少人数で生き抜く地域をつくる


佐久間 康富 ・柴田 祐 ・内平 隆之 編著

内容紹介

人口減少を受け入れた次世代への地域継承策

農山村地域をはじめ日本全国で人口減少が止まらない。本書では、現状にあらがうのではなく受け入れて、少人数でも暮らしを持続する各地の試みを取りまとめた。なりわいの立て直し、空き家活用、伝統・教育・福祉を守る、ネットワークの仕組みなど多角的な切り口で、地域住民と外部人材の双方による世代の継承を展望する。

体 裁 A5・176頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2850-8
発行日 2023-03-31
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

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はじめに 佐久間康富

序章 地域は継承できるのか

1章 なりわいを立て直す

1-1 小さな漁師町の地域組織連携による漁業と観光業の新展開【和歌山市加太】 青木佳子
1-2 次世代の農村ネットワークで現れる有機農業の里の内なる力【熊本県山都町】 柴田 佑

2章 空き家・空き地を継承する

2-1 地域内外の新しい担い手との「交流拠点」を育む【大分県竹田市】 姫野由香
2-2 空き家化する城下町の街並みを市民出資で再生する仕組み【兵庫県たつの市龍野地区】 内平隆平
2-3 23人の集落とNPOの連携による耕作放棄地の利活用【埼玉県秩父市】 竹内ひとみ・山崎義人

3章 地域の伝統・教育・福祉を守る

3-1 地域社会の変化に寄り添いながら祭りを継承する【福岡県豊前市】 岡田知子・柴田加奈子
3-2 まちの将来を育てる1学年1学級の町村立高校【北海道剣淵町】 野村理恵
3-3 空き家を居住支援に活用して炭鉱閉山後の住まいを引き継ぐ【福岡県大牟田市】 藤原ひとみ

4章 自治とネットワークの仕組みをつくる

4-1 島外から関与する仕組みづくりで人口1桁の島を継承する【広島県三原市小佐木島】 八木健太郎
4-2 若者が新しい感覚で生み出す内・外・世代間の3つのつながり【新潟県長岡市山古志】 清野 隆
4-3 少人口・多人数社会におけるネットワーク型自治【香川県まんのう町ほか】 田口太郎

結章 どのように少人数で生き抜くのか

おわりに

【編著者】

佐久間 康富

和歌山大学システム工学部准教授

柴田 祐

熊本県立大学環境共生学部居住環境学専攻教授

内平 隆之

兵庫県立大学地域創造機構教授

【著者】

青木 佳子

東京大学生産技術研究所博士研究員

岡田 知子

西日本工業大学名誉教授

柴田 加奈子

西日本工業大学技術員

清野 隆

國學院大学観光まちづくり学部准教授

田口 太郎

徳島大学大学院准教授

竹内 ひとみ

龍郷町地域おこし協力隊

野村 理恵

北海道大学大学院工学研究院准教授

姫野 由香

大分大学理工学部准教授

藤原 ひとみ

有明工業高等専門学校創造工学科(建築)講師

八木 健太郎

広島大学大学院人間社会科学研究科准教授

山崎 義人

東洋大学国際学部国際地域学科教授

日本の農山村集落は、長く人口減少問題に向き合ってきた。当初制定された過疎法(過疎地域緊急措置法)は、1970(昭和45)年の制定である。ここを起点にすると約50年間も人口減少の問題に向き合ってきたと言える。過疎にあらがうように様々な施策が展開してきたが、結果として人口減少はとどまることなく、ほぼ人口推計通りに推移している。こうした状況のなかで日本の農山村集落の未来をいかに展望すればよいのだろうか。
本書の著者グループは日本建築学会農村計画委員会集落居住小委員会のメンバーを母体として、科学研究費の助成を得た研究グループである。2012年の活動開始後にも、科学研究費の助成を得て、2017年には『住み継がれる集落をつくる──交流・移住・通いで生き抜く』を上梓した。交流・移住・通いといった流動的に移動する人々によって集落が住み継がれようとしている事例からの学びをまとめた。結論では、「住み継がれるとはなにか」について明らかにし、意思決定可能なプロジェクトが繰り返されることで集落の持続性を展望する「バトンリレーモデル」を導いた。
本書は前著の「住み継がれるとはなにか」という問いを引き継ぎつつ、おおよそ人口推計通りに減少した人口構成の地域社会を「少人数社会」と呼び、少人数の地域社会における農山村集落のあり方を展望しようとするものである。
わたしたちは、地域づくりの実践者、暮らしの営みを重ねる生活者との対話、議論を重ねてきた。本書は、地域の方々の取り組みや課題に耳を傾け、対話を通じて紡ぎ出された知見をまとめた。

