住み継がれる集落をつくる

山崎義人・佐久間康富 編著

内容紹介

地方消滅が懸念され、地方創生の掛け声のもと人口獲得競争とも取れる状況があるが、誰がどのように地域を住み継いでいくのか、その先の具体的なビジョンは見えにくい。本書は、外部との交流や連携によって地域の暮らし、仕事、コミュニティ、歴史文化、風景を次世代に継承している各地の試みから、生き抜くための方策を探る。

体 裁 A5・232頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2651-1
発行日 2017/08/20
装 丁 森口耕次

目次著者紹介はじめにおわりに

1章 どう住まい、いかに継がれていくべきか

2章 地方移住の構造的な変化

3章 空き家を地域で活かす

3-1 「古家」を生かし可能性を見せる─大分県国東市伊美
3-2 行政によらない空き家バンク─福島市志賀島
3-3 地域に根ざした空き家活用システム─熊本市中緑校区
3-4 NPOによる住み継ぎのサポート─福井県美浜町/鹿児島県頴娃町

4章 地域外との繋がりで保つ

4-1 「通い」で無住化集落の環境を保つ─兵庫県但馬地域
4-2 季節に応じて移り住む─長野県栄村/北海道旭川市西神楽
4-3 外との繋がりで再興する─新潟県長岡市山古志
4-4 生業・産業が結ぶ再集落化─宮城県石巻市十五浜
4-5 移住者受け入れで保つ集落活動─山梨県早川町

5章 ムラの枠組みをつくりかえる

5-1 空き家の再生事業が集落をひらく─兵庫県篠山市集落丸山
5-2 地域連携で小規模な産地を引き継ぐ─兵庫県神河町
5-3 美しい未来を支援する新たな担い手たち─広島県小佐木島・百島

6章 移住戦略を実行する

6-1 集落を介して移住者を受け入れる─徳島県佐那河内村

6-2 着実に「里帰り」の道筋をつける─和歌山県紀美野町

7章 住み継がれる集落へ

著者紹介

山崎義人(やまざき よしと)

東洋大学国際学部国際地域学科教授。72年鎌倉市生まれ。早稲田大学大学院修了。博士(工学)。早大助手、神大COE研究員、兵庫県立大学講師、同大学院准教授等を経て、17年より現職。農山漁村や地方都市のまちづくりがテーマ。11年日本建築学会奨励賞受賞。共著書に『いま、都市をつくる仕事』『無形学へ』共訳に『リジリエント・シティ』ほか。

佐久間康富(さくま やすとみ)

和歌山大学システム工学部准教授。74年所沢市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程退学。博士(工学)。(株)環境と造形、早稲田大学教育・総合科学学術院助手、大阪市立大学大学院工学研究科講師などを経て、17年より現職。共著書に『地域は消えない』『田園回帰の過去・現在・未来』『無形学へ』ほか。

内平隆之(うちひら たかゆき)

兵庫県立大学地域創造機構教授。74年宇部市生まれ。神戸大学大学院修了。博士(工学)。神戸大学農学部地域連携センター研究員、兵庫県立大学環境人間学部エコ・ヒューマン地域連携センター講師、准教授を経て、16年より現職。地域連携や地域プロジェクトをテーマに研究。共著書に『大学・大学生と農山村再生』ほか。

大沼正寛(おおぬま まさひろ)

東北工業大学ライフデザイン学部教授。72年生まれ。東北大学大学院修了。博士(工学)。建設会社、設計事務所、東北文化学園大学准教授等を経て16年より現職。建築設計・風土建築論。12年日本建築学会東北建築賞研究奨励賞、12年・14年同作品賞特別賞受賞。16年JSTコアトリエプロジェクト開始、東北の生業景の継承保全を実践研究。

岡田知子(おかだ ともこ)

西日本工業大学デザイン学部建築学科教授。大阪市生まれ。大阪市立大学大学院修了。博士(学術)。93年現大学助教授、06年より現職。「人々の心をひとつにまとめてきた集住のしくみ」が研究テーマ。共著書に『集住の知恵』『フィールドに出かけよう!』『東アジア・東南アジアの住文化』ほか。

