組織設計・ゼネコンで設計者になる 入社10年目までのはたらきかた

組織設計・ゼネコンで設計者になる 入社10年目までのはたらきかた 
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内容紹介

所属組織を超え持ち寄る17のリアルな実体験

組織設計事務所やゼネコン設計部で働く社会人1~10年目の若手設計者たちは、日々の仕事にどんなやりがいを感じ、どんな壁にぶつかって成長していくのか。建築・都市プロジェクトの最前線で働いてきた経験や学びを共有し、所属組織を超えて互いに切磋琢磨する日本建築協会U-35委員会のメンバーが、リアルな実体験を持ち寄る。


(一社)日本建築協会U-35委員会 編著 山本 和宏 著 粉川 壮一郎 他著
著者紹介

体裁四六判・224頁

定価本体2200円+税

発行日2023-04-15

装丁北田雄一郎

ISBN9784761528492

GCODE2309

書評試し読み紙面見本目次著者紹介はじめにおわりに関連ニュースレクチャー動画関連イベント電子版採用特典教材
評:伊藤公文

──
いつからか分からないが、わが国では建築設計者をアトリエ派、組織設計、ゼネコン設計部に三分割する定めとなっている。いつからかお分かりの方がいらしたら、ご教示いただきたい。
この区分について三派の当事者たちはそれぞれに違和感を持っているはずだが、世間での支持が存外に強固なわけは、建築設計者は個人の創造性の発揮が第一なのだから個人ベースで活動するのがもっとも素直であるという素朴な認識にあるのではないか。こうした認識の延長線上に、アトリエ派vs組織設計・ゼネコン設計部という三分割ならぬ二分割、というよりも二者対立の構図が生じるのは自然なことだ。
こうしたいささか歪んだ構図への後者からの異議申し立てが本書である、と敢えて断言してしまおう。「敢えて」というのは、そうした企図なく本書は編まれた可能性もあるからだ。
──
本書では、関西圏に拠点を置く組織設計・ゼネコン設計部に所属する17人の若手建築設計者が、入社10年目までにかかわったプロジェクトを題材にリアルな経験をつづっている。一人ひとりの文章は短いので隔靴搔痒の感がなくもないが、それでも自分の考えや想いを一方的に吐き出すだけで良いとされていた学生時代から一転して、考えや利害を異にするおおぜいの人たちの間に立ち、出口を求めて調整に努め、プロジェクトを進行させていく様子が活写されていて、臨場感にあふれている。
転がる石。
ローリング・ストーンズ。
現実の世の中には清流もあれば濁流もあり、激流もあれば淀みもある。その水圧に耐え、その水流に時には身をまかせ、ともかく前へ前へと転がりながらゴールをめざす。それが建築設計者のリアルな姿であることを読者は知るだろう。
──
創造性の発揮という点では、諸条件の綿密な分析に端を発し、そこから解をさぐる道程で、いくつもの選択肢の検討を経て生まれてくるものであり、妙案が個人の上に天啓のごとく舞い降りてくるわけではないことが繰り返し述べられている。また、創造性の現実化が個人の範疇で完結されるわけでは毛頭なく、施主、施工者、メーカーほか、プロジェクトにかかわる幅広い並走者とともに成立するものであり、とりわけ同じ組織に属する人々からの指導、アドバイス、サポートの重要性もまた繰り返し記されている。ただし経験値の高い先達が周囲に多くいる点ではアトリエ派に勝るのは明らかだとしても、その経験値が無意識の内に手かせ足かせになってしまいかねないことは自戒すべきだろう。経験はなにごとにも代えがたいが、それを超えてこそ価値がある、と筆者は考える。
──
本書の読者対象はだれなのだろう。読みだす前は入社を希望する学生かと思っていたが、読了後、内容からしてそうではなく、同じく「転がる石」として組織設計・ゼネコン設計部に所属している同輩に向けたエールであると思えてきた。
「転がる石に苔は生えない」という諺には二つの意がある。ひとつは、あちこち彷徨って腰が定まらない人は成功できない、というネガティブな意味。ふたつは、「活動的にいつも動き回っている人は能力を錆びつかせない」(Wikipedia)というポジティブな意味。「転がる石」のみなさんには、どうか後者の石であれと願うばかりだ。

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はじめに:体当たりで現場に学ぶ。入社10年目までの設計者たち

