マーケットでまちを変える

鈴木美央 著

内容紹介

全国で増えるマルシェ、ファーマーズマーケット、朝市…。閑散とした道路や公園、商店街を、人々で賑わう場所に変えるマーケットは、中心市街地活性化、地産地消、公民連携など、街の機能をアップさせる。東京&ロンドンで100例を調査し、自らマーケットを主催する著者が解説する、マーケットから始める新しい街の使い方。

体 裁 四六・240頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2681-8
発行日 2018/06/10
装 丁 藤田康平(Barber)

試し読み目次著者紹介はじめにおわりにレクチャー動画
計38ページ公開中!(はじめに、1章、6章)

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はじめに

1章 マーケットとは

マーケットは都市の始まり
マーケットとマルシェの違いは?
マーケットはイベントではない
小さい要素の集合がまちに与えるインパクト
仮設空間の継続運営から生まれるコミュニティ

2章 まちに根づいたロンドンのマーケット

ロンドンのマーケットの歴史と現在
Streetは道路だけじゃない
法律で定められているマーケットの運営
新たなトレンド、ファーマーズマーケットの拡大
地域のニーズに対応したマーケット

1 Ridley Road Market:住宅街の生活基盤型
2 Whitecross Street Market:オフィス街のランチ提供型
3 Whitechapel Market:コミュニティの居場所型
4 Chatsworth Road Market:中産階級の生活充実型
5 Colombia Road Flower Market:専門特化型
6 Portobello Road Market:観光資源型

ロンドン市の都市戦略にも位置づけられるマーケット

interview中村 航(建築家)
〈アジア×マーケット〉生産・流通・消費をつなぐ都市の結節点

3章 東京で始まった新しいスタイルのマーケット

マーケットは海外からの輸入じゃない
現代版マーケットが増えている理由
多様な個性が混在する東京のマーケット

1 青井兵和通り商店街の朝市:下町の商店街活性化型
2 Farmer’s Market@UNU:都市と農をつなぐ交流型
3 ヒルズマルシェ:再開発地のコミュニティ育成型

interview田中 巌(森ビル)×山﨑智文(アークヒルズ自治会会長)
〈再開発×マーケット〉コミュニティを育てる場づくり
interview脇坂真吏(農業プロデューサー)
〈農業支援×マーケット〉マーケットという新しい事業を設計する

4 小石川マルシェ:住民による地域密着型
5 nest marche:エリアを活性化する官民連携型

interview青木 純(nest)
〈地域×マーケット〉暮らしのデザインからパブリックのデザインへ

クリアしなくてはならない法規

4章 公共空間を活用するマーケット

東京のマーケットは、どこで、どのように開催されているか
東京とロンドンのマーケットの比較

interview山下裕子(広場ニスト)
〈広場×マーケット〉公共空間を活用するフック

5章 マーケットがまちに生みだす効果

マーケットが生みだす15の効果と、効果を引きだすアクション

1 生活の質の向上
2 多様な経済効果
3 環境にやさしい商業形態

成熟したロンドン、自由な東京
都市環境を改善する戦略としてのマーケット
interview園田 聡(ハートビートプラン)
〈プレイスメイキング×マーケット〉都市へのコミットメントを育む場

6章 マーケットをつくってみよう!

あなたもできるDIYマーケット

準備編
目的とコンセプトを考える
仲間を集める
場所を探す
収支を考える
出店者を集める
空間を設計する
食品を扱う
お客さんを呼ぶ
雨天時の対応を考える

当日編
準備する
開催する
片づける

後日編
マーケットを育てる

7章 シビックプライドを育むマーケット

おわりに

鈴木 美央(すずき・みお)

O+Architecture主宰。1983年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、渡英、設計事務所Foreign Office Architects ltdにて2006年より2011年まで勤務。

帰国後、慶應義塾大学理工学研究科勤務、2013年より同大学博士後期課程在籍、2017年博士号(工学)取得。
現在は建築設計、行政のアドバイザー、マーケットの企画・運営、公共空間の研究などを行う。

「マーケット」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか? 私は土曜日の朝、ふらりと立ち寄って、初めて出会う食材にわくわくしながら出店者と話をして、家に飾る花を買って、お腹が空いたら沿道のカフェで一休みする、豊かな週末の始まりを思い浮かべる。あるいは、平日のランチタイムになるとオフィスの近くにマーケットが並び、世界各国の料理を楽しむ風景。ロンドンに住んでいた頃は、こんな風に人々の暮らしにマーケットは欠かせないものだった。しかし、現在の日本ではこういった日常を思い浮かべる人はまだ少ないのではないだろうか。

本書は、「マーケットでまちを変える」という少し大胆なタイトルをつけた。生活者、研究者、実践者としてマーケットに関わってきた経験、建築家としてまちをつくってきた経験をふまえて、自信を持って言いたい。「マーケットでまちは変えられる」と。