甲斐友朗(かい ともあき)

ランドブレイン(株)大阪事務所主任。同但馬事務所所長兼務。81年日南市生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。修士(工学)。10年4月より現職。兵庫県朝来市や滋賀県甲良町などで、農山村地域のまちづくりや特産品開発等の業務に取り組む。

嵩 和雄(かさみ かずお)

NPO法人ふるさと回帰支援センター副事務局長。72年柏崎市生まれ。東洋大学大学院博士後期課程単位取得退学。修士(工学)。02年より熊本県小国町の(財)学びやの里研究員として勤務、九州ツーリズム大学事務局、廃線跡活用プロジェクトなどの都市農村交流事業に関わる。09年東京にUターンし現職。共著書に『移住者の地域起業による農山村再生』『田園回帰の過去・現在・未来』

鹿島健利(かしま たけとし)

NPO法人日本上流文化圏研究所研究員。84年東京都練馬区生まれ。明治大学大学院修了後、NPO法人日本上流文化圏研究所で研究員として勤務。早川町における移住促進事業、集落の維持活性化事業等を手がける。

木村愛莉(きむら あいり)

一般社団法人リノベーションまちづくりセンターディレクター。93年生まれ。熊本県立大学環境共生学部卒業。九州執筆者略歴工業大学大学院工学府修了。修士(工学)。16年度小さな楽園プロジェクト(長崎県五島市)などに従事し、17年4月より長崎県五島市福江島に移住、五島列島におけるまちづくりの拠点形成事業に取り組んでいる。

柴田 祐(しばた ゆう)

熊本県立大学環境共生学部教授。71年生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。造園コンサルタント、大阪大学大学院工学研究科助教、熊本県立大学環境共生学部准教授を経て、17年4月より現職。専門は地域計画、農村計画。主な著書に『都市・まちづくり学入門』『はじめての環境デザイン学』『都市計画とまちづくりがわかる本』ほか。

清野 隆(せいの たかし)

江戸川大学社会学部現代社会学科講師。78年山梨県南アルプス市生まれ。東京工業大学社会理工学研究科修了。博士(工学)。立教大学観光学部助教を経て、14年より現職。専門はコミュニティ・デザイン、エコロジカル・デモクラシー。共著書に『山あいの小さなむらの未来』ほか。

田口太郎(たぐち たろう)

徳島大学大学院准教授。76年茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学大学院修了。博士(工学)。早大助手、新潟工科大学准教授を経て、11年より現職。市民よる自律的まちづくりのプロセスデザインが研究テーマ。共著書に『まちづくりオーラル・ヒストリー』『中越地震から3800日』ほか。

野村理恵(のむら りえ)

北海道大学大学院工学研究院助教。81年京都市生まれ。奈良女子大学大学院修了。博士(学術)。11年より現職。「移動と定住」をテーマに中国・内モンゴル自治区でのフィールドワークや国内外での農村調査を行う。共著書に『みんなで30年後を考えよう 北海道の生活と住まい』『住まいがつたえる世界のくらし』。

姫野由香(ひめの ゆか)

大分大学理工学部創生工学科助教。75年大分市生まれ。大分大学大学院修了。博士(工学)。大分大学工学部助手を経て17年より現職。専門は建築・都市計画で「くらしが息づく場づくり」が研究テーマ。11年日本都市学会学術共同研究賞受賞。共著書に『住民主体の都市計画』『まちおこし・ひとづくり・地域づくり』ほか。

平田隆行(ひらた たかゆき)

和歌山大学システム工学部准教授。71年春日井市生まれ。神戸大学大学院修了。博士(工学)。フィリピン山岳部でのフィールドワークの後、和歌山大学システム工学部助手を経て10年から現職。地域固有でコンテンポラリーな民家が研究テーマ。「地域資産継承としての高野口小学校改修における一連の活動」として13年日本建築学会賞(業績)受賞。

