シェア空間の設計手法
内容紹介
個人の多様なつながりを可能にする計画手法
「シェア空間」を持つ49作品の図面集。住居やオフィス、公共建築等、全国の事例を立地別に分類、地域毎に異なるシェアの場の個性や公共性を見出すことを試みた。単一用途より複合用途、ゾーニングより混在と可変、部屋と廊下で区切らない居場所の連続による場の設計。人の多様な在り方とつながりを可能にする計画手法の提案
ログイン
序 脱用途別分類、地域ごとの個性で見るシェアの場 猪熊純
大都市 × 都心
KREI/ co-lab 西麻布コラボレーションシェアオフィス長岡勉+佐藤航/ POINT+コクヨ
FabCafe Tokyo デジタルものづくりカフェ成瀬・猪熊建築設計事務所+古市淑乃建築設計事務所
Arts Chiyoda アートセンター佐藤慎也+メジロスタジオ(現リライト_D)
SHIBAURA HOUSE 企画型コミュニティスペース妹島和世建築設計事務所
CASACO 地域開放型シェアハウスtomito architecture
THE SHARE シェア型複合施設リビタ
co-ba shibuya 会員制シェアードワークプレイスツクルバ
HAGISO 最小文化複合施設HAGI STUDIO
まちの保育園 小竹向原地域連携型保育園宇賀亮介建築設計事務所
SHARE yaraicho DIYシェアハウス篠原聡子+内村綾乃/空間研究所+A studio
kumagusuku アートホステルドットアーキテクツ
食堂付きアパートインキュベーション型賃貸住宅仲建築設計スタジオ
Interview|松本理寿輝/まちの保育園代表・ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役
─地域の居場所を併設し、まちぐるみの保育とまちづくりを実践する
大都市 × 郊外
ホシノタニ団地こどもたちの駅前広場 +リノベーション賃貸住宅ブルースタジオ
ヨコハマアパートメント広場付き木造賃貸アパート西田司+中川エリカ/オンデザイン
高島平の寄合所/居酒屋タイムシェア型店舗ツバメアーキテクツ
The University DINING 大学コミュニケーションカフェ工藤和美+堀場弘/シーラカンスK&H
武蔵野プレイス複合型文化交流施設kw hg アーキテクツ
LT 城西シェアハウス成瀬・猪熊建築設計事務所
柏の葉オープンイノベーション・ラボ(31VENTURES KOIL)
イノベーションセンター成瀬・猪熊建築設計事務所
中央線高架下プロジェクト地域連携型商業施設リライト_D
Interview|籾山真人/中央線高架下プロジェクト運営者・株式会社リライト代表取締役
─プロジェクトの前提から関われる体制をつくり、新しい地域の場を生み出す
地方都市 × 都心
えんぱーく複合型文化交流施設柳澤潤/コンテンポラリーズ
アオーレ長岡広場付き複合型市庁舎隈研吾建築都市設計事務所
太田市美術館・図書館複合型文化交流施設平田晃久建築設計事務所
せんだいメディアテーク複合型文化交流施設伊東豊雄建築設計事務所
タンガテーブルホステル+ダイニングレストランSPEAC
アーツ前橋まちなか美術館水谷俊博+水谷玲子/水谷俊博建築設計事務所
地方都市 × 郊外
Dragon Court Village アネックス付き賃貸住宅Eureka
地域ケア よしかわコミュニティスペース付き訪問介護事業所金野千恵/KONNO
Share 金沢複合型福祉タウン五井建築研究所
HELLO GARDEN 企画型オープンスペース(un)ARCHITECTS
Good Job ! Center KASHIBA 障害者インキュベーションアトリエ大西麻貴 百田有希/ o h
岩沼みんなの家企業協力型コミュニティスペース伊東豊雄建築設計事務所
高岡のゲストハウスゲストハウス併用住宅能作文徳+能作淳平/能作アーキテクツ
コクリエ地域貢献型シェアハウス井坂幸恵/ bews
サトヤマヴィレッジサトヤマ付き住宅団地都市デザインシステム+エス・コンセプト
武雄市図書館官民複合型地域図書館
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)+スタジオアキリ+佐藤総合計画