歴史的に見ると、都市の始まりには必ずマーケットが存在した。世界中の都市にはそのまちの暮らしを支え、文化として根づいてきたマーケットが存在している。かつては日本でもマーケットは人々の日常と深く結びついていたが、戦後の法整備、モータリゼーションなど都市の近代化の過程で途絶えてしまった。これは非常に残念なことである。海外の人に、日本ではマーケットが身近にないことを伝えると、いつも驚かれるばかりか、哀れまれることも少なくない。

一方、近年は、食の安全、中心市街地の活性化、公共空間の活用、トップダウンからボトムアップへ、などといった、暮らしや都市を再生する社会的ニーズの高まりにより、マーケットがその解決策として注目を浴びている。成熟した日本のまちでは、これまでの行政や企業主導のトップダウンの手法ではなく、使い手主導のボトムアップの手法が求められるようになった。まちの魅力を発見することから始まり、それを編集し、発信し、共有する場として、マーケットはまさに新しいまちの使い方を実践する手法の一つである。

ここで強調したいのは、マーケットはきっかけであり、手段であることだ。マーケットで起こる、出会い、学び、喜びが、そこに住む人々の生活の質を高め、地域経済を活性化し、まちの魅力を増すことにつながる。マーケットにはマーケットでしか得ることのできない体験や役割があり、その集積が本書の5章で紹介するマーケットの効果である。そして、効果が集積することでマーケットの文化が形成されていく。さらにはまちへの愛着、誇りを高め、まちの担い手を増やすことにも貢献する。

現在、日本におけるマーケットは運営者、開催場所、目的、規模、その質ともに、実に多様であるが、マーケットに関わる人々がその価値と可能性を理解し、ツールとして使いこなしていくことで、日本中のまちをマーケットから変えていくことができるのではないだろうか。本書がその一助となれば嬉しい限りである。

鈴木美央

マーケットの研究を始めたきっかけは二つある。一つは建築家として大規模建築の設計を行うなかで、その可能性を感じるとともに、疑問も感じたこと。そしてもう一つは「日本のストリートは面白くない!」と悲しみを感じたことだった。

私は、2006年から5年間、フォーリン・オフィス・アーキテクト(Foreign Office Architectsltd.)というイギリスの設計事務所で働いていた。憧れの建築家のもとで、さまざまな挑戦を経験するなかで、次第に、建物を設計することでは解決できない課題(たとえば、途上国で高層ビルを建てる必要性、2008年のリーマンショックによる経済不況で多くのプロジェクトが放棄されたことなど)について考えるようになった。すべての人が幸せな日常を送るために建築ができることは何なのか。今まで携わっていたトップダウン型の大規模建築の設計とは正反対の、小さな要素の集合がまちに大きなインパクトを与えることはできないだろうか。それを探求するために、設計事務所を辞め、アカデミックな環境に戻ることにした。

また、ロンドンで、グラフィティ、パブ、マーケットなど、ストリートを舞台にさまざまな活動が起こる日常に身をおいたことも大きかった。ストリートでの活動は人々の偶発的な出会いを生み、単なる交通空間でなく、重層的な価値をまちにもたらしていた。ロンドンの文化を育む場として、人々の喜びや誇りとなっていた。一方、日本の道路はというと、交通以外の活動が行われることはほとんどなく、非常につまらなく、勿体ない状況のままだった。

こうした経緯から、小さな要素の集合であるマーケットが大規模建築以上にまちに大きなインパクトを与えるという仮説をたて、その可能性について研究し始めた。そして、研究や実践の中で新しい発見に出会うたびにワクワクし、それが確信に変わった。「マーケットはすごいツールだ!」と。

マーケットは、出店者や来場者が生きるために行う営みであり、1人1人のストーリーが隠れている。それこそがマーケットの魅力ではないだろうか。ロンドンでマーケットの魅力に出会って10年以上が経ち、自身が暮らすまちでマーケットを5回主催し、業務委託でマーケットの開催も行ってきたが、ますますマーケットに魅了されている。

建築家であった私がマーケットの研究者になり実践者になるために、本当に多くの方々に支援いただいた。研究者として必要なことを一から教えて下さり、一緒に研究を続けて下さった慶應義塾大学のホルヘ・アルマザン先生。大変な調査を一緒に楽しんでくれた杉山真帆様、原里絵香様、坂野友哉様。Yanasegawa Marketを一緒につくってくれた板倉恵子様、田中裕子様、川端奈緒子様。

本書を共につくって下さった学芸出版社の宮本裕美様。ほかにも、ご協力をいただいた多くの皆様に心より感謝を申し上げます。また、本書を手に取っていただいた、読者の皆様にも御礼申し上げます。本書が少しでも、皆様のお役に立つことを願っています。

2018年5月

鈴木美央

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