建築模型アイデア図鑑
内容紹介
表現と発想の幅を拡げるヒントとアイデア
建築模型を賑やかに彩る83のアイデア集。100円ショップで手に入る日用品や道端の落ち葉など、意外で多様な材料を使った模型のつくり方とポイントを、スタディ・コンセプト/周辺環境/植栽/建築の仕上げ/家具・インテリア/添景に分けて紹介する。コラムでは植栽の専門家と建築カメラマンがワンランク上の模型表現を伝授。
体 裁 四六・216頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2774-7
発行日 2021-07-15
装 丁 赤井佑輔、西野ゆかり(paragram)
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まえがき
1部 建築模型の基本
模型づくりの道具 (1)測る・切る・組む (2)はる・削る・塗る
模型づくりの基本材料
模型づくりの基本技術
2部 アイデア図鑑
図鑑の見方
1章 スタディ・コンセプト
01 張り子でつくる自由な立体のスタディ
02 財布にやさしい竹串の架構のスタディ
03 鉛板を使った曲面のスタディ
04 アルミホイルを使ったボリューム模型
2章 周辺環境 ── 地形や街の様子を表現する
05 ロープでつくる滑らかなコンタライン
06 スプレーするだけの波がざわめく水面
07 ポリ袋でつくる静かに揺れる水面
08 レジン液でつくる浅瀬の川
09 提案を引き立たせるクリアな周辺模型
10 不織布でつくる繊細な芝生
11 われもの包みでつくる整備された芝生
12 紙紐でつくる畑の風景
13 和紙の凹凸を活かした原っぱ
14 紙粘土でつくるどっさり積もった粉雪
15 エコファーを使った風紋が見える雪原
16 紙粘土でつくる柔らかな土壌
17 ティッシュでつくる湿った土壌
18 砂粒が混ざった乾いた地面
19 デッキブラシでつくる収穫後の田畑
20 石ころを積み上げた田舎風の石垣
21 スタイロの端材でつくる間知石風の擁壁
22 サンドペーパーを使ったインターロッキングブロック
3章 植栽 ── 季節や雰囲気を表現する
23 グリーンモスでつくる街路樹
24 カスミソウをアレンジした細身の街路樹
25 拾った枝をアレンジした実のなる木
26 綿を使った日差しが透ける木
27 金属たわしのこんもりした木
28 ストローを重ねた抽象的な木
29 ビニールタイでつくる動きのある木
30 落ち葉を集めた賑やかな庭木
31 ほうきの毛でつくる冬の木立
32 マップピンでつくる抽象的な街路樹
33 歯間ブラシの針葉樹林
34 ビーズとカスミソウの観葉植物
column 植栽模型マスターになろう
4章 建築の仕上げ ── 素材と風合いを表現する
35 耐水ペーパーでつくる色あせたスレート屋根
36 色画用紙を折るだけの瓦棒葺き屋根
37 メッシュを使った三次曲面の屋根
38 片面段ボールでつくる錆びついたトタン波板
39 カッティングシートをはるだけで仕上がる外装
40 色画用紙でつくる新築のコンクリート
41 発泡スチロールの無骨なコンクリート
42 本物を使ったコンクリートの内装
43 色付発泡スチロールの柔和な素焼き煉瓦
44 ジェッソとセメントの左官仕上げ
45 炙って引き出す木の風合い
46 紙紐のラインを活かした羽目板仕上げ
47 ミラーシートでつくる金属仕上げ
48 サンドペーパーを使った錆仕上げの金属板
49 調理串でつくる木製ドア
50 収納ケースでつくる和風の格子
51 クリアファイルを使った窓いろいろ
5章 家具・インテリア ── 室内生活を表現する
52 メラミンスポンジでつくる家具セット
53 ステイプルの針でつくる家具セット
54 爪楊枝とカラーボードのイージーチェア
55 つけ爪と画鋲のデザインチェア
56 マドラーでつくる棚
57 アルミホイルでつくる姿見
58 9ピンを使ったコンロと水道蛇口
59 スチのりをお湯に見立てたお風呂
60 半紙でつくるレースカーテン
61 折り紙でつくる洋服や洗濯物
