自動運転レベル4


樋笠 尭士 著

内容紹介

自動運転実装の倫理と法の壁。その解決策

23年4月法改正で可能となった自動運転レベル4では「運転手がいない!」。誰が事故の責任を負うのか。飛び出してきた子供を避けるため誰かを犠牲にしなければならなくなったらAIにどう判断させるのか。市民が求める安全性のレベルはどうか?世界の動向も踏まえ倫理、法、市民意識から社会に受けいれられる方策を探る。

体 裁 A5・172頁・定価 本体2100円+税
ISBN 978-4-7615-2847-8
発行日 2023-03-31
装 丁 美馬智

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はじめに

1 章 自動運転レベル4 の準備はどこまで進んでいるか

1.1 日本の取り組み ──世界に先駆けてレベル4 に挑戦

1.1.1 自動運転レベル1、2 の普及
1.1.2 レベル3 の市販車が登場
1.1.3 レベル3 のサービスカーも登場
1.1.4 期待されるトラックでのレベル4 実現
⑴ 隊列走行
⑵ 限定空間内のトラック自動運転

1.2 世界の取り組み ──欧米はどれくらい進んでいるか

1.2.1 ドイツ
1.2.2 フランス
1.2.3 アメリカ
1.2.4 中国

2 章 誰の命を優先するか?をAI に委ねられるか

2.1 トロッコ問題 ──人命と人命の選択

2.2 日本における解決 ──プログラマーを無罪にできるか

2.3 ドイツの倫理規則 ──ガイドラインによる解決

2.4 EU の倫理提言、イギリス倫理提言、 ISO 39003 ──広域的な提言の意味

2.4.1 EU の倫理提言
2.4.2 イギリス倫理提言
2.4.3 ISO 39003

2.5 ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)と自動運転 ──なぜ自動運転だけ倫理問題が起きるのか

2.5.1 理想の人命保護とは
2.5.2 想定される事例
2.5.3 事例に対する検討[人間]
2.5.4 事例に対する検討[システム]
2.5.5 「人命最優先」の意味とは
2.5.6 誰の人命が保護されるべきか

3 章 自動運転では誰が責任を負うのか

3.1 自動運転レベル0 ~ 2 の刑事責任 ── 一番普及している車の事故時の責任とは

3.2 自動運転レベル3 の刑事責任  ──いま最新の事故ケースとは

3.3 自動運転レベル4 の刑事責任  ──運転者がいない事故の責任とは

3.3.1 改正道路交通法の特徴
3.3.2 緊急時には車両が自ら停止する(MRM)が前提
3.3.3 特定自動運行実施者が許可を得る仕組み
3.3.4 特定自動運行実施者の教育義務
3.3.5 特定自動運行主任者の配置
3.3.6 特定自動運行主任者の義務
3.3.7 新たな主体?「自動運行従事者(仮)」とは
3.3.8 乗客の義務と刑事責任

3.4 自動運転に関するデータ ──何をどれだけ記録すれば許されるのか

3.4.1 日本におけるデータの取り扱い
3.4.2 ドイツにおけるデータの取り扱い

3.5 民事責任と保険  ──技術と法律が自動車保険とどう関わるか

4 章 自動運転レベル4 が社会に受け入れられるために必要なこと

4.1 安全性に対する市民の目 ──一般市民と専門家の溝

4.2 社会が受容するために何をすべきか  ──茨城県境町・栃木県の自動運転バス実証実験の

成果から

おわりに
参考資料 改正道路交通法の抜粋
自動運転倫理ガイドライン V.220617 版

樋笠 尭士

多摩大学経営情報学部専任講師、名古屋大学未来社会創造機構客員准教授
刑法学者。上智大学法学部法律学科卒業。中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。
同志社大学人文科学研究所嘱託研究員、中央大学日本比較法研究所嘱託研究員、嘉悦大学ビジネス創造学部非常勤講師、大東文化大学法学部非常勤講師、中央大学法学部助教、法務省法務総合研究所委託研究員を経て、2021年より現職。
自動運転と法の研究に従事しつつ、名古屋大学未来社会創造機構客員准教授を兼務する。
また、経済産業省のRoAD to the L4プロジェクトや、自動車技術会自動運転HMI委員会などに参画し、ISO/TC241国内審議委員会・専門委員会委員(ISO39003)や、ヴュルツブルク大学法学部ロボット法研究所外国研究員なども務める。近著に「自動運転と倫理」自動車技術2023年1月号、「自動運転レベル4における刑事実務」捜査研究 858号(2022年)など。自動運転倫理ガイドライン研究会代表も務める。

