ウェルビーイングを実現するスマートモビリティ


石田 東生・宿利 正史 編著
地域の未来を変えるモビリティ研究会 著

内容紹介

モビリティを使いアクティブに暮らせる街へ

モビリティを賢く使いこなし、人々がアクティブに暮らせる街のつくり方をプロが解説。多様なプレイヤーの共創、利用者の行動変容の仕掛け、オープンデータの構築、持続可能な事業設計など、MaaS等の新しいサービスを活用するためのポイント、それが街にもたらす効果を多数の事例から解説。行政・交通・観光・IT事業者必読。

体 裁 A5・168頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2833-1
発行日 2022-09-10
装 丁 美馬智

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はじめに

1章 ウェルビーイングを実現するモビリティサービス

1.1 ウェルビーイングとモビリティ
1.2 持続可能な地域づくりとモビリティ
1.3 モビリティサービスがもたらす多様な価値

2章 モビリティサービスで地域課題に挑む先進事例

2.1 事例紹介
事例1 チョイソコ|健康増進のための乗合送迎サービス
事例2 井田いきいきタクシー|過疎地域の暮らしを豊かにする定額制配車サービス
事例3 十勝バス|地方都市の活性化に率先して取り組む
事例4 前橋市|自動車依存から脱却し、中心市街地の活力を取り戻す

2.2 「地域課題の解決」が取り組みの原動力

3章 知っておきたい交通政策の基本的な考え方

3.1 官民連携でサービスを持続可能にする
3.2 複数のサービスを組み合わせて活用する
3.3 利用者に行動変容を働きかける

4章 事例で読みとく活用の8つのポイント

4.1 誰もが取り組みの主体になれる
4.2 サービス活用に向けた3つのステップと8つのポイント

ポイント1 ブームで終わらせない組織・人材づくり
事例1-1 計画策定をきっかけに自治体主導で関係者間の意識の共有を図る│前橋市
事例1-2 コロナ支援の条件としてMaaS等への取り組みを促進│前橋市
事例1-3 どの企業も技術会員として参入できるコンソーシアム│静岡市
事例1-4 商工会議所を中心に形成されたMaaSの推進体制│庄原市
事例1-5 市長も参加する部局横断の勉強会│静岡市
事例1-6 専門委員会による市長への提言│金沢市
事例1-7 学識経験者とコンサルタントが協議会の設立・運営に協力│会津若松市
事例1-8 出版を通じて活動の価値を発信する

ポイント2 実現するビジョンの共有
事例2-1 協議会の宣言によって市民とビジョンを共有│横須賀市
事例2-2 4コマ漫画でビジョンをわかりやすく伝える│静岡市
事例2-3 課題を定量的な根拠とともに可視化する│仙台市
事例2-4 フィジカル空間とデジタル環境の両面からサービスを向上│前橋市
事例2-5 コンソーシアムメンバーによるビジョンづくりワークショップ│静岡市
事例2-6 市長自らがLRTの説明会を100回以上行い、市民とビジョンを共有│富山市

ポイント3 地域公共交通をリデザインする
事例3-1 サービスのメニューを増やしてから束ねる│会津若松市
事例3-2 既存の公共交通とデマンド型交通の共生│豊明市
事例3-3 路線バスの利用者をデマンド型交通へ引き継ぐ│宗像市
事例3-4 目的地とバス利用をセットにしたサービス開発・情報発信│十勝・帯広
事例3-5 路線バスの折り返し場をモビリティハブに│武蔵野市
事例3-6 交通系ICカードを活用した乗り継ぎ時の運賃割引サービス│金沢市
事例3-7 最大7割引きの全線共通定期券とスマホ定期券の導入で利用者を拡大│小山市
事例3-8 定期券と回数券で利用できるデマンド型交通で収益を拡大│永平寺町
事例3-9 定額で規定エリア内が乗り放題になる新サービス│東京都ほか