Interview|森下静香/社会福祉法人わたぼうしの会 Good Job! センター香芝センター長
─誰もが社会と関わり協働できる、ネットワーク拠点をつくる
超郊外・村落
鋸南町都市交流施設・道の駅保田小学校
廃校改修の道の駅N.A.S.A 設計共同体
馬木キャンプ町のコミュニティスペースドットアーキテクツ
古志古民家塾体験型宿泊施設江角アトリエ
隠岐國学習センター地域連携型教育拠点西田司+萬玉直子+後藤典子/オンデザイン
多古新町ハウス寺子屋付き総合デイケアセンターアトリエ・ワン
りくカフェコミュニティカフェ成瀬・猪熊建築設計事務所
島キッチンコミュニティレストラン安部良/ARCHITECTS ATELIER RYO ABE
えんがわオフィス地域開放型テレワークオフィス伊藤暁+須磨一清+坂東幸輔
KASHIMA SURF VILLA シェア別荘千葉学建築計画事務所
もやいの家瑞穂グループホーム+デイサービスセンター大建 met
波板地域交流センター小規模多機能コミュニティスペース雄勝スタジオ/日本大学
移動式
マイパブリック屋台移動式パブリックスペースツバメアーキテクツ
ホワイトリムジン屋台移動式パブリックスペース筑波大学貝島研究室+アトリエ・ワン
設計者プロフィール
あとがき 成瀬友梨
序 脱用途別分類、地域ごとの個性で見るシェアの場
この本は、タイトルが示す通り、「シェア」という場の状況を設計側からとらえ、その手法をできる限りあぶり出そうとしたものである。
これまで建築に近い分野では、三浦展の『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』(2011)や、私たちが編著者メンバーである『シェアをデザインする』(2013)をはじめとして、シェアを社会現象として捉える書籍が先行していた。建築は社会がつくりだすものと考えれば、黎明期の出版物としては当然かもしれない。ただ、それから数年が経った今では、シェア的な場を成立させている空間は、現実のプロジェクトとして次々に生まれつつある。こうした状況を受け、本書ではより実践的な側面に焦点をしぼり、各々のプロジェクトにおける具体的な手法やアイディアをできる限り顕在知化する書籍をめざした。結果、多様なプログラムと事業スキームを支える優れた設計のあり方が見えてきた。
具体的なプロジェクトを選定するにあたり最も大きな問題は、本書において「シェアとは何か」、あるいは「シェアがつくり出す価値は何か」ということだ。家族は家をシェアしているし、企業もオフィスをシェアしているし、公共も施設やインフラをシェアしている。極端に言ってしまえば何でもシェアになりかねない。ただこれら従来の事例に共通するのは、近代社会において、それまで自然と成り立っていたコミュニティに代わって戦後急激に発達し、単純化されたシェアだということだ。
戦後の日本は、疲弊した国土を復興するために都市に産業を集積させ、環境の良い郊外に住居を開発し、それを放射状の鉄道網で結んだ。地縁や血縁を断ち切り、新しい環境で自分の意志で生活したいという国民の夢に応えたこの政策は、親類間の独立性が高まる核家族を生み出した。視点を変えれば、家族を最小単位にしたことは住宅の着工件数を最大化し、都心と郊外を鉄道でつなぐことは交通の利用機会を増やすという、私鉄やディベロッパーの投資が加速する仕組みとも言える。地域ぐるみで行われていた冠婚葬祭は衰退し、核家族の居場所は図書館やホールといった公共施設と、ショッピングモールのような民間施設に回収された。生産の場としての都市、消費の場としての郊外、それを支える施設とインフラという構造は、すべて成長を前提とした社会の部品のようなものであった。
しかし今日、人口減少やグローバル化によって、国全体が成長し続けることを前提とした理想の型は崩れつつある。人口が増えない自治体は公共施設やインフラを維持する税収が不足し、景気や人材流動によって終身雇用を保障できなくなった企業は、コミュニティとしての側面が弱くなった。住宅は平均世帯人数3人を下回り、核家族が必ずしも基本型ではなくなりつつある。今私たちの社会は、最小単位である個人に還元されつつある。
私たちの扱うのは、こうした社会の状況を解決したり、そこから新たな価値をつくり出すようなシェアである。地縁や血縁のようなコミュニティではなく、核家族や企業といった近代的な組織単位でもなく、個人に還元された社会に、新たに多様なつながりを生み出すためのシェアである。
