観光のビジネスモデル

石井淳蔵・高橋一夫 編

内容紹介

低利益体質に悩む観光業界、補助金頼りから抜け出せない観光地域づくり。この状況を打破するには売り上げや集客数ではなく「利益」を生みだす仕組みが必要だ。先行事例を紹介するとともに、その凄さや面白さを経済学・経営学の理論から読み解くことによって、ビジネスイノベーションの実践力・応用力を身につける一冊

体 裁 A5・220頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2527-9
発行日 2011/12/15
装 丁 コシダアート


目次著者紹介はじめに
序章 観光ビジネスのイノベーション―時代の変化を取り入れた顧客創造の仕組みづくり

第1部 海外で成功した観光産業の新しいビジネスモデル

1章 世界のレストランを即時に予約する「オープンテーブル」
―ICTにより多様で確実な予約を手軽に提供
2章 職業・社会体験のエンターテインメント施設「キッザニア」
―勉強を楽しみにしてしまう発想の転換
3章 ローコストキャリア(LCC)による価格革命
―空の自由化を背景とした航空輸送のコモディティ化
4章 ウェブビジネスのトレンド
―ユーザー中心主義の新時代へ

第2部 日本の企業のビジネスイノベーション

5章 グローバルな提携を目指す航空業界
―アライアンスがもたらす新たな価値
6章 アジアを基盤としたグローバル・メジャーを目指すJTB
―強みを活かした欧米メジャーとは異なる戦略
7章 総合旅行会社の新たな店頭販売モデル
―経験価値マーケティングによる商品単価向上への挑戦
8章 メディカルツーリズムによる中国富裕者層へのアプローチ
―観光と医療をアッセンブルしサプライチェーンを構築

第3部 観光まちづくりに向けたイノベーション

9章 吉野山の大渋滞の解消
―新しい公共による交通需要マネジメント
10章 黒字経営を続ける㈱とみうらの戦略
―観光まちづくりプラットフォームによる地域経営
11章 コミュニティ主導型博覧会としての別府オンパク
―コミュニティビジネスを生み出す観光事業

第4部 時代と向き合う観光需要創造戦略

12章 観光ビジネスにおける《癒し》ブーム
―模倣と創造的適応によるマーケティング
13章 休暇分散化で何が変わるか
―制度変更による競争の導入でパイ拡大を目指す
14章 アニメフェアによるツーリズムの創出―官民協働による観光振興

●編者

石井淳蔵  流通科学大学学長

●編著者

高橋一夫  流通科学大学サービス産業学部教授

●著者

手嶋雅夫  オープンテーブル㈱代表取締役社長
高橋一夫  流通科学大学サービス産業学部教授
関口陽介  ㈱キッズシティージャパンマーケティング本部長
野村尚司  ㈱ツーリズム・マーケティング研究所航空マーケティング研究室長
鶴本浩司  ㈱マーケティング・ボイス代表取締役社長
芝田浩二  全日本空輸㈱アライアンス室長
野沢  肇  ㈱ジェイティービーグローバル事業本部事業・マーケティング統括部長
小里貴宏  ㈱ジェイティービー旅行事業本部営業企画担当部長
谷    光  ㈱JTBコミュニケーションズ執行役員事業開発局長
城福健陽  国土交通省総合政策局公共交通政策部交通支援課長
後藤貴康  ㈱JTB中部交流文化部地域活性化・地域推進課長
井上健二  北海道運輸局企画観光部長
松井  剛  一橋大学大学院商学研究科准教授
鈴木昭久  国土交通省自動車局旅客課長
海部岳裕  流通科学大学大学院流通科学研究科博士後期課程
大場誠子  東京都産業労働局商工部大型店環境調整担当課長

2009年11月から毎月1回、東京の八重洲にある流通科学大学の東京オフィスで「観光ビジネスモデル研究会」を始めることになりました。観光の学科をかかえる大学ではありましたが、そもそも観光学は学問的に確立されていないだけに、本学の観光学科としての特徴とは何かをもっとしっかりとしたものにしなければならないという思いがありました。マーケティングと流通、実学を基盤としている大学ですから、観光事業の分析を中心としたサプライサイドの視点を出発点として研究会を立ち上げようということになったのは、初回を開く4カ月前の暑い盛りの頃でした。

