北欧モダンハウス

和田菜穂子 著

内容紹介

グンナー・アスプルンド、アルヴァ・アアルト、アルネ・ヤコブセン、ヨーン・ウッツォン…、北欧を代表する建築家たちは自らの住まいで実験を試み、家族のためにこだわりの空間をつくりだした。妻や子供との暮らしに滲みでる素顔、時代や風土への真摯な眼差し、安住のデザインを追求した名作を巡る、建築家たちの住宅術。

体 裁 A5・208頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2534-7
発行日 2012/08/01
装 丁 古谷 哲朗


目次著者紹介まえがきあとがき推薦・書評担当編集者より
7人の建築家の夢-家族と過ごした時間と空間
建築家相関図

1.グンナー・アスプルンド

アスプルンドの夏の別荘
[column]終の住処
息子が語る、母イングリッドの魅力

2.アルヴァ・アアルト

アアルト自邸
マイレア邸
コエタロ(夏の別荘/実験住宅)
コッコネン邸
[column]共同生活の家ヴィトレスク
純真な女性アイノ
スウェーデンの茶室・瑞暉亭と日本建築ブーム
陽気で快活な後妻エリッサ
妻の城、キッチン・デザイン

3.アルネ・ヤコブセン

ヤコブセン自邸
ヤコブセンの夏の別荘
ヤコブセン自邸(スーホルムⅠ)
コックフェルトの夏の別荘
[column]前妻マリーへの手紙
後妻ヨナとテキスタイル・デザイン
実験住宅クーブフレックス
フィン・ユール自邸

4.モーエンス・ラッセン

モーラー邸
ラッセン自邸
イェスパーセン邸

5.ヨーン・ウッツォン

ウッツォン自邸(ヘルベック)
ミッデルボー邸
[column]子供たちによる父ヨーン・ウッツォンと母リスの思い出

6.アルネ・コルスモ

ダンマン邸
ステーネーセン邸
コルスモ自邸
[column]北欧デザインの女王グレタ・プリッツ・キッテルセン

7.スヴェレ・フェーン

シュライナー邸
建築家略歴
注釈
見学可能な建築所在地
あとがき

和田 菜穂子(わだ なほこ)

1969年新潟県生まれ。東北芸術工科大学准教授、慶應義塾大学非常勤講師。学術博士(ph. D.)。1992年青山学院大学卒業、2006年慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学、2006~2008年デンマーク政府奨学生としてコペンハーゲン大学留学。2009年より現職。大学卒業後、一般企業、黒川紀章建築都市設計事務所に勤務。大学院在学中より神奈川県立近代美術館にて学芸員を兼ね、その後ドイツ・ヴィトラ・デザインミュージアムと共同で「ジャン・プルーヴェ展」、スイス・プロヘルヴェティア文化財団と共同で「スモール&ビューティフル:スイス現代デザイン展」の日本巡回展を手掛ける。建築・デザイン分野でのキュレーションが専門。展覧会企画のほか、美術館と連携した造形&身体表現のワークショップなどイベント企画多数。世界各地のミュージアムを巡るのが趣味。
著書に『アルネ・ヤコブセン』『近代ニッポンの水まわり』(以上、学芸出版社)。
http://www.nahoko-wada.com

7人の建築家の夢-家族と過ごした時間と空間

北欧のゆったりとした時間の流れや、シンプルで良質な空間での過ごし方に憧憬の念を抱く日本人は多いだろう。彼らの豊かな生活の根源は一体どこからきているのだろうか? 歴史を紐解いていくと、モダン住宅がひとつのキーワードとなって浮かび上がってくる。

北欧は地理的条件から、夏は短いが夜になっても太陽が沈まない白夜が続く。冬はその逆で、太陽の姿を見ることが極端に少なく、暗くどんよりした厳しい寒さの日々が続く。北欧の人々にとって、そのような特有な四季をいかに快適に過ごすかが長年の課題であった。そして照明器具や家具などのインテリアが発達し、日常生活の質にこだわりを持つようになったのである。特に家族と過ごす時間と空間を重要視しているのは、言うまでもない。

