サーキュラーデザイン
内容紹介
個人・企業・組織が行動に移るための手引書
地球環境の持続可能性が危機にある現在、経済活動のあらゆる段階でモノやエネルギー消費を低減する「新しい物質循環」の構築が急がれる。本書は1)サーキュラーデザイン理論に至る歴史的変遷2)衣食住が抱える課題と取組み・認証・基準3)実践例4)実践の為のガイドとツールを紹介する。個人・企業・組織が行動に移るための手引書
開催が決まり次第、お知らせします。
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メディア掲載情報
はじめに
プロローグ サーキュラーエコノミーとサーキュラーデザイン
1章|サーキュラーデザインとは何か
1.1 科学としてのデザイン研究の胎動期:1940、50年代
1.2 デザインリサーチ第1世代:1960年代
1.3 デザインリサーチ第2世代とデザイン・アクティヴィズム:1970年代
1.4 インタラクションデザインの台頭とエコデザイン:1980年代
1.5 デザインを通した研究の台頭とサステナブルデザイン:1990年代
1.6 サービスデザインの台頭:2000年代
1.7 持続可能な未来を思索するデザインとエコロジー:2010年代
1.8 サーキュラーデザインのフレームワーク:2010年代から現在
1.9 サーキュラー「製品」デザインとデルフト工科大学:2021年現在
1.10 サーキュラーデザインの包括的ガイドラインに向けて
2章|サーキュラーデザインから見る、衣食住が抱える課題
2.1 衣に関わる課題
2.2 食に関わる課題
2.3 住に関わる課題
3章|サーキュラーデザインの現在--萌芽的事例
3.1 衣のサーキュラーデザイン
微生物で服をつくる── 微生物の遺伝子を組み替え、発酵技術を応用すると、タンパク質で服はつくれる
キノコで服をつくる── 培養環境を整備すれば、キノコから服がつくれる
捨てられるはずだったもので服をつくる── 適切に再資源化できれば、廃棄物は素材となり服がつくれる
ゴミを出さないように服をつくる── ジグソーパズルをコンピュータに解かせると、ゴミを出さずに服がつくれる
使い終わった服を回収しやすくつくる── 回収のルートとゴールを複数整備すれば、服はいつまでも服でいられる
3.2 食のサーキュラーデザイン
多様な植物を育てる── 多様な植物を作付けして、生態系をつくりながら、作物を育てる
魚と野菜を一緒に育てる── 養殖と水耕栽培を組み合わせる
堆肥や飼料をつくる── 有機廃棄物の堆肥化や飼料化に取り組む
代替肉をつくる── 昆虫、植物、細胞培養で、代替の食品をつくる
生物由来の容器や食器をつくる── プラスチックの代替材料を開発する
3.3 住のサーキュラーデザイン
修理方法を開発する── 電気電子機器の長寿命化や修理方法を提供する
地域資源でつくる── 森林資源を適切に管理して、木工製品をつくると、雇用が生まれる
分散型の産業でつくる── デジタル工作機械をつかって、自分達でつくる
都市の経済モデルをつくる── 都市スケールのイニシアチブや施策で、あたらしい都市をつくる
3.4 超域的なサーキュラーデザイン
シェアリング前提の暮らしをつくる── シェアリング・プラットフォームを活用した暮らしに移行する
バイオマスエネルギー・デザイン
ライフサイクルデザインと評価
透明性のための情報デザイン── 世界の状態を理解し、人々の行動を助長・
抑制するための情報のデザイン
「議論や批評」のためのスペキュラティヴ・デザイン── ありうる未来や世界観を思索し、「今、ここ」 と異なる社会をつくるためのデザイン
4章|サーキュラーデザインを実践するためのガイドとツール
4.1 広く、サーキュラーデザインを理解したい人に向けた包括的ガイド
4.2 サーキュラーデザインを実践してみたい人に向けた包括的ガイド
4.3 ファッション、製品デザインにおけるサーキュラーデザインを実践したい人に向けた、実務経験者向けガイド
4.4 露地作物をサーキュラーデザインの対象として育てたい人向けの実践的ガイド
4.5 身の回りのプラスチック製品を収集、再資源化、再利用したい人向けの実践的ガイド
4.6 製品デザインのサーキュラービジネスやデザイン戦略を考えたい人向けのガイド
4.7 行政×デザインの領域に関心があり、サーキュラーエコノミーを行政施策としてデザインしたい人向けのガイド
参考資料リスト:オンライン講座、ツール、ガイド
おわりに──本書の内容と限界、展望
サーキュラーデザインは、サーキュラーエコノミーを実現するためのデザインであり、地球環境を維持しつつ経済活動を発展させ、社会をより豊かにしていくためにある。
環境、社会、経済のバランスをとりもちながら、持続可能な生態系を実現するサーキュラーデザインとは何なのか。どのような研究事例や実践例、手法やガイドラインがあるのか。それを解説、紹介するのが本書である。
なぜ、サーキュラーデザインが今、必要なのか。それは地球環境の持続可能性が危機的状況に陥ったためである。
地球や資源の有限性に着目して文明の危機に対する警鐘を鳴らした報告書として、1972年にローマクラブが発表した「成長の限界(The Limits toGrowth)」が挙げられる。この報告書は同年に世界113か国の代表が参加して開催された「国連人間環境会議(ストックホルム会議)」にあわせて発表されたものであり、以降、地球環境問題に対する国際的な取組みが始まっている。
