SDGs時代の地方都市圏の交通まちづくり

辻本 勝久 著

内容紹介

具体事例と実践で解説する総合的な交通政策

過度なクルマ依存社会、経済性の追求は、様々な功罪をもたらしている。そこでまず、SDGsの観点から現在の交通のあり方を検証する。そしてSDGs達成のために必要な交通まちづくりを、モビリティ・マネジメント、福祉交通、公共交通やバス・鉄道再生、総合的な交通まちづくり戦略など各テーマにそって多様な事例とともに紹介する。

体 裁 A5・284頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2845-4
発行日 2023-03-31
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

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2023. 5. 30 学芸出版社

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はじめに

序章 「誰ひとり取り残さない」ために

第1部 SDGsから見た交通の現状

第1章 環境から見る

1・1 環境系のSDGsと交通関連のターゲット
1・2 気候変動の状況
1・3 気候変動と交通
1・4 生態系と交通

第2章 社会から見る

2・1 社会系のSDGsと交通関連のターゲット
2・2 日常生活上のアクセシビリティは確保できているか
2・3 外出の機会と生活の質
2・4 道路交通の安全性
2・5 交通と健康
2・6 交通におけるジェンダー平等
2・7 交通におけるエネルギー問題への対応
2・8 交通における公正

第3章 居住とまちから見る

3・1 住み続けられるまちづくりと交通関連のターゲット
3・2 公共交通機関の確保
3・3 居心地の良い「私たちのまち」になっているか

第4章 経済から見る

4・1 経済系のSDGsと交通関連のターゲット
4・2 交通分野の労働環境
4・3 交通基盤の持続可能性や強靱性
4・4 交通分野におけるイノベーション
4・5 交通システムはみんなに平等か
4・6 つくる責任、つかう責任:社会的価値を踏まえた交通まちづくり

第2部 SDGs達成のための交通まちづくり

第5章 意識づくりと交通行動の転換 ── TDMとMM ──

5・1 TDM(交通需要マネジメント)
5・2 交通静穏化(Traffic Calming)
5・3 トラフィックゾーンシステム
5・4 ロードプライシング
5・5 移動のシェアリング
5・6 モビリティ・マネジメント

第6章 コンパクト・プラス・ネットワーク

6・1 環境・社会・経済面の諸課題とコンパクト・プラス・ネットワーク
6・2 コンパクトシティの特性
6・3 海外のコンパクトシティ政策
6・4 わが国のコンパクトシティ政策
6・5 コンパクト・プラス・ネットワークの推進に向けて

第7章 誰ひとり取り残さないユニバーサルな交通

7・1 福祉の交通まちづくりとバリアフリー、ユニバーサルデザイン
7・2 わが国における交通バリアフリーの進捗状況

第8章 地方都市圏における鉄道の再生

8・1 都市の多様な交通手段と適材適所的活用
8・2 鉄軌道の一般的な特性
8・3 地方都市圏における鉄道の再生方策

第9章 地方都市圏における中量輸送システムの活用

9・1 持続可能な地方都市圏づくりと中量輸送システムの役割
9・2 LRTと地方都市圏の交通まちづくり
9・3 LRTを軸とした地方都市圏の交通まちづくり:ストラスブールの事例
9・4 わが国の地方都市圏の交通まちづくりとLRT
9・5 BRTと地方都市圏の交通まちづくり

第10章 地方都市圏におけるバスの再生

10・1 バスの法的位置づけ
10・2 バスの特徴
10・3 生活公共交通サービスたるバスの維持・活性化と地方の責務
10・4 都市のバスシステムの再生方策

第11章 スマートな交通まちづくり ──和歌山での取組を例に──

11・1 和歌山市のコンパクト・プラス・ネットワーク
11・2 スマートな交通まちづくりへの発展
11・3 スマートな交通まちづくりとMaaS
11・4 和歌山市におけるスマートな交通まちづくり

おわりに

索引

辻本勝久

和歌山大学経済学部教授
1971年 三重県名張市生まれ
1990年 三重県立名張西(現・名張青峰)高等学校卒業
1994年 広島大学総合科学部卒業
1999年 広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期修了。博士(学術)広島大学経済学部附属地域経済システム研究センター講師(研究機関研究員)、和歌山大学経済学部講師、同助教授、同准教授を経て、2011年より現職。2014年より大学院観光学研究科教授を兼担。2021年4月より和歌山大学評議員。専門は、交通政策・交通計画。

