北欧の照明
デザイン&ライトスケープ

小泉 隆 著

内容紹介

暗くて長い冬の間、室内で暮らす時間を楽しむため、北欧では優れた照明器具が多数生みだされ、建築や都市空間を彩る照明手法が発達した。本書は、ポール・ヘニングセンやアルヴァ・アアルトら、北欧のデザイナーや建築家11人が手がけた100の名作について、デザインと機能、空間の照明手法を500点に及ぶ写真と図面で紹介。

体 裁 A5・240頁・定価 本体3300円+税
ISBN 978-4-7615-3249-9
発行日 2019/09/05
装 丁 凌俊太郎(Satis-One)


目次著者紹介まえがきあとがき関連イベント
CONTENTS

Introduction 光の質の追求

Poul Henningsen│ポール・ヘニングセン(1894-1967)

ポール・ヘニングセンの人物像と多彩な活動
ヘニングセン自邸
ヘンネ・メッレ川のシーサイドホテル
ヘニングセンの照明理論
初期の照明デザイン
パリランプ
フォーラムランプ
3枚シェードのPHランプの特質
世界中に普及した3枚シェードのPHランプ
ルイスポールセン社との関わり
オーフス駅の3枚シェードのPHランプ
蒸気式洗濯工場デーンズ・ランドリーのPHグローブとPH蛍光灯
PHセプティマと4枚シェードのPHランプ
チボリ公園の照明
戦時中の紙製プリーツランプ
PH5
PHコントラスト
ランゲリニエ・パヴィリオンのPHアーティチョークとPHプレート
PHルーブルとPHスノーボール
オーフス大学メインホールのスパイラルランプ
オーフス劇場のダブルスパイラルランプ

Alvar Aalto│アルヴァ・アアルト(1898-1976)

キャンドル器具のデザイン
PHランプが設置された初期の作品
労働者会館の照明
標準仕様の照明器具
パイミオのサナトリウムの照明
ヴィープリの図書館の照明
アルテック社の設立
アルテック社の照明工場
レストラン・サヴォイとゴールデンベル
マイレア邸書斎の照明
ルイ・カレ邸の展示照明
球形のスポットライト
有機的なフォルムを用いたランプ
円筒形のペンダントランプ
ポール・ヘニングセンからの影響
リング状のシェードで光源を包み込んだ照明
小型の照明器具
図書スペースの照明
自然光と人工光の調和
ユニークな外灯
窓辺のペンダントランプ
暗さを楽しむ照明
小さな灯りを束ねた照明
ペンダントランプ群による空間の演出

Kaare Klint│コーア・クリント(1888-1954)

クリント家とレ・クリント社
工房での職人による手作業
日本の提灯や行灯からの影響

Vilhelm Lauritzen│ヴィルヘルム・ラウリッツェン(1894-1984)

ラジオハウスの照明

Arne Emil Jacobsen│アルネ・ヤコブセン(1902-1971)

オーフス市庁舎の照明
SASロイヤルホテルの照明
ムンケゴーランプ
ロドオウア市庁舎の議場の照明

Finn Juhl│フィン・ユール(1912-1989)

国際連合本部ビル信託統治理事会会議場のブラケットランプ
二重シェードの照明器具
自邸の照明コレクション

Hans Jørgensen Wegner│ハンス・ J ・ウェグナー(1914-2007)

ザ・ペンダントとオパーラ
初期のドローイングに見る照明デザイン
ウェグナーと名づけられた街路灯

Jørn Utzon│ヨーン・ウッツォン(1918-2008)

建築作品にも通じる照明器具のデザイン

Erik Gunnar Asplund│エリック・グンナール・アスプルンド(1885-1940)

イェーテボリ裁判所増築部の照明
ストックホルム市立図書館の照明
森の火葬場の照明

Erik Bryggman│エリック・ブリュッグマン(1891-1955)

復活礼拝堂の照明

Juha Ilmari Leiviskä│ユハ・レイヴィスカ(1936-)

