市民のための都市再生


池澤 寛 著

内容紹介

市民が望む改革を実現する都心商業の再編策

都市再生は小泉内閣の目玉。しかし無闇に補助金をばら撒く商店街振興策はもちろん、需要を無視して拡大を目指す事業、やたら大きな施設を許容する容積率アップでは、市民が望む都市再生には繋がらない。科学的に需要を見据え商店街を適切規模に縮小し、市民が住みたくなる中心市街地を再構築することこそ、本当の構造改革だ。

体 裁 A5変・208頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2278-0
発行日 2002-02-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがき書評推薦

序 商店街の危機

1 このままでは生き残れない

1 繁栄しているのはたった2.2%
2 3年間で8万店が消えた
3 大型店もふるい落としの時代へ

2 欧米にみる商店街の近未来

1 死んでしまったアメリカのダウンタウン
2 賑わうヨーロッパのダウンタウン
3 日本はアメリカの後を追っている
4 活性化の決め手

1部 科学的手法で原点にもどれ

3 顧客数を測る

1 商店街の吸引力には万有引力の法則が当てはまる
2 商業統計のメッシュデータの生かしかた
3 街づくりにおけるエコノミーとエンジニアリングの視点

4 商店街のマスタープランをつくれ

1 商店街の規模、性格を知る
2 都市の商業のネットワークの中で自らの位置を知れ
3 核店舗は両端に、駐車場はその外側に配置せよ
4 自らの力を知るための指標

5 商店街の最適長さ

1 身の丈にあった長さに縮小しよう
2 快適に歩ける距離は400~600m
3 ニューヨークの店舗連続条例
4 歯抜けの解消へ

6 商店街の最適幅員

1 どうして竹下通りやアメ横に人は集まるのか
2 繁栄している商店街の共通項
3 生活道路を拡幅すれば街は衰退する
4 街路樹で道幅の広さをカバーする

7 駐車場の計画

1 アクセス分析と交通計画
2 車客率50%なら売場面積100㎡に5台以上の駐車場を
3 駐車場整備は商店街全体で考えよう
4 パーク&ライドを進めよう

2部 都市づくりを見直す

8 都市経営に貢献できる商店街づくりを

1 都市経営を支える固定資産税と売上税
2 都市経営のための先行投資
3 パサデナの再開発
4 再び人間の住む街をめざす

9 ドイツの都市づくりに学ぶ

1 ハンブルク市の商店街需要計画
2 歩行者優先のアーバンデザイン

10 アメリカの都市づくりに学ぶ

1 アメリカでもっとも元気な都市
2 ボイジー市の包括プラン
3 ボイジー市のゾーニング
4 ボイジー市のタウンスケープ

3部 商店街の個性をつくる

11 地域風土からの発想

1 オランダの市民生活
2 ヴァイキングの伝統が生きている北欧の市民生活
3 朝市と市民生活
4 地域環境に根ざしたビジョン

12 商店街の個性をどのように創造するか

1 店舗の個性は商店街の生命だ
2 アメリカのショッピングセンターに統一看板は見られない
3 街路樹を取り替えたサンタモニカの商店街
4 特徴ある商店街は広域商圏となる

13 歴史保存の街づくり

1 歴史ある街並みの保存
2 スクラップ&ビルドではサスティナブル・コミュニティにはならない
3 新築の郊外との差別化

14 観光と商業の連携

1 ヴェネチアとラングドック・ルシオン
2 ロマンチック街道の都市
3 観光都市は長期的な視野が必要だ

池澤 寛 (いけざわ ひろし)

1932年北海道紋別市生れ、1956年早稲田大学工学部建築学科卒業。
1985年㈱アール・ディー・デザイン設立。
E-mail: rddinc@al.mbn.or.jp
最近の業務経歴:1993年通産省流通ミッション米国調査に同行、1994年建設省米国建築コスト調査コーディネーター、
1995~97年商業集積可能性調査(商業ソフトクリエーション客員研究員)、1995~99年ベターリビングとAAMA(米国建築資材工業会)との相互認証のコンサルタント。
主な著書:『街づくりデザインノート』(商店建築社)ほか多数。
翻訳:「ニューヨーク市ゾーニング条例」1997年、「シカゴ市ゾーニング条例」1998年、「ボイジー市ゾーニング条例」2000年。