グンナー・アスプルンド、アルヴァ・アアルト、アルネ・ヤコブセン、モーエンス・ラッセン、ヨーン・ウッツォン、アルネ・コルスモ、スヴェレ・フェーン。本書では、20世紀の北欧モダンの建築家と彼らの意思を受け継いだポストモダンの建築家の足跡を辿った。彼らの自邸、別荘、その他代表的な住宅を紹介するが、特に自邸と別荘は、彼らの実験の場として新しい試みがなされた。それには家族の協力、特に公私にわたるパートナーとしての妻の協力が不可欠であった。「成功者の陰に賢妻あり」とはまさしくこのことである。

7人の建築家が追い求めた理想の住宅。彼らはどのようなプロセスを経て、その理想の住宅を実現させたのだろうか。18の代表的な住宅を巡り、妻や家族と過ごした時間と空間、そして《建築家の夢》を探っていきたいと思う。

「今度は夏にいらっしゃい」。

2011年9月に北欧を訪れた際、ある住宅のオーナーから言われた言葉。成田空港から旅立った時、日本はまだ猛暑であった。調査の半ばで「北欧の9月がこんなにも肌寒かったっけ?」と過去の記憶を思い起こし、厚手のコートを持参しなかったのを悔んだ。私がアアルトのコエタロ(実験住宅)を訪れたのは夏季開業が終わる1日前で、あまりの寒さにユヴァスキュラの街でダウンジャケットとブーツを購入した。北欧の9月は冬を迎える直前の短い秋であった。

私がデンマークに留学していたのは2006、2008年の2年間で、デンマークは他の北欧諸国(スウェーデン、フィンランド、ノルウェー)に比べると一番緯度が低く、寒暖の差が少ないことに気づく。今回はわずか17日間で4カ国を巡るというタイトなスケジュールの調査旅行だった。留学中に培った人脈や友人のネットワークを頼りに、日本出発前に住宅訪問とインタビューの日程をしっかり組んでいた。自称「晴れ女」の私は、ここでも天候に恵まれ、青空を背景によい写真を撮ることができたのは幸運であった。

ところで私が北欧に魅せられたきっかけは、アアルトのマイレア邸である。初めて訪れた北欧は、実はデンマークではなく2003年冬のフィンランドだった。当時、慶応義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)修士2年の私は、ヘルシンキ工科大学(現在のアアルト大学)との共同ワークショップに参加しており、自由行動の1日を使って友人ふたりと訪れたのである。その時の感動が忘れられず、私にとってマイレア邸は数ある名建築の中で1番のお気に入りとなった。それ以降もヨーロッパ各地の建築をまわったが、未だマイレア邸は不動の1位(My favorite architecture)を誇っている。

それから3年後の2006年9月。念願の北欧留学を果たした。ところが、日ごとに日照時間が短くなり、12月になると朝8時になっても太陽が昇らず、辺りは真っ暗である。日が昇っても夕方3時になると沈んでしまい、夜が長い。そんな暗い冬の暮らしを経験し、精神的に参ってしまった。留学先を北欧に選んだことさえ後悔する毎日であった。鬱病患者や自殺者が多いという事実も、冬の陰鬱な日々を過ごすと理解できる。
ところが「喉元過ぎれば…」という諺のように、春が来て、待望の夏がやっあとがきてくると、嘘のように「北欧万歳!」に変わるのである。日本のようにじっとしていても汗ばむことなくからっとした気候は、窓を開けてさえいれば冷房不要である。私はルームシェアしていたデンマーク人と爽快に自転車のペダルを漕ぎ、近所の公園や海辺へ出かけ、短い夏を謳歌した。

しかし冬になると再びあの暗さに馴染めず、友人とクリスマスシーズンはスペインへ渡り、陰鬱な気を紛らわせた。ウッツォンがシドニー・オペラハウスの設計担当者から外された際、祖国デンマークに戻らず、スペインのマヨルカ島での暮らしを選択したのは納得できる。私はこのように北欧での暮らしを通じ、「北欧の光と影」を知った。
本書で紹介した建築家たちは自らの住宅に夢を託し、妻や家族がそれを支えている。厳しい自然環境の北欧で生き抜くための知恵が、住宅に詰め込まれているのである。

