超高齢社会のまちづくり

超高齢社会のまちづくり 地域包括ケアと自己実現の居場所づくり
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内容紹介

分野を横断する総合的取組のための基礎知識

人生100年時代、そこそこのお金をもち、元気か、簡単な支援で自律できる高齢者が9割を占める。彼らの居場所は施設ではなくまちだ。不安を解消し、生活を楽しめるように支えるまちづくりが進めば、高齢社会=負担増という図式が変わる。出かけやすく、自身の居場所がつくれ、自己実現ができるまちは、日本が切り拓く世界の未来だ。


後藤 純 著   
著者紹介

体裁A5判・188頁

定価本体2300円+税

発行日2023-04-15

装丁KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

ISBN9784761528461

GCODE5660

目次著者紹介はじめにおわりにレクチャー動画関連イベント電子版採用特典教材

はじめに

Ⅰ部 団塊世代が変える高齢者像

1章 超高齢社会とはどんな社会か

──在宅医療・在宅看取りが避けられなくなる

1 未曽有の経験
2 人生100年時代
3 ぴんぴんころりは、ごく少数
4 医療介護需要の急増と避けられない在宅化
5 次の20年で起きること

2章 高齢者はどんな人たちか

──経済的余裕はあるが、迷える高齢者が増える

1 中堅所得層の高齢化
2 高齢者のニーズ把握は難しい
3 施設と在宅、高齢者自身も本音がわからない

3章 高齢者の不安は何か

──自分らしく生きたいからこそ不安な時代

1 こんなに長く生きるつもりじゃなかった
2 不安の背景・時代の変化
3 自己実現と不安はコインの裏表

4章 不安を癒やす居場所

──自分語りの場は自身でつくるしかない

1 孤独は悪か
2 自分らしさと不安
3 自分の不安にこたえる居場所は自分語りの場
4 自分の居場所は自分でつくるしかない

5章 現代的なつながり方とコミュニティ活動

──「つながりたいけど、しばられたくない」にこたえられるか

1 現代的な個人の居場所のつくり方
2 現代的な個人のつながり方
3 現代的な地域コミュニティの形
4 まちづくりとして個人的な居場所を受けとめる

Ⅱ部 地域包括ケアシステムの理念と実際

6章 地域包括ケアシステムの理念

──立場により異なる捉え方

1 社会保障のパラダイム転換
2 立場で異なる地域包括ケアシステム──三つのイメージ
3 地域包括ケアシステムを取り巻く多様な視点
4 求められるのは理念の整理とまちづくりとしての対話

7章 地域包括ケアシステムを支える制度の実際

──施設から在宅へ、地域へ

1 病院医療の行方
2 在宅医療とは
3 地域密着型サービス
4 在宅医療を含む地域包括ケアシステム
5 地域包括支援センターと地域ケア会議

8章 進まぬ地域包括ケアシステム

──「やっぱり施設がいい」を超えるには

1 家族に頼りたいが……
2 家族は施設に預けて安心したい
3 悪循環を断ち切るには?

Ⅲ部 当事者とともに創り出す高齢社会のまちづくりモデル

9章 フレイル予防とまちづくりの接点

──歩くことと、人とつながることの効用

1 健康づくりと介護予防
2 フレイル予防と社会参加
3 健康づくりとまちづくりに関する興味深いエビデンス
4 要介護になりにくいまち?

10章 介護保険制度とまちづくりの接点

──少人数から柔軟な活用が可能

1 環境因子とまちづくり
2 自立支援型地域ケア会議
3 新しい介護予防・日常生活支援総合事業
4 生活支援体制整備事業
5 対象となる多様な現代的ニーズ

11章 地域で暮らすために必要なサービスと場所

──支援的(アシスティブ)な生活環境

1 みんなの自己実現を支える総合的まちづくり
2 家を売って老人ホームに入居するのは正しい戦略か
3 地域包括ケアと住まいの連携でできること
4 社会的交流・社会参加の場
5 シニアの働く場所

12章 歩けなくても愉しく暮らせるまちづくり

──拠点集中か地域分散か

1 コンパクトシティとニーズの乖離
2 社会的サービスへのアクセシビリティの確保
3 逍遥の拠点づくり
4 結果として浮かび上がるコンパクトシティ

終章 超高齢化を社会全体のチャンスに

1 総合的なまちづくりに踏み切れない理由
2 消費のアーバニズムから自己実現のアーバニズムへ
3 社会保障経済という考え方
4 エイジフレンドリーシティのモデルを目指して

