団地図解
地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考

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篠沢健太・吉永健一 著

内容紹介

団地はどれも同じ…だなんて大間違い。地形を生かしたランドスケープ、コミュニティに配慮しつつ変化に富む住棟配置、快適さを求め考案された間取りの数々。目を凝らせば、造成から植木一本まで連続した設計思考が行き届き、長い年月をかけ育まれた豊かな住空間に気づくはず。あなたも知らない団地の読み解き方、教えます。

体 裁 B5変・140頁・定価 本体3600円+税
ISBN 978-4-7615-3235-2
発行日 2017/10/10
装 丁 アートディレクション:水内智英 / デザイン:仲村健太郎


紙面見本目次著者紹介まえがきあとがきイベントレポート書評


はじめに|ぼくらが団地にひかれる理由―建築・都市計画・土木・ランドスケープを横断する住空間

1章|団地フィールドワーク―現地で見つける団地の計画・設計のツボ

1.1 千里ニュータウン編
1.2 金沢シーサイドタウン編

2章|団地解剖―空間の読み解き方

2.1 地形―団地が“置かれた”場所
2.2 造成―標準・制約・束縛をいかに越えるか?
2.3 配置/ランドスケープ―中間領域の豊かさ
2.4 住棟―状況を解決する“箱”
2.5 間取り―工法からコミュニティまでを包み込む標準設計
2.6 間取り選
折図団地巻き物「団地設計思想 昭和30→43」
|column1|団地と子ども

3章|団地7選:知られざる設計思考の探求

3.1 千里青山台団地―高原のような団地を生んだ包括的な設計プロセス
3.2 千里津雲台団地―溶け出す造成と揺らめく南面平行配置が生む景観と共有スペース
3.3 高座台団地・高森台団地―尾根・谷が生み出す“骨太”な計画
3.4 新千里東町団地(公団)―囲むこと/広げること・公団配置計画の集大成
3.5 千里高野台住宅―緩やかな谷に生み出された公-私の連続性
3.6 鈴が峰第2住宅―地形から間取りまで総動員で獲得した眺望
3.7 並木1丁目・2丁目団地―平坦で自由な土地に築かれた建築家たちの団地設計思考
3.8 7団地から読み解く設計思考
・7団地を通して眺めてみると
・団地の設計思考を読むキーワード
・団地MAP
|column2|団地と少年

4章|団地への証言

4.1 INTERVIEW:中田雅資さんに訊く 土木仕事から建築設計まで。「団地係」という仕事
4.2 団地年表
|column3|団地と大人

おわりに|団地の設計思考が語りかけること

篠沢健太(しのざわ・けんた)

工学院大学建築学部まちづくり学科教授。東京大学農学部、工学部、関西大学環境都市工学部非常勤講師。1967年生まれ。1995年東京大学大学院農学系研究科農業生物専攻博士課程修了。A.U.R.建築都市研究コンサルタント非常勤研究員、大阪芸術大学芸術学部環境デザイン学科准教授を経て現職。

吉永健一(よしなが・けんいち)

吉永建築デザインスタジオ、団地不動産代表。1967年生まれ。1993年東京工業大学建築学科大学院修士課程修了。長谷川逸子・建築計画工房勤務などを経て吉永建築デザインスタジオ一級建築士事務所設立。団地の不動産仲介や団地の魅力を伝える活動も行う。団地専門不動産『団地不動産』、UR都市機構チャンネル『団地ぶらぶら』企画出演ほか。

ぼくらはなぜ「団地」を目指すのか?