折しも2009年という年は、前年のリーマン・ショックの影響から企業業績は芳しくないところが多く、日本国内で流行した新型インフルエンザの影響もあって、観光業界も苦しい経営を強いられた年でした。日本のフラッグキャリアだった日本航空も、2010年1月に会社更生法を申請して破綻をするのですが、そのスキームをめぐっての議論が活発に繰り広げられていました。

しかし、そんな逆風の中でも業績の良い企業もありましたから、この両者の間に横たわるのは何だろうか、ということを考えさせられました。どの企業も優れた人材によって経営されており、彼らはみな勤勉で頑張っているではないか。それなのにボトムラインに表れる利益に大きな差が出ているのはどうしてなのだろうか。ヒト・モノ・カネの経営資源やそれに基づいて立てられる戦略ではなく、この両者の間にはもっと本質的な違いがあるのではないかという疑問がありました。こうした思索の中で、「利益を生みだす仕組み」としてのビジネスモデルの設計に違いがあるのではないかと考えるようになりました。議論が進んでいた研究会のテーマを「観光のビジネスモデル」としたのはこのような経緯からでした。

大学生の就職人気ランキングの上位には観光産業に関わる企業が数多く顔を出し、日本政府も『観光立国推進基本法』という法律の中で初めて「立国」という文字を使うほど気合いを入れているにもかかわらず、観光業界で働く人たちからは停滞感や閉塞感を感じるという声も聞いていました。そこで、「観光ビジネスモデル研究会」では、観光業界の明日を切り開く可能性をもつビジネスの仕組みを事例で紹介し、そのプロセスの可視化を図るとともにマーケティングなどの経営学や経済学の理論と照らし合わせて考えてみるという内容で開催していくことにしたのです。そうすることで、観光に携わるビジネスマンや行政関係者に「明るい観光の未来」を提示するとともに、ともすれば表面的な理解に終わって現場に役立つことが少ない理論を真に理解し、応用できる力をつけてもらえるようにするにはどうしたら良いのかを探っていこうという研究会の趣旨もはっきりとしてきました。

毎回の研究会では、観光関連企業と地域の観光振興事業から1つずつ事例を紹介してもらい、2つのテーマを議論するという贅沢な内容でスタートをしました。参加していただいたのは、大学の研究者だけでなく、観光庁や経済産業省、さらには東京都や神戸市などの自治体で観光行政に携わる行政マン、JTBや全日空などの観光関連産業のビジネスマンの方々でした。講師の方々には事業タイプの特性や事業の仕組みについての解説とともに、新しい挑戦的なビジネスモデルや優位性をもたらしたビジネスモデルの凄さや面白さを紹介していただきました。日々、環境の変化に向き合い、新しい切り口を追い求めている人たちが偶然と必然を積み上げながらビジネスモデルを磨き上げていく様子は、研究会の聴き手にワクワクした高揚感を与えてくれました。

本書は、研究会の講師の方々に、その時の内容を基にしてまとめていただいたものです。皆さんは日頃の業務がお忙しいビジネスの最前線に立っておられる方々で、時間の合間を見つくろって執筆をしていただきました。

一方、「観光ビジネスモデル研究会」は流通科学大学の社会連携推進課の職員の皆さんを中心に支えていただきました。 この場を借りて皆さんにお礼を申し上げます。

また、本書の企画にあたっては、当初から学芸出版社取締役の前田裕資さんにお世話になりました。2009年からまる2年の時間がかかってしまいましたが、前田さんの励ましと同社の森國洋行さんのしっかりとした編集作業のおかげで、出版までこぎつけることができたと思います。末尾になりましたが感謝を申し上げます。

2011年11月

編者 流通科学大学学長 石井淳蔵

同教授 高橋一夫

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