在のこうした再開発は世界中の都市で見られるものだ。筆者はそれを「企業主導アーバニズム」と名づけた。それらは基本的に、高級コンドミニアムやオフィスの超高層タワーが、低層部のショッピングモールのような商業施設の上に載るという建築タイプで構成される。こうした再開発プロジェクトは小綺麗だが無機質だ。そして、これらの再開発によって、東京の重要な特性(本書で取り上げる東京の多様な魅力)の多くが失われてしまった。

1.3 戦後の歴史から東京の未来を探る

本書では、東京の独自の歴史と現在の強みの両方の観点から、東京の未来について企業主導アーバニズムとは別の方向性を提示することを目指している。本書で紹介するアプローチは、今もなお東京の大部分に残り、東京らしさを形成する基盤を築いた、戦後まもない頃の東京の活力に倣い、それを活かそうとするものである。
第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けた首都を再建するために、日本政府は最初に包括的な復興計画を立てたが、それを実行するための予算が不足していた。そこで、行政や不動産会社、鉄道会社などが復興のための資金を出せない地域では、市民が自らなけなしの金をかき集め、皆の勇気と知恵を結集して、家や店を再建し、東京の復興を進めた。その過程で、東京の主要駅周辺では、小さな店がぎっしりと軒を連ねる闇市が次々と生まれた。これらの地域は最初から計画されたものではなく、自然発生的に出現したものであり、その無秩序で自発的な精神は、今も東京の裏通りで感じられる。
このような市民自身の手による復興は、切実な必要に迫られたものだったが、その結果生まれた近隣地域には、無数の小さな建物で構成されるきめ細かな都市構造を持ち、活力にあふれ、住みやすい親密なコミュニティが形成された。やがて、こうした市民による自発的な都市の進化は、より整然とした大規模な計画に取って代わられたが、戦後に生まれた近隣地域の特徴を積極的に変えようとはしなかった。こうして、東京はトップダウンの比較的緩い都市計画とボトムアップで自発的に生成された都市構造を併せ持つ都市となった。とはいえ、緩い都市計画にはさまざまな課題もつきまとう。戦後に市民によって自発的に生み出されたこれらの地域は、以前からオープンスペースやインフラの整備が遅れており、大規模な自然災害に対する備えが不十分だった。東京の良さを反映した都市の構築を目指すならば、こうした地域の特徴を理解することが、その出発点となる。
本書では、東京を単にさまざまな建築に付随する現象の集合体と見なしたり、安易な理論でこの都市の雑然とした現状を説明したりするのではなく、東京の複雑さの特徴を丁寧に解明することを目指している。東京には、「これはどのようにして生まれたのか?」という問いに簡単に答えられないような都市空間や建築がたくさんある。一つの建物を説明するのにも、歴史、経済、公共政策、文化などをめぐるトップダウン、そしてボトムアップのプロセスを考慮する必要がある。しかし、その複雑さこそが東京を形成している。

(中略)

