保育園・幼稚園・こども園の設計手法

仲綾子・藤田大輔 編著

内容紹介

現代の保育施設の設計に必要な基礎知識を厳選事例とともに学ぶ最新の手引書。(1)近年の社会背景・制度(2)補助金申請を含む設計業務の流れを押さえ、(3)配置&各室計画・園庭・温熱・照明・家具・各種寸法など各論を解説。郊外/都心部の立地別、新築/改修/増改築等、異なる条件に応えた12事例から多様な設計プロセスを学べる

体 裁 A4変・144頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3246-8
発行日 2019/07/10
装 丁 赤井佑輔(paragram)


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まえがき

1章 設計に関わる保育の基本

1 保育園・幼稚園・こども園をめぐる社会背景(仲綾子)

2 各種基準(仲綾子)

3 保育の現場と設計1──多様な保育方針(稲葉直樹)

4 保育の現場と設計2──子どもたちの1日の過ごし方(藤田大輔)

5 保育の現場と設計3──遊びの展開(藤田大輔)

6 保育の現場と設計4──乳幼児の身体寸法(松本麻里)

7 保育環境研究者の視点──豊かな遊びが広がる環境とは(高山静子)

2章 建築計画の基本

1 設計業務の流れ(安藤武司+藤田大輔)

2 立地に応じた敷地外の保育環境(小池孝子+江川紀美子)

3 配置計画(西本雅人)

4 保育活動と保育室の計画(山田あすか)

5 各室空間計画(藤田大輔+仲綾子)

6 コーナー計画(山田恵美)

7 園庭の計画(中津秀之)

8 遊具の計画(安中圭三)

9 音環境の計画(上野佳奈子)

10 温熱環境の計画(青木哲)

11 照明計画(角舘まさひで)

12 サイン計画(軍司匡寛)

13 家具計画(小山賢哉)

3章 設計事例──立地・条件別

郊外

みどりの保育園──異年齢コミュニケーションを叶えるプランニング(石原健也+デネフェス計画研究所)

富士文化幼稚園──軒下空間に繰り広げられる無数の活動(手塚建築研究所)

育良保育園──段丘地形を模した、居場所を開拓する保育園(松島潤平建築設計事務所+桂建築設計事務所)

本宮のもり幼保園──園舎・園庭をまわり巡る平面構成(谷重義行建築像景)

狭山ひかり幼稚園──多様な教室をもち、全体が遊び場になる園舎(アタカケンタロウ建築計画事務所)

〈増設〉

認定こども園さざなみの森──時代に合わせて変化を続ける、里山の環境と一体になったこども園(竹原義二/無有建築工房)

〈改修・増築〉

ささべ認定こども園──0~2歳が移動しながら過ごせる保育環境(atelier-fos一級建築士事務所+福井工業大学 藤田大輔研究室)

〈移転〉

川和保育園──既存園の構成を踏襲しつつ新たな豊かさを生み出す(井出敦史+加藤克彦/sum design + テンジンスタジオ)

市街地/都心部

小梅保育園──垂直に重ねた保育室にはテラスから風と光が入ってくる(象設計集団)

まちの保育園六本木──本園と分園に分かれた都心ビル内の保育環境(Interstudio+ミライズ)

レイモンド元住吉保育園──都会の中でのびのび走り回る子どもたち(バハティ一級建築士事務所)

〈コンバージョン〉

グローバルキッズ飯田橋園・認定こども園(石嶋設計室+のみぞ計画室)
─用途変更を経て様々な遊び場がつくりだされた屋内空間
─ビルインのハードルを越え、子育て世代の地域拠点へ

付録:3章掲載事例一覧

あとがき

設計者プロフィール

編著者

仲 綾子(なか あやこ)

東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科准教授。専門はこども環境、建築計画、建築設計。1993年京都大学工学部建築学科卒業、2002年東京工業大学大学院(仙田満研究室)修了。博士(工学)。環境デザイン研究所、厚生労働省を経て現職。こども環境学会代議員、日本建築学会子ども教育支援建築会議子ども教育事業部会長。共著書に『こどもとおとなの空間デザイン』(産学社、2018)『楽々建築・楽々都市 “すまい・まち・地球”自分との関係を見つけるワークショップ』(技報堂出版、2011)