1章 無我夢中の駆け出し期|1~3年目

1年目|建築は無数の対話でできている――皆でつくる学び舎
/山本和宏(株式会社昭和設計)
1年目|だれよりも早く手を動かす――駅舎からまちをつくった8年間
/粉川壮一郎(株式会社安井建築設計事務所)
2年目|「20年先」を提案する設計者になる――学生が社会と出会うキャンパス
/市川雅也(株式会社竹中工務店)
2年目|施主のイメージから可能性を広げる力――住宅街とつながる小さなオフィス
/平岡翔太(株式会社大建設計)
3年目|コンセプトを見える化してコラボレーションする――人の交流を誘発する研究所
/鬼頭朋宏(大成建設株式会社)


座談会① 自分の無知を思い知らされる駆け出し期
社会を見つめ、「建築」の領域を拡張する
社外活動コラムⅠ 学生と一緒に次世代の空間を構想する

2章 難局こそやりがい期|4~7年目

4年目|先入観を乗り越える楽しさ――風土に呼応する市庁舎
/小原信哉(株式会社山下設計)
5年目|ベテランに支えられつつプロジェクトの舵を取る――海外メーカーのオフィス
/大屋泰輝(株式会社大林組)
5年目|ミリ単位の調整でアイデアを実現する――BIMが可能にしたデザインオフィス
/出来佑也(株式会社昭和設計)
5年目|計画を安易に単純化せず構造・設備を巻き込む――賑わいを可視化するショールーム
/宮武慎一(株式会社安井建築設計事務所)
6年目|工業デザインの精度でゼロから寸法を問い直す――原寸の2倍でスケッチしたテナントのディテール
/髙畑貴良志(株式会社日建設計)
7年目|ニーズをシーンに変換するユーザーヒアリング――社員の日常に寄り添う研究所
/吉田悠佑(株式会社大林組)


座談会② 自信を掴みつつ、葛藤も生まれるやりがい期
社外活動コラムⅡ まちに飛び出てフィールドワークを行う

3章 デザイン領域の拡張期|8~10年目

8年目|前例のないディテールを編み出す――魅力的な「あいだ」で紡ぐ「まち」としてのキャンパス
/若江直生(株式会社日建設計)
9年目|計画に潜在する公共性をデザインコードにする――通りに開いた給油所・財団事務所
/興津俊宏(株式会社竹中工務店)
9年目|積層型大規模木造のロールモデルをつくる――社会課題と向き合う庁舎
/下田康晴(株式会社東畑建築事務所)
9年目|組織のチームプレーを見つめ直す――社屋移転コンペという転機
/石井衣利子(株式会社梓設計)
9年目|チームを導くトータルディレクション――イノベーションが生まれる研究所
/箕浦浩樹(株式会社大林組)
10年目|事業性を満たしつつ一歩先の価値を提案する――人工島につくる親密な集合住宅
/三谷帯介(鹿島建設株式会社)


座談会③ 自らの責任のもと、多角的な視野で動ける拡張期
社外活動コラムⅢ 時代のニーズを探り、自らまちを楽しむ
社外活動コラムⅣ 建築の外側で、業種を超えて社会を考える
時代の変化と建築、設計者

おわりに

編著者

(一社)日本建築協会U-35委員会

日本建築協会内の若手設計者を中心に、建築における多様な価値の発信を目的として2013年4月に発足。関西を拠点に活動し、主に組織に属する概ね35歳以下の設計者で構成される。組織を超えたプラットフォームづくりだけでなく、都市のフィールドワークや社会実験の開催、異分野同世代のプロフェッショナルや学生との対話、国境を越えた若手建築家との議論など、年々活動の幅を拡げている。

著者

山本 和宏/昭和設計
粉川 壮一郎/安井建築設計事務所
市川 雅也/竹中工務店
平岡 翔太/大建設計
鬼頭 朋宏/大成建設
小原 信哉/山下設計
大屋 泰輝/大林組
出来 佑也/昭和設計
宮武 慎一/安井建築設計事務所
高畑 貴良志/日建設計
吉田 悠佑/大林組
若江 直生/日建設計
興津 俊宏/竹中工務店
下田 康晴/東畑建築事務所
石井 衣利子/梓設計
箕浦 浩樹/大林組
三谷 帯介/鹿島

