交流まちづくり
内容紹介
SDGs時代のコミュニティツーリズム実践集
SDGs、ポストコロナ時代にはマスツーリズムからの転換が不可欠だ。いま従来の観光地とは異なる地域が実践する、関係人口・交流人口を増やすコミュニティツーリズムが注目されている。スポーツ/空き家/インフラ/環境再生/農業/美しい村等のコンテンツ開発を通してサステイナブルな地域をデザインする国内外の実践を紹介。
体 裁 A5・250頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2818-8
発行日 2022-05-01
装 丁 北田雄一郎
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1章 交流まちづくりとは
交流まちづくりとは
本書で紹介する交流まちづくりの事例
ポストコロナ期のまちづくり
2章 スポーツツーリズム 自然×アクティビティの価値創出が人を呼ぶ
2-1 スポーツツーリズムとは
2-2 ニセコエリア(北海道) 国際的リゾート地のエリアマネジメント
2-3 しまなみ海道(広島県・愛媛県) 瀬戸内海を巡るサイクルツーリズムの聖地
2-4 八幡平市(岩手県) 手つかずの自然を堪能するトレイルランニング
2-5 ヨーテボリ市(スウェーデン) 80カ国のサッカーチームが集う大会で国際交流
3章 空き家活用から交流を生む 若い起業家が集まり、変化を起こす仕掛けづくり
3-1 空き家活用からいかに交流を生むか
3-2 尾道市(広島県) 空き家再生を通じた交流のしくみ化
3-3 神山町(徳島県) 町内外の多彩な主体が活動しやすい風土をつくる
3-4 橿原市今井町(奈良県) 歴史的町並みを活かした、まちを学ぶ交流
4章 インフラツーリズム 土木構造物を活用したエリアマネジメント
4-1 インフラツーリズムとは
4-2 八ッ場ダム(群馬県) ダム建設から波及する多様なプロジェクト展開
4-3 日本橋川(東京都) 水辺空間を活用するエリアマネジメント
4-4 古河公方公園(茨城県) 沼地を再生し、市民参加型の公園に
5章 サステイナブルツーリズム 最先端の環境政策が注目を集める
5-1 サステイナブルツーリズムとは
5-2 上勝町(徳島県) ゼロ・ウェイストで実現するサーキュラーエコノミー
5-3 北九州市(福岡県) SDGs先進都市が取り組む産業・環境観光
5-4 コペンハーゲン市(デンマーク) 観光客と市民が共に都市生活を楽しむ観光戦略
6章 アグリツーリズム 農業と連携した多様な事業が交流を生む
6-1 アグリツーリズムとは
6-2 北信地域(長野県) 農村自給圏を目指すスマート・テロワール
6-3 川内村(福島県) 震災を乗り越え、農×観光のコンテンツを開発
7章 最も美しい村運動 地域の自立を目指すコミュニティツーリズム
7-1 最も美しい村運動とは
7-2 飯豊町(山形県) 住民自治の先進地が挑む、次世代に向けたまちづくり
7-3 ミッテルベルグハイム村(フランス) 住民が誇りを持ち自律的に活動する最も美しい村
7-4 ザクセン州の最も美しい村(ドイツ) 人口1千人以下の村々が挑むコミュニティツーリズム
おわりに
交流まちづくりとは
本書のタイトルにある「交流まちづくり」は、筆者らの造語である。
「交流人口」という言葉は広く認知されているが、「交流まちづくり」という言葉は耳慣れない概念だと思う。辞書(デジタル大辞泉)によれば、「交流」とは、「互いに行き来すること。特に、異なる地域・組織・系統の人々が行き来すること。また、その間でさまざまな物事のやりとりが行われること」とある。私たちは、この「交流」という活動を軸に「持続可能なまちづくり」を行うことを「交流まちづくり」と呼ぶことにした。
近年、大半の自治体で人口が減少傾向にあるなか、交流人口を増やす取り組みが進められている。また、インバウンド(訪日外国客)の誘致に力を入れている自治体も多いが、一過性のブームに対応したものや、地域の特色を十分に活かしきれていない事例も散見される。その一方で、観光客が来訪してもその状況が地域全体のまちづくりに活かされていない事例も見られ、観光客による交通渋滞やゴミのポイ捨て、騒音等の発生が地域住民の生活を脅かす「オーバーツーリズム」問題に対しても懸念が広がっている。