藤田 大輔(ふじた だいすけ)

福井工業大学環境情報学部デザイン学科准教授。専門は子どもの遊び・生活環境のあり方、就学前施設(保育園・幼稚園・認定こども園)の建築設計。1997年東海大学工学部建築学科卒業。1999年同大学院修了。博士(工学)。岐阜工業高等専門学校准教授を経て現職。共著書に『設計に活かす建築計画』(学芸出版社、 2010)『こどもの環境づくり事典』(青弓社、2014)『保育施設 (建築設計テキスト)』(彰国社、2017)

本書は、保育園・幼稚園・こども園の設計に携わる方々を対象として、建築計画を解説したうえで、優れた設計事例を提示するものである。特に、これまであまりこれらの施設を設計した経験がない方にも有用な知見をわかりやすく伝えることを心がけた。

従来、保育園や幼稚園の設計は、専門性が高いものとして、この分野に造詣が深く、経験を積んだ設計者が手がけることが少なくなかった。現在もそのような傾向はみられるものの、子どもの施設の設計経験がない設計者や、設計経験そのものが少ない若手設計者が保育園・幼稚園・こども園を設計する機会が増えつつある。このような設計者にとって、基本事項をまとめた資料として手元において参照していただける書籍を目指した。

少子化や核家族化が進み、働き方が多様化するなかで、保育園・幼稚園・こども園をとりまく制度や状況は、近年大きく変化し続けている。これらの施設はそれぞれ管轄が異なるため、なおさら全体像を把握しにくい。だからこそ、本書では設計にあたり最低限必要と思われる法的整備の要点や施設整備の現状を整理し、提示するよう努めた。また、保育園・幼稚園・こども園に関する研究は、都市計画、建築計画、環境計画等の各分野において優れた成果が蓄積されているが、これらの知見を個々の論文や記事等から取り集めて設計に反映することは、現実的には難しい。そこで、広範な分野の専門的な知見を一冊の書籍で総覧できるようとりまとめた。

このような方針に従って、本書は以下の構成で編まれている。

第1章「設計に関わる保育の基本」では、社会背景や各種基準を整理したうえで、設計の前提として理解しておきたいさまざまな保育方針のあり方、園での生活、園児の身体寸法といった基本的事項を説明している。さらに、具体的な建築計画の解説へ進む前に、保育学の視点からみると、どのような環境が望ましいとされるか、保育環境研究者から具体的に指摘していただいている。

第2章「建築計画の基本」では、設計業務の流れを押さえたうえで、立地、配置、保育空間、各室空間、コーナー、園庭、遊具、音環境、温熱環境、照明、サイン、家具の各計画を解説している。それぞれの分野の第一人者が、研究成果や実務経験にもとづき、基本的な考え方を示したうえで、写真や図、実例を用いて設計実務に役立つ手法を提示している。

第3章「設計事例」では、12の事例を立地(郊外/都心部)と条件(新築/改修/増築/増設/移転/コンバージョン)に着目してとりあげた。これらは、園の種別(保育園/幼稚園/こども園)が大きく偏らないよう配慮して選定している。立地と条件に着目する理由は以下のとおりである。

自然との関わりや身体を動かす機会が園児にとって重要であることは自明だが、必ずしもすべての園が豊かな自然環境や広大な敷地に立地しているわけではない。特に、都心部においては、ビル内に設けられた園をしばしば見かける。一見、保育環境としては厳しいが、限られた条件のなかで試行錯誤し、置かれた状況で園児ができる限り自然に親しみ、身体を動かすことができるような、意欲的な設計と取組みがみられた。理想と現実のあいだで奮闘するこうした試みは、今後の保育園・幼稚園・こども園のデザインを考えるうえで示唆に富む事例となるだろう。

