都市計画学
内容紹介
高度成長期に築かれた制度と技術を理解・継承しつつ、人口減少・少子高齢化時代の都市づくりに必要な考え方と手法を再構築した、次世代都市計画教科書。土地利用・施設配置、都市交通、住環境、都市デザイン、都市緑地、防災、広域計画とオーソドックスな構成に、計画策定技法(市民参加)、職能論、ブックガイドが加わった。
体 裁 B5変・208頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2689-4
発行日 2018/09/25
装 丁 赤井佑輔(paragram)
まえがき
カラー口絵
序章 時代認識 ――都市計画はどこから来て、どこに向かっているのか
- なぜ、時代認識なのか?
- 「つくる都市」から「できる都市」への転換
- 「ともにいとなむ都市」の時代へ
1章 土地利用と施設配置 ──都市の構造をつくり、都市の変容をマネジメントする
- 都市を構成する要素と都市計画の基本的枠組み
都市の構成要素
「構想 -計画 -実現手段」という捉え方 - 都市計画図 ――土地利用と施設配置の計画を示す図
事例1:名古屋市(日本)
事例2:デトロイト市(米国)
事例3:ポートランド都心部(米国) - なぜ土地利用や施設配置の計画が必要なのか
都市計画法の目的と理念
土地利用の「自然性」と「社会性」
建築規制から施設配置・土地利用計画へ - 日本の土地利用・施設配置計画の歴史
都市の骨格となる施設をつくる
市街地の拡大・拡散を抑えながら市街地を更新する
都市再生と都市構造再編を進める - 日本における現行の土地利用・施設配置計画制度
日本の都市計画制度の枠組み
都市計画制度の中心を担う土地利用計画
土地利用計画の構成
都市計画事業
都市計画の手続きと財源 - マスタープランの策定を通じた都市構造の再構築とマネジメント
マスタープランの都市計画制度への導入
低成長時代のマスタープランの事例
三重県都市計画方針(2017年策定)
三重県北勢圏域マスタープラン(2018年策定)
鈴鹿都市計画区域マスタープラン(2012年策定)
鈴鹿市都市マスタープラン(2016年策定) - 目指す都市の構造に関する論点
「コンパクトシティ」や「集約型都市構造」の流行
「コンパクトシティ」と「間にある都市」 - これからの土地利用計画:地区スケールの都市再生とそれを編集する都市のプランニング
2章 都市交通 ──都市の機能と暮らしを支える
- 都市交通の計画とは
都市における交通の基本的な捉え方
都市交通計画の施策ツールと目標 - トラディショナルな目標と計画
高度成長期からの主要な目標と供給側の交通施策
都市道路網の計画
公共交通の計画
都市交通計画の立案のための調査・分析手法 - 需要追随型アプローチからのパラダイムシフト
都市交通施策のパラダイムシフト
交通需要マネジメント
長期的なTDM施策としての都市計画 - 都市交通計画のこれから
低炭素社会、超少子高齢・人口減少社会における課題と目標
都市交通のユニバーサルデザイン
コンパクトシティ・プラス・ネットワークを支える公共交通
新しい交通手段と交通サービス
交通まちづくり
3章 住環境 ──都市居住の礎を築く
- 住宅政策と人々の住まい
住宅の大量供給と「量から質」への転換
ストック重視の住宅政策へ
多様化する住まい方 - 住環境の理念とマネジメント
住環境の理念
防犯性
買い物の利便性
ウォーカビリティ
住環境マネジメント - 超高齢化・人口減少時代の住環境
郊外ニュータウンの衰退
空き家問題
高齢者の安定居住
高齢者の地域参加
4章 都市デザイン ──魅力的な都市空間をつくる
- 都市デザインとは何か?
- 都市デザイン思潮の歴史的展開
源流としてのシビックアートとモダニズム
アーバンデザインの誕生と都市デザイン論の展開
公共政策としてのアーバンデザイン
現代の都市デザインへ - 関係性のデザインとしての都市デザイン
空間の関係性
時間の関係性
主体の関係性 - 近年の都市デザインの課題と動向
景観の創造的コントロール
公共空間の再編成とリノベーション
アーバンデザインセンターの展開
5章 都市緑地 ──都市と自然を接続する
- 都市・自然・ランドスケープ
- 都市緑地計画の展開
①公園からグリーンベルトへ(1870-1940年代)
②市街地の拡大と緑地保全(1950-1970年代)
③環境保全・グローバル化と緑地(1970-1990年代) - 都市緑地計画の現在とこれから
①人間と緑地―マネジメントの時代へ(2000年代-)
②これからの都市緑地計画
6章 都市防災 ──都市災害を軽減し、安全で快適な都市を創造する
- 都市防災の概念整理
都市防災の定義
都市防災を計画する基本的アプローチ
都市防災の三つの特徴
都市防災の計画体系と方法 - 都市防災の文化と思想
江戸の大火対策
基盤整備としての都市防災
相次ぐ風水害と都市不燃化の希求
地震火災対策の進展
建物の耐震化と地域防災
これからの都市防災―ハードとソフトの連携 - 都市防災の課題対応
建物倒壊
市街地火災
避難行動
帰宅困難者対策
地下街の防災対策 - 都市防災の将来ビジョン
都市防災マネジメント
複合災害リスクへの対処
巨大災害リスクと大都市防災
都市の復興とレジリエンス
7章 広域計画 ──拡大・変化する都市圏の一体的な発展のために
- 広域計画の基本概念
広域計画の意義
広域計画の役割・機能