ポイント4 データエコシステムをつくる
事例4-1 有志による標準的なバス情報フォーマット整備促進活動
事例4-2 県主導による標準的なバス情報フォーマットの整備│群馬県
事例4-3 業務データとの一体化によりオープンデータの自動更新を実現│群馬県
事例4-4 地域公共交通に関する情報共有基盤の構築│山形県
事例4-5 MaaS関連のプレイヤー間のデータ連携を促進するガイドライン│日本
事例4-6 事業者間のデータ連携に必要なAPIに関するガイドラインの作成│オランダ
事例4-7 誰もがストレスなく移動できるサービスを構築する産学官の連携プロジェクト│横須賀市
事例4-8 交通事業者が他社と連携して取り組むオープンなデータ基盤の構築
事例4-9 交通事業者がデータ連携基盤を構築し、アプリ開発会社に開放│会津若松市

ポイント5 利用者の行動変容を仕掛ける
事例5-1 ポイントサービスを活用して時差通勤の行動変容を促す
事例5-2 MaaSと呼ばないブランディングで利用意欲を高める
事例5-3 コミュニティバスの利用促進に向けた総合的な取り組み│小山市
事例5-4 利用実績データとアンケート調査で行動変容を把握し、サービス改善につなげる│静岡市
事例5-5 行政主導によるスマホ教室の実施│会津若松市
事例5-6 20年以上続くカーフリーデー運動が世界約3000の都市へと拡大

ポイント6 データを地域全体の交通サービスに活用する
事例6-1 ICカード・マイナンバーカードを利用したデータ取得│前橋市
事例6-2 世界で進むモビリティサービスから取得したデータ報告の義務化
事例6-3 利用実績データを活用して取り組みを段階的に改善│伊豆
事例6-4 利用者目線でデータをモニタリングし、より快適なサービスを提供

ポイント7 活動・移動ニーズを掘り起こす
事例7-1 戸別訪問で住民の生の声を集め、不安解消の取り組みに着手│十勝・帯広
事例7-2 商業施設との連携から生まれたバスの無料チケット│川崎市
事例7-3 MaaSアプリを活用した観光事業者との連携│伊豆
事例7-4 高齢者の外出を促進するイベントの企画│豊明市ほか
事例7-5 エリアや対象者を限定したサービスの選択と集中で増収を実現│十勝・帯広
事例7-6 高齢者向けの定期券を交付し、中心市街地への外出を促進│富山市
事例7-7 地域住民が小さなビジネスや健康づくり活動に参画できる仕組みを構築│大田市
事例7-8 商業施設と連携し、MaaSアプリで多様なサービスを提供│京丹後市
事例7-9 MaaSアプリを活用した新たな生活様式への対応│伊豆

ポイント8 自律的・継続的な事業実現を支援する
事例8-1 既存の巡回バスを乗合送迎サービスに転換│明和町
事例8-2 サブスクリプション方式による行政コストの軽減化│大田市
事例8-3 車両を町費で購入し、全国に先駆けて自動運転バスを導入│境町
事例8-4 スマートシティに関わるICT企業を集積│会津若松市

5章 モビリティサービスを活用しやすくする仕組みづくり

5.1 交通関連制度の変革
5.2 サービス連携に向けたデータ環境の整備
5.3 実証実験の円滑化・充実化
5.4 地域全体にメリットを波及させる仕組みの構築
5.5 モビリティツールの導入支援
5.6 既存の交通インフラの改善

おわりに
モビリティサービスをより詳しく知るための参考図書

【編著者】

石田 東生

筑波大学名誉教授。1951年生まれ。1974年東京大学土木工学科卒業。1982年工学博士取得。1977年より東京工業大学土木工学科、1982年より筑波大学社会工学系で教員を務め、2017年に定年退職。現在は、国土交通省社会資本整備審議会、国土審議会委員や、内閣府SIP「スマートモビリティプラットフォームの構築」のプログラムディレクター候補などを務める。

宿利 正史

一般財団法人運輸総合研究所会長。東京大学公共政策大学院客員教授、一般社団法人国際高速鉄道協会理事長、公益財団法人日本海事センター会長。1951年生まれ。1974年東京大学法学部卒業。同年運輸省入省後、国土交通省自動車交通局長、総合政策局長、大臣官房長、国土交通審議官、事務次官などを経て、2018年より現職。