また、法制度の改正や社会の要請に対応するため、改修等を行う保育園・幼稚園・こども園も少なくない。古い園舎で紡がれた物語を新しい園舎でさらに展開していく試みは、スクラップアンドビルドから脱却し、持続可能な社会を目指す現代において学ぶべき点が多い。このような観点から、豊かな自然環境に立地する施設や新築の施設だけでなく、都心部に立地する施設や改修、増築、移転、コンバージョンを行う施設もまた、学ぶべき点が多い優れた先進事例として本書に掲載している。

12の事例を訪れたとき、園児がのびのびと園舎や園庭を駆け回る姿や小さな空間にひとり静かに佇む姿に惹きつけられ、時を忘れて見入ってしまった。このような生き生きとした園児の姿は偶然生まれたものではない。それは図面を読み解くと理解できる。例えば、園児の好奇心を刺激して行動を促すように立体的な回遊動線を計画していたり、晴天時はもちろん、雨天時や炎天下でも外遊びができる軒下空間を設けていたり、園児の遊びが屋内で完結せず屋外にも展開しやすいようにテラスを設置していたり、活動の特性に合わせてふさわしい空間を選べるように変化に富んだ天井高を設定していたり、園児の身体寸法にぴったりと合うような段差を設けていたり、枚挙にいとまない。さらに、安全性に十分配慮した建具の納まりや、柔らかくあたたかい素材を用いた家具など、すみずみまで丁寧に考えて設計されていることがわかる。これらの事例はどれも保育方針と基本的な計画手法を踏まえつつ、既成の枠組みにとらわれずに新たな可能性を拓いているものばかりだ。今後の保育園・幼稚園・こども園のデザインに大きな示唆を与えるものとして、ぜひ参照していただきたい。

なお、本書では、原則的に保育園・幼稚園・こども園という用語を採用している。法的には、保育園は「保育所」、こども園は「認定こども園」と表記すべきだが、ここでは伝わりやすさを重視し、一般的な呼び名を用いることとした。但し、法令に関連して言及する際には正式な名称を使用している。

企画当初は、本書を保育園・幼稚園・こども園の設計に関する入門書と位置づけていたが、最終的には初学者だけでなく、すでに豊富な設計経験がある方にも新たな気づきや学びのある内容となったといえるだろう。ひとえに、執筆者一人ひとりが研究成果や実務経験に基づき、最先端の知見や知恵を惜しみなく開示してくださったからにほかならない。執筆者のみなさまに改めて謝意を表したい。また、学芸出版社の井口夏実さんなくして本書は生まれなかった。中井希衣子さんには丁寧な確認作業をしていただいた。記して敬意を表したい。

最後に、本書のために保育環境に関するデータを収集・分析し、保育園・幼稚園・こども園を訪れ、執筆者から届く原稿や図面を読み解き、構成を練り直して検討を重ねることは、このうえなく幸せな仕事だったと感謝を込めて記しておきたい。言うまでもなく、すばらしい建築空間を体験し、示唆に富む知見に学ぶことは喜びにつながるが、未来をつくる仕事に携わっているという実感によるところが大きい。この喜びを読者の方々と共有できることを願っている。

2019年7月
仲 綾子

本書は、保育園・幼稚園・こども園の設計手法について、実務者、設計者、研究者の英知が結集されている。ここではその一端を抜き出してみる(網羅的ではなく私個人の独断と偏見であることはご容赦ください)。

「遊び環境を考える際は、ある遊びに特化したコーナー(専用コーナー)、多目的なコーナー(テーブル・イス、狭いスペース、広いスペース、高低差・段差)が網羅できているかチェックしながら計画すると良い」
[1-05 遊びの展開(p.15)]


「子どもが創造的に遊びを広げることができる環境のポイントには、①応答性が高い、②挑戦できる、③多様性がある、④想像や創造がしやすい、⑤適度な刺激量(色・音・臭い等)の5つがある」
[1-07 豊かな遊びが広がる環境とは(p.17)]


「園舎と敷地外の空間を繋ぎ、専有的に利用できる中間的な領域を確保する」
[2-02 立地に応じた敷地外の保育環境(p.22)]