その後、国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「我ら共通の未来(Our Common Future)、通称:ブルントラント報告」から、その中心的な考え方であった「持続可能な開発(Sustainable Development)」が広く認知されるようになった。現在、各国は国連主導の国際目標として、2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいる。
一方で、世界全体の動向としては持続可能な方向に向かっているとは言い難く、依然として私達は環境危機に直面している。「成長の限界」から半世紀経ち、40以上の報告書を出してきたローマクラブが最近出版した書籍『ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 Come On! 目を覚まそう! ――環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか?』(2019)では、この危機を分析し、世界には「新たな啓蒙」や、よりシステマティックなアプローチが必要であると結論付けられている。そして、この書籍でも注目されている動きの1つが、後述するサーキュラーエコノミーである。
本書の構成
正確な情報を伝え、理解を広め、できることからすぐに、より多くの人が実践していくことが、サーキュラーデザインにとって極めて重要な課題である。
そこで、本書は実際にサーキュラーエコノミーを実現するために製品やサービス、システムなどのデザインをする、あるいはしたいと考える人が、過去の理論的展開について理解すること、現在直面する課題や具体的な実践例を把握すること、未来の活動に向けて具体的手法を応用し実践できるようになること、の3つを目的に、4章に分けてサーキュラーデザインについて紹介する。
まず、1章「サーキュラーデザインとは何か」においては、学術論文を多数参照しながらデザインリサーチにおけるサーキュラーデザインの位置付けを試みる。デザイン手法や理論の歴史的変遷を捉え「意地悪な問題」としての持続可能性に関する課題を認識し、その対応策として今日注目される広義のデザイン領域について理解することで、サーキュラーデザインに関する現況の複雑さを把握することを目的とする。
続いて2章「サーキュラーデザインから見る、衣食住が抱える課題」においては、衣食住の3点に分けて2021年現在認知されている社会技術的課題に対する国際的取組みや認証、基準制度についての理解を深める。
3章「サーキュラーデザインの現在-萌芽的事例」においては、サーキュラーデザインを包括的に、あるいは局所的に実践する個人や企業、組織の開発事例などを中心に紹介し、図解総研の図と共に活動内容を把握する。
そして4章「サーキュラーデザインを実践するためのガイドとツール」では、読者の皆様がデザインを実践するにあたって、有益となる具体的なガイドやツールを紹介する。
本書は、奇抜で斬新な姿形をつくりだすこと、と一般的に認知されてきた旧来のデザインに関する本ではない。かといってポストイットばかりで実際に何もしない、デザイン行為の矮小化も奨励しない。デザインの対象や手法は拡張を遂げており、新たなデザインの解釈とそれに伴う実践が必要である。このことを前提に、持続可能な未来に移行するための創造的手段として「広義のデザイン」というキーワードを本書では用いている。20世紀に確立した領域に専門的に従事するデザイナーのみならず、横断的デザイン(Crossdisciplinary Design)、あるいは学際的デザイン(InterdisciplinaryDesign)も包含するのが超域的、広義のデザイン(Transdisciplinary Design)としてのサーキュラーデザインである。
広義のデザインとしてのサーキュラーデザインの中には、素材、製品、サービス、利害関係者のエコシステム、利用者の行動変容、ビジネスモデル、未来社会など多数のデザイン対象が絡み合い共存している。1人で全てを担うのは現実的には難しいかもしれない。だが、包括的な理解に基づき局所的なデザインを複数担い、不足箇所はコラボレーションすることで補完し、全体をデザインすることは可能だ。この本は、そんな取組みをしたいと考える人のためにこそ存在する。
本書が、読者の皆様にとって持続可能な未来の暮らしをデザインするための手がかりとなってくれれば嬉しい。
2021年12月 水野大二郎
おわりに──本書の内容と限界、展望
本書は、物質循環を描くサーキュラーエコノミーのためのサーキュラーデザインについての理論的背景、現状の課題や具体例、デザインのためのガイドやツールなどを紹介した。
自然資源を採取し人工物を製造、販売することで経済を駆動させる一方向の仕組みに対して、今とは異なる人工物と人間の循環に基づく関係性を築くために広義のデザインとしてのサーキュラーデザインは何ができるのか。
デザインを行使する人の想像力が及ぶ範疇を拡張させ、デザインの創造力を発揮できる対象を認知し、行動に移せる人を1人でも多く増やすこと。この目的に基づき、2022年現在に至るまでの間に発表された学術論文などを中心に、正確な情報を提供することに本書は注意を払った。「実務家の経験や勘、直感に基づくデザイン」だけでは、意地悪な問題としての持続可能性に対峙することが難しいと考えたためだ。とはいえ、本書にはいくつもの限界があった。
