コミュニティカフェ
内容紹介
誰もがふらっと立ち寄れ、居心地の良い空間を楽しめる。出会いがあり、交流が生まれ、地域活動やまちづくりにつながることもできる場。そうしたコミュニティカフェの魅力と、運営のノウハウを各地の事例も紹介しながら紐解く。著者は開設15年を迎える港南台タウンカフェを主宰し、全国で開設・運営の支援に携わっている。
体 裁 四六・232頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2740-2
発行日 2020/06/20
装 丁 久保田修康
はじめに
口絵:コミュニティカフェの世界
港南台タウンカフェにようこそ
まちに広がる交流の輪
各地のステキなコミュニティカフェ
1章 コミュニティカフェはまちの交流交差点~港南台タウンカフェの実践から
1 誰もがふらりと立ち寄れて
1 港南台タウンカフェができるまで
2 お洒落なショップ&カフェか、まちづくり空間なのか?
3 居場所として安心してくつろげる、温かい交流空間
4 一歩踏み出すことのできる豊富な機会
5 地域のつながりづくりやコーディネート機能
2 場があるからこそ生まれるもの
1 音楽通り:ふと見たワンシーンが活きる瞬間
2 小箱ギャラリー:みんなが主役のコミュニティ
3 手づくり募金:小さな気持が集まった被災地支援
4 失敗が生みだした信頼関係
5 安心できる関係性:若者たちの就労支援研修
3 思いがけない展開が地域を豊かにする
1 小箱から飛び出す作家さんたち
2 高校生も大活躍!:被災地復興イベントから、まちの「かわら版」まで
3 「ふ~のん」:まちへの想いをカタチに
4 うなぎ食べて商店会が若返る?:港南台まちある隊
5 たまごキャンドルで紡がれる地域の絆
6 10年で培った地域団体との信頼関係
2章 全国に広がるコミュニティカフェ~個性が光る7つの事例
事例1 子育てをまちでぷらすに:こまちカフェ
事例2 高齢者の見守り機能と市民参画:ふらっとステーション・ドリーム
事例3 空き家がまちの縁側に:ジュピのえんがわ
事例4 古民家を活用した官民協働まちづくり拠点:まち家世田米駅
事例5 住み開きカフェが地域をつなげる:ハートフル・ポート
事例6 庭のカフェがみんなの居場所に:みやの森カフェ
事例7 「行政×大学×地域」コミュニティ拠点の実験場:芝の家
3章 コミュニティカフェの始め方・続け方~7つのツボから探る
1 想いをデザインする
1 ねらいや目的に応じた立地や施設
2 空間デザインの重要性
3 ストーリーのある商品が共感度を高める
4 取材レポートは最高のつながりツール
5 空間・時間・人間・隙間。4つの「間」をデザインする
2 おもてなしの極意
1 おもてなしの必要性
2 スタッフの心配りがキホン
3 おもてなし研修の重要性
4 気配り「1対9の法則」
5 コミュニティカフェならではのおもてなし
3 人材発掘と参画のデザイン
1 ファンや利用者が担い手に変化するポイント
2 主体性を持った活動へのステップアップ
3 人材発掘のキモ
4 「任せる」という覚悟を持つこと
5 エプロン姿のコーディネーターが育つ
4 組織のつくり方と運営
1 運動体から事業体へのイノベーション
2 やりたいことと地域ニーズの確認
3 組織づくりは柔軟に
4 ボトムアップの意思決定の重要性
5 合意形成の大切さと直感を信じる経営判断
6 リーダーにモノ言えるヒトはいますか?
5 経営について考えてみる
1 社会性と事業性のバランスをどう保ちますか?
2 利益を生み出す方法を考えよう!
3 プロとしての自覚と誇り:善意での事業は続かない
4 さまざまな事業モデルを考えよう:飲食以外の事業形態から経営を考えてみる
5 資金調達のいろいろ
6 伝える意識とチカラを身につけよう!
