図解 パブリックスペースのつくり方

忽那裕樹 ・平賀達也・熊谷玄・長濱伸貴・篠沢健太 編著

内容紹介

図面・写真でわかる屋外パブリックスペース

公園、水辺、駅前広場などのパブリックスペース。場づくりの仕組みParkPFIなどを活かしつつ、施主や関係者の理想を丁寧に形にしている先行事例をもとに、設計プロセス、ディテール、さらに竣工後の関わり方まで解説。平面・断面・詳細図や写真と豊富な図解資料の隅々から伝わる、徹底的な設計の工夫。

体 裁 B5横・144頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3269-7
発行日 2021/02/10
装 丁 赤井佑輔、清野萌奈(paragram)


紙面見本目次著者紹介まえがきレクチャー動画イベントイベントレポートご感想著者コメント

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  • まえがき

1章 公園

南池袋公園|ランドスケープ・プラス

持続可能な公園経営の実現 ─組織・空間の地続きなデザイン

草津川跡地公園(区間5)|E-DESIGN

市民活動の舞台を設える ─大勢を巻き込み主体を育てる設計プロセス

2章 駅前

虎渓用水広場|オンサイト計画設計事務所

駅前に居場所をつくる ─歴史的水路を活かした水と緑の風景

あさひかわ北彩都ガーデン|高野ランドスケーププランニング

駅前のアクティビティを豊かにする ─地域で育むガーデン空間

3章 商業

なんばパークス(2期)|E-DESIGN

都市的な居心地の良さをつくる ─多様な使われ方をかなえる小さなプログラム

とおり町Street Garden|前田圭介/UID

持続可能な商店街を目指して ─日光も風雨も感じるアーケード

4章 宅地

左近山団地 みんなのにわ|STGK Inc.

パブリックスペースのアップデートから始める団地再生 ─多世代がともに過ごせる場の仕掛けづくり

パッシブタウン黒部|設計組織PLACEMEDIA

自然環境の価値を最大限活かす ─扇状地の豊かな水資源利用

石巻・川の上プロジェクト(1期・2期)|スタジオテラ

住民が手を加え育む風景をつくる ─場づくりのプロセス・技術のシェア

5章 街路

黒川温泉|德永哲

観光と生活環境の関わりを深める ─自治による小さな整備の連鎖

女川町海岸広場・レンガみち|小野寺康都市設計事務所

早期復興と空間の質を両立させる ─海へつながるシンボル軸と震災遺構の保存

6章 水辺

柏の葉アクアテラス|金香昌治/日建設計

見るだけの池から触れ合える水辺へ─水を楽しむ様々な滞留空間

トコトコダンダン|岩瀬諒子設計事務所

堤防のリノベーション ─ルールの読み替えによる環境の再編

アザメの瀬|島谷幸宏

自然再生で生き物と人をつなぐ ─学の参画による長期的なコミットメント

 

  • 施設概要
  • コラム  ─設計者が思う、居られるパブリックスペース|村田周一(高野ランドスケーププランニング)
  • 付録  ─ストリートファニチャーとサイン
  • コラム  ─人のアクティビティ中心のプレイスづくり|泉山塁威(日本大学理工学部建築学科)
  • 編著者座談会  ─パブリックスペースのデザインに求められるスキルとコミュニケーション
  • 設計者略歴
  • 編著者略歴

忽那 裕樹

1966年大阪府生まれ。ランドスケープデザイナー、まちづくりプロデューサー。
株式会社E-DESIGN 代表取締役、国土交通省ミズベリング・プロジェクト諮問委員、大阪市立大学客員教授、大阪府立江之子島文化芸術創造センター プロデューサー、一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟副会長。
公園、広場、道路、河川の景観・環境デザイン、およびその空間の使いこなし、さらには、その持続的マネジメント・しくみづくりを同時に企画・実施することで、新しい公共を実現し、魅力的なパブリックスペースを創出している

