〈迂回する経済〉の都市論

〈迂回する経済〉の都市論 都市の主役の逆転から生まれるパブリックライフ
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内容紹介

都市開発とパブリックライフは両立できるか

企業が利益直結型の開発を追求する一方で、私たちは余白的共用空間に日常の豊かさを求める。経済と公共のジレンマに揺れる都市に、儲けに価値をおかない空間やサービスが最終的に利益をもたらすという逆説的思考=迂回する経済を実装しよう。再開発地、盛り場、郊外住宅地、学生街のフィールドサーベイから切りひらく新境地。


吉江 俊 著   
著者紹介

体裁
四六判・288頁
定価
本体2400円+税
発行日
2024-09-25
装丁
大倉真一郎
ISBN
9784761529123
GCODE
5698
予約受付中 (店頭発売:2024年9月22日頃)
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序章 〈直進する経済〉から〈迂回する経済〉へ

はじめに―転形期に「つくる」理論を考える
多様化の時代の正体―常に動いているリミナルな都市の出現
〈迂回する経済〉という考え方
本書の構成

Ⅰ 〈第四の場所〉のフィールド・サーベイ

1章 郊外住宅地の路上観察から

パンデミック下に都市の「図と地」がひっくりかえる
郊外の暮らしの「営み直し」を調査する
「街路」が日常生活の舞台になる
屋外活動が生まれやすい街路空間の特徴

2章 人の流れの引き潮と反転する盛り場

人の去った盛り場から見えてくるもの
合理的に計画できない場所の魅力を探る
盛り場で見られた「図と地の反転」
秋葉原に見る、消費地ではない価値

3章 〈第四の場所〉の発見

パブリックライフとは何か
パブリックライフはどこで営まれるか
パンデミックで発見された〈第四の場所〉

4章 早稲田の学生街で探るパブリックライフの尺度

パンデミック下の広場のフェンスに取り付けられた南京錠たち
活動の場が連関する「場所のシステム」
学生たちに受け継がれる「場所のコモン・ボキャブラリ」
パブリックライフが営まれる場所の特徴

5章 動詞形として「場所」を捉える―「場所」から〈場所する〉へ

人と空間がなじむプロセスが「場所」になる
場所とは行為の舞台ではなく、行為の集積である
〈場所する〉のいくつかの段階
人々が自然発生的に〈場所する〉都市をいかにつくるか

Ⅱ 〈迂回する経済〉の構想

6章 パブリックライフの死と生

繁華街の〈うつろな需要〉に見るパブリックライフの衰退
ブームタウンが危機にさらす「住むことのできる環境」
大規模開発と未来への負債
人間活動が地球環境の限界を突破した「人新世」
都市化のギアチェンジがもたらしたもの

7章 〈直進する経済〉と〈迂回する経済〉

「利益追求」と「社会的便益」は対立するか?
資本主義の限界を乗り越えようとする取り組みの系譜
〈直進する経済〉から〈迂回する経済〉へ
公開空地の変遷に見る〈迂回する経済〉の萌芽
直進する経済、円環する経済、迂回する経済
近代の二項対立を縫合する都市計画の〈サード・オーダー〉

8章 即自性/コンサマトリー
―効率化から解き放たれ、体験の豊かさを実感できる都市へ

直線(リニア)の時間と円環(ループ)の時間
過程より効率を重視する近代が失ったもの
〈インストゥルメンタル〉=投資価値と、〈コンサマトリー〉=生活価値
日常生活に見られる道具的思考と即自的思考
効率化から解き放たれ、体験の豊かさを実感できる都市へ

9章 再帰性/リフレキシビティ
―出会いと絶えず変化することに価値を置く都市へ

他者を同化させたい「支配」の欲求と、自分が変化したい「出会い」の欲求
自由を獲得した現代にもたらされる新たな苦しみ
社会を変えるか、社会に合わせて自分を変えるか
よくできた社会は、反逆を回収する装置をもつ
出会いと絶えず変化することに価値を置く都市へ

10章 共立性/コンヴィヴィアリティ
―専門性の周りの領域を拡大し、ともに支えあう都市へ

人間が本来できた行為や能力を起点に考える
テクノロジーの隷属から、人間の主体性を取り戻す
ピラミッドから網の目へ―吉阪隆正の都市計画
専門性の周りの領域を拡大し、ともに支えあう都市へ
まとめ―パブリックライフを支える〈即自性〉〈再帰性〉〈共立性〉

Ⅲ 〈迂回する経済〉の実践

11章 〈迂回する経済〉の実践の萌芽を辿る

パンデミック下に「都市再生」を考え直す
商業から交流へと向かう、郊外の駅前開発
都市周縁で探る、観光とは異なるアプローチ
郊外の均質化に抗う、住宅地開発の挑戦

12章 下北線路街
―複数の主体の共同運営が自立自走する経済圏をつくる

小田急電鉄の「支援型開発」
〈迂回する経済〉が発生する3つの条件
空き地から自治が立ち上がる
シモキタ園藝部に見る住民組織の可能性
民間企業が「自立自走」を目指す必然性
地元企業が〈迂回する経済〉を目指す動機

13章 早稲田大学キャンパスの反転
―コモンスペースを主役とする知の広域圏を考える

都市の似姿としてのキャンパス―オンライン化・人口減少時代の空間の役割
地上・地下・情報空間のネットワークを構築する
教室からコモンスペースへ、主役を反転するキャンパスの提案
ルールからコモンズへ、空間利用を洗練させる暗黙知
大学を周辺地域に開く、幻の大学都市計画
繁華街の間の谷地に広がる大学群と緑地
台地の文化=〈直進する経済〉と、谷地の文化=〈迂回する経済〉

14章 東京の食の経験の地図
―個人の飲食体験の集積から場所の魅力を可視化する

食の志向性は、経済合理性に代わる「都市のものさし」となるか
渋谷の看板表記からわかる、エリアのイメージ
飲食店の「食情報」から駅圏を比較する
来店客の口コミから分析する、新宿の「食の経験」の「島」
マクロでもミクロでもない「メゾスケールの多様性」を考える
2000人の経験から探る、食の志向の8つのものさし

15章 私たちの「都市」が向かう先
―展望と未来への問い

〈迂回する経済〉と〈直進する経済〉を両輪とする都市
〈即自性〉〈再帰性〉〈共立性〉が循環する都市
公共空間を「不自由にする」レシピ
―心地よさをつくることは、特定の人の排除や囲い込みではないか?
住む場所の価値観の再生産=縄張り化
―都市は「生まれ」に抗う手助けができるか?

終章 ひとまずの結びに

〈ファストなロジック〉に対して〈スローなロジック〉を回復する
「誰(人格)」と「何(属性)」の間で葛藤する都市計画
「ものをつくる原理」が変わりつつある時代に

吉江 俊(よしえ・しゅん)

早稲田大学リサーチイノベーションセンター研究院講師。1990年生まれ。2013年早稲田大学建築学科卒業、2015年同大学大学院創造理工学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、ミュンヘン大学訪問研究員、早稲田大学建築学科講師を経て現職。2019年民間住宅開発と地域像の変容に関する研究で博士(工学、早稲田大学)。宮城県加美町や佐賀県多久市のコミュニティ計画作成、民間企業との共同研究や、早稲田大学キャンパスマスタープラン作成、東京都現代美術館「吉阪隆正展」企画監修などに携わる。著書に『住宅をめぐる〈欲望〉の都市論―民間都市開発の台頭と住環境の変容』(単著、2023年)、『クリティカル・ワード 現代建築―社会を映し出す建築の100年史』(共著、2022年)など多数。

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