対して、地域の持続可能性に着目し、生活の中に観光をうまく取り入れ、住民と観光客がまさしく「交流」し、地域が活性化している事例も存在する。
本書で扱う「交流」には大きく二つのタイプがある(図1)。
一つ目は「内」と「外」の交流である。
異なる土地、異なる背景を持った人々が、互いの土地を訪れることを通じて交流し、学びあい、気づきを得ることで、地域づくりへ進展させ、またそのモチベーションを高めることができる。
二つ目は「内」(地域内)の交流である。
地域の特性を活かした交流を推進し、それをまちづくりに活かしていくためには、これまで接点の少なかった「地域産業の担い手同士」や「高齢者と若者」「古くからの住民と新規住民」等が交流していくことが求められる。
さらに、本書で扱う「交流」は、一般的にイメージされる観光のみならず、視察・研修・業務などを目的とする短中期滞在も含んでおり、紹介する事例は、地域が持つ資源を活かし、地域が主体的に活動していることを基準として選出したものである(図2)。
地域資源には自然景観、文化、産業、人などさまざまなものがあるが、私たちが着目するのは、次の三つの地域資源である。
①地域の生活に根づいた地域資源
②他の地域と比較して特徴のある地域資源
③これからの世界、日本の方向性(SDGs、ポストコロナなど)に合致した形で活用可能な地域資源
以上のように交流にはさまざまなタイプがあるが、そうした交流が育まれてきた原点には、「ご縁」を大事にする「お互いさま」の精神があるのでないだろうか。
そうした「お互いさま」の精神が、日本各地で地域特有の風習(道普請などの集落の決まりごと、祭り、季節行事、冠婚葬祭など)を生み出し、引き継がれてきた。
一方、江戸時代以降、庶民の間でお伊勢さん(伊勢神宮)や富士山に行くことが一生に一度のイベントになり、「旅は道連れ、世は情け」という言葉の通り、道中でさまざまな出会い、すなわち「交流」が生まれ、そうした旅先での交流によって各地で「もてなし」の精神が育まれたのではないだろうか。
現代においても、リピーターを引きつける地域には、こうした「お互いさま」と「もてなし」の精神が息づき、それが交流まちづくりを促進するきっかけとなっているのではないだろうか。
本書で紹介する交流まちづくりの事例
本書では、地域の持続可能性を見据え、地域資源を活用した観光を取り入れながら住民と観光客がまさに「交流」し、地域の活性化に取り組んでいる事例を、六つのテーマに分けて各章ごとに紹介していく(表1)。
なお、取り上げる事例については、成功した取り組みだけでなく、失敗した取り組みにも触れつつ、その試行錯誤のプロセス、現時点での課題、今後の対応策等についても可能な限り紹介している。
ポストコロナ期のまちづくり
本書の出版が決まったのは2019年12 月のことで、まだ新型コロナウイルス感染症が世間を騒がせていない頃だった。
その後、パンデミックが発生し、新たな生活様式が求められるなか、パンデミック以前の事例をまとめた本を出すことに意味があるのか自問自答することとなった。
しかしながら、本書で提案している「交流」を手段とした「持続可能なまちづくり」は、ウィズコロナの時代であっても、さらに言えばポストコロナの時代にこそ効果を発揮するものであると考え、企画を進めることにした。
近年盛んに議論されているオーバーツーリズムを引き起こすような観光客と地元住民との間に見られる対立構造は、私たちが提案する「交流まちづくり」では起こりにくいはずである。また、地域資源を疲弊させるような「環境容量」を超えた開発や観光客増も、交流まちづくりではやってはならないことと捉えている。
つまり、地域のキャパシティの中で、地域資源を活かし、「交流人口」と「定住人口」の双方が「交流」を手段として良好な関係になることが、私たちの提案する「持続可能なまちづくり」であり、ポストコロナ期に目指すべきまちづくりの姿ではないかと考える。
本書をきっかけに「交流まちづくり」への関心が高まり、読者の皆様の活動で活用いただければ幸いである。
上田裕之
