成功する自転車まちづくり

古倉宗治 著

内容紹介

世界の最新政策や科学的データに基づく提言

2012年度日本環境共生学会学会賞(著述賞)受賞

家計と健康に優しく、地域活性化・低炭素化に貢献する自転車だが、「歩道上が安全」「利用促進は違法駐輪を増やす」といった固定観念からか、総合性やバランスを欠く施策が多い。そこで世界の最新政策や科学的データにもとづき、自転車のあり方をもう一度基本から見直し、効果的な政策と計画のあり方、成功の秘策を提示する。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2491-3
発行日 2010/10/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにおわりに関連情報
はじめに

序 章 あのアメリカが自転車利用促進に500億円もつぎ込む理由

急激に拡大する自転車政策/石油輸入・医療費削減をめざす/連邦主導でガソリン税を投入

第1章 自転車利用のメリット

1 環境にも家計にもやさしい

自家用車よりも便利で安い/自転車は、移動手段中、車体重量が一番軽い/自家用車は環境負荷が大きい/他の交通手段との比較

2 公共交通との役割分担もできる

ヨーロッパにみる自転車と公共交通との関係/自転車との競合ではなく自家用車との競合を問題視すべし/自転車のメリットを発揮できる距離/徒歩・自転車の分担のあり方/近距離での自転車と他の交通手段との分担/自転車との連携で公共交通の客を増やせる

3 自転車は生活習慣病の予防につながる

生活習慣病の医療費と死亡原因/生活習慣病に対する自転車活用の効果/他の運動と比べた場合の自転車こぎのメリット

4 ライフスタイルも豊かにでき、子供の発達にもよい

5 主体別にみた自転車利用のメリットとその訴え方

主体別・項目別にみた自転車利用のメリット/自転車計画等でのメリットの位置付け方

第2章 自転車の用途別施策

1 促進方策は利用目的別に考えること

自転車の利用目的/利用目的別の施策が必要/自転車の用途別の有効な利用促進施策/まず促進したい利用目的と、それに即した方策を考えよ

2 自転車による通勤 ~企業と従業員の経費節減

自転車通勤のメリット/就業者の通勤の実態/企業の自転車通勤に対する態度/自転車通勤の有効な促進策/自転車通勤の推進に対する具体的な取り組み

3 自転車による買物 ~自転車客こそ良いお客

買物に行くのは車、自転車、徒歩?/自転車による買物のメリット/「車で来る客こそ良客」ではない/自転車による買物の有効な奨励策/自転車による買物の奨励策の方向および実例

4 自転車による通学 ~健康と環境教育の切り札

自転車通学の状況/自転車通学のメリット/自転車通学の有効な推進策/自転車通学等の推進による子供の環境教育の意義

5 自転車による回遊・レクリエーション ~地域活性化

4275kmにおよぶわが国の大規模自転車道/自転車による回遊・レクリエーションのメリット/回遊レクリエーション利用の有効な推進策/自転車利用の奨励方策の実例

6 その他の自転車利用用途

日常利用/業務利用

第3章 自転車の空間別施策

1 専用空間の確保のみにこだわっている日本の取り組み

自転車専用空間の確保がベター/歩行者にも自転車にも危ない歩道通行/世界の自転車先進国は車と自転車の共用空間が主流/ネットワークの重要性

2 自転車と車の共用空間への施策

車との共用空間はそれほど危険か/車道に自転車の走行空間は十分にある

3 自転車専用走行空間確保への施策

専用空間を確保する方策/自転車専用レーン(自転車専用通行帯)が切り札

4 自転車の駐輪空間

自転車利用を促進する駐輪場/駅前の需要と供給の総合バランスのとり方/駐輪空間の提供責任は誰にあるか/総合的な駐輪空間の需給の取り方~自治体の負担軽減

5 所有自転車およびレンタサイクル

日本は自転車使い捨ての時代/レンタサイクルの導入は利用者の意向をよく把握して/大きなメリットを持つコミュニティサイクル~利用用途と利用範囲のコンセプトを明確に/企業向けのレンタサイクルの可能性~ちがさき方式レンタサイクル