62 ランチョンマットでつくる畳
63 鞄テープでつくる座布団やクッション
64 レジンを使った帽子
65 クローゼットの針金ハンガー
66 9ピンでつくる閉じた傘
67 くるみボタンでつくる鍋とフライパン
68 ボタンを使った器
69 紙粘土とカスミソウでつくる畑やマルシェの野菜
70 アクセサリー部品でつくる金魚鉢
71 ガムテープでつくる小包
72 ベッドサイドのフロアライト
73 LED照明を使った本当に光るダウンライト
6章 添景 ── 活動を表現する
74 スチレンペーパーの人
75 さりげなく動作を表すクリアな人
76 ポーズを変えられる鉛の人
77 布をはってつくる絵画セット
78 つけまつげの教室用ほうき
79 たわしでつくる竹ほうき
80 針金でつくる自転車
81 マドラーとボタンでつくる農家や行商のリヤカー
82 使い切った容器のキャップを再利用したバケツ・植木鉢
83 使い切った接着剤の容器でつくる三角コーン・フロアライト
column プロの写真家に聞く 模型写真のコツ
資料│実は使える材料・テクニック
サンドペーパー
ろう/塩ビシート/接着剤
関節可動人形
スノコ
多様な材料を使った模型表現
あとがき
材料索引
代用品でこそ発想力が鍛えられる(石垣充)
模型用材料は高価で正直財布が苦しい。
課題締め切り間近で模型用材料が売り切れている。
いつもスチレンボードで建築表現が固定化している……。
この本は、そんな思いがよぎったことのある人に向けた「ザ・模型材料」ではない「代用品」による建築模型表現のアイデア集です。
随分前の話ですが、北海道の山奥にある工業大学の建築学生だった私にとって、都会(札幌)にある品揃えのよい模型材料店は憧れの存在でした。年に一度買い出しに行く特別なお店。なので設計課題では、いろいろな模型用材料を使って模型を製作することができませんでした。
そんな私が学生になりたてのころ、ある深夜番組内に「セイシュンの食卓」(日本テレビ系列、1989~1990年)というコーナーがありました。缶詰の焼き鳥と汁を使って親子丼をつくるなど、レトルトやあり合わせの材料を使った調理法を紹介するアニメ。いわば「代用品」でいかに安くおいしく食事できるか、という内容でした。潤沢な資金(仕送り)があるわけではない自分にとって随分と参考になったものです。
食事すらそんな状態なので、専門店で手に入れる模型用材料など高嶺の花。町の小さな金物屋だとかホームセンターで代用できそうな材料を探し回ったものです。こういった経験は特に地方の建築学生にはよくあることかもしれませんね。
最初は代用品を探すことが目的でしたが、材料を見ているといろいろな建築のアイデアが浮かんでくる。新鮮な目で材料を眺めていると、すべてを建築に見立てるようになりました。おかげで自分の卒業設計はスチレンボードなど王道の模型用材料を使用せず、金属だけでつくる羽目になってしまいました。その癖は、設計事務所に勤めてから研究者になった現在まで変わらず、今も暇さえあればホームセンターを徘徊しています。
本書のアイデアの多くは西日本工業大学と九州産業大学の学生によるもので、試行的なアイデアも含まれています。現役大学生による「セイシュンの模型」といったところでしょうか。学生から実務に取り組む設計者まで幅広い方々にとっての建築表現の手助けや、建築を発想する際の新しい視点の獲得につながれば幸いです。
本物らしい質感を伝える材料を選ぶ(矢作昌生)
日本ではスチレンボードでつくる、いわゆる「白模型」がスタンダードになっています。これはこれで丁寧につくると単色ならではのミニマルな美しさがありますが、人・家具・小物・樹木などの添景や素材感の表現を加えると、実際の建築の空気感を表現することができます。しかしながら、そのための材料を既製品でそろえようとすると、とても高価だったり、いまひとつ欲しいものがない場合も多いでしょう。