おわりに

後藤 純(ごとう じゅん )

東海大学建築都市学部建築学科特任准教授。博士(工学)
1979年群馬県生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程単位取得満期退学。2010年より東京大学高齢社会総研究機構特任研究員、特任助教、特任講師を経て、2020年より現職。
専門は、都市計画、まちづくり、ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)。
在宅医療を含む地域包括ケアシステムの構築、超高齢社会に対応した復興まちづくりや郊外住宅地の再生など、分野横断型共同研究に取り組む。
著書に『コミュニティデザイン学』『地域包括ケアのすすめ』『高齢社会の教科書』(いずれも共著・東京大学出版会)など。

○これから20年で起きること

2025年に、団塊世代(1947~1949年生)が後期高齢者になり、人口の2割が75歳以上(後期高齢者)になる。人によっては有給の仕事を継続していたり、これまでの暮らしの延長線上で生活できている人は多い。しかし何かしらの病気とは付き合いながら、そろそろ免許返納も迫られる頃である。2030年頃から、徐々に要介護状態の高齢者が増えていく。調理やトイレなどの身の回りのことは自分でできるが、通院したり、買い物に出かけたり、一人で入浴したりといった活動に、ケアが必要となる。
2035年頃が、男性高齢者の介護・看取り需要が高まる頃となる。「そろそろ老人ホームに入れば安心」と思うが、皆がそう考えるわけで、病院・施設の容量とケアを担う人材が足りない。85歳以上人口は1000万人を超える。2040年頃に、男性の死亡数最頻値を迎えるが、女性はまだピークに到達していない。
団塊世代は人生100年まで、まだ10年近くある。ひと花もふた花も、自分らしい花を咲かせることは可能である(元気なおひとり様女性社会が到来する)。

○本書の狙い

このような20年後を見すえて、超高齢社会対応のまちづくりを進めていくための勘所について、これまで筆者が取り組んできた実践と理念について皆さんと共有したい。特にこれからの高齢者層は、家族とは同居していない、そして自身を高齢者とは考えていない中堅所得層が多い。身体的機能や認知的機能の低下は否めないが、意欲をもって自分らしい暮らしをしたいと思っている。従来の弱者救済の視点を超えて、心身機能を衰えさせず(特に筋肉が重要)、いくつになっても自己実現が可能な新しいまちづくりのビジョンとモデルが必要となる。そろそろ高齢社会対策が必要だと思っていた方に、高齢当事者を含めて総力戦で取り組むヒントになれば幸いである。

○まちづくり、コミュニティ活動のリーダーや専門家の方へ

本書は、3部構成である。Ⅰ部ではまちづくりのニーズ把握のために、高齢者の不安を理解することの重要性について論じた。Ⅱ部では地域包括ケアシステムの理念と実際についてまとめている。Ⅲ部では地域包括ケアシステムを具現化する、フレイル予防と居場所、小規模多機能型サービスと住まい、高齢者の活動をつなぐ逍遥の拠点など、医療介護の先進事例と都市空間像についてまとめている。
地域包括ケアは高齢社会対応のまちづくり政策である。まちづくりの専門家らは、都市計画・まちづくり制度だけでなく、地域包括ケア政策を取り入れて、中心市街地活性化や空き家対策、コンパクトシティやスマートシティ政策と協働していくと、住民の理解も得られ、活用できる地域資源・社会資源が増えて、
実現性もあがると考える。

○医療・看護・介護の専門職の方、地域包括ケアに携わる行政の方へ

医療介護の現場では、地域包括ケアシステムの対応は報酬に関わる焦眉の課題である。社会的処方、高齢者の住まいと住まい方、支え合いのまちづくり、認知症に優しいまちづくり、これらを適正に進めるための地域マネジメントなど、多数のテーマがある。しかし実践例は多数あるものの、それを自分の地域で導入するためには、住民を巻き込み主体形成を図る技術などが不足している。本書では、住民を巻き込み、コミュニティのリーダー、まちづくりの専門家と連携して進めるための、ひいてはご自身がコミュニティのリーダーとなるための勘所を伝えたい。

○協働のまちづくり

高齢者は、一人ひとりが個性的で才能・特技・経験を有する人たちである。これまでのような固い組織をつくって近代的な機能化に励むだけでなく、小規模ではあるが多様な個人の意思を共感でつなぎ、しかし具体的な場所でカタチにできるまちづくりへと、発想を広げていくことが必要である。そのためには、当事者である住民を中心に、まちづくりの専門家、医療介護の専門職、コミュニティ活動のリーダー、行政の福祉部局、都市部局の担当者らが協働しなくては進まない。筆者の知見がたたき台となれば幸いである。