【著者】

地域の未来を変えるモビリティ研究会

◆メンバー一覧(一部抜粋、2022年3月当時)
石田 東生
筑波大学名誉教授、特命教授

伊藤 慎介
株式会社rimOnO代表取締役社長

岩倉 成志
芝浦工業大学工学部土木工学科教授

河田 敦弥
国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課課長

越塚 登
東京大学大学院情報学環教授

軸丸 真二
東京大学公共政策大学院特任教授

谷口 綾子
筑波大学大学院システム情報工学研究科教授

中村 文彦
東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

東 智徳
国土交通省都市局都市計画調査室室長

牧村 和彦
一般財団法人計量計画研究所理事

宿利 正史
一般財団法人運輸総合研究所会長 ほか

人が様々な欲求を満たそうとする際、移動することができなければ、働くことも、学ぶことも、通院することも、買い物に出かけることも、観光することもできません。手元にあるスマートフォン等の端末1つで会話、買い物、動画鑑賞等が可能となるなど、移動せずとも様々なサービスを享受しやすい環境が整ってきましたが、人が移動しなくてもモノの移動は必要であり、また人々が健康で幸せな生活を送る、いわゆるウェルビーイングであるためには、何らかの活動を行う場への移動は必ず生じます。人が生きていく上で、ウェルビーイング(心身も社会的にも健康で良い状態)であることと、人やモノの移動のしやすさ、すなわちモビリティとは密接な関わりがあります。

人口減少や高齢化等を背景に、都市部から過疎地まで様々な地域が多様な課題に直面していますが、これらの課題を解決する方法として、移動を工夫することで大きな効果が得られる場合があります。例えば、近隣に病院がない地域では、病院を新設するよりも、少し離れた既存の病院までの移動手段を提供するといった方法です。これまでも、地域課題を解決する手段として、モビリティに関わる取り組みが全国で数多く行われてきました。
長らく陸上での移動を担ってきた交通手段は鉄道・バス・タクシーが中心でしたが、デジタル化の進展を背景に交通分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、人やモノを運ぶ多様な形態の輸送手段が登場し、配車アプリの技術を世界的に展開する大規模なモビリティプレイヤーが登場する等、移動に関わる新たなイノベーションが次々と生まれています。これは国内においても同様です。そのイノベーションは、大都市に限らず観光地や過疎地にまで広がりを見せており、AI等の先進技術を活用するものもあれば、従来からある技術の組み合わせ等による創意工夫で取り組まれているものもあります。
モビリティに関連した技術や工夫の進化は、地域が抱える課題をモビリティで解決して人々を幸せにする手段に多様な選択肢をもたらし、従来は困難だと考えられていたサービスを実現できる可能性は飛躍的に高まりました。しかしながら、多様な主体の関与が必要であること、既存の事業制度上の位置づけの曖昧さなど、導入の際には数多くの困難があります。そこで我々は、高度化・多様化するモビリティサービスを全国の各地が抱える地域課題を解決する手段として活用していくための方策や実際に直面した困難の克服方法等について、事例調査などを含めて検討してきました。

本書は、地域課題の解決に取り組むみなさんが、解決策の有力な1つの選択肢としてモビリティサービスを活用してもらうことを念頭に、取り組みにあたっての考え方や活用する際のポイント、さらにはこれらを促進するための法制度等に関わる仕組みについて、とりまとめたものです。1章では、ウェルビーイングとモビリティとの関係について説明した上で、本書で示すモビリティサービスとはどういうものなのかを解説しています。2章では、モビリティサービスが地域課題の解決のために活用されている各地の事例を紹介しています。3章では、モビリティサービスの活用に取り組みたいと考える人々に、ぜひあらかじめ知っておいていただきたい交通政策の基礎となる考え方を解説しています。4章では、モビリティサービスの活用にあたって直面すると考えられる課題を示し、その課題を解決するための8つのポイントをとりまとめました。ここでは、あくまでも現制度を前提として、即効性のある解決策を導くための考え方を示しています。5章では、モビリティサービスをより活用しやすくなるような法制度等の改善を提案しています。

最後に、本書のタイトル「ウェルビーイングを実現するスマートモビリティ」に、あえて「スマートモビリティ」という言葉を入れた思いをお伝えしたいと思います。スマートモビリティという言葉は、多くの人には、高度なICT等を活用した移動サービスを表す言葉として受け止められるのではないかと思います。しかし、我々が考えるスマートモビリティは、それとは異なるものです。我々が考えるスマートモビリティとは、人々のウェルビーイングを実現するために、地域課題を解決する手段として移動に関わる様々な工夫を凝らすことです。テクノロジーそのものが重要なのではなく、賢くモビリティサービスを使う点こそが強調したい点です。テクノロジー偏重の概念を変えていくべきである、ということをみなさんに投げかけていきたいという意図を込めて、あえて多くの方々にはテクノロジーを感じさせる言葉で
ある「スマートモビリティ」という言葉をタイトルに含めることにしました。