浮遊する照明器具

資料編
北欧照明器具の年表
現地事例リスト
参考文献

あとがき

小泉隆│Takashi Koizumi
九州産業大学建築都市工学部住居・インテリア学科教授。博士(工学)。1964年神奈川県横須賀市生まれ。1987年東京理科大学工学部建築学科卒業、1989年同大学院修了。1989年東京理科大学助手、1998年T DESIGN STUDIO共同設立。1999年九州産業大学工学部建築学科専任講師、2010年同大学住居・インテリア設計学科教授。2017年4月より現職。2006年度ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)建築学科訪問研究員。
主な著書に『北欧の建築 エレメント&ディテール』『アルヴァ・アールトの建築 エレメント&ディテール』(以上、学芸出版社)、『北欧のモダンチャーチ&チャペル 聖なる光と祈りの空間』(バナナブックス)、『フィンランド 光の旅 北欧建築探訪』『アルヴァル・アールト 光と建築』(以上、プチグラパブリッシング)など。
Introduction │ 北欧の照明デザインについて

北欧の灯りの文化
高緯度に位置する北欧諸国では、太陽がなかなか沈まず白夜や薄暮が続く夏がある一方、日照時間が短い冬は天候も悪く、寒く暗い時期が長く続く。古来このような光と闇のサイクルの中で暮らしてきた北欧の人々には、光を大切にしながら生活する文化が根付いている。とりわけ寒く暗い冬にキャンドルや照明器具をうまく設えている北欧の人々の暮らしには、連綿と受け継がれてきた豊かな灯りの文化を感じずにはいられない。そして、そのような土壌ゆえであろう、照明器具にも優れたデザインのものが多い。
本書は、20世紀を代表する北欧の建築家およびデザイナー11名による照明デザインと光の扱いについてまとめたものである。具体的な個々の紹介に先立ち、ここでは彼らの諸作品から見えてくる北欧の照明デザイン全般に通底する特徴について概観しておきたい。

本書で取り上げる11名の建築家・デザイナー
北欧の照明デザインを語る際にまず挙げられるのが、「近代照明の父」とも呼ばれるデンマーク人デザイナー、ポール・ヘニングセンであろう。まだ良質な照明器具がなかった1920年代、ヘニングセンは様々な照明理論を発表するとともに、斬新な照明器具のデザインに着手した。当時の建築家がヘニングセンの照明を自身の建築作品で使用している例が数多く確認できることからも、彼の照明デザインの先進性をうかがい知ることができる。また、ヘニングセンの照明理論は、北欧の枠を越えて世界中に浸透しており、その影響は絶大なものがある。
そして、もう一人の重要人物が、フィンランドの近代建築の礎を築いた巨匠アルヴァ・アアルトだ。アアルトらしいユニークな形をした照明器具はアルテック社より製品化されており、世界中で愛されている。一方、製品化された照明以外にも、建築プロジェクトに応じて個別に器具を多数設計しており、自然光と人工光を調和させる手法などには建築家としての視点も感じられ、実に興味深い。
さらに本書では、ヘニングセンとアアルトの二人に加え、以下の建築家・デザイナーの照明器具を紹介する。まずデンマークからは、建築家、家具デザイナーであり、教育者としても活躍したコーア・クリント。さらには、デンマークのモダニズムの発展に大きく寄与した建築家であるヴィルヘルム・ラウリッツェンとアルネ・ヤコブセン、そして著名な家具デザイナーのフィン・ユールとハンス・J・ウェグナー。加えて、シドニー・オペラハウスの設計者として知られる建築家ヨーン・ウッツォン。一方、スウェーデンからは、アアルトをはじめとして後進の多くの建築家に影響を与えた北欧建築界の巨匠エリック・グンナール・アスプルンド。フィンランドからは、当時アアルトの最大のライバルとも言われた建築家エリック・ブリュッグマンとアアルトの流れを汲み現在も活躍する建築家ユハ・レイヴィスカ。彼らは、ヘニングセンやアアルトに比して数は少ないものの、いずれも優れた照明器具を生み出しており、北欧の照明デザインの発展にそれぞれに貢献している9名である。