藤原ひとみ(ふじわら ひとみ)

有明工業高等専門学校創造工学科(建築)助教。兵庫県養父市生まれ。奈良女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(学術)。神戸大学地域連携研究員、阿南高専助教、佛教大学非常勤講師等を経て16年より現職。社会的弱者の暮らしやすいまちづくりが研究テーマ。

八木健太郎(やぎ けんたろう)

広島大学大学院教育学研究科准教授。73年東京生まれ。神戸大学大学院修了。博士(学術)。西日本工業大学准教授を経て、15年より現職。アートとデザインの境界領域において、美しい価値を次の世代へと引き継いでいくための研究と活動を行う。共著書に『アートプロジェクト・エッジ』ほか。

遊佐敏彦(ゆさ としひこ)

奈良県立医科大学MBT研究所講師。78年東京都杉並区生まれ。早稲田大学大学院博士後期課程退学。早大助教、奈良県立医大助教等を経て16年より現職。専門は農村計画学、医療・福祉のまちづくり。学生時代より、山梨県早川町の移住や空き家をテーマとした研究に従事し、現在は奈良県橿原市や高取町のまちづくりにも関わっている。共著書に『医学を基礎とするまちづくり』ほか。

都市・農村にかかわらず、これまで団塊の世代前後の世代が地域社会、地域空間の維持管理の中心であった。しかし、時代の経過とともに高齢化が進み、担い手が減少しつつある。私たちはこれらの世代が守ってきた地域をどのように次世代に継承していけるのだろうか。長期にわたり過疎・少子高齢化に取り組んできた課題先進地である農山漁村に目を向けると、田園回帰と言われるように、現役世代の移住・交流が頻繁に行われている。本書は、このような現代社会のモビリティの高まりにもとづいた、都市と農村との往来が頻繁になった今日の暮らし方から、持続的な地域社会をつくるための解決策を探っている。

一部には、地域に余力があるうちに計画的に撤退すべきだ、という論調もある。一般的な縮退傾向の中で想像以上に早く継続可能性について諦めてしまっている地域も多いのではないだろうか。私たちは余力のある地域こそ、今のうちにその持続性を高めうる手を打つべきであるというスタンスである。本書では、そのための方策を探っている。しかし、それが、すべての地域に一律に適応できる方法であるとは思っていない。ただ、計画的に縮退を実現していこうとすることには、違和感を覚えている。

本書は、このような問いを共有する実践者・研究者で構成する、日本建築学会農村計画委員会の集落居住小委員会のメンバーが中心となり編集刊行するものである。自ずと地域に住まうことを核としつつ、仕事やコミュニティなどの議論を展開していることに特徴がある。2012年度の小委員会設立以降、8回の公開研究会や日本建築学会大会での研究協議会を通じて、全国各地の地元の仕掛け人や移住者、アーティスト、地域おこし協力隊員など、数多くの地域づくりの実践者とともに現地で議論を重ねてきた(図1)。現地の人々の声に耳を傾け、実践者・研究者として得られた知見を紹介し、相互のやりとりの中で描き出されてきた知見をまとめている。

本書では「住み継がれる」という言葉に、「住む」と「継がれる」という二つの課題を掛け合わせて解いていくべきという想いを託している。

「住む」という言葉は、一般的には「定住」するということが前提になる。つまり一定の場所に居所を定め、住まい続けることと言い換えられる。しかし昨今は、二地域居住や週末居住、多拠点居住という言葉を耳にするようになった。今日的な暮らし方として、一定の場所に「定住」することが、すなわち「住む」という行為では必ずしもなくなりつつある。これを私たちは「流動的居住」とか「動居」と呼んでいる。人々の「住む」という行為を、もっと拡張して捉えることの中から、地域の持続性を高める可能性の見い出せるのではないか。