今回掲載した事例は、一見すると住まいであったり、働く場所であったり、カフェであったり、宿泊施設であったり、図書館であったり、福祉施設であったり、何の一貫性もない。しかしこれらの建築は共通して、高度成長期に生まれたステレオタイプ的な施設イメージを刷新し、これまでになかった活動・関係・つながりを生みだしている。こうした成果はもちろん、日々クリエイティブに活動している運営者が欠かせないことも多い。しかしもう一つ忘れてはならないのが、これを可能にする設計だ。大きな配置・構成から平面・断面の計画、家具・仕上・照明の微妙なチューニングにより、そこで可能になる活動の幅は全く変わってしまう。私たちが本書でクローズアップしたいのはこちらの側面だ。
なかでも全ての事例に共通する大きな要素の一つに、機能の複合・融合化が挙げられる。近代のビルディングタイプは基本的には一建物=単一用途であった。オフィス=働くところ、図書館=本を読むところといった組み合わせである。それに対して今回の事例は、これまで出会うことのなかった人たちの接触機会を増やすために、複数の機能が重ね合わされている。家族でない人と同居できたり、カフェで子供の面倒を見てもらえたり、働く場所で様々な人々が交流できたりといった具合だ。私たちはこのことに注目し、分類をビルディングタイプ別にすることを避けた。代わりに大都市×都心、大都市×郊外、地方都市×都心、地方都市×郊外、超郊外・村落という地域による分類を行い、同じ分類のなかに様々な規模や用途の建築が混在する形式をとった。地域ごとの人口の量や密度、経済的な状況によって、成り立ちやすく相性のよいシェアの形にある程度類似性が見出せるのではないかという仮説からである。
実際に、大都市では民間を中心に様々な試みが成されており、公共のものはほとんどない。掲載に至らなかったが候補に上がった施設も、同様であった。経済的に余裕があり人材も豊富な大都市の特性が現れていると言える。一方で地方都市×都心は、公共施設の取り組みが先行しているように見える。本書は設計的な側面に注目しているため、地域をつなぐ役割を担っている素晴らしい施設を、あえて掲載しなかった事例もあるが、公共の担う役割は多いように思う。経済的な側面を考慮すると、今後は大きな公共施設は難しくなる側面もあるだろうが、PPPなどを利用して維持することが想像できる。予想以上に多様な事例が集まったのは超郊外・村落だ。道の駅・コミュニティカフェ・福祉施設・サテライトオフィス・別荘など、様々な用途のスペースが成立している。一見バラバラなこれらの用途にはしかし、都市部からの一時的な人口移動によって成立するものが多いことは興味深い。結果としてこのまとめ方は地域の特性をあぶり出し、新しく企画や設計を行う設計者が、表面的な主用途の違いを超えて、とりくむ地域ごとに参考事例を検索することを可能にした。
用途別分類を外した代わりに、各プロジェクトのページには、造語も含めた施設用途をオリジナルに記載すると共に、可能となっている活動をタグでわかりやすく表記した。どんなに小さな施設でも、一建物=単一機能とは全く逆の、多用途の複合建築であることがよくわかる。このことは、計画的な観点から見れば、設計資料集成に代表されるような近代的な建築計画の刷新といえる。単一用途より複合用途、ゾーニングより混在と可変、部屋と廊下より居場所の連続。社会が大きく転換するタイミングには、建築もまた変わる必要がある。本書はこのことを設計図書をもって具体的に示したメッセージなのだ。
建築は大きな投資がなければ建てることはできず、建ってしまえばそう簡単には変えることはできない。時代の変化に対して、最もゆっくり反応することしかできない一方で、つくった空間は使われている限り影響し続ける。人口が減り、建築の着工件数は減る時代となったが、だからこそ、これから建てる建築は時代に即したものを大切につくる必要がある。そんな今だからこそ、この本が少しでも多くの設計者や学生、事業者に参照され、丁寧で豊かな場づくりが増えてゆくことを願っている。
2016年11月 猪熊純