平賀 達也

1969年徳島県生まれ。株式会社ランドスケープ・プラス代表取締役、一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟副会長、2025大阪・関西万博日本館コンセプト策定委員。
1993年米国ウェストヴァージニア大学ランドスケープアーキテクチャー学科卒業後、日建設計ランドスケープ設計室の勤務を経て、2008年ランドスケープ・プラス設立。南池袋公園で日本造園学会賞、としまエコミューゼタウンで日本都市計画学会賞を受賞。東京を拠点に、都市の中で自然とのつながりを感じられる空間づくりや仕組みづくりを実践している

熊谷 玄

1973年横浜生まれ。STGKinc代表。ランドスケープデザイナー。
現代美術作家 崔在銀のアシスタント、earthscapeを経て2009年より現職。都市の大規模再開発から地方や郊外の再生計画まで人の暮らす風景をデザインしている。千葉大学、愛知県立芸術大学、東京電機大学非常勤講師。現在、一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟理事/同事業セミナー委員

長濱 伸貴

1967年大阪市生まれ。株式会社E-DESIGN代表取締役、神戸芸術工科大学環境デザイン学科教授。
千葉大学園芸学部造園学科卒業、神戸芸術工科大学大学院修士課程修了。広場や庭園などの外部空間を対象とした設計活動や大学での実践的研究・教育など幅広く活動を展開。代表的なランドスケープ作品は「なんばパークス2期」「難波再開発C街区」「釜石祈りのパーク」「瑞華院納骨堂・了聞」など

篠沢 健太

1967年横浜市生まれ。工学院大学建築学部まちづくり学科教授、博士(農学)、一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟副会長。
東京大学農学部緑地学研究室卒。専門は、「団地」の開発計画、河川堤外地のランドスケープ計画、生態学の知見を応用したランドスケーププランニング、デザイン等。著書は『復興の風景像』(マルモ出版、2012、共著)、『団地図解』(学芸出版社、2017、吉永健一と共著/2018年造園学会賞受賞)。「福島アトラス01~03」(共同制作)で2018 年グッドデザイン賞100受賞

─受動から能動の場へ

本書がとりあげる14の事例は、今の時代における屋外パブリックスペースの新たなあり方を問いかける。

一般に「私的private」な空間以外をパブリックスペースと認識するが、その多くは、なんとなく暗黙の合意のうちに「公共」が準備してくれると考えられていた「受動」のパブリックスペースとも言える。いわゆる「公共空間」と認識されることも多い。これに対して、本書の14事例は新たなパブリック性を共有し直し、市民自らが軽やかに使いこなし、使いまわして、形づくっている「能動」のパブリックスペースである。

これらのパブリックスペースの背景にある、紆余曲折の設計プロセス・考え込まれたディテール・竣工後の関わり方を、設計に関わる人々に紐解いてもらうことが本書の目的である。そのデザインはパブリックスペースならではの使われ方が想定され、訪れた人が各々の居場所を見つけられるよう工夫されている。現地で目にする風景と空間を構成するディテール、そしてその「裏にあるもの」を表すよう、各事例は写真と断面図などを重ねたビジュアルで表現した。

14事例をみていくと、単なる「私的な空間ではない」状態からパブリックスペースに変化させるために、何らかの「操作」が施されている。例えば、公園や広場に対する人々の思いを正面から「受け止めて」機運を逃さず「盛り上げ」ている事例や、団地や商店街など、元々ある機能を持っていた空間を、それ以前とは異なる質や機能をもつパブリックスペースへと「つくり変える」「仕立て直す」事例、一方、調整池のように近づくことが許されなかった空間をパブリックスペースへと「取り戻し」「引き寄せる」事例もある。そこに共通するのは、既成の枠組みや障壁を乗り越える「操作」である。

さらにこれらの事例では、枠組みを乗り越えて企画を立ち上げ、制度・システムを編集し、運営体制を組み直すなど、仕事をつくり出し、生み出す仕掛け・仕組みづくりに、これまで以上の繊細な努力が払われている。そしてこの「当たり前のことがやりにくかった」かつての枠組みのハードルを下げることは、実は相当な苦労だと思うのだが、作者たちは(嬉々として)当然のようにやってのけている。