体当たりで現場に学ぶ。入社10年目までの設計者たち

組織設計・ゼネコンではたらく設計者の仕事

私たち建築設計者には、大きく分けると「独立して活動する設計者」と「組織に属して活動する設計者」がいます。前者には思想や作品性をリードする著名な建築家も含まれ、社会一般にもイメージが共有されていると思います。一方、本書に登場する面々は後者の立場です。組織の一員である私たちは、発注者から”特定の個人”ではなく”所属組織”に対して依頼を受け、いち担当者としてそのニーズを満たす建築を検討・提案し、実現するのが主な役目と言えます。こうした立場上、私たち組織の設計者が普段どのように設計に向き合っているのかを目にする機会はあまりないのではと思います。
建築設計という仕事の最大の魅力は、自分たちが考えたことが建築として実現し、都市や社会をかたちづくる大きな要素として、他のプロダクトに比べて格段に長い時間残っていくということです。どれもが異なる複雑な条件の下につくられる一品生産品で、そこには程度の差はあれども設計者の思想や個性が建築空間のオリジナリティとして反映されます。私たちが所属する組織が受ける依頼は、ある程度規模が大きく、個人住宅や個人店舗というよりはオフィス・研究所・学校・駅舎・庁舎など多数の人が利用する建物が大半で、そうした建築は社会に対しても大きな影響をもちます。この代えがたい魅力と、それが多くの人に見られ・体験されるという緊張感に突き動かされて、私たちは「より良い建築をつくりたい」と願いながら日々研鑽を積み、仕事をしています。

“入社10年目”までが意味すること

本書を執筆している「(一社)日本建築協会U-35委員会(以下、U-35)」は、関西の組織設計事務所やゼネコン設計部に属する概ね35歳以下の建築設計者が集ったチームです。ところで、なぜ「U-35(35歳以下)」なのでしょうか?
私たちの職業は、大学院修士課程を修了して就職することが多く、そうすると「U-35」は”概ね入社10年目まで”の時代を指すことになります。この時代を、一番忙しくも一番楽しく働ける時間だと私たちは考えています。学生時代に学び考えてきたことの先に「実務としての建築」という新たな地平が拓かれ、ときに難局に出会い悩みながら、ダイレクトに自らの手と頭をもってチャレンジできる。徐々に仕事の進め方を身につけ、コントロールできるようにもなる。また、本業と平行して、私たちはコラムで紹介するように異分野の同世代たちとの対話・学生との世代を超えた対話・国境を越えた若手建築家との議論など多面的なアクションも展開してきました。「U-35」は、そんな若手時代の経験や学びを共有し、所属組織を超えて互いに切磋琢磨できるプラットフォームなのです。若さゆえにフラットな視点をもって率直な意見を述べ合えるこの時代だからこそ楽しめる活動だと思っています。これより上の世代になると、そこには仕事人として、設計だけに留まらないさらに高次で難しい課題と役割が私たちを待っています。つまり「U-35」には、ダイナミックな変化と成長の只中にいる世代ならではの、リアルな思いや試行錯誤があるのです。

“ローカル”だからこそ見える建築と社会

また、設計者が多く集まる東京ではなく関西で活動を続けていることも、私たちの特徴です。
継続には大きく二つの点でその地域性が関わっていると考えています。一つは、関西が「民によってつくられてきた社会」という側面が強いこと。もう一つは、関西の都市・建築において組織設計・ゼネコンが大きな役割を果たしてきたという歴史です。「U-35」の母体である(一社)日本建築協会は、1917年に大阪で発足し、産学を問わず幅広い建築関係者を結びつける場として百年を超える歴史をもっています。設立者の片岡安や武田五一ら、その後も村野藤吾などをはじめとした関西の建築家と組織人が共にその活動を支えてきました。関西は、明治以降の近代化を官が主導したことから著名な建築家やアカデミズムがリードする東京に比べ、組織設計やゼネコンといった「民間」が建築界をリードしてきた側面が大きいという文脈があるのです。
経済規模が大きく政治の中心でもある東京では、常にあらゆるエリアで開発が行われ、行政や大企業の資本・施策に基づいて都市はドラスティックにつくり変えられます。関西を拠点にする私たちから見る東京は、一人の設計者が向き合える”都市”の範疇をともすれば超えてしまう世界屈指のメガシティですが、それに比べると関西は圧倒的に”ローカル”です。同じ組織に所属していても、関西のプロジェクトは比較的若いうちから主導しやすい規模が多いとも言えます。また、政治的中心とは距離のある関西では、投じられる資本も限られ、かつ昔ながらの共同体の延長線上に今の社会があり、まちをつくっていくのも自前主義にならざるを得ません。例えば大阪の中心・御堂筋はかつての裏通りを沿道の民間資金を集めて拡幅した道だし、[中之島公会堂]も財界人が私財を寄付して建設したものです。そうした独立心・公共心は、関西の個性豊かな各都市に共通する気質です。そして、協会の活動もこの気質の上に成り立っています。私たちからすると恐れ多いような”他社の大御所”の設計者たちも、組織の枠に関係なく若手にチャンスと教えを与えてくれる関係性があります。こうしたローカルな変容の程良いスケールとスピード、横のつながりが、「建築設計という仕事」を設計者が認識しやすい範疇に留めているようにも思えます。