始まりは2015年4月、学芸出版社の井口夏実さんからの「シェア空間の設計や設計手法を示した本を一緒につくれないか」、という1通のメールだった。新しい場づくりに対して、企画や運営といったソフトへの注目は高まる一方、ハードへの期待はどうだろう。設計の果たす役割を表明するには絶好の機会ではないか、という想いもあり、迷わず快諾の返事をした。
公共施設に行って、どうしようもなく居心地の悪いカフェでいたたまれない気持ちになった、という経験があるのは私だけではないだろう。プログラムの組み合わせは悪くないのに、設計が悪い、という典型的な例だ。あるいは、大学の設計課題で、パブリックな場に対して自由にプログラム提案を求めると、カフェ、ギャラリー、図書館などが同じ建築の中に配置されているものの、それは配置に過ぎず、それぞれの場がどうつながるべきなのか、補完し合うべきなのかという検討までできている学生は滅多にいない。そもそもプログラムの種類も貧困だ。先行事例をもっと知ることができたら、状況は変わらないだろうか。本書はそんな時に最適だ。様々なプログラム、事業スキーム、それを支える優れた設計を同時に見ることができる。そういう意味で、建築を学ぶ学生、設計者の方、そして事業者の方に是非活用していただきたいと思っている。
事例を通してみると、どの事例も複数の用途が複合し、多くの場合スペースの重ね使いが発生している。時間や使い方によって場の雰囲気がダイナミックに変化していく様子が想像できる。また、屋台はもちろんのこと、縁側、外キッチン、土間、畑などを介して、屋外空間に活動が展開する事例も多く見られる。ここに集めた事例は、どれも着飾って出かける場所というよりは、普段着で入りやすく、活動が変化に富み、そのときの気分によって過ごし方が選べるような、何度も通いたくなる日常の延長にある。そこで展開する日常を少しバージョンアップするような取り組みが、個人と個人をつなぎ、地域を活き活きとさせるのだと思う。
事例の大多数が2010年以降にできた場だった。これらの取り組みが描く未来にどれくらいの強度があるのか、現時点ではわからない。5年後、10年後にこれらの場所がどうなっていくのか、見続けることで明らかになるだろう。多くのトライアルの先に、よりよい未来が待っていると信じている。
私自身、一設計者として、これまでのプロジェクトを思い返すと、FabCafeTokyo(2012年・第1期、2015年・第2期)と柏の葉オープンイノベーション・ラボ(31VENTURES KOIL)(2014年)での経験は大きい。デジタルものづくりカフェやイノベーションセンターの先行事例がないなか、運営方法も柔らかい状態から議論に加わり、必要な機能や各用途の面積、即ち設計条件すら一緒に決めて行った。打ち合わせの準備は毎回必死で、思うように進まない時もあった。当時に比べれば、現在はプロジェクトに関わる人たちの意見やイメージを聞き出し、デザインに結びつけて行くプロセスをだいぶ整理できるようになった。プロジェクトの規模によっては、模型や設計図による打ち合わせの前に、目標を見極め、条件整理をする期間を1~2ヶ月取ることもある。議論を見えやすくするための簡単なツールをオリジナルでつくることすらある。遠回りに見えるが、いざ設計を始めるとスケジュール通りに進むのは、関係者のあいだで目指すべきところが共有されていることで、大胆な提案も冷静に受け止めて判断することができるからだと思う。クライアントに迎合するのでもなく、設計者が勝手に走るのでもなく、その間で一番よい答えにたどり着く方法を常に模索している。
本の制作にあたり、設計者のみなさんには、通常のお仕事で大変お忙しいなか、私たちの無理なお願いに快く応じていただき、本当に感謝しています。みなさんのご協力なしにはつくり得なかった書籍です。
図面の他に3本のインタビューを収録しています。快くインタビューに応じてくださった松本理寿輝さん、籾山真人さん、森下静香さんにも、心より感謝いたします。そして、事例選定に始まり、何度も議論を重ねながら一緒に本をつくり上げてくれた、ツバメアーキテクツの山道君、千葉君、石榑君、西川さん、野村不動産の藤田君、山野辺君、中里さん、弊社スタッフの岡君、そして学芸出版社の井口夏実さんに、心から感謝しています。
本当にありがとうございました。
2016年11月 成瀬友梨