─ディテールへのこだわり

本書の企画は、ディテール集をつくるというアイデアから始まっている。当初、私たち編著者がディテールを主要なテーマと考えていた背景には、あるこだわりがあったように思う。

ランドスケープアーキテクトがパブリックスペースをデザインするとき、そこにたち現れるディテールには、私たちがその場で何を読み解き、何を考え、何を主張するか?が表われている。例えば、高級ホテルのラウンジのようにさまざまなディテールが空間の特別な雰囲気を生み出して、利用者にもそれが容易に感じとれることもある。一方で、気づく人には知覚、感知されるが、通常は気づかれない空間の仕立て方もある(一般にこちらの方が多いかもしれない…)。特に「なんとなく」特別な場であることは感覚的にはわかるが、それを言葉にするのは難しいという雰囲気の裏にこそ、実はそうした空間を生み出す「思いの重み」や、つくりあげる過程での創意工夫と試行錯誤が表出していることが多い。そのように、パブリックスペースの現場には、作者の創意工夫を読み解くことのできる空間の「ディテール」が埋め込まれている。

しかしさらに言えば、本書で紹介されるのは単にかたち/素材/施工方法としてのディテールにとどまらず、そこに至るまでの一連の試行錯誤であり、想いをかたちにしていく「思考のプロセス」である。この14事例では、ディテールが空間設計上の工夫に止まっていない。ディテールは現場だけでなく、その仕掛けや仕組みを生み出す「会議室にまで」及んでいるのである。

思えば、造園の歴史はディテールから始まった…と言っても過言ではないだろう。石立僧・作庭記の昔から造園は詳細そのものであり、生み出された作品や施工技術・知恵は、経験によって継承されてきた。

近世、江戸時代の様々な資産を明治時代、西洋の都市へと変化させていく中で、ディテールは図面へ写され、計画・設計へと近代化されていった。

さらに第二次世界大戦後、高度経済成長時代には主に公共住宅供給の流れに伴って計量可能で経済的・効率的な施工を目指して造園設計の標準化が進んだ。ディテールの標準化は、公共造園の発達と共にあり、造園設計事務所の誕生と発展の時代でもあった。

その後それぞれの事務所が、独自のディテールで主張し、その「作風」が事務所オリジナルなものとして「一子相伝」の様相を呈した時期もあった。これは、奇抜で人の目を引くディテールが空間に個性を与え、場の特性が活性化した時代とも言えるかもしれない。

そして今、私たちはディテールを共有できる時代に生きている。膨大な情報が流れ、「〇〇っぽい」ディテールを再現することは以前に比べ格段に容易になった。これは裏を返せば「ディテールだけではデザインの仕事にならない…」ことも意味している。

私たちが必要としているのは強く自己主張するディテールよりも、日頃「余分で冗長ともいえる空間」が、非日常では大きな意味を持つ…ことを私たちに密かに、でもしっかりとささやき続けるようなディテールへと、変化しているのではないだろうか。

─時への納まり、場所への納まり

近年、パブリックスペースの仕事を通じて、様々な職種がランドスケープデザインに関わるようになってきた。しかしなかでもランドスケープアーキテクトは、その土地にあり続ける、「持続可能」なパブリックスペースを目指している。それは、ランドスケープデザインが①土地の潜在的自然環境特性と無関係ではいられず、②土地の歴史的・社会的な文脈とその経緯とも関係を保ちながら、③素材である植物材料を取り扱う上で、将来に対して無関係・無責任ではいられない、ということに起因する。ランドスケープアーキテクトの資質と感性が十分に発揮された場合において、デザインの空間への納まり、仕組み・仕掛けの社会への納まりとともに、持続性を伴って必然的に場所と地域に、ランドスケープは「納まらざるを得ない」のである。本書が、人々の安らぎの場となる未来のパブリックスペースをつくるために一役買えたなら、編著者一同これに勝る喜びはない。

篠沢 健太

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