本書は、建設コンサルタント会社の株式会社建設技術研究所、日本工営株式会社、パシフィックコンサルタンツ株式会社に所属するまちづくりの専門家により結成された「観光まちづくり研究会」のメンバーが中心となり執筆したものである。本書で紹介した事例は、4章のインフラツーリズムを中心に、3社が直接関与した事例も多い。また、5章のサステイナブルツーリズムにおいても、これまで環境アセスメント業務で培ってきたノウハウを活かした新たな提案を行っている。なお、7章で紹介した海外の2事例については、外部の専門家として宮城大学の中嶋紀世生先生、明治大学の藤本穣彦先生にご執筆いただいた。
「観光まちづくり研究会」は、2000年12月に3社によって設立された組織「国土総合研究機構」に属する研究会で、2005年6月より活動を開始した。研究会では、7章で取り上げている「日本で最も美しい村」連合の活動支援をはじめとする具体的な地域づくりのお手伝いとともに、観光地の交通問題・ゴミ処理問題・水環境問題・景観まちづくりなどをテーマとした各種セミナー、まち歩き体験などを実施しており、一貫して「持続可能なまちづくり」をメインのテーマに据えて調査・研究を継続している。
私たちが掲げる「持続可能なまちづくり」では、「人口減少が続いたとしても、その減少傾向を最小限に食い止めるとともに、住民が幸福感と地域への愛着を持って住み続けられるまち」「行政の財政が破綻することなく継続できるまち」の実現を目指している。
その後、2008年10月に観光庁が発足したことを受け、全国各地の自治体で観光への関心が高まりを見せるようになった。その一方で、国内の主要な観光地において、観光客と住民との間に軋轢が生じ、交通渋滞やゴミのポイ捨て、自然環境の破壊といった問題が浮き彫りになり始める。そうした背景を受け、当研究会では、住民と観光客との共存を図る持続可能なまちづくりについて議論を重ね、2009年に書籍『観光まちづくりのエンジニアリング』(学芸出版社)としてまとめた。その書籍では、地域の環境容量を超えないようにすること、また観光振興を唱えても地域住民の暮らしや産業が豊かにならなくては意味がないことを論じた。
本書は、前著の出版から10年以上が経過し、少子高齢化や人口減少がより鮮明となるなか、「観光」や「交流」に注目が集まる時代に出版する、研究会にとって第2弾の書籍となる。
一般に建設コンサルタントの仕事と言えば、ダムや道路などのインフラ整備の際に設計や工事管理を行うものと思われているが、実際には「環境アセスメント」を行い、インフラ整備の周辺環境への影響を評価したり、そもそもどのようなインフラ整備が必要なのかを考える具体的な事業の立案業務も行っている。また、インフラ整備の必要性を議論するためには、その地域が将来どのようなまちづくりを行うのかを見定める必要がある。その際、まちづくりのお手伝いも行っており、その意味において建設コンサルタントは「まちづくりの専門家集団」としての一面を有している。
これまでの日本では、定住人口を増やし、住民の満足度を高めるための「まちづくり」と、観光客を呼び込むための戦略的な取り組みとを分離して行ってきた自治体が多い。そのため、結果として、ゴミのポイ捨てや交通渋滞、治安等に関して「観光客 vs 住民」という対立関係が顕在化しつつあり、近年は「オーバーツーリズム」といった課題も取り上げられるようになった。
また、観光を主産業としてきた地域では、コロナ禍により観光客が激減し、地域そのものが活力を失いつつあるところも出てきている。さらには、気候変動による影響への対応、新たな生活様式の構築も求められている。
私たちは、こうした地域の課題を解決する方法の一つとして、本書では「交流まちづくり」という概念を提案している。本書が、まちづくりの現場で活躍されている皆さんに役立ててもらえることを期待するとともに、建設コンサルタントという仕事にも興味を持っていただければ幸いである。
最後に、本書の出版に際して、私たちに暖かくご指導と助言をいただいた学芸出版社の宮本裕美さん、森國洋行さんに心よりのお礼を申し上げる。
2022年4月
国土総合研究機構観光まちづくり研究会座長 上田裕之
メディア掲載情報
開催が決まり次第、お知らせします。