建築・都市計画分野で「団地」は近年、“ 少子高齢化が進む住宅地”の側面ばかりが過大に語られ、まちづくりやリノベーションの介入などでこうした課題の解決が試みられています。でも団地には山積する課題しかないのでしょうか? ぼくらはそうは思いません。「団地」には、まだまだ体験・経験し熟考すべき価値があると考えています。

実際ぼくらの経験では、むしろ一般の人たちのほうが団地の良さに気がつき始めています。予備知識がない若い建築学生や、物件候補として下見に訪れた多くのクライアントたちが、「あぁいいねぇ」と言います。しかし、建築・ランドスケープ業界の人たち、特に団地を「ネガティブな住空間、都市計画である」と専門教育で習った世代は冷ややかです。「今どき団地?」「レトロ趣味?」……いや、そうじゃないのです。だからこそ、一般の人たちが気づいた団地の“良さ”を、ぼくらが建築やランドスケープ、計画・設計手法の側面から、きちんと言葉で語りたい、そう思って本書をまとめました。

団地の本当の魅力とは?

本書で取り上げる団地の“良さ”は、文学・漫画・アニメなどのサブカルチャーにも浸出するいわゆる「失われゆく団地への郷愁」とは一味違います。 そもそも、団地の良さとはなんでしょう? ぼくらが団地を歩くとき、最初は「あ、懐かしい」とか「なんかいいかも」とか、「団地の空間そのままの良さ」をなんとなく感じているのです。でもそれをそもそも感じたことのない人に共感してもらうのは簡単ではありません。ただ写真や図面を見るだけではもの足りないし、ディテールを取り上げるのも、部分にとらわれすぎて全体を見誤ってしまいます。ありのままの「団地」に真正面から取り組みたい! そのために、まず団地を図解・読解することにしました。作業しながら、どうやら団地の魅力は造成とかランドスケープとか、住棟配置とか建築と、分野ごとに分けては語りきれないことに、言い換えれば、「地形→造成→配置→住棟→間取り」の各分野間の《つながり》に団地ならではの魅力があることに気づきはじめました。団地の《つながり》はどうやって生み出されたのか? その視点から読み解きを進めつつ、その過程や意図、思考をヒアリングなどで裏付けていきながら、この本は生まれました。

一人称で語りたい!

1章では、2団地で「まち歩き」をします。後の章で語られていく様々な《つながり》のヒントやインデックスが散りばめられています。2章はやや固めの「団地解説」です。3章は7団地を「地形→造成→配置→住棟→間取り」の連続性、つまり《つながり》を意識して図解します。この章は1章の解題でもあります。4章では、敷地や技術、経済性など様々な制約のなかで試行錯誤し、団地を計画・設計された方からの生の声をお聞きしています。この本のもう一つのキーワードは「団地係」です。団地係の方々が試行錯誤された設計過程は、中ほどに綴じこまれた2枚の長大折図、日本住宅公団関西支社「団地設計思想 昭和30→43」を見て感じてください。

  • 限られた敷地の中で土地の特徴を読みつつ、
  • 共通の設計ルールの制約のもと、それを工夫して解きほぐし、
  • 新しい生活空間の「快適さ」をつないだ、

ぼくらが良いと思う“団地像”がつくられていた時代の空気を堪能してもらえれば幸いです。

当時の創意工夫は、現代の空間計画や建築・ランドスケープ設計にも多くの示唆に富んでいます。調査研究といった“他人ごと”としての冷めた目線ではなく、かといって自分のなかで完結してしまうのでもない。“ 自分のこと”としてこれらの計画設計への示唆を見出したいし、見出してほしい。これが、本書をまとめた“一人称”のぼくらから、読者の皆さんへ伝えたいことです。

2017年8月吉日
篠沢健太・吉永健一

団地の設計思考が語りかけること

「ぼくらが読みたいと思う団地の本ってないですね」。SNS内で交わされたこのやりとりが本書のきっかけである。レトロ目線でもなく、団地再生(こんなに良い団地の何を変える必要があるのか)でもない本。ハードとしての団地とその背景を知りたい設計者のためになる本が。「じゃあ、自分たちで書きますか」……こうして本書はスタートした。

筆者は両名とも設計者である。吉永は建築事務所勤務時代に団地の建て替え(熊本市営詫麻団地)を担当した経験があり、現在は独立して団地の不動産仲介とリノベーションを手がけている。篠沢は都市公園の設計を手がけるなかで、端々に団地で生まれ育った経験を感じている。建築やランドスケープの設計者は空間に何らかの心地よさを感じるとその思考や手法を読み解きたくなる性分の生き物である。良い団地を読み解いた先には、必ず心地よさを意図した設計者の手の跡が感じられた。懐かしさ、緑の多さ、人のつながりだけが団地の心地よさの理由ではないのだ(これらも設計によって意図されたものだが)。