広域計画の要素と構成 - 広域計画の歴史と変遷
広域計画の歴史を学ぶ意義
戦前までの広域計画
高度成長期の広域計画
安定成長期の広域計画
低成長・成熟期の広域計画 - 広域計画の成果と課題
広域計画の評価の難しさ
国土計画と人口動態
広域計画の現代的課題
8章 計画策定技法 ──都市計画はどのような方法や技術に支えられているのか
- 計画策定技法を捉える視点
計画策定への期待
計画策定の三つの側面とそれを支える技法
計画策定技法の研究・開発の経緯 - 事例に見る成熟都市の計画策定技法
1980年代の米国諸都市のダウンタウン・プラン策定
ポートランド・セントラル・シティ・プラン(1988年)
ダウンタウン・シアトル土地利用・交通計画(1985年) - 米国におけるプランニングの定義とプランナーに求められる技術
プランニングの定義とプランナー
プランナーに求められる技術
都市プランナーに求められる技術に関する文献 - 計画策定技法の日本の都市計画への適用
日本の都市マスタープランの計画策定技法
克服すべき日本の計画策定の現実
9章 職能論 ──都市計画マインドを育む
- 都市計画家という職業
国と自治体の都市計画職
民間の都市計画職 - 都市計画家を育成する教育
大学・大学院での都市計画の専門教育
マルチスケールの都市工学演習
社会人向けの大学・大学院
さまざまな都市計画の学びの場 - 先人たちにみる都市計画への志
草創期の都市計画技師たちの志
民間都市計画家のパイオニアたちの志
都市計画家に必要なものは何か
10章 ブックガイド ──都市計画を学ぶための72冊
本書の著者7人のうち6人(中島・村山・髙見・樋野・廣井・瀬田)は、1970年代に生まれ、1990年代から2000年代前半に東京大学工学部都市工学科/大学院工学系研究科都市工学専攻(以下、「都市工」)の都市計画コースに学生として在籍し、その後、他の大学や研究機関を経て、2010年代になって都市工で教鞭を取るようになった中堅の教員である。寺田は、もう少し若く経歴も異なるが、他の著者が学生の頃には都市工になかったランドスケープ系の専門家で、本書の準備を始めた頃、都市工に特任講師として在籍していた。
都市計画の新しい教科書をつくってほしいというリクエストは、これまでも多方面から頂いており、既に体系的に整理された都市計画の教科書が多く存在する中、何か特徴的な教科書をつくらなければという気持ちはあったが、都市工に着任して担当することになった自分たちの講義や演習を準備・実施するので精一杯だった。なぜ自分たちの授業だけで大変かと言うと、都市工は、建築系学科や土木系学科の都市計画とは異なり、都市計画コースだけでも、研究室・研究グループ毎の系列を持った講義が多数あり、一つひとつの講義の内容が狭く深いからである。また、敷地・地区・都市・広域の各スケールの空間計画・デザインを扱う演習は、学生との対話が重要なので、多くの時間を要する。
それよりも大きな問題は、自分たちは基本的に成長時代の都市計画を習ったにもかかわらず、自分たちが教鞭をとる頃までには社会経済状況が大きく変わっており、試行錯誤中の低成長時代・成熟時代の都市計画をも学生に教えなければならないことである。そして、大げさに言えば、「都市計画学」を成長時代・低成長時代・成熟時代という変化に対応するプランニングの学問として再構築する必要があることである。
本書は、現在の都市工の研究室・研究グループや中堅教員の構成に基づき、シンプルに「1章 土地利用と施設配置」「2章 都市交通」「3章 住環境」「4章 都市デザイン」「5章 都市緑地」「6章 都市防災」「7章 広域計画」とし、これに都市工の教育の要である演習の内容に関連した「8章 計画策定技法」「9章 職能論」を加えた。「序章」は1章から7章までの内容を時代区分によって体系的に整理したものである。企画の段階では、例えば、「土地利用と交通を統合したプランニング」など従来の分野を融合した内容を共著で執筆する、「低炭素社会・脱炭素社会」という枠組みの下で各分野の内容を関連づけながら執筆する、分野融合的な「地区の計画とデザイン」の章をつくるなどのアイディアもあったが、教科書としての網羅性を維持しながら分野を大きく再構成することは無謀であることが分かった。従来の縦割りから何ら変わっていないとの批判を受けるかも知れないが、各執筆者は、現在の都市を取り巻く環境を幅広い視野で捉えた上で、それぞれの分野を核に分野融合を図ろうとしているし、都市計画の入門書としては、これまでに確立された分野の構成を尊重する方がむしろ良いとも考えた。
執筆にあたり、自分の研究室・研究グループが取り扱う講義の入門的内容を体系的に整理することが求められた。しかも、成長時代から低成長・成熟時代への接続、今後の展望についても考える必要があった。「一体自分たちは何を学生に教えているのだろう。これで良いのか」と落ち込み、執筆作業が長期に渡ってストップすることもあった。学芸出版社の井口夏実さんの後押しもあって、一応、教科書としての体裁は何とか整えることができたが、正直、これで良かったのかとの不安も残る。
時代の大きな転換期に学生から教員になってしまった1970年代以降生まれの都市計画専門家が試行錯誤しながら今の学生に教えている内容が本書にまとめられている。10年後にはもっとまともな切り口の「都市計画学」ができると良いが、そのような学の発展の足がかりとして、思い切って、本書を世に出すこととした。
2018年8月
著者一同