本書を通じて、地域の課題解決に日々取り組んでいる方々に、移動を工夫することも併せて考えてもらえるようになること、そして移動を工夫する手段として新しいモビリティサービスを活用してもらえるようになることを期待します。

石田東生

地域が抱える課題を解決するための重要な方策としてモビリティサービスを活用する。これが、本書の根底にある基本的かつ最も重要な考え方です。人の幸せも地域の持続可能性もモビリティと密接不可分に関わることであり、SDGsもカーボンニュートラルもウェルビーイングもモビリティと関わっています。モビリティは地域の課題を解決する強力なツールの1つです。本書を読まれたみなさんには、私たちが大切にしているこの考え方をご理解いただけたのではないでしょうか。

ICTの活用により交通分野における技術革新が急速に進み、モビリティサービスは多様化・高度化しつつあります。今までは解決が難しかった移動に関わる問題が解決できる可能性が飛躍的に高まりました。わが国においても多くの取り組みが進みつつあり、なかには世界的に見ても先進的な取り組みも登場しています。しかしながら、多くの取り組みでモビリティサービスの技術的側面がフォーカスされ、地域の課題への対応があまり重視されていない、むしろ軽んじられているようにさえ見えるケースもあります。また、本来地域の課題の解決に対処すべき地方自治体の中には、民間の取り組みであるからと協力関係を構築せず、少し距離をおいてしまう状況もあるようです。モビリティサービスが多様化・高度化しつつあるのに、このままでは地域の課題解決のためのモビリティサービスの実装が進まないのではないか。そう感じられる現実に、強い危機感を覚えました。
とはいえ、技術の可能性を検証する取り組み自体を否定するものでは決してありません。新しいサービスの創出には技術検証の取り組みも不可欠です。しかし、技術検証の取り組みを続けたとしても、それが長く地域に定着し、地元に愛されるサービスになるとは限りません。そこにはやはり、地域が抱える課題の解決を志向するしっかりとした取り組みが必要なのではないでしょうか。そして、地域課題の解決を志向する取り組みを進めるためには、新たなサービスを共創できるような多様な主体との積極的な協力が不可欠です。

新たに登場しつつあるモビリティサービスは、それぞれの地域の課題解決にふさわしい形で実装されるならば、間違いなく地域の役に立つものです。しかし、このままではモビリティサービスの地域への定着が進まなくなってしまうのではないか。どうすればモビリティ資源を上手に使いこなし、地域に定着するサービスにできるのか。こうした意識のもと、私たちは、地域課題の解決に取り組むみなさんのお役に立てるように、各地域での様々なモビリティサービスの導入事例を収集し、取り組みに際して直面する諸課題とその対応策をとりまとめ、広く知っていただくことにしました。それが本書です。
地域が抱える課題の解決に役立つモビリティサービスがしっかりと地域に根づく社会が実現するように、私たちは、これからも、みなさんとともに取り組んでいきたいと思います。

本書は、日本財団の支援を受けて一般財団法人運輸総合研究所が2020年に設置した「新しいモビリティサービスの実現方策検討委員会」において2020年7月から2022年3月まで行った調査と議論の成果をもとに、「地域の未来を変えるモビリティ研究会」がとりまとめたものです。日本財団の支援に深く感謝申し上げます。また、調査研究において、各地でモビリティサービスを活用し地域課題を解決しようと尽力されている大変多くのみなさまのご協力をいただきました。紙幅の都合上、すべての方のお名前を書くことはできませんが、この場を借りて厚く御礼申し上げます。加えて、本書の出版・編集にあたって有益な助言をいただいた学芸出版社の宮本裕美氏および森國洋行氏に感謝申し上げます。
本書が、地域が抱える課題をモビリティサービスを活用することで解決していこうとされる方々を勇気づけ、また取り組みを進める上での一助になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

2022年9月
宿利正史

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