自動運転の「レベル 4」を許可する道路交通法の改正案が 2022 年の第208 回通常国会で可決され、2023 年 4 月 1 日から施行されています。既に世界では、車の完全自動運転に向けた取り組みが進んでいます。2023 年春現在、バス・タクシーの無人運転の実証実験などのサービスカーを除き、いわゆる個人所有のオーナーカーでは、ホンダ(日本)とメルセデス・ベンツ(ドイツ)のみが、自動運転レベル 3(部分的自動運転)の公道走行許可を得ており、日本は世界のなかでも最先端をいくように思えます。しかし、日本では、トヨタ、日産、ホンダが、欧州ではダイムラー、フォルクスワーゲン、そしてアメリカでは GM クルーズ、ウェイモ、中国では、百度(バイドゥ)等が既に自動運転レベル 4 の実証実験に取り組んでおり、車載技術の革新は日進月歩の勢いで、常に抜きつ抜かれつの状況です。
ここで、技術の進歩に比例して問題となるのは、法・倫理・受容性です。いくら技術が発展しても、法が追いつかない、対応していない、責任の所在がわからないと、事業者は困惑します。そして、技術の中には AI が組み込まれており、人工知能に認知・判断・操作を委ねることになるわけですが、ここに道徳的倫理的な思考が反映されるわけです。さらには、いくらすごい自動運転の車を使っても、地域に受け入れられないと、ただのがらくたになってしまうどころか、迷惑に思われてしまいます。
メーカー、事業者、遠隔監視者、現場措置業務実施者(無人運転の車両に駆けつける人)、車両の認証を行う機関、車両の販売・広報に関する基準を策定する機関、行政、都市計画関与者、まちづくりに携わる者、コミュニティ共創に関わる者、つまり、車を取り巻くすべてのステークホルダーにとって、法・倫理・受容性を考えることが必要なのです。
そもそも、自動運転「レベル 2」では運転手の監視が条件であり、システムが正常に動作しても事故が起きたとき、その責任は運転手にあることは明確です。しかし特定条件下とはいえ、一般道路での自動運転を想定した「レベル 4」では、運転手が車内にいないため、誰が責任を負うのかがはっきりしないのです。
仮に完璧に安全な車ができても、急に飛び出してきた小学生たちを避けるため、別の歩行者や運転者を犠牲にしなければならないとしたら、どうか? 小学生を避け電柱にぶつかって運転者が亡くなってしまったときに、運転手は称賛されるかもしれません。しかし、AI がそうした判断をしたとき、設計者が殺人罪に問われるとしたら、誰も恐くて技術開発に取り組めません。さらに、自治体や企業が都市計画・まちづくり・シェアリング事業において、「MaaS(マース)」という言葉に象徴されるように、車、さらには自動運転を活用した交通計画にシフトしている世の中で、事故を防ぐために誰がどのような対策を講じればいいのか、何の情報を共有すべきなのか等がわからないと、各事業者は最初の一歩が踏み出せません。
そこで、自動運転の実装に立ちはだかる倫理、法、そして社会の受容性を考えるのが本書の目的です。

以上、本書では、自動運転について、国際動向、技術、法律、倫理、社会的受容性について学んできました。レベル 4 の自動運転が始まるときに、われわれは何をしなければならないか、まさに今がそれを考えるときです。従来の手動運転車両同士では、ライトでパッシングしたりして、車道での譲り合いが起きているものの、相手が自動運転車両(レベル 4)だと判明すると、安全性重視の自動運転だから、何をしても大丈夫だろうと過信し、強引な運転を引き起こすこと等も考えられます。「お先にどうぞ」をインターフェースとしてどう表示するか、技術的な部分も大事ですが、やはり、まちづくり全体としてどのようなモビリティを走らせたいか、全員で考えることが先決でしょう。
事業者は、(境町のように)地域住民の行動変容を期待しても良いですが、行動変容ありきではなく、既存の交通社会に入っていくため、対話の機会を促す必要があります。一方的な説明会だけでは、(図5 – 1 のマトリクスにおいて)上方向にしか移行できず、右への移行がないことになります(おそらく、自動運転を導入したい者にとっての理想は「右上」でしょう)。したがって、右への移行のためには地域との合意の前提となる双方向の対話が必要なのです。
ご自身の地域での自動運転は、難しい / まだ早い / 誘致できなさそう /コスパが悪い、など、色々思うところがあるかもしれません。また、そもそも採算が取れなくてバス本数が減っている地域に経済的負担を増やして自動運転を走らせても意味がないだろう、と思われる方もいるかもしれません。
ですが、自動運転は 1 つのツールです。AI オンデマンドバス、規制緩和された相乗りタクシー、自動運転、これらをミックスして適材適所に公共交通の課題を解決する必要があります。都市部のドライバーを自動運転レベル4により無人化して、そこで勤務していたドライバーを、ドライバ ー不足の地域に配属すれば、「ドライバー不足」は解決できます。
なにも、全ての地域で自動運転にする必要はないのです。広域的・俯瞰的・行政横断的に交通を見つめる際の「手札」として自動運転を活用すればいいのです。
でも、そのためには本書で見てきたような、地域との対話など、立ち向かうべき課題が山積しています。
本書が、地域の課題に立ち向かうための参考になれば、筆者としては望外の幸せです。
自動運転という新しいモビリティが社会に実装される際に、正しく「理解」し、「怖れ」、「期待」し、「利用」できるよう、本書を素材に産官学民の意見交換・議論の機会(=「真の対話」)が増えることを期待したいと思います。

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