都市づくり戦略とプロジェクト・マネジメント


岸田比呂志・卯月盛夫 著

内容紹介

日本最大の都市開発、都市デザインの最先端

日本最大の都市再開発の成功の鍵は、明確な目的を持つマスタープラン、30年の歴史の中での柔軟な対応、優れた都市デザイン、エリアマネジメント組織による絶妙な管理・運営にある。実務に携った著者が、その全貌を貴重な資料を基に明らかにする。場当たり的な大規模開発が行き詰まっている今こそ、関係者が見逃せない1冊。

体 裁 A5・208頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2464-7
発行日 2009-06-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにおわりに関連情報

口 絵

第1章 基本計画とインフラストラクチュア

1-1 マスタープラン

マスタープランの経緯/マスタープラン中間案/変更後マスタープラン/技術的評価

1-2 土地基盤整備

埋め立てと区画整理/地盤の設定/地震対策/親水性の確保/技術的な評価

1-3 交通施設整備

港湾計画/鉄道計画/街路計画/駐車場計画/海上交通/技術的評価

1-4 土地利用コントロール

ゾーニング/みなとみらい21街づくり基本協定/街づくり協議システム/地区計画/企業誘致推進システム/技術的評価

1-5 都市環境設備

共同溝とライフライン/電力供給/ガス供給/上下水道/情報通信/地域冷暖房/ゴミ真空集塵/技術的評価

1-6 防災基本計画

防災基本指針/防災基本計画と実施内容/技術的評価

第2章 都市景観と賑わいの創出

2-1 スカイラインとビスタ

特徴的なスカイラインの形成/海へのビスタの確保/水と緑の導入/建築物の色調と屋外広告物のコントロール/歴史的建造物の保全活用/パブリックアート/技術的評価

2-2 道路パターンと歩行者軸

道路パターン/重層的歩行者動線/テーマを持った街路/イベントへの対応/ペデストリアン・ウェイ/南側東西歩行者軸(クイーン軸)/南北歩行者軸(グランモール軸)/北側東西歩行者軸(キング軸)/技術的評価

2-3 建物デザインのコントロール

アクティビティフロア/コモンスペース/街づくり協議の実態/技術的評価

2-4 オープンスペースの整備

臨港パークと新港パーク/赤レンガパーク/運河パークと汽車道/日本丸メモリアルパーク/グランモール公園/高島中央公園/技術的評価

第3章 プロジェクト・マネジメント

3-1 株式会社横浜みなとみらい21

株式会社の設立/株式会社の役割/株式会社の業務展開/株式会社の組織人員/株式会社の経営状況/みなとみらいのプロジェクト・マネジメント/エリアマネジメントの一般的概念とみなとみらい/技術的評価

3-2 公共空間の利活用

公共空間のタイプ/公園の利活用/赤レンガ倉庫2棟間広場の利活用/コモンスペースの利活用/新港パーク前面海域の利活用/技術的評価

3-3 協働プロモーション

広報宣伝/プロモーション協議会/イベントの活用/技術的評価

3-4 環境対策

共同リサイクル推進/電波障害対策のスキーム/横浜都心電波対策協議会/地上デジタル放送への対応/技術的評価

3-5 プロジェクト・マネジメントの勘所

真空集塵システムの方針転換/8号デッキの構造調整/屋根面巨大広告の取り扱い/みなとみらい大道芸の創設/無料情報誌『ミレア』出版/プロジェクト・マネジメントの勘所

3-6 今後の展開

みなとみらい開発の現況/街づくりの課題と対策/プロジェクト・マネジメント業務の展望

第4章 横浜みなとみらい21の「都市づくり戦略10」

戦略1  「政治家の決断と関係者によるプロジェクトの意義の共有化」
戦略2  「参画と協働体制によるマスタープランの策定」
戦略3  「将来の都市デザインを予測した街路と街区構成の慎重なる決定」
戦略4  「フォーマルな地区計画とインフォーマルな街づくり協定の組み合わせ」
戦略5  「適正価格と建築デザインの質を担保する街区利用提案競技」
戦略6  「共同溝によるライフラインシステムの構築」
戦略7  「建築形態と公園等屋外空間が創出する魅力的な空間とそのデザイン調整」
戦略8  「建物デザインの事前審査と協議システム」
戦略9  「公共空間の利活用による賑わい創出プログラム」
戦略10  「マーケティングと広報プロモーション」

