サステナブル・ファッション


水野大二郎・Synflux 編著

内容紹介

大量生産・新品・所有の概念を変えていく。

資源枯渇や廃棄問題を抱え、転換を迫られるファッション産業への提案。これからは微生物を培養して服をつくり、コンピュータ・アルゴリズムで生産・消費を最適化し、バーチャルな世界とも共存しつつ、大量生産・新品・所有の概念を変えていく。持続可能な地球とファッションの未来を共有し、具体的に動き出すための手引き。

体 裁 A5・240頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2828-7
発行日 2022-09-20
装 丁 UMA/design farm


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プロローグ:今、ファッション業界で何が起きつつあるのか

1章 サステナブル・ファッションとは何か

1.1 サステナブル・ファッションを巡る用語の変遷
1.2 サステナブル・ファッションを巡る、経営学・デザイン視点からの提案
1.3 サステナブル・ファッション「製品」デザイン
1.4 実践を支援するツール
1.5 ファッション産業の新たな価値=物語とは何か?

2章 生分解・再生するファッションデザイン:バイオマテリアルとサステナビリティ

未来シナリオ01──バイオテクノロジーを駆使する職人がファッションデザイ ンを担う未来
2.1:バイオマテリアルとファッションデザインのこれまでとこれから
2.2:方法と実践
2.3 プロジェクト──未来の下着/Wacoal人間科学研究所+KYOTO Design Lab
2.4:事例──ボルトスレッズ×ステラ・マッカートニー:人工タンパク質シルク
事例──マイコワークス×エルメス:マイセリウムレザー
2.5:この人を見よ──ゴールドウィン×スパイバー:関山和秀

第3章 最適化するファッションデザイン:コンピュテーショナル・デザインとサステナビリティ

3.1:コンピュテーショナル・ファッションデザインについてのこれまでとこれから
3.2:方法と実践
3.3 プロジェクト──Synflux×HATRA:AUBIK/布のロスを抑える型紙の自動生成
3.4:事例──アンメイド:オンデマンドのカスタマイゼーションOS
事例──アンスパン:受注生産を加速させるフィッティングテクノロジー
3.5:この人を見よ──CFCL:高橋悠介

第4章 脱物質化するファッションデザイン:バーチャルリアリティとサステナビリティ

未来シナリオ02:ファッション消費の場が物理空間から仮想空間へ移行した未来
4.1:バーチャル・ファッションデザインのこれまでとこれから
4.2:方法と実践
4.3 プロジェクト──ロビン・リンチ+Synflux/アトラス・オブ・メモリー
4.4:事例──ザ・ファブリカント:デジタルファッションのパイオニア
事例──ドレスエックス──デジタルウェアのプラットフォーム
4.5:この人を見よ ──クロマ:鈴木淳哉・佐久間麗子

第5章 循環化するファッションデザイン:新品であること以外の価値を生み出せるか?

未来シナリオ03:生活廃棄物が価値を持ち、 家庭ごみや食料残渣、排泄物までもが衣服の素材や部品として重要な通貨となった未来
5.1:サービスデザインのこれまでとこれから
5.2:方法と実践
5.3:事例──ナイキ:ムーブ・トゥー・ゼロ(Move to Zero)
事例──H&M:ループ(Looop)
5.4:この人を見よ ──weturn:ソフィー・ピニェア

第6章  次世代ファッションデザイナーの育成が始まっている

6.1:持続可能な未来社会の生活者像をどう描き、伝えるか
6.2: 問い自体を生み出すことと、サステナビリティの融合的教育
6.3 :未来を洞察する手法、未来を思索する手法

エピローグ:消費社会の価値観を変えられるか?

オンライン講座
ガイド&ツール

水野大二郎(みずの だいじろう)

担当:プロローグ、1章、5章、エピローグ
1979年生まれ。京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授。ロイヤルカレッジ・オブ・アート博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。デザインと社会を架橋する実践的研究と批評を行う。監訳に『クリティカル・デザインとはなにか?問いと物語を構築するためのデザイン理論入門』、著書に『サーキューラー・デザイン』『クリティカルワード・ファッションスタディーズ』『インクルーシブデザイン』『リアル・アノニマスデザイン』(いずれも共著)、編著に『vanitas 』等

Synflux(シンフラックス)

先端的なテクノロジーを駆使し、惑星のためのファッションをつくるスペキュラティヴ・デザインラボラトリー。あらゆる人が惑星や自然への配慮を持ちながら、活き活きとした個人として自分なりの創造性を発露できる循環型創造社会の実現を目指し、次代のファッションをつくりだす思索的デザイン集団として活動している。主な受賞に、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、WIRED CREATIVE HACKAWARDなど。

川崎和也(かわさき かずや)

担当:2章、3章、4章1・2、6章、未来シナリオ
スペキュラティヴ・ファッションデザイナー/デザインリサーチャー/ Synflux 株式会社代表取締役CEO。1991年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了(デザイン)。身体や衣服、素材にまつわる思索的な創造性を探求している。監修・編著書に『SPECULATIONS』、共著に『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』がある。

佐野虎太郎(さの こたろう)

担当:2章2、3章2、6章、未来シナリオ
1998年生まれ。スペキュラティヴファッションデザイナー、Synflux株式会社取締役CDO。コンピュテーショナル・デザイン、バイオデザインを応用した新しい衣服の設計手法を思索する研究開発を行う。近年はアルゴリズミックデザインの専門家らと協働し、微分幾何学や進化型アルゴリズムの考え方を応用して身体や環境に最適化する衣服の設計手法の開発に注力している。