6 自転車の走行空間の情報提供の方法

自転車地図の現状/地図による安全性の情報提供/地図とセットでの自転車マニュアルの提供/安全性の自己チェックの方法

第4章 自転車の課題別施策

1 自転車の放置の課題 ~駅前駐輪需要の軽減施策

自転車放置とその対策の状況/自転車利用促進を柱とした駅前自転車放置対策

2 自転車の安全の課題 ~安全性の向上施策

自転車利用が増えたら事故率は減る/自転車利用促進に参入後は事故が減っている

3 ルール・マナーの課題 ~レベルアップのための施策

自転車利用促進とルール、マナー/自転車がルール、マナーを守れるような環境整備/原則の車道通行によるルール、マナーの実際的な体得/即効性のある対策

4 その他の課題

雨に弱いという課題~雨に強くなる対策/自転車の盗難に関する課題~盗難防止の対策

第5章 わが国の自転車政策および自転車計画とその策定の方法

1 進んでいる世界の自転車政策と日本への応用の可能性

~アメリカ、オランダ、ドイツなど
先進国の自転車政策の推移/国が策定を進めている自転車計画/先進国の自転車政策や自転車計画から学ぶ三つの重要な点

2 わが国のこれまでの自転車政策

わが国のまちづくりの変遷と自転車/まだまだ拡大の余地があるわが国の自転車利用/わが国の自転車政策の推移/自転車専用空間の整備を進める通行環境整備モデル地区(2008)

3 自治体の自転車施策の状況と自転車計画の課題

アンケートにみる自治体の施策の状況/国の自転車政策・自転車計画の課題~「自転車先進都市」(2001~2004)/わが国の自転車計画の問題点のまとめ

4 自転車計画のあるべき姿

わが国の取り組むべき項目/目標設定/目標達成のための計画・施策の組み立て方/国と地方との役割分担/交通基本法のあり方

終 章 今後の自転車政策の方向

自転車活用型まちづくりの意味/わが国の自転車政策のあるべき方向性/コペンハーゲンの自転車政策のスタンス~自転車道の雪かきを優先

注・参考文献
索引
おわりに

古倉 宗治(こくら むねはる)

1950年生まれ。
1975年東京大学卒業。建設省、東京工業大学助教授、(財)民間都市開発推進機構都市研究センター、(財)土地総合研究所等を経て、2008年から㈱住信基礎研究所研究理事。京都大学大学院客員教授(公共政策大学院及び同法科大学院)麗澤大学経済学部その他の講師。国土交通省「都市交通としての自転車利活用推進研究会」、奈良県「奈良県自転車利用促進方策検討委員会」、宇都宮市「自転車のまち推進計画策定懇談会」等の委員。
自転車の総合的体系的な利用促進策、放置問題や自転車の交通政策などのほか、街づくりに関する法制的な規制、都市環境における環境共生のあり方、景観、土壌汚染など都市計画・都市環境分野で調査研究を実施。2004年に、自転車のソフト面の利用促進策に関する研究で学位(博士(工学))を取得。
著書に『欧米先進国にみる自転車政策の高度な取組み』(サイカパーキング㈱)、『自転車先進国における新たな自転車政策の展開』(サイカパーキング㈱)、『自転車利用促進のためのソフト施策』(ぎょうせい)、『自転車市民権宣言』(リサイクル文化社・共著)、『自転車交通の計画とデザイン』(地域科学研究会・共著)などがある。
専門は、内外の自転車政策・自転車計画、都市公共政策(まちづくり法制、都市計画法制度、都市環境)など。

今、自転車がホットである。環境と健康という切り口で注目を集めて身近なエコであることも手伝い、さまざまなメディアに取り上げられて、世界的にも多くの国で一種のブーム化が進行している。日本も例外ではない。特に、わが国は、国民性として流行に乗る傾向が強く、対象の良否は関係なく、すぐに新しいことに流されていく(バブルの時の土地ブームがそうである)。自転車は、これに加えて市民の間で日常的に身近であり、乗り物としての性格もわかりやすいため、自治体も安易に自転車をテーマに取り上げようとする。しかし、自転車をテーマとする施策は、そのように簡単なものではない。環境と健康というブームに乗って、自治体の自転車施策の全体の体系的整理もせず、ハードの空間やレンタサイクルだけを断片的に用意しても、自転車利用がすぐに盛んになるわけではない。また、永続性を持った交通手段として活用されるようなものにはならない。そこには、用意周到に検討され、かつ、地域の状況に見合った体系的で最適な施策が必要である。さらに、これを支えるために、自転車の他の交通手段に比べた大きなメリットに対する共通の理解が必要である。

自転車は、単に健康によく、環境にやさしい乗り物であるだけではない。個々人の生活、企業活動、地域や自治体、国、地球にとって、それぞれの具体的なメリットが数多く存在する。さらに、自転車のメリットはそれを使うわれわれ人間の側で、工夫し可能性を伸ばすことが求められている。
太陽光発電、風力発電、電動自動車などベーシックなエコのツールは数多く開発され、提案されている。環境にやさしいツールは自転車以外にもたくさんある。しかし、これらは、最新の技術を駆使して、最大のエネルギー効率を上げて、環境負荷を削減するようにしているが、その開発や製造、さらに管理運用、最終的な廃棄までのライフサイクルのコストと環境負荷が相当ある。