「住む」という行為を拡張して捉えると、コミュニティとの関係や農地・山林といった地域資本を誰がどのように継承していくのか、という問いも生まれてくる。「継ぐ」という能動的な表現であると、自ずと住み継ぐ主体である人間に焦点があたる。移住ブームにもそのような傾向があるように思う。もちろん、それはそれで大切な視点ではある。敢えて「継がれる」という受動的な表現を打ち出していくことで、住み継がれる対象である「地域」に重きを置こうとしている。ここには、地方移住・田園回帰の一歩先を見据えて、地域が如何に継がれていき、その継続性が確保されていくのか、その方策とはどのようなものなのか、といった問いを解いていこうとする意思を込めている。

本書は、起承転結の4部構成となっている。

「起」にあたる1章では、本書で取り上げる問いや、それを解決するための仮説について論じている。「承」にあたる2章では、近年の地方移住の動向について、田舎暮らしへの志向の変化、地方創生にともなう施策の動向、3.11の影響などについて論じている。

本書のメインは、「転」に位置づけられる3~6章の各事例である。3章「空き家を地域で活かす」では、建物のリノベーションに留まるのではなく、空き家活用を通じて移住・交流を促し、地域の質的転換、持続性の確保を試みている事例から、地域の関与について考えたい。4章「地域外との繋がりで保つ」では、過疎や震災、豪雪といった厳しい状況に対応して、往来や交流を通して地域内外との社会関係を大切にすることで、地域を保全・再生しようとしている事例を通じて、モビリティの可能性について見ていく。5章「ムラの枠組みをつくりかえる」は、地域の持続性の獲得のために主体(組織)づくりを取り上げ、地域内外の社会関係の再編と経済活動との関係を見ていく。6章「移住戦略を実行する」は、人口減少が著しい小さな自治体における特徴的な移住戦略を取り上げ、地域と自治体との協働関係のあり方から次世代へと繋げていく戦略とその実践をさぐる。

「結」にあたる7章では、本書全体を踏まえた筆者らの論考であり、これをもって本書の結びとしている。

本書は、全国各地で、自らの持つノウハウを活かし、自らが住まう地域を次世代に受け継ぐべく地域づくりを実践し奮闘している、20代後半から40代の若手・中堅に手にとってもらいたい。今後、地域を受け継いでいき、さらに次の世代へ受け継いでいくメインプレーヤーだからである。また、地域おこし協力隊など移住者にも手にとってもらいたい。移住者たちへの地域への期待感の所在がわかるだろう。そこには隊員の活動やその先の居住に向けたヒントも織り込まれていよう。もちろん、地域づくりを学ぶ学生にも。見た目の格好良さや小手先のテクニックの先に垣間見える、地域づくりの奥深さに触れてもらいたい。

農山漁村を研究の対象とする場合、地域住民の方々、行政、専門家をはじめとした関係者の方々の声に耳を傾けるところから研究がスタートする。私たちも地域に出向き、多くの地域の方々と語らい酒を酌み交わす中でたくさんの示唆をいただいた。そこで、地域の未来を切り開こうとする人々の意思に触れたことが、本書を作り上げていく原動力の一つとなった。

本書で取り上げた事例以外にも、これまで各地で開催してきた公開研究会(第1回:丹波市青垣、第2回:徳島県三好市、第3回:和歌山県紀美野町、第4回:大分県国東市、第5回:新潟県十日町、第6回:宮城県石巻市十五浜、第7回:瀬戸内、第8回:北海道ニセコ町)、日本建築学会2014年度大会研究協議会での成果に多くの示唆を受けた。紙幅の都合で、お世話になった方々のお名前をご紹介することはできないが、記して感謝を申し上げたい。

なお、本書はJSPS科研費No.26289214の成果の一部である。調査、公開研究会の実施や本書の出版に際し、多くの助けをいただいた。そして、編集者として的確な指摘をいただいただけでなく、研究会にも休日返上で積極的にご参加いただき、私たちとともに議論を重ねていただいた学芸出版社の中木保代さんにもお礼を申し上げたい。

本書を届けることで、お世話になった方々、人口減少に向き合う全国の人々のこれからに、少しでも貢献できれば幸いである。

2017年7月 著者を代表して 山崎義人・佐久間康富

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