【主な著作】
・辻本勝久(2022) 「能に登場する文化財のアクセシビリティに関する研究」、『交通学研究』第65号、pp.99-106
・辻本勝久(2019)「文化財建造物の公共交通アクセシビリティに関する研究」、『交通学研究』第62号、pp.61-68
・辻本勝久(2018)「多彩な電車でめぐる貴志川線と沿線の神々」、神田孝治・加藤久美・大浦由美編著『大学的和歌山ガイド―こだわりの歩き方―』昭和堂、第4章
・辻本勝久(2011)『交通基本法時代の地域交通政策と持続可能な発展』白桃書房
・辻本勝久(2009)『地方都市圏の交通とまちづくり 持続可能な社会をめざして』学芸出版社

【主な公職(2023年1月現在)】
伊賀市地域公共交通活性化再生協議会会長、関西国際空港第1ターミナルビルリノベーション工事バリアフリー検討会委員、紀伊半島外国人観光客受入推進協議会二次交通部会長、国土交通省移動等円滑化評価会議近畿分科会委員、新宮市地域公共交通活性化協議会会長、貝塚市地域公共交通活性化協議会委員、トラック輸送における取引環境・労働時間改善和歌山協議会座長、2025年日本博覧会協会ユニバーサルデザイン検討会委員、日本交通学会評議員、橋本市生活交通ネットワーク協議会会長、岬町地域公共交通会議会長、みなべ町長期総合計画審議会会長、和歌山県大規模小売店舗立地審査会委員、和歌山県国土利用計画審議会会長職務代理者、和歌山県地域公共交通活性化協議会委員、和歌山市公共交通政策推進協議会会長、和歌山市地域公共交通会議会長、和歌山市MaaS協議会共同代表

本書が想定する主な読者は、大学で「交通まちづくり」について研究する学生や、都市・地域交通分野の研究者、交通事業者、公務員、市民等である。
交通まちづくりとは、「まちづくりの目標に貢献する交通計画を、計画立案し、点検・評価し、見直し・改善して、繰り返し実施していくプロセス」注1である。要するに、どんな素敵なまちにしたいのかを考え、交通の課題を見つけ、対策を練って実行に移し、出来映えをチェックし、改善を図っていくのが交通まちづくりである。安全なまちにしたい、環境に優しいまちにしたい、観光客がたくさん来るまちにしたいなど、まちづくりの目標はさまざまであるが、ほぼすべての課題には移動や交通が絡んでくる。交通面から何ができるか、何をしなければならないか、を考え実行に移すことは、とても重要なのである。
より良い交通まちづくりの展開を考えるにあたって、必ず念頭に置いておきたいのがSDGs(持続可能な開発目標)である。本書では、第1部において、交通の現状をSDGsの目標やターゲットと照らし合わせながら説明してゆく。続く第2部ではSDGsを達成するための交通まちづくりを理論・実践の両面から述べてゆく。このような構成の交通書は、少なくとも和文では初めてである。
本書は2009年に出版した『地方都市圏の交通とまちづくり』を、SDGs、MaaS、CASE、スマートシティ、脱炭素化、新型コロナウイルスといった新しいテーマを盛り込んで抜本的に改訂したものである。執筆にあたっては、独自の写真や図表をなるべく多く盛り込み、読みやすい内容とするように心がけた。
本書には、国内の交通まちづくりの事例を意識的にたくさん盛り込むようにした。これにはコロナ禍と円安によって海外の先進事例視察を実施できなかったことも関係しているが、それ以上に、筆者が研究や実務で実際に関わってきた国内事例を取り上げたほうが、オリジナリティと説得力のある内容にでき、かつさらに深く学びたくなった読者による現地調査も容易であろうと考えたためである。
なお、『広辞苑第7版』によると、地方は「首府以外の土地」である。したがって本書が主な対象とする「地方都市圏」とは、首都以外の都市とその圏域であると幅広く捉えていただきたい。