1.6 都市を設計する創発的アプローチ

過去1世紀の間に、都市計画は克服できない課題に直面してきた。現代都市の混沌とした状況をコントロールすることがますます困難になるにつれて、モダニズムは効力を失った。ポストモダニストは、歴史的モデルを使って都市生活を再構築しようと試みたが、実質的には現代の社会的・経済的現実のうえに、無理やり過去の街並みのレイヤーを重ねただけの失敗に終わった。近年では、多くの都市計画家や建築家は、カオスとなった都市の現実を受け入れ、都市の未来について一貫したビジョンを描くことを放棄し、都市開発を批評(クリティーク)しコントロールしようとすることもせず、時にはコントロールできない状況を美化することさえあった。しかし、これらの「ポストクリティカル」なアプローチも、実際には、市場原理と商業デベロッパーへの過剰な依存によって埋められ、やはり失敗に終わった。1980年代以降のデベロッパーの台頭は、新自由主義の緊縮経済と企業の政治的影響力の増大への世界的な移行を反映しており、これによって社会的分断、公共空間の民営化、都市の均質化が加速した。またそれは、独立して事業を営む建築家などの職能にも影響を与えている。現在、東京の公共プロジェクトの業務のほとんどは、彼らに委託されることはない。たとえば戦後の復興期に見られたように、建築家や都市計画家が力を発揮した都市という舞台の変質とともに、彼らの役割も変わりつつある。
我々はどうしたらこの状況を乗り越えられるだろうか? 市場原理に委ねるのではなく、住民の共同プロジェクトとして都市を再生するには、どうしたらいいのだろうか? トップダウンによる計画ビジョンを回避しつつ、どのように「全体としての都市」の未来をボトムアップで描き、今より良い暮らしを実現できるだろうか?
本書では、こうした疑問に答えるために、ダイナミックで親密な魅力をヒューマンスケールで感じさせてくれる東京の都市構造の解説を通じて、都市を設計する新しいアプローチを提示したい。そのためには、建築や都市の領域を超えて、複雑系理論の学際的な領域、特に「創発」(英語でemergence)の概念にまで思考を広げる必要がある。創発とは、秩序や機能をボトムアップで自発的に創造することである。その典型的な例は、鳥の群れの行動だ。鳥の大群が飛んでいるとき、空気力学に基づいてフォーメーションを組んだり、天敵から身を守るために一斉に方向転換したりと、彼らの動きはしばしば驚くほどシンクロしている。これは、リーダーの鳥が不思議な動物的テレパシーで命令を伝達しているために起こるのではなく、個々の鳥が隣の鳥の動きに反応することによって、群れとしてのまとまった動きが「創発する」のだ。これらのミクロな相互作用の結果、その群れは個々の鳥の能力を超えた空気力学的・防衛的なスキルを持つマクロな存在となる。創発を通じて、全体はその部分の総和よりも大きくなる。
動物界で実際に起こることを、都市に応用することは可能だ。都市の公共空間や近隣地域は、物理的な空間と社会的なコンテクストの両方を同時に備えた「社会的・物質的な存在」である。近隣地域とは単なる物理的環境ではなく、そこに住む人々の集団でもない。まさに鳥の群れのように、近隣地域の全体としての特性は、その社会的・物質的な部分の相互作用から有機的に現れる。都市空間を創発的なエコシステムと見なすことで、どのようにして東京の多くの地域がこれほど強固で独特なアイデンティティを持つようになったのかを理解することができる。
本書で紹介する五つの都市パターンは、都市の「創発性」を理解するスタート地点として最適だろう。東京のある地域の独自の特徴を説明するには、建物、インフラ、地域の文化や慣習、法律など、多くの要因が複雑に絡みあうなかに深く分け入って考える必要がある。その複雑さを単純化したり抽象化したりせずに、そのまま受けとめ理解することで、そこから他の都市やコンテクストに応用可能なインスピレーションを得ることができる。
創発的なシステムでは、システムを構成する個々の要素が恒久的に消滅して均質な全体になる、といったことは起こらない。鳥の群れと同じように、近隣地域の個々の住民も、都市計画家や政策立案者を驚かせるような行動を必然的にとるだろう。創発的なシステムが機能している都市では、社会生活を営むうえで、1人1人が果たすべき面倒で複雑な役割が常に存在する。
筆者の考える東京の魅力は、中央集権の階層的権力によって強制されたアイデンティティではなく、ボトムアップの力強いアイデンティティを持っているところだ。人々や個々の建物が移り変わったとしても、この独自の特徴は受け継がれ、時とともに進化していくだろう。東京の都市構造は不滅ではないが、驚くべきレジリエンスがある。
東京の多くの街角には、自然災害、世界的な戦争、経済や政治の変化などを何世代にもわたって乗り越えてきた「場所の力」が今も残されている。それを理解することは、適応性と自発性を有する都市を設計するうえで大いに役立つだろう。

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試し読み公開!『東京の創発的アーバニズム 横丁・雑居ビル・高架下建築・暗渠ストリート・低層密集地域』『SDGs×公民連携 先進地域に学ぶ課題解決のデザイン』

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