1 ブランドイメージを確立しよう
2 メディアの活用を考えてみよう
3 事業の成果だけでなく課題も積極的に発信すべし
7 響き合うポイントを大切に:連携そしてコーディネート機能
1 自分たちだけでは成り立たない
2 専門的な広域ネットワークづくり
3 地域連携は積み上げていくもの
4 連携・協働のポイント:行政・企業との関係づくり
5 コミュニティカフェがまちの中間支援機能を担う
解 題 コミュニティカフェの文明史的意義 名和田是彦(法政大学法学部教授)
おわりに
ある日の午後。
テーブルに布小物をひろげて雑談しながらオーガニックティーを楽しむ主婦3人。子育てがひと段落したぐらいの世代であろう。時折笑い声が聞こえつつも手元はせわしなく動き、花柄の布を縫い合わせている。
隣のテーブルでは、パソコンやノートを開いて議論を交わしている男女4人のグループ。イベントかセミナー開催の打ち合わせだろうか。山積みになった資料と真剣な眼差しがその取り組みの重要性を感じさせる。
また、ソファ席ではイヤホンをつけて1人でホットココアを飲んでいる女子高生。音楽を聴きながらテスト勉強でもしているのだろうか。テーブルには参考書らしきものと可愛いペンケースが置かれている。
カウンターでは中高年の女性たちが、エプロン姿のスタッフと、ハンドメイド作品の納品作業を、世間話を交えながら楽しそうに行っている。キッチンの中ではボランティアとスタッフが談笑しながら野菜を刻み、スープ作りに精を出している。
ここは横浜市の南部、JR京浜東北根岸線の港南台駅から徒歩2分に位置する築40年になるビルの2階。
エントランスは大きな扉4枚、3・6メートルの開口部が圧巻だ。オープンから14年経った今でも香りが漂いそうな、地元神奈川県産材の杉をふんだんに活用したウッディな内装。奥行き12メートルの壁面にはびっしりと「小箱ショップ」と呼ばれる棚が並んでいる。
この22坪の小さなカフェは、いわゆるふつうのカフェや雑貨屋さんとは違い、店内にはまちの情報誌やチラシが配架、掲示され、壁面を活用したギャラリーなどがある。そして、地元のパン屋さんの手作りパンや障害者支援施設等で作られた焼き菓子のほか、全国各地の小さなまちや、被災地などで作られた特産品も販売されているユニークなカフェだ。またハンドメイドワークショップや、まちの交流イベント、音楽サロン、シニアの介護予防プログラムなどもかなりの頻度で開催している。
そして、キッチン奥のバックヤードにはパソコンやコピー機、電話機4台など事務機器や書類が並んでいる*という不思議な空間である。
担い手であるスタッフも、有償で働く非常勤スタッフ以外にボランティアとして活動するメンバーも多いのが特徴だ。
この港南台タウンカフェ(以下「タウンカフェ」)は、カフェ兼ハンドメイドショップでありながら、まちづくりや地域活動を行う居場所機能を持った地域交流拠点で、「コミュニティカフェ」と呼ばれている。開設した14年前には、自分たち自身がコミュニティカフェという言葉も知らないくらい世間には目新しい形態だった。しかし最近は日本各地で急速に広まっている。横浜市内でも、10年前には数カ所だったが、今や65カ所まで急激に増加している。
「コミュニティカフェ」とは何か明確に定まっていないが、僕は次のように考えている。
「コミュニティカフェ」とは、
市民が自発的・主体的に、
カフェ的な場や空間・機能を活用して、
「事業」として、居心地の良い場を共有すること。
さらには自分たちの暮らすまちや地域に関わる機会も持ち合わせている場である。
つまり、行政が設置して運営を委託したり、企業が全国展開するようなものではなく、地域で暮らす人たちが運営すること。そして、持続可能な運営を自立して行うことが求められている。
コミュニティカフェは、美味しいスイーツやドリンクの提供を通じて利益を上げることが目的ではない。居心地の良い空間を楽しめたり、交流の機会や地域活動に巡りあえたり、さまざまな出会いや発見の機能を、「カフェ的な空間」を活用して発揮する取り組みである。