―謝辞―

とても素敵な本に仕上がりました。帯にメッセージを寄せてくださったミナ ペルホネンの皆川明さん、出版の機会を与えてくださった学芸出版社および編集の宮本裕美さんに深く御礼申し上げます。デザインをお願いしたグラフィックデザイナーの古谷哲朗くんは、慶応義塾大学三宅理一研究室の後輩にあたります。彼は5月に新婚旅行で北欧へ渡り、本書のデザインに北欧らしさを取り入れてくれました。その他、日本だけでなく北欧でお世話になった方々の顔と名前が思い浮かびます。私の研究も家族の支えによって成り立っています。調査旅行中に両親に預けていた犬を亡くしました(享年16歳)。最愛のパートナーの死から立ち直らせてくれたのは、もう1匹の犬でした。本書は私の家族に捧げたいと思います。

あなたの夢は何ですか? 私も夢を持っています。北欧の建築家たちのように、いつまでも夢と希望を失わず、チャレンジし続けたいと思います。そうすることできっと将来が開けると信じ、ここに筆を置くことにします。

2012年6月山形にて 和田菜穂子

ミナ ペルホネンのデザイナー
皆川明さんのメッセージ

「生活の息吹と共にあるモダンデザインは北欧建築家の豊かな人生から生まれていた。デザインへの気持ちが伝わってくる幸せな一冊。」

テキスタイルデザイナー
森山茜さんレビュー

北欧の国々はヨーロッパの中央からみれば、比較的人口の「小さな」国々である。例えば北欧で一番「大きな」国スウェーデンは、面積こそ日本よりも広いが、人口は約900万人(2012年現在)を超える程度である。

そんな「小さな」国々で活躍したグンナー・アスプルンドやアルヴァ・アアルトといった北欧の建築家たちは、ヨーロッパの中央部やアメリカで起こるモダニズムの流れに必死でアンテナを張っていた。本書では、そんな彼らが試行錯誤しながら自国で実践した住宅作品に焦点が置かれている。著者はそれらの住宅群を建築家の家族関係や同世代の建築家との交流を通して、わかりやすい語り口で紹介している。家族のエピソードから、ル・コルビュジエらとの関係まで、著者の独自の視点から建築家の生涯を追っている。

こうして同時期に活躍した北欧の建築家たちを俯瞰すると、彼らの共通する部分や関係性が網目のように現れる。例えば、本書に登場する多くの建築家がストックホルムにある茶室・瑞暉亭を訪れているという点で繋がってくる。また、日本で紹介されることの少ないノルウェーの建築家アルネ・コルスモがスヴェレ・フェーンやヨーン・ウッツォンに影響を与えたことや、建築家モーエンス・ラッセンがル・コルビュジエから受けた影響を独自の方法でデンマークの風土に取り入れていった点など、本書からは当時の連鎖反応の面白さが垣間見える。

これらの住宅は、北欧の建築家たちが国外で起こるモダニズムを貪欲に吸収しながらも、一方でそれらを自らの故郷でマイペースに消化していった過程の現れ、とも言えるだろう。本書は、その過程を紐解いていくための一つの窓口となるかもしれない。

(テキスタイルデザイナー、ストックホルム在住/森山茜)

担当編集者より

企画当初から著者の和田さんは建築家と妻の関係にとても関心があったようだ。
激動の時代を駆け抜けた建築家たちの人生は波乱万丈で、妻や子供との関係も独特だ。和田さんは、妻に宛てた手紙を読み解き、子供へのインタビューを試みながら、建築家としての表の顔とは別の素顔を浮かび上らせている。
戦前戦後の苦しくてもものづくりが輝いていた時代、北欧という辺境の土地で、建築家たちはどのように生きたかったのか。
そんなことを考えさせてくれる1冊です。

(MH)

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2019年10月11日

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