設計者である筆者らがまとめたかったのは、団地を回顧する記録ではない。現在そして未来を生きる設計者の糧となる設計論である。団地について書かれた数々の本が出版されるなか、設計手法を詳細に触れたものは数少ない。日本住宅公団の場合、津端修一氏の公団時代の団地設計が取り上げられた書籍『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』(王国社)はあるが、津端氏以降の設計手法について取り上げられたものは少なく、評価も高くないことが多い。しかし、実際の団地の読み解きや公団OBへのヒアリングからは、津端氏以降も地形から間取りまで包括的にデザインをする姿勢とそのクオリティが保ち続けられていたことがわかる。地形、風土、歴史、コミュニティ、テクノロジー、生活スタイルなど空間設計に関わるあらゆる物事を漏れなく引き受ける設計手法は、建築やランドスケープが解決すべき課題が多岐にわたる現代にこそ求められている。その設計思考を読み解くことは団地に限らず設計を手掛けるものとして大いに参考になる。また団地の再生やリノベーションを手掛けるものにとって団地のつくられ方や設計者の思いを知ることは設計をより良いものとするだろう。

団地の読み解きは当時の設計者の目線で計画を眺めつつ客観的に分析するという難しい作業であったが、その過程で包括的な設計思考を見出せたことは大きな成果であった。取り上げた事例は設計者の目線で見た時、設計の妙が感じられそれが住環境の良さに現れている団地が中心である。なぜこの団地は取り上げないのか、この人の話は聞いたのか、この団地はこうも読めるのではないか……など意見はあると思われるが、団地の読み解きを深めるための批評は大歓迎である。今後さらに異なる視点での読み解きが展開されたり、新たな資料や証言が発掘されることを期待したい。

本書は、団地がレガシーではなく現代にこそ必要な住空間であると確信する人々の協力があって実現した。UR都市機構には数々の図版を提供いただいた。資料探しに奔走してくださった職員の皆様には特にお礼を申し上げたい。4章でお話を訊いた中田雅資氏をはじめUR都市機構OBの奥貫隆氏、山本幹雄氏、現代計画研究所の藤本昌也氏と所員の皆さまなど、過去団地に関わった方々からの当時のお話や貴重な資料は、本書の読み解きに何より欠かせない証言となった。プロジェクトDをはじめ全国の団地愛好家の方々にも、取り上げるべき団地へ多くの助言や資料提供をいただいている。そして、図版の作成など多岐にわたって手助けをしてくれた篠沢研究室の学生およびOBの皆さん、吉永恵里さん、筆者たちの団地好きを時に煽り時に冷静にまとめていただいた学芸出版社の岩切江津子さん、書ききれないがそのほかにも多くの方々に助けていただいた。この場を借りてお礼申し上げたい。

2017年8月吉日
吉永健一・篠沢健太


評:藤村 龍至
(建築家・東京藝術大学准教授)

「拡大の時代としての戦後」を積極的に読む本

本書では団地を2つの観点で読んでいる。ひとつは団地をアノニマスなアーキテクトによる「設計物」として、そしてもうひとつは「歴史」としてである。

「団地」といっても本書が着目するのは「公団(日本住宅公団)」の整備した」団地である。公団が設立した1955年から宅地開発公団と合併し「住宅・都市整備公団」と名前を変える1981年以前の26年間、挙げられている事例はその前半に実現したものが多い。社会的にはいわゆる「55年体制」の確立以後、オイルショックまでの高度経済成長期にあたる。