駆け出し期・やりがい期・領域の拡張期で辿る17人の実務録

そして、そうした土壌で日々建築をつくる私たちの挑戦を記したのが本書です。建築や都市プロジェクトの最前線で働く仕事にどんな思いを込め、どんな壁にぶつかっているのか。17人の設計者の等身大の日常と成長のプロセスを持ち寄りました。
1章「無我夢中の駆け出し期」で取り上げるのは、寸法のおさえ方、素材の使い方、ディテール、コスト、スケジュール……右も左もわからない、苦悩の駆け出し時代としての1~3年目。
続く2章「難局こそやりがい期」は4~6年目。基本設計・実施設計・監理とプロジェクトを一回しする経験を経てできることが増える一方、施主・メーカーとの折衝、職人たちとの現場検討と、難しい局面を乗り越えることがやりがいにつながる時期です。
3章は「デザイン領域の拡張期」。自らがプロジェクトの顔として先頭に立つ7~10年目は、背負うものが大きくなる反面、素材特性や独自の構法を駆使して考える前例のないディテール、あるいはディテールからグランドデザインまでを貫く長期のプロジェクトデザイン、事業性を満たしつつも一歩先の価値などを提案できる力がつき、視野も一気に広がっていく時代です。
組織に所属する設計者たちは、日々建築の前線で試行錯誤しながらも難題に立ち向かい、奮闘し、建築をつくることを通して「まち」をより良くし続けることの魅力と、やりがいを感じています。この仕事の楽しさが、少しでも皆さんに伝われば嬉しく思います。

2023年3月 著者を代表して 三谷帯介

2023年4月でU-35委員会は発足10周年を迎える。本書ではメンバーの仕事に焦点を当てたが、通常の委員会活動はコラムで紹介したようなワークショップやフィールドワーク、社会実験などの企画が多い。所属組織の外で同世代が集まり、フラットな立場で意見をぶつけ合い、実社会へ向けたアクションに変換する。現役メンバーは毎年若返り、常に若手ならではの新たな視点で「U-35」らしいアプローチを模索している。
発足当初のメンバーはすでにアラフォー世代となり、所属組織のチームリーダーになった者や拠点を海外に移した者など、様々な立場で活躍している。こうしたOBメンバーの存在は、現役メンバーの刺激的なロールモデルでもある。本書に収録した座談会では年齢差が10歳以上もあるメンバーが集い、世代や組織を超えた多様な経験を語った。普段はライバル会社に所属するメンバー同士、共通する悩みもあれば、独自の工夫や発想の転換に学ぶところも多く、それぞれの実務で知らず知らず抱え込んでいた悩みを自覚し、各々が次のステップを見つける場になったのではないかと思う。思いを発散・蓄積できるプラットフォームである「U-35」と「所属組織」を行き来することが、私たち組織設計・ゼネコンではたらく設計者にとって支えになっていることを改めて実感した。
私もじきにOBメンバーとなる。入社後の10年という成長の時期に、多くを学び、刺激を受け、同じように悩み成長し合えるメンバーと活動を共にすることができたことを、とても感謝している。
同世代の設計者の方々へ、所属されている組織の大小にかかわらず、ご興味をもたれたら是非、「U-35」で活動をともにしてみませんか。

2023年3月 平岡翔太

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