模型にそんなにお金がかけられない、地方などでいろいろな模型用材料が入手できない、自由に素材や添景をつくりたい、そんな方々のために、本書では一般的な模型用材料だけでなく、100円ショップやホームセンターなどで入手できるものや日用品、なかには拾ってきたもので、より本物らしく、賑やかな模型をつくる方法を紹介しています。読者の皆さんには本書で紹介するアイデアを習得するだけではなく、アイデアをさらにブラッシュアップさせてワンランク上の表現に挑戦してもらいたいものです。
例えばスタディ模型。このスタディ模型をたくさんつくって、多くのアイデアを検討するなかで案を練り上げることが、よい建築をつくるコツなのですが、日本の建築教育は製図技法を先に教えることが多いので、手で考えるプロセスが手薄になりがちだと感じています。スタディ模型は主に自分自身とのコミュニケーションツールですので、完成度よりも「早く・手軽に・自由に」つくれることが重要です。つくりたいイメージによって材料も変わるはずなので、そういった視点で身近なものを見直してみると、意外なものが模型材料に化けるかもしれません。また、材料の探求は新たな道具の発見にもつながります。例えば段ボールの切れ端、菓子箱なども模型材料になるかもしれません。箱の文字が気になるのであれば、最後に一色に塗装すると案外格好よくなります。異素材をくっつけるときはグルーガンやコーキングなどがよく、接着剤も探求しがいがありそうです。
自分なりの模型の知識を深めていけば、きっとそれは建築をつくる上での新たな発想につながるはずです。ぜひ本書をきっかけに、その一歩を踏み出していただければ幸いです。
試してみることの大切さ。
本編を書き上げたときに再認識し、昔の体験を思い出しました。
大学4年。研究室で某実施コンペの最終模型を徹夜でつくり、恩師入江正之先生の最終チェックを受けていたときのこと。
「何か模型に風合いが足りないな……」
皆緊張して先生の次の一言に集中する。
「ちょっと醤油を持って来てくれ!」
かなりの衝撃を受けました。「模型と醤油」という無関係と思える言葉が初めて結びついた瞬間でもありました。「ああ……醤油も模型材料なのだ!」と眼から鱗。感動したものです。結局模型に醤油をかけても効果は少なく、失敗でしたが……。
今は失敗することが難しく感じる、大変重圧のある時代だと思います。まえがきにも書きましたが、この本には試行的なアイデアも含まれています。私にとっては、それらをつなぎ止めた備忘録のようなものですが、これがそれでも学生をはじめ若い設計者がノビノビと建築を表現するきっかけになってくれると願っています。
また、2大学の学生がつくるアイデアに各々傾向があることも面白い発見でした。西日本工業大学は建築から都市への大きな表現、九州産業大学は小物やインテリア。これら幅広いアイデアを調整し、とりまとめるという大変ではあるが有意義な取り組みの機会をいただいた学芸出版社の古野様に感謝申し上げます。(石垣 充)
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「素材感」は人に大きな印象を与えます。
例えばコンクリートは硬くてクールだけど、木は柔らかさと温かみがあるというように、素材が違えば空間の印象も大きく変わります。模型に素材感を与えるということは、設計者にとってはどのような空間にしたいのか考える機会となり、模型を見る人にとっては、設計者の意図が一発で伝わるという意味でワンランク上の模型になります。
「添景」は設計者が考えた、その空間で営まれる「生活」や「使われ方」を表現することができます。そして、素材と添景が与えられた「リアル模型」は、その建築が街のなかでどのような風景をつくるのか想起させてくれることでしょう。
読者の皆さんには、お金をかけなくても、そこまでの模型を目指してほしいと思います。本書の執筆に取り組んだ学生の1人は、卒業設計の「リアル模型」をつくっているとき、いつでも、どこでも、模型材料にならないかという目で日々過ごしていたそうです。そのような目で毎日を過ごすと、本書に載っていない「素材」や「手法」を発見できるかもしれません。本書がそのようなきっかけになってくれると嬉しいです。(矢作昌生)
メディア掲載情報
開催が決まり次第、お知らせします。