本書によれば、同じ千里ニュータウンのなかでも大阪府営住宅の団地と公団の団地とでは設計思想が異なるそうだ。大阪府企業局の団地が新しい海外事例をそのまま取り入れるように設計されたのに対し(p.125)、公団の団地は漁村の集落のように、規範を守りながら徐々に進化するという(p.127)。新しいものを設計するというより、いわば「永遠の微調整」を続け、種を保存しながら進化するように漸進的に設計するのである。したがってプロジェクトひとつを取り出してもその意図するところがうまく見えないが、群として比較しながら読み解くことで設計者が何を改善しようとしたのか、何と闘っていたのか、背景が見えてくる。

巻末のURのOB中田雅資氏へのインタビューはそのような「寛容で創造的な設計組織像としての公団」という仮説の検証として読める。社内向けとはいえ「設計思想」として自社の設計物を自己分析しプレゼンテーションをしていたという点や「団地係」が細分化した専門家を繋いでコーディネートしていたという点など、「官僚的」と呼ばれる設計組織像とは大きく異なり、開放的で活発な協働がなされてた創造的な組織像が垣間見える。「官僚的」「均質」という紋切りの批判が見えなくしたかつての実態を再評価する視点は素晴らしい。

団地の設計に関して、社会的に記憶に新しいのは建築家による実験集合住宅だろうか。「公団」以後、1980年代から2000年にかけては建築家の起用が盛んだった。吉永氏も関わった「くまもとアートポリス」(1988-)や岐阜県営北方住宅建替(2000)などの例では「コミッショナー」あるいは「コーディネーター」という建築家を推薦する役割を任命された磯崎新が「目利き」として建築家を推薦する、というプロセスを経て山本理顕や妹島和世が起用され、それまでの規範に全く則らない革新的なプランの集合住宅が実現した。

これらの試みは団地の持つ均質性に対する批判から多様性に対するニーズに応えようとしたものだが、トップダウンのプロセスで実現されることもあって成果がむしろ均質に見え、むしろ標準設計をもとにして個別のプロジェクト毎にアレンジしていた時代のほうが却って多様性が感じられるのではないかという批評が本書の根底に感じられる。ポスト実験集合住宅の世代とも言える現在から見ると2つ前の世代の試みは新鮮に映るのは事実である。

ただ、1960年代の公団が組織として素晴らしかったのは事実だとしても、美化は危険だろう。1980年代に建築家が盛んに起用されたのは次第に硬直化した公団を含む諸組織のテクノクラシーに対するカウンター、過剰に構築されたシステムに対する破壊者として、建築家への役割が期待されたからであった。どんな素晴らしい組織でも時間が経てば硬直するし、それへの反省抜きに過去の実績を美化し過ぎると学ぶべきことを見失う。

そのように考えると、この本からの「学び」は私たちの何に活かされるのだろうか。団地設計の成功事例はこれから急成長する新興国の住宅整備の現場ではある程度活かされるかも知れない。またあるいは長らく続くデフレ経済状況の中でローコストへの追求が進み、高層板状の単調な中高層マンションの建設が相次ぐ日本では、1960年初頭より住宅設計のレベルが下がっていると言えるかも知れず、案外身近なところですぐに役立つのかもしれない。

しかし本書のような試みからの学びは、もっと大きなスケールで活かしたいものだ。我が国においてこれからの世代が考えなければいけない超高齢化社会や人口減少、都市の縮小とはつまり、団塊の世代が住空間とし、団塊ジュニア世代が育ってきた公団の作ってきた住空間を大胆に消去し、他の用途へ積極的に転換することを含む。前例のない状況に対し、緊急に、分野横断的に手法を再構築しなければいけないその状況は、本書が扱う公団の初期によく似ている。

団地だけでなく、1968年の霞が関ビルに端を発する巨大開発や、公団以後の戸建て住宅による1970年代以後の民間開発による郊外ニュータウンなど、日本には人工的な「設計物」として見なされていない「歴史的な」遺産がたくさんある。「縮小の時代としての今」の参照として「拡大の時代としての戦後」を積極的に「読む」作業は今後、活発化するのではないだろうか。その意味で、本書は他に先駆けて、「団地」という切り口からいち早く日本の戦後の建築史を批判的に再評価しようとした、先駆的な試みであると言えるだろう。

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