まちづくりでの本書の使い方を紹介したい。まず身近な人を集める(5 ~ 6人)。気になる章を一つ取り上げて、自分はどうしたいのかを語り合う。これを2 ~ 3 回続ける。するとお互いの共通点や不安などがわかり、自分の本音に気づく。これだけである。これだけであるが、「何か、活動をはじめてみよう」という展開になる(10 章5 節参照)。郊外住宅地の再生、復興まちづくり、医療介護職による地域づくり、自治会、地区社協、民生委員などでお住まいの地域を高齢化対応させていきたい方には、ぜひ本書を活用していただきたい。結局は、想いのある人が、自分で調べて、小さく始めていくことでしか、新しい社会を拓くことはできない。
私は都市計画・まちづくりを専門として、2010 年から高齢社会の研究を始めた。超高齢社会が到来するといわれていたが、どういう地域社会と生活空間を創ると幸せになれるのか、そのビジョンがない。統計データ等を集め、アンケート調査をしてみたが、結局、何が重要なのか良くわからなかった。一方で、「こんなに長生きするはずじゃなかった」という本音が、多数集まった。退職して、肩書・学歴・年収の多寡を競わなくなった男性は、どのような生き方を目指しているのか。おひとり様女性は、どのような不安を抱えながらも、自分らしく愉しく生きていく決意をしたのか。当事者に尋ねてみないと、わからない。そこで、団塊シニアの集い、しらけ世代の集い、墓守娘の集いといった同世代が、どのような暮らしがよいか、親世代と何が違うかなど語り合う企画を通じてニーズを把握した。また、このニーズの把握も一工夫必要であった。集めたニーズを一旦整理し、再度当事者に投げかけてと、対話を繰り返して本音を見える化(形象化)した。本書はこの段階で得られた知見をまとめている。
次の段階は、ニーズの解決方法について、皆で知恵を出し合って計画・戦略をたてる。さらに、その実現は(予算がないから)住民同士でできることを協働で行うしかない。手順にすれば簡単だが、実際には高齢者の数と生きてきた歴史の分だけ、ゴールが異なる。私は、いまこの段階で、苦戦している。本書を書いた理由は、超高齢社会対応のまちづくりに、全国各地、多様な専門家が分野横断的に取り組む際の叩き台になればとの思いである。
超高齢社会のまちづくりのビジョンを一旦まとめると、一人ひとりが自分に似た興味・関心を持つ仲間を探し出し、新しい社会的関係を築くための多様な機会と場所を用意すること。そのような個性的な人たちが、どのような心身の状態にあっても、「自分自身がまちにとって重要なコンテンツだ」と自信を持てるような機会と場所を用意すること。その人たちが多彩な関心や特技をまちで披露して展開していく機会と場所を複数用意することである。このような流動的だが個性的な活動が広がる場を核にすることで、超高齢社会のコンパクトシティが浮かび上がってくると考える。

謝辞
本書は、東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)時代の実践に基づいています。全国各地で研究に協力してくださった、医療介護専門職、自治体職員のみなさん、そして住民のみなさんにお礼を申し上げます。みなさんの実践、協力と2次会での本音のおかげです。今後ともご協力をお願い申し上げます。
IOG の秋山弘子先生、辻哲夫先生、飯島勝矢先生、鎌田実先生、原田昇先生には、様々なチャンスを与えていただきました。また都市計画・まちづくりの分野にて研究を深めていく点では、大方潤一郎先生、小泉秀樹先生から多くのご指導・ご助言をいただきました。心よりお礼申し上げます。同僚だった研究者のみなさん、学生のみなさん、職員のみなさんにも助けていただきました。特に、いつも相談に乗ってくれた久保眞人さんには、心よりお礼申し上げます。そして、分野を超えた議論のために実態を整理分類していく枠組みづくりは、渡辺俊一先生の影響が大きいです。本書は、お名前をあげれば本1 冊分になるくらい、様々な方との縁に支えられています。
また本書が完成したのは、細部まで読んで示唆をあたえてくださった、編集者の前田裕資さんと越智和子さんのおかげです。コメントをいただくたびに何を伝えなければいけないのかが明確となり、また励まされました。心よりお礼申し上げます。
最後に、自由に研究を進められたのは、私を支えてくれた家族のおかげです。心より感謝しています。

2023年3月 後藤 純


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