付図、付表

索引

(執筆分担:第1, 2, 3章 岸田比呂志/第4章 卯月盛夫)

岸田比呂志(きしだ ひろし)

1945年千葉県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、東京大学工学部大学院都市工学科修士課程で学ぶが、東大紛争で中退。1969年横浜市役所に入る。土地利用計画、ニュータウン開発、市街地再開発、都市デザインなど街づくりの多分野を経験。都市計画局まちづくり法制等担当理事(都市計画部長兼務)を最後に横浜市退職。2005年から4年間、株式会社横浜みなとみらい21代表取締役専務として、みなとみらい21地区のエリアマネジメントを指揮。2007年より早稲田大学芸術学校で「プロジェクト・マネジメント論」を担当。本年4月より国際連合大学高等研究所上席客員研究員。技術士(建設部門)。著書に『安全と再生の都市づくり』(共著、学芸出版社、1999)、『都市計画と地方分権』(共著、学芸出版社、2000)。〈第1~3章〉

卯月盛夫(うづき もりお)

1953年東京都生まれ。建築家、都市デザイナー。早稲田大学建築学科卒業、同大学院修了。旧西ドイツシュトッツガルト大学留学、シュトッツガルト市、ハノーバー市都市計画局勤務。世田谷区都市デザイン室、世田谷まちづくりセンター所長を経て、現在、早稲田大学芸術学校都市デザイン科教授。博士(工学)。著書に『中心市街地活性化三法改正とまちづくり』(学芸出版社、共著)、『認知症高齢者、中庭のあるグループホーム』(萌文社、編著)など。〈第4章〉

2008年の大晦日から2009年の新年にかけてのNHK番組「ゆく年、来る年」をご覧になった方がいるだろうか。各地の大晦日の様子を紹介する番組だが、その最初に登場したのが、なんと横浜みなとみらい21にある赤煉瓦倉庫と観覧車であった。そしてその後映し出された映像は、赤煉瓦倉庫に挟まれた広場における、願い事を表面に書いた無数のガラスのキャンドルであった。息を飲むような大変美しい風景であった。赤煉瓦パークは言うまでもなく横浜を代表する風景であるので、普通の番組であればもう驚かない。しかし、この「ゆく年、来る年」に登場する大晦日の各地の風景は「日本を代表する風景」で、またこれまでは神社と仏閣がほとんどで、いわゆるモダンな都市風景はなかったと思う。そのトップに登場したみなとみらいのこの新しい風景は、日本の伝統的な宗教空間と肩を並べることが可能なほど美しい空間と評価されたのである。全く予想しなかったこの一瞬に、横浜みなとみらい21のプロジェクトのこれまでの成果が凝縮されていたように思えたのは、私だけであろうか。

さて、「都市計画」という言葉はすでによく使われているが、多くの市民には行政用語と理解されている。また一般的な市街地では、都市計画は道路整備事業または用途地域等の建築規制と解釈される場合が多い。しかし本来は、都市の将来あるべき姿、つまりビジョンを描き、そのための手段として事業や規制があるはずだが、実際にはそのビジョンは明確でない上、市民にはほとんど見えない。つまりマスタープランとよばれるビジョンが実質的には共通認識となっていない。したがって、予想もしない再開発計画や高層ビルの計画が突然発表されると、行政と企業が勝手に都市を破壊していると思われることも多々ある。しかし、これは私たち日本の都市を少しでも快適にそして美しくしたいと思っている人間にとっては、大変残念なことである。なぜ日本はそうなのかという理由は実はいくつかあるが、ここではむしろ日本の都市計画、都市デザインが大変うまく機能している「横浜みなとみらい21プロジェクト」の事例をきちんと取り上げることによって、今の日本の問題をクローズアップさせたい。もちろん既存の建物が全くない埋め立て地という特殊状況だからうまくいったという意見もあるが、ニュータウンプロジェクトがすべてうまく進んでいるわけではない。横浜みなとみらい21のプロジェクトには、人間が都市を計画し、その計画を実行し、さらに当初の計画を時代の中で修正しながら、日常的に地域全体をマネジメントするという、実に大きな挑戦を見ることができる。魅力的な都市を作ろうとするプランナー達の強い意志とそれを実現しようとする組織、権限、体制整備はなかなか日本では整いにくいが、横浜みなとみらい21は希有な事例と言える。