そして、そこに集う仲間うちだけの関係で終わらず、誰もが気軽に入ることができ、広く社会に開かれた公共空間であることも重要な要素だ。人と人のつながりづくりや、情報発信の基地として、地域の課題解決の実践、地域活性化といった、まちづくり活動などのさまざまな機能を担う。
つまり、自立、自律した運営をしつつも、公益性を大切に、かつ民間運営ならではの自由さや多彩なプログラムなどがあるのが、コミュニティカフェの魅力である。
本書ではこうしたコミュニティカフェの成り立ちや、そこで起きている具体的なエピソードからその魅力を紐解き、具体的なノウハウを、実践経験をもとにお伝えしようと思う。
地域のつながりが希薄化してきた、高度経済成長期以降の日本社会が抱える課題の解決の糸口になれば嬉しいし、さらには日本各地で、コミュニティカフェという魅力的な場や活動が拡がり、豊かで笑顔がはじける社会となることを願う。
新型コロナウィルスに対する緊急事態宣言下
居心地が良い空間・交流の場の復活を信じて
2020年5月10日 齋藤 保
*1 2017年にキッチンを改築してからは、バックヤードの事務所は2階の事務所に移転した。
コミュニティカフェという言葉をまだ知らない時代に、タウンカフェの構想を練り上げた頃からおよそ20年が経つ。
起業して間もない30代半ばには、エプロンを着けて日々現場で楽しく汗を流していたことが懐かしく思い出される。40代の10年間はタウンカフェ業務の多くは現場スタッフに任せて、同じような志を持つコミュニティカフェやコミュニティビジネス運営者の方々のサポートを中心に行うようになった。
特に2011年の東日本大震災以降は、被災地も含めて全国のコミュニティカフェの起業支援やコンサルティングを中心にその活動の意義や役割を広める活動を行ってきた。
こうした地域の「場」づくりの成果は各地で着実に根付き、じわじわと広まってきていると感じる。
さらには、常設運営とはいかなくても、全国各地の地域活動やまちづくり、地域福祉の現場では、公民館や町内会館、公共施設、空き家などを活用した、定期開催のサロンや居場所づくり活動が盛んに行われるようになっていることを見れば、こうした「場」の持つ役割や意義は浸透してきているのだろう。
期せずしてこの4月、新型コロナウイルス感染症を抑えるための緊急事態宣言をうけて、タウンカフェでもさまざまな交流イベントやカフェサロンを休業して、小箱ショップ販売のみの営業としている。感染拡大のための予防策として、店内での掲示の中に「会話を控えて」という一言をいれざるを得なかった。会話や交流機能を失ったコミュニティカフェの喪失感は、おそらく思った以上に見えないダメージがあり、何のために営業しているのか自問自答する日々が続いている。
しかし、終息した後にはコミュニティカフェの意義や役割を再認識できて、
「場の持つチカラは大きいよね」
そう本心で語れる日がきっとくると信じている。
この「場が持つチカラ」というフレーズは、これまでも仲間同士でよく話していたが、実際には「場のチカラ」というのは、そこに関わる人たちの想いや行動が起こす結果であり、「場」はそれをサポートしている空間なのだと思う。
どこのコミュニティカフェを訪れても、どこか穏やかで優しい雰囲気が流れ、良い空気感が醸しだされているのは、そうした想いがスタッフやお客様、関係者ら互いの立場を超え、人として尊重しあえる関係を育んでいるからだろう。
そして、それがコミュニティカフェの中だけに留まらず、じわじわと地域へ影響を及ぼしていき、まちがつながるきっかけになっていく。
このステキな「場」づくりの世界を、本書を通じてより多くの人に感じてもらい、そして仲間の輪を広げることができれば何よりの幸せだ。
そして、こうした価値やその重要性は、これからの地域社会やまちづくりに夢や希望を与えてくれると信じている。
最後になるが、初めての執筆にあたり、何度も粘り強くお付き合いいただいた、学芸出版社前田裕資社長をはじめ、取材協力いただいた、菅野裕子さん、中山貴久子さん、岡野富茂子さん、取材先のコミュニティカフェ運営者のみなさまに心より敬意を表したい。
また、何よりも株式会社イータウンスタッフには企画段階から、データ収集や整理、推敲、校正まで根気強く尽力いただいたことに感謝する。
2020年5月10日 齋藤 保