まず、本書で紹介した既往研究の多くはサーキュラー製品デザインとしての「動脈産業」に関する内容であり、「静脈産業」における新たなデザインには深く触れることはしなかった。
また、本書は人工物を生産、消費させることで駆動する経済の先、つまり脱物質化の先にある脱消費社会に関する未来シナリオや未来洞察の手法などには触れられなかった。すぐに実行することが求められるデザインのうち、漸進的なコラボレーションによって対処可能な設計要件を中心に解説、紹介したためである。だが、根本的な変革を諦め、環境負荷を多少低減するとされる製品やサービスをデザインし、消費者が後ろめたい思いをせずに引き続き消費社会を享受できる世界をもたらしても、それは持続不可能である。グリーンウォッシングを解消しえる未来をデザインすることに関しては、本書はスペキュラティヴ・デザインなどの可能性をあげた。興味がある方はぜひ長谷川愛『20xx 年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』(2020)などを参考にしていただきたい。
サーキュラーデザインはまだ始まったばかりであり、研究も実践例も日々更新されている。本書を手に取っていただいた読者の方と、引き続き、意見交換や議論をしていければ幸いである。
謝辞
本書は、水野と津田和俊さんとのコラボレーションになる。
津田さんと初めて会ったのは2010年、水野が実行委員を務めていたデザインイベント・DESIGNEAST でのワークショップとトークセッションだった。当時、津田さんはFabLab Japan の一員として参加され、デジタル・ファブリケーションの文脈からコラボレーションが始まった。後に津田さんがサステナブルデザインや資源循環を専門とされていたことを知り、京都精華大学の蘆田裕史先生と共同責任編集を手がけるファッションの批評誌『vanitas』において、サステナブルデザインとファッションに関する論文を執筆いただいた。縁あって再度、津田さんとコラボレーションできる機会を学芸出版社の井口夏実さんからいただけた。
また、3章では、各キーワードを代表する事例についてより理解しやすくするために、図解総研に図を制作いただいた。代表的な事例の要素を抽出し可視化したことで、サーキュラーデザインにおけるデザイン要素が分かりやすくなっていれば嬉しい。
井口さんとパートナーの滋賀県立大学の山崎泰寛先生には、公私にわたり大変お世話になった。コロナウィルスの影響で出張はなくなったが、育児がなくなるわけではなく、ストレスのたまる日々が続く時期もあった。そんな時でも快く水野と子供のサポートを頂きつつ、研究に関しても相談にのっていただいた。
本書は、水野が慶應義塾大学にて2013年ごろからサステナブルファッションやサービスデザインに関する研究や実践を行なっていたことに端を発する。
研究会学生であった中田麻莉香君、太田知也君、物井愛子君、藤沢かれん君、川崎和也君、木原共君、廣瀬花衣君、渡邊光祐君、木許宏美君、田村祥子君、佐野虎太郎君、平田英子君らとの議論によって持続可能性やデザインに関する諸課題が明らかとなると同時に、田中浩也先生や松川昌平先生をはじめ、各先生方の研究室学生との意見交換によって多角的な視点をえることができた。また、同時期からのお付き合いとなる京都大学の山内裕先生との「デザインとは何か、サービスとは何か」に関する議論も、本書の重要な起点の1つとなった。
また、慶應義塾大学COI プロジェクト「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」に関する活動の一環で実施した企業コンソーシアム・ワーキンググループにおいては、岩嵜博論先生や庵原悠様、田島瑞希様、田邉集様らと共にファブシティにおけるサーキュラーデザインについて検討することができた。
水野が鎌倉から京都に2019年春に引越し、京都大学の塩瀬隆之先生と、ナカダイ株式会社の中台澄之様の2人を交えて意見交換会を京都大学総合博物館でしたことも、本書が生まれる重要なきっかけの1つである。その後、塩瀬先生は『問いのデザイン』を、中台様は『捨て方をデザインする循環ビジネス』をそれぞれ上梓された。本書は、お二人の書籍への応答のようなものでもある。
また、Re:Public の田村大様、市川文子様、白井瞭様、内田友紀様をはじめとしたメンバーの皆様や、MTRL / FabCafe Kyoto の木下浩佑様とは、京都に引越しした後も本書の内容と関連する様々な活動にご一緒させていただいた。この経験によって、本書の内容をより深めることができた。執筆にあたっては廣田悠子様、京都工芸繊維大学大学院のハフマン恵真君にそれぞれ写真資料収集、4章執筆に協力いただいた。
そして最後になるが、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab の小野芳朗先生、そして岡田栄造先生とパートナーの喜美子様には、京都での水野の活動に全面的にご支援いただいた。KYOTO Design Lab の存在によって、本書は生み出すことができた。
ここに名前を挙げることができなかった方も多数いるが、本書の成立に関わった関係者の皆様に、深く感謝いたします。
水野大二郎