本書のタイトルは、『「少人数」で「生き抜く」地域をつくる』とした。
前述の通り、今後の多くの農山村で想定される、人口推計通りに減少した人口構成の地域社会を「少人数社会」と呼び、その地域社会の状況を表す用語として「少人数」という表現を選択した。地方創生の議論では人口推計のデータを見据えて、「少人数」の地域社会の未来を見据えた上で、1年あたりの移住者数を想定した、いわば「攻め」の議論が展開されてきた。地方創生施策(の評価はこれからの課題ではあるが)は、計画論としては妥当な考え方ではある。しかし、結果として必要な対策をすればこれまでの暮らしが継続できるという現状維持の考えにとどまってしまってはいないだろうか。子育て世代を受け入れ人口構成のバランスを整えることは欠かせないし、出生率の増加など、必要な施策の展開は今後も期待したい。人口減少の状況を積極的に肯定するつもりはないが、少人数社会に対する備え、いわば「守り」の議論も求められている。未来にある少人数社会の側から、現在を見つめ返し、少人数でも生き生きと暮らしを立てる将来像の可能性はないだろうか。数あわせのために人を受け入れるだけでは少人数社会の展望は開けない。地域で継承されてきたことを大切にしながら、迎え入れる地域の側にも自らを組み替え、新しい地域のあり方に可能性が開かれていなければいけない。そこでは人口の増加に代わって、「次世代への継承」という、未来への展望が描かれるのではないだろうか。そうした期待を込めて「少人数」で「生き抜く」という表現を用いた。前著で整理した「住み継がれる」概念に含まれる多様な主体との連携も継続しながら、次世代への継承へ向けて議論の土俵を広げたい。

本書は、以下の序章と4つの章、そして結びの章で構成されている。
まず序章では、本書で取り上げようとする問いと主題となる「少人数」での地域社会と、そのなかで展望される地域の、次世代への継承について論じている。
続く1から4章は、継承される要素に着目して整理している。1章「なりわいを立て直す」では地域の暮らしを支えるなりわいを継承しようとしている事例から、新たな組織やネットワークを通じた担い手について考えたい。2章「空き家・空き地を継承する」では、空き家を利活用している事例から、暮らしの基盤となる住まいと、多様な主体が関わり合う場の継承について示唆を得たい。3章「地域の伝統・教育・福祉を守る」では、地域の祭礼や、まちの将来を育てる学校や福祉の観点からの空き家の利活用事例から、コミュニティのあり方を考えたい。4章「自治とネットワークの仕組みをつくる」では、人口減少の集落を支える仕組みづくりに挑戦する事例から、集落内外のネットワークや未来を展望する際の時間の考えを整理したい。
結びでは、これらの事例や議論を通じてまとめた、筆者らの論考を整理し、本書の結論としている。
なお、本書はまず、わたしたちと対話を重ね示唆をいただいてきた、地域づくりの担い手のみなさんに届けたい。先行きが不透明な時代、諦めとも言える心持ち、未来への期待のあいだで、日々の営みを重ねている人々に向けて、少人数での地域のあり方を共有したい。幸い、ある地域の方からは、「これまで漫然と考えていたことがすっきりした」との感想もいただいた。日々、地域づくりの施策に取り組んでいる行政職員やNPO やコンサルタントといった専門家にも役立てていただけるのではないか。そして、これから自身の暮らしの場に対する関わり、あるいは専門家としての関わりを模索している学生のみなさんにも、思考を深める契機となることを期待したい。これらを通じて、少人数での地域社会のあり方と世代の継承による地域の展望を届けたい。

佐久間康富

農山漁村を訪れ、地域住民の方々、行政、専門家といった方々の声に耳を傾けるところから、わたしたちの研究は始まる。2020年春からの新型コロナウィルス感染症の影響で活動の休止を余儀なくされた。2021年、2022年と感染状況に配慮しながら、またオンラインを活用しながら、農山村への再訪、メンバーとの議論を重ねてきた。想定していたことがすべてできたわけではないが、本書はこれまでのわたしたちの議論の成果をまとめたものである。本書で取り上げた事例以外にも、これまでに開催した公開研究会(第1回:和歌山県那智勝浦町色川地区、第2回:新潟県佐渡島宿根木、第3回:京都府南丹市・熊本県西原村※、第4回:熊本県山都町・美里町※、第5回:和歌山市加太地区※)、日本建築学会2019年度大会パネルディスカッション、2022年度大会研究協議会での成果に多くの示唆を受けた。紙幅の都合でお世話になった方々のお名前をご紹介することができないが、ここに感謝申し上げたい。
なお、本書ははJSPS 科研費18H01606の助成を受けたものである。調査や公開研究費の実施、本の出版に際して多くの助けをいただいた。そして、前著に引き続き出版の企画、編集と伴走していただいた学芸出版社の中木保代さんにもお礼を申し上げたい。
本書がこれまで多くのことを教えてたいただいた地域の方々、人口減少に向き合う人々のこれからに貢献できれば幸いである。

2023年3月 著者一同

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