折しも、本年は横浜開港150周年という記念すべき年であるが、同時に横浜みなとみらい21プロジェクトの基本計画が検討されてからちょうど30年を迎える。さらに株式会社横浜みなとみらい21が発足し、着工してから25年目を迎える。この大きな節目に、後世に向けて計画と実践の経験を記録しておく価値は極めて高い。また、株式会社横浜みなとみらい21は2009年3月に解散し、エリアマネジメントの業務を「社団法人横浜みなとみらい21」に引き継ぐこととなった。これまでは横浜市がかなり出資した株式会社だからこそ、横浜市のリーダーシップのもとに、組織的には民間のメリットを生かしながら、かなりスピーディーに必要な決定や運営をしてきたことは高く評価されるべきである。今後は、横浜市と民間企業の協働運営となるが、みなとみらい21地区に土地または建物を所有する企業や団体すべてが会員となり、平等の立場で協議しながら、今後のまちの運営に携わることを可能にする社団法人という組織形態は、一方で極めて民主的な方法ということができる。そういった意味では、この25年の株式会社としての事業の実験は終えながらも、今後さらなる数十年に向けての新しい組織態勢での取り組みに大きな期待が寄せられている。
都市計画は、行政から民間へ、事業から戦略へ、インフラから上物へ、プランニングからマネジメントへ、大きくシフトしてきている。この大きな変化をみなとみらい21のプロジェクトの実践からお伝えするのが、本書の目的である。幸いにも株式会社横浜みなとみらい21の代表取締役専務の岸田比呂志さんがこれまでの膨大な行政計画の記録をわかりやすく整理し、さらに自らが会社の中で体験してきた様々なプロジェクトマネジメントの実際を記述しているので、この目的はほぼ達成されたのではないかと思う。今後、都市づくり戦略の立場から行政と民間はどのようなパートナーシップを組むべきか、また行政はどのように地域をガバナンスしていくべきか等、日本の都市計画を根本的に考え直す時機だからこそ、この横浜みなとみらい21のプロジェクトの実践から学ぶべき点が多いと考えられる。

2009年3月

早稲田大学教授 卯月盛夫

みなとみらい21事業は、着工以来四半世紀を経過し、上物建設も道半ばまで到達した。この間に、幾多の社会経済情勢の変化と、これに関わる人や組織の変化があった。みなとみらいというプロジェクトは、その変化にたじろぐのではなく、むしろ逆手にとって活用してきた稀有なプロジェクトであると、わたしは思っている。
卯月盛夫教授の招きで、この2年間、早稲田大学芸術学校で「プロジェクト・マネジメント論」を担当してきた。みなとみらい21事業は、その時々の情勢変化に対して、衆知を集めて課題を解決してきたという点で、プロジェクト・マネジメントの典型的な教材といってよい事業である。

「都市計画」という言葉は、私の学生時代には、「世直し」の道具として、特別の響きを持っていたが、今は、その光芒を失いつつあるように思えてならない。先の見えない今の時代だからこそ、長期にわたり、創意と工夫をもって、相互の綿密な協力の下で、時間・費用・労力を効果的な形で投入し、壮大な成果を産み出すことができる「都市計画プロジェクト」を、自ら実践することに喜びを感じる人たちが必要なのではないか。

この本は、卯月教授との有意義な意見交換と実践的な交流による部分が大きい。若い人たちが、みなとみらいの街づくりのすばらしさと、これを支えてきた都市づくりの技術についての総合的な理解を増進し、価値ある都市計画プロジェクトに参画することを夢見て、自らを訓練していくために、この本が機能するならば、わたしの喜びは大きい。

最後に、このプロジェクトに関与した横浜市ほか多くの関係者に敬意を表するとともに株式会社横浜みなとみらい21代表取締役社長小椋進氏から賜った薫陶、企画部、推進部の諸君の協力、学芸出版社前田裕資、小丸和恵両氏の労および妻美代子の内助に衷心からの感謝を表して筆を置く。

2009年3月

㈱横浜みなとみらい21代表取締役専務

岸田比呂志

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