「衛生的にも、個々の生活リズムを尊重する観点からも、『食べる』と『寝る』場所は、別々に設けられていることが望ましい」
[2-04 保育活動と保育空間の計画(p.27)]


「特に3歳児以上の子どもは活発に動き回れるため、コーナーが広すぎると遊びと関係のない通過動線・回遊動線が入り込む余地が生まれる。こうした動線が生じると、コーナーの空間的な独立性の意味は半減してしまう。空間単位の目安としては、畳2畳分あれば十分である」
[2-06 コーナー計画(p.30)]


「園庭で遊ぶ最年少の子どもたちの遊びは、常に『ひとり』で『好きな場所』で『好きな時間』に『好きなだけ』、環境に働きかけようとする。そのための空間が園庭に求められている」
[2-07 園庭の計画(p.31)]


「遊具は『イメージを限定しない事』『遊び方を限定しない事』そして『遊具単体で完結しない事』が重要である」
[2-08 遊具の計画(p.33)]


「室内騒音として、一般的な保育室や遊戯室では40db、午睡を行う室では35dbが推奨される。また室の響きは、125m3程度の保育室では残響時間0.4秒(平均吸音率0.25)という短めの響きが推奨される」
[2-09 音環境の計画(p.35)]


「天井が高く、上下温度差が生じやすい空間では、保育者と床面に近い園児とでは感じ方が異なる可能性があることに注意したい。なお、床暖房の設置は冬季に上下温度分布を小さくするのに有効である」
[2-10 温熱環境の計画(p.36)]


「保育室の家具に求められる形は園ごとに違う。設計にあたっては、その運営方法を綿密に打合せ、個々の園にあった提案をすることが大切である」
[2-13 家具計画(p.39)]


「庇のついた懐の深い大きな屋根は、その下に陰影があり、風が吹き抜け、自然の気配が流れる〈うち-そと〉の曖昧な空間を創り出す」
[本宮のもり幼保園(p.69)]


「教室もやっぱり欲しいという声もあり、『全体が遊び場でありながら、個別の教室としても機能する』という一見矛盾するような構成を考えることになった」
[狭山ひかり幼稚園(p.75)]


「保育棟は前面道路からの奥行き感や独立性を保つために床高さを前面道路から1mに設定し、盛り土した地面と縁側スラブの縁を切るために片持ちスラブとした」
[ささべ認定こども園(p.96)]


「園から強く求められたのは、園庭への日照(西日)確保、既存園の動線の踏襲、メンテナンスの容易性であった」
[川和保育園(p.100)]


「当初、ビル側の想定用途に保育園はなかったため、ビルの本体工事が先行する中で、スケジュール内での用途変更に伴う様々な変更事項、工事区分への対応に苦労した」
[まちの保育園 六本木(p.121)]


「敷地が非常に狭いため屋外階段を日常的に使うという選択を行い、同時に多層化する保育室からの避難の問題について、積極的に検討を行った」
[レイモンド元住吉保育園(p.125)]


「既存ビルが、建築基準法、消防法、バリアフリー条例、保育所の設置基準等の関係法令に適合するか見極めるとともに、排水・ダクトルート等設備経路の確認をした上で設計を開始」
[グローバルキッズ飯田橋園・こども園(p.137)]

このように、保育施設に対するあり方論、具体的な数値、設計実務における葛藤、施設規模・タイプに応じて配慮すべき点など、第一線の実務者、研究者、設計者が保育園・幼稚園・こども園の設計手法について論じていることが本書の特長である。また、今日的に需要が高い都市型の園から、郊外の園庭が豊かな園まで幅広い事例を掲載している。設計時はスケジュールがタイトな中、様々なことで迷い、頭を悩ませ、保育者の思いを形にするために奮闘することと思う。知りたい内容について本書を逆引き的に活用していただき、少しでも良い保育園・幼稚園・こども園の実現に役立てていただければ幸いである。

2019年7月
藤田大輔

初版第1刷 正誤情報

正誤表

本書において上記の誤りがございました。深くお詫びいたしますとともに、ここに訂正させていただきます。

2019年6月

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