光の質を重視した人間に優しい照明デザイン
ヘニングセンは、1927年に「近代照明の三原則」を提示し、その一つに「まぶしさを排除すること」を掲げた。このまぶしさを排除し、質を重視した人間に優しい光を追求する姿勢は、北欧の照明デザインに共通する最大の特徴と言えるだろう。
ヘニングセンがその原則を掲げた同時期には、オランダの建築家ヘリット・リートフェルトをはじめとして、ドイツのバウハウスに在籍した建築家やデザイナーらも照明器具をデザインしているが、そこでは光の質よりも器具そのものの幾何学的な形態に重きが置かれたものが多かった。それに対して、ヘニングセンはそのような照明のあり方を徹底的に批判し、一方で人間の心理や生理に熟慮した照明器具と光環境の理論を発表した。また、「建築を人間的にする」ことを掲げたアアルトも、自身の建築設計において人間の眼に優しい光環境の構築を重視し、同様に光の質の重要性を説いている。
ヘニングセンは、まぶしさを排除する解決法として光源を複数のシェードで包み込む手法を編み出したが、そのシェードの隙間から漏れる淡い光は北欧の照明器具のあり方を象徴する光と言えよう。また、コーア・クリントがデザインした紙製の照明器具においても、紙という素材の特性を活かした形で優しい光を目にすることができる。

フォルムの美しさ
そのような光の質もさることながら、北欧の照明器具はフォルムそのものの美しさも大きな魅力であり、点灯時はもちろん消灯時も私たちの眼を楽しませてくれる。
ヘニングセンは、形自体の美しさだけでなく、光学的にも有効な「対数螺旋」の形状をデザインに採り入れており、独特のフォルムが生み出されている。また、シェードを重ねることで器具そのものの形状が美しく照らし出される点も彼のデザインの特徴の一つとして挙げられるだろう。
一方、アアルトの照明器具には、彼の建築作品と同様、自由な曲線を用いた有機的な形態にデザインされたものが多い。照明からの柔らかな光とともに、そのユニークな形が温和な印象を与えてくれる。また、紙をプリーツ状に折り上げたシェードが特徴的なクリントの照明器具では、繊細な幾何学パターンによって浮かび上がるフォルムが美しく、そのデザインは日本の行灯や提灯から影響を受けていると言われる。
ヤコブセンの照明器具は洗練された近代的なフォルムが秀逸だが、ムンケゴーランプのように器具周辺との光の対比を抑える工夫が施された器具も見られ、光の質にも配慮されている。また、ラウリッツェンの照明では温かみのあるフォルムが魅力的だが、ドローイングからは単なる形のデザインに留まらず光を機能的にコントロールしようとする姿勢がうかがえる。

優れた製作・販売メーカーの存在
デザインを普及させるにはデザイナー・製作者・販売者の三者の関係が大切だと言われるが、北欧には優れた照明メーカーが存在しており、良質な照明器具を生み出す背景を形づくっている。
1920年代よりヘニングセンとの協働のもと数多くの照明を生み出してきたルイスポールセン社は、北欧の照明デザインの発展を語る上で欠かせない存在であり、北欧の優れた照明器具を世界中に広めた功績は大きい。
デンマークのもう一つの照明メーカー、レ・クリント社も老舗として今なお健在だ。多くのメーカーが大企業の傘下に買収されていくなか、クリント家を母体としながら財団を設立、自立した体制を形成しており、1943年の創立当初よりオーデンセの街で伝統を守りながら新たな照明器具を生み出し続けている。また、1935年にアアルト自らが設立したアルテック社は、まさに三者が一体化した理想的な存在であった。
なお、近年設立された照明メーカーのライトイヤーズ社、パンダル社、アンド・トラディション社などでは、新製品を生産する一方で、過去の優れた照明器具の復刻にも力を入れている。その取り組みには、時を超えて存在する良質なデザインを大切にする「タイムレス・デザイン」の文化を感じることができる。