これに対して、自転車は、徒歩と並んで最も原始的な移動手段であり、内燃機関や駆動機関を使わず、かつ、外部からの直接のエネルギーを補給することもない。人力で動き、しかも、装置も機械技術や素材の進歩はあるものの、基本的には簡単なものである。自転車という乗り物が生まれてから、この原理に大きな変化はない。このような簡単な軽い装置で、かつ、人力だけでこのように効率よく移動できるものは、他にはない。

しかし、多くの人は、このような自転車の大きな利点に理解を示し、重要視するふりをしながら、いざ、利用を盛んにするための方策の検討や実施の段階になると、放置問題、走行空間のなさ、ルール無視の自転車利用者などを楯に、最優先すべき自転車利用促進策の足を引っ張る。また、自転車の位置付けも、車道では左側端という隅っこに追いやられ、車からは、自転車を渋滞の原因、危険な存在などとして、じゃまもの扱いされ、また、歩道では、たとえルールを守っても、歩行者などから危険視されるなど、道路空間での居場所がない。

本書は、このように重要性を認識されてはいるものの、その一方で正当な扱いがなされてない自転車を正当な地位にまで高めることをめざす。このため、ハードのみのインフラの整備しかない施策、レンタサイクルの提供のみの一面的な施策など総合性やバランスを欠く施策、効果的なまたは的確なものとはいえない施策に対して、自転車をもう一度根本から理論的に見直すことを提案するとともに、自転車を真正面から理解するために、様々なデータを駆使して、自転車の本当の姿を描き出そうとするものである。これらを通じて、施策の具体的な考え方、手法、効果などを明らかにして、自転車問題を考えるきっかけと行政における自転車利用の促進の秘策を提示する。

この本は、これから自転車に関する施策に取り組む自治体やすでに取り組んでいるがバージョンアップを図りたいといする自治体、そして、自転車施策の客観的な理解を得たいユーザーなどに読んでいただきたい。さらに幅広く地球環境、まちづくり、交通などをテーマとしている人などにも、自転車の真の実力を理解していただくことを期待している。

これらにより、より効果的かつ的確な自転車利用および自転車施策のあり方が広く理解されれば望外の幸せとするところである。

2010年10月

古倉 宗治

本書においては、主として、次の三点を強調してきたつもりである。

第1に、自転車のメリットは幅広く、また、様々な側面と主体に及ぶものであることである。このような多くのメリットを重ねてもつ移動手段は、自転車を置いてほかにない。そして、余計なことを考えて、せっかくこのメリットを生かし切れていない現状がある。そこで、これを最大限に生かすような施策が必要であり、そのための方法や理論的な根拠を明確にしてきた。

第2に、この自転車施策は、ややもするとハードの走行及び駐輪の空間整備に重点が行ってしまうが、自転車の用途別に自転車利用の促進のためのソフト面の施策も重要であり、これらを総合的に体系化して講ずることが必要であることである。このため、自転車利用者や住民の利用に関する実態や意識を的確に把握することにより、有効な自転車政策を組み立てることを提案した。

第3に、自転車の利用促進には、放置問題、交通安全など大きな課題が存在しているが、自転車利用をうまく促進することで、効果的かつ有効な方策を講ずることが可能であることである。これは、さまざまな方法により、立証してきたつもりである。このような方法を参考にして、自転車の一層の利用促進とより的確な課題の解決のあり方を考えるべきである。

本書は、以上のような思いを託して、作成している。この本の活用により、国民一人一人に自転車のメリットが幅広く行き渡ることを期待するものである。

最後に、本書の内容の基礎となっているアンケート調査やその結果分析等については、国、地方公共団体、自転車駐車場整備センター等の調査研究により明らかにされた内容に負うところが大であり、これらの主体に心から感謝申し上げたい。また、自転車活用によるまちづくりのあり方の検討にご支援をいただいた三井不動産㈱や事業活動での自転車活用事例等についてご教示頂いた各社の方々にも、そのご協力に感謝申し上げる。さらに、今まで、何年にもわたり、自転車に関する調査研究をともに行ってきたプラネットフォーの佐藤、吉川、中村の各氏にも、ご支援ご協力に心から感謝する次第である。さらに、本書の作成に当たって多大なるご理解と細やかなアドバイスとご支援をいただいた学芸出版社の前田、小丸両氏にも心から感謝の意を表するものである。

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