2023年3月  辻本勝久

本著が初校段階に入った2023年1月24日に、人類滅亡までの残り時間を示す世界終末時計が、これまでで最短の「あと90秒」にまで進められた。その理由には、2022年2月24日始まったロシアのウクライナ侵攻による核戦争リスクの増大や、北朝鮮による度重なる中・長距離ミサイル発射実験、国土の三分の一が浸水したパキスタンの事例に代表される激しい気候危機、COVID19のパンデミックをはじめとする感染症の発生数とその多様性の拡大などが挙げられている注1。前著『地方都市圏の交通とまちづくり 持続可能な社会をめざして』を出版した2009年の世界終末時計は「あと5分」であった。それからの14年間で世界は持続不可能な方向へと大きく進んでしまったことになる。
そういった状況の中でも、SDGsの達成に向けた交通面からの取組は着実に進められている。一例を挙げると、2021年度に開始された関西国際空港ターミナル1のリノベーションでは、多様な利用者に配慮したトイレの機能分散注2や、気持ちを落ち着かせるための場所であるカームダウン・クールダウンスペース注3の設置、案内板等のサイン環境のユニバーサルデザイン化、エレベーターの改善などが多様な障がい当事者の参画のもとで進められつつある。このリノベーションは2023年2月現在フェーズ1が終わったところであり、フェーズ4まで完了するのは2026年度の予定である。同空港に立ち寄られた際には、少し時間をつくって最新のバリアフリー施設を見学されることをおすすめしたい。
2022年11月8日には、MaaS関連の大きなニュースがあった。関西の鉄道7社が、「(仮称)関西MaaSアプリ」を2023年夏頃を目途にリリースすることに合意したのである。7社とはOsaka Metro、近畿日本鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道、西日本旅客鉄道( JR西日本)、阪急電鉄、阪神電気鉄道であるが、こういった複数の大手鉄道事業者が連携して広域的にMaaSを展開するのは日本初となる。短期的には2025年の大阪・関西万博とも連携した取組が展開され、中長期的には各社のアプリや、スマートシティの基盤となる都市OS(オペレーティング・システム)などとの連携も視野に入ってくるものと予想される。「和歌山市版MaaS」の実現を念頭に活動している著者としても、関西の交通・観光基盤となりうる「(仮称)関西MaaSアプリ」の動向を注視していきたい。
また、2023年2月10日には「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定された注4
そのもとでは、地域の関係者の連携と協働の促進や、ローカル鉄道の再構築に関する仕組みの創設・拡充、バス・タクシー等地域交通の再構築に関する仕組みの拡充がなされる。自治体と交通事業者が一定の区域・期間について交通サービス水準や費用負担等の協定を締結して行う「エリア一括協定運行事業」の創設も盛り込まれている。関係者が共創しながら、地域公共交通ネットワークの利便性や持続可能性、生産性の向上をはかる「地域公共交通の再構築(リ・デザイン)」の進展に期待したい。
本書出版予定の2023年3月にはJR東海道本線の支線の地下化と新駅・設置がなされる。通称「うめきた新駅」には、関西国際空港や和歌山方面への特急列車が新たに停車する予定である。その先には、この新駅とJR難波駅や南海新今宮駅を結ぶ「なにわ筋線」の開業(2031年春予定)も控えている。関西の公共交通体系の主軸である鉄道網のドラスティックな進化により、自動車に依存しなくても生活できる持続可能なまちづくりが大きく進展することを期待したい。
そして2025年には、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに大阪・関西万博が開催される。これに向けて2023年2月現在、「交通アクセスに関するユニバーサルデザインガイドライン」が当事者参画のもとで策定されつつある。インクルーシブな社会の形成に向けて、大阪・関西万博はどのようなレガシーを残すことになるのであろうか。
いずれにせよ、本書の出版を励みに、SDGsの達成に寄与する交通まちづくりに関する研究・教育・社会活動に引き続き尽力して参りたい。
本書の出版にあたっては、学芸出版社の前田裕資さんと古野咲月さんにひとかたならぬお世話になった。お二方の叱咤激励なくしては、とうてい脱稿はなし得なかった。著者に能楽など和の趣味が多いことから和風のデザインにもしてくださった。深く御礼申し上げる次第である。
最後になったが、本書は和歌山大学経済学部の出版助成を受けて執筆したものであり、感謝を申し上げたい。

2023年3月 辻本勝久

———-
▼注
1 Bulletin of the Atomic Scientists “PRESS RELEASE: Doomsday Clock set at 90 seconds to midnight”,2023.1.24
https://thebulletin.org/2023/01/press-release-doomsday-clock-set-at-90-seconds-to-midnight/ (2023年2月6日最終閲覧)
2 従来は、さまざまな機能が詰め込まれた多機能トイレがひとつしか用意されておらず、そこに高齢者、子ども連れ、車いす利用者、オストメイト利用者、視覚障がい者など多様な人々の利用が集中し、混雑していた。こういった問題を解消するために、一般トイレ内に広めのブースを設置し、簡易型の多機能トイレとしたり、ベビーシート、オストメイトなどの個別の機能を備えたりすることで、トイレ全体に利用を分散することで多くの利用者の満足度を上げようという考え方である。
3 発達障がいや知的障がい、精神障がい等の人等が慣れない移動や人混み等の中で不安やストレスを覚えたときや、パニックを予防するため等に使う小部屋のようなスペースである。
4 中部運輸局交通支援室(2023)「地域公共交通関係施策について」地域公共交通関係予算等説明会、2023年2月27日開催

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