平田英子(ひらた はなこ)

担当:4章3・4・5、5章
慶應義塾大学卒業。ライター、リサーチャー。2020年6月よりSynflux参加。『ファッションスタディーズ』、「Fashion Tech News 」への寄稿のほか、翻訳に「シャネルとそのライバルたち」(ヴァレリー・スティールの講演、『ユリイカ』2021年7月号〈特集.ココ・シャネル〉)などがある。

過去稀に見る短かな梅雨が終わった2022年6月、日本の一部では気温が40度に達した。同月には以前の豪雨による災害の教訓として線状降水帯の発生予測を気象庁が始めたりと、いままで当たり前だった暮らし方は終わりにきていると感じざるをえない。 ここで問われるべきは、いままで当たり前だった暮らし方を支えるデザインのあり方だ。「春夏秋冬などのシーズンに基づくデザインのことかな?」と思われるかもしれない。だが、ファッションがシーズンレスになることはもはや小さな問題で、もっとデザインそのものの前提を問うような非常に重大な問題である。
デザインの前提とは「よりよい状況」を提供することであり、人類の幸福に寄与することだ。これを達成すべく、あらゆるモノは大量生産されてきたともいえる。できる限り多くの人に対して「よりよい状況」を合理的に提供するためのデザイン教育、研究、事業が是とされてきたのも、近代的な暮らし方が人類の幸福に寄与すると多くの人が考えたからだ。だが今日、私たちがよかれと思って開発した、よりよい状況をつくりだすあらゆるデザイン──製品であれ、サービスであれ──は、遠回りに私たちを苦しめているので
はないか。私たちがつくりだした持続不可能な世界を、私たちはほぼ無意識に再生産しているのではないか。
確かに、歴史的にみて私たちの生活は豊かになった。だが現在インターネットであれ路面店であれ、どこにいっても同じようなモノがつくられ、売られ、飽きられ、捨てられている。新たなモノへの欲望が情報化社会において摩耗する中、多くのデザインは市場における差別化を目的として存在している。これは、デザインが本来果たすべき「よりよい状況」の提供ではない。
これからのデザインには、人類の望ましい未来を奪う現在の生産・消費活動を改め持続可能な未来をつくることが切実に求められるだろう。つまり、「責任をもって、ありうる未来をデザインすること」だ。その上で、持続可能な未来に必要なあらゆるモノのデザインをし、その未来に向かって進むための方策の検討も求められる。これは「現実的に、ありうる未来への移行をデザインすること」に他ならない。
そのためには、ありえるかもしれない未来の製品やサービスを考え、実現する力が必要だ。商習慣や消費者の行動変容など、文化や倫理に接触するような課題も多数あるだろう。楽ができる消費社会からの移行は、面倒くさいことばかりだ。だが、逆説的にこの状況は千載一遇のチャンスでもある。
本書は、上記のようなありうるかもしれない未来のためのサステナブル・ファッションを実現したいと考える人に向けて書かれた。現在のファッション産業を取り巻く構造とは異なる話ばかりで、訳がわからないかもしれない。だが多くの事例が示すように、すでに未来の兆しとなるような活動は至る所で始まっているのも確かだ。
本書を通じて、責任をもって持続可能な未来へ移行するためのデザインのヒントが少しでも示すことができていたら本望である。

2022年7月
水野大二郎

消費社会の価値観を変えられるか?
そもそも「つくりすぎ、捨てすぎ」であることがファッション産業に突きつけられた課題である。だが、無買デー(Buy Nothing Day)のような活動こそが答えだとすると、社会経済活動を持続可能にするのは難しいかもしれない。自然環境のみならず社会経済活動も持続可能にするために、消費社会における価値観の移行に向けた製品やサービスをどうやって実現するか。本書はこの移行に向けたありうる可能性を検討し、その具体的な手法を紹介した。
微生物による生分解を前提に、「やがて再び素材に戻る」はずの衣服を感じることは可能か。「所有欲」ではなく、「所有感」としてデジタルデータとともに暮らすことは可能か。廃棄物再資源化のためのエコシステムは構築可能か。微生物、デジタルデータ、廃棄物を担う様々な設計要素と、それを扱う関係者が連携し、サステナブル・ファッションを構築することはできるのか。
ここではサステナブル・ファッション実現のためのいくつかの可能性の探求に留まったため、包装材の削減や修理サービスなど、本書で触れなかった漸進的改善要素も多々ある。とはいえ、目の前の実務に追われ続ければ、ありうる急進的変化が実現できなくなる。本書で示したのは限られた可能性ではあるが、本書が読者の皆様のありうる活動を具体的に検討、思索する一助となれば嬉しい。
なお、サステナブル・ファッションという領域は、喫緊の課題でありながらも人材育成のための教育・研究資料などが日本国内では十分整備されているとは言い難い。学生でも実務者でも、様々なオンライン翻訳ツールを駆使しつつ海外の資料や講座に参加し、常にデザインの方法や考え方をアップデートしていかないと、グローバル経済の中で取り残される危険性は高い。巻末になるが、オンライン講座とガイド&ツールとして複数の資料を紹介する。
本書を最後まで読んでくださった皆様の次なる一手としてぜひご覧いただきたい。

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