リ・デザインの土壌
過去を否定するモダニズムに対して、過去のものから学びつつ時代に即した形に再構成する「リ・デザイン」の考え方を掲げたコーア・クリントに代表されるように、北欧にはリ・デザインの土壌が育まれており、照明デザインにもその姿勢が垣間見られる。
複数シェードを重ね合わせるヘニングセンのデザインは、彼と交流のあったアアルトにも影響を及ぼしており、ウッツォンへと受け継がれている。また、レイヴィスカは自らヘニングセン、アアルトの影響を受けたことを公言しているが、その上で独自のデザインを展開している。さらには、北欧ロマンティシズムの流れを継承するブリュッグマンの照明器具には、アスプルンドからの影響を認めることができる。
他にも、若きハンス・J・ウェグナーはヤコブセンの事務所でオーフス市庁舎の仕事に携わり、フィン・ユールはラウリッツェンの事務所でラジオハウスを担当していたことが知られているが、そこでの交流が後に及ぼしたであろう影響も見逃せないだろう。
このように先達からの影響を尊重しながら時代性や作家の個性を加えて新たなものを生み出していく「リ・デザイン」の姿勢が、北欧全体として質の高い照明デザインを形成する大きな要因になっていると言えるだろう。

本書は、20世紀を代表する北欧の建築家・デザイナー11 名を対象に、その照明デザインと空間における光の扱い方についてまとめたものである。以下、その経緯について、ここに記しておきたい。

冒頭を飾るポール・ヘニングセンについては、ルイスポールセン社の全面的な協力を得て、彼の照明デザインについて詳細かつ網羅的に記されている書籍『Light Years Ahead』(ルイスポールセン刊、1964年)より、要約的内容および数多くの図版を掲載する許可をいただいた。さらには、1941 年から2009 年まで刊行された機関紙『NYT』の貴重なバックナンバーも提供いただいている。加えて、荒谷真司氏ならびに島崎信氏による関連文献も参考にさせていただいた。そしてそれらをもとに、オーフス大学、オーフス劇場、チボリ公園などの著者独自の現地調査の内容を盛り込みながらまとめた。

続くアルヴァ・アアルトに関しては、これまで実施してきた建築調査の際に撮影した照明器具の写真を中心に、アルテック社の工場の現地調査などを加えてまとめている。なお、Alvar Aalto のカタカナ表記については、拙著も含め日本では様々な表記が混在しているが、近年アルヴァ・アアルト財団およびアルテック社では「アルヴァ・アアルト」の表記を推奨しており、本書でもその表記を採用している。

コーア・クリントについては、レ・クリント社より刊行されている書籍『Le Klint』(2008年)と現地の工房調査などを中心に記述している。一方、フィン・ユール、ハンス・J・ウェグナー、ヨーン・ウッツォンに関しては、彼らがデザインした器具が実際に使用されている事例で体験できるものが少なかったため、書籍やメーカーのカタログを中心にまとめた。残るヴィルヘルム・ラウリッツェン、アルネ・ヤコブセン、エリック・グンナール・アスプルンド、エリック・ブリュッグマン、ユハ・レイヴィスカについては、著者による現地調査を中心に各事例を紹介している。なお、アスプルンドの森の火葬場における「諸聖人の日」の貴重な写真は、照明デザイナーの遠藤香織氏からお借りした。

本書の各所で登場する照明器具の断面模型は、九州産業大学小泉隆研究室で製作したものである。実際の器具とは三次元的な光の広がりや素材による光の拡散・反射性状などが多少異なるが、器具内部の構造や光の経路などを知る上で有効であり、ここに掲載することとした。

本書ができあがるまでには、多くの方々にお世話になった。紙面の都合により巻末にまとめて記載させていただいたが、心よりお礼を申し上げたい。なかでも10 年近くにもわたり本企画にお付き合いいただいたルイスポールセン社とアルテック社の協力がなければ、本書は実現しなかったであろう。また、本書の執筆・編集と並行して、「デンマークの灯り展」(九州産業大学美術館、2018 年9 月8 日~ 10 月21 日)と「北欧の灯り展」(東京リビングセンターオゾン、2019 年7 月4 日~ 7 月30 日)の二つの展覧会を開催したが、その企画が本書の内容にも多分に反映されている。展覧会関係者の皆様にもお礼を述べたい。

最後に、本書が北欧の照明デザインや灯りの文化を学ぶきっかけとなるとともに、日本における照明デザインの発展と灯りの文化の再発見につながることを期待している。

2019年7月 小泉隆

開催が決まり次第、お知らせします。

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