いままで大型店や商店街について数多くの書籍が出版されてきた。それらの多くは出店者サイドの論理にもとづいており、市民サイドのものではなかった。本書は市民サイドの論理にたって都市と商業を考えなおそうとしたものである。

都市再生というと容積率を緩和し、大規模な施設や超高層マンションを建てることと思いがちだ。閑古鳥が鳴く商店街など、時代遅れであり、退場を促すことが構造改革を進めることだと思っている人もいるだろう。

しかし商店街は本来、楽しい買物の場であるだけでなく、地域のコミュニケーションの場であり、イベントなどを通じて地域社会に貢献する場でもあった。そのような意味で都市の顔となっていたのである。コミュニティに密着した商店街の活性化なくして「市民のための都市再生」はありえない。

最寄りの商店街が衰退して相当の人口がありながら商業の空白地域が生じている。これは広域からマイカーで人を集める大型店に起因しているが、それがコミュニティの崩壊をもたらしているとすれば、市場に任せておいてよい問題ではない。
しかし、商店街保護のためのハード重視の活性化策は失敗の連続だった。

商店街の復権のためには、新しい施設を計画する前に既存施設の活用から始めるべきだろう。空き店舗対策についても、それをいかに有効に活用するかを考えるべきである。つまり求められるのはハードよりもソフトなのである。

また、すでにパイが半減した商店街の空き店舗をすべて埋めることは不可能である。その場合は商店街の長さを短縮し、集合住宅を計画すると良い。商住複合の街づくりによって、商店街が人の住む街となる。さらにスポーツ、カルチャー、健康クリニックなどの施設と商店街の共生は、結果として、商店街の活力を再生させることになるに相違ない。

ヨーロッパのダウンタウンは賑わっている。郊外と違ってダウンタウンには歴史があり、郊外駅周辺の駐車場整備によるパーク&ライドがあり、さらに10万都市でも世界各国の店舗が出店している。

一方、アメリカの都心でも85年のサンディエゴのホートンプラザ以後、成功例が増加している。この計画を担当したジョン・ジャーディーは「ダウンタウンの再生は難しいが、最初のシナリオがうまく描けた時、成功する」と述べている。また、いまアメリカでもっとも元気な都市と言われるボイジーは容積率を厳しく規制することによって成功しており、そこでも実践されているニュー・アーバニズム・デザインは、市民サイドの論理で商業のあり方を考えるものでもある。さらにドイツでは商業のグランドデザインを組み込んだアーバンデザインも行われている。
日本の各都市は、こういった海外の動きにも学び、長期的、総合的視野で街づくりを考える時期にあるのではないか。

国内外の多くの都市で提供された情報によってこの本は構成されている。それらを提供下さった数多くの関係者に感謝したい。またデータの作成と編集は㈱アール・ディー・デザインの小林文子と森田沙代両名が担当した。学芸出版社の前田裕資氏には全体の構成から文章の校正までお世話になった。厚くお礼申しあげたい。

池澤 寛

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.10

わが国の中心市街地にある商店街は程度の差こそあれ衰退に頭を抱えている(本書によると繁栄しているといえるのはわずかに2.2%!)。一方で、欧米においては活況を呈している商店街もある。この違いを考えるとわが国における商店街の計画は再考される余地があろう。

4部構成になっている本書は、はじめにわが国の商店街の現状を概観した上で(序)、商店街の計画技術が示されている(1部)。後半部では、広域的視点を含めた商店街(2部)や個性ある商店街(3部)の事例がそれぞれ紹介されている。
本書の1部は街路の最適幅員等が数字で示されているなど、商店街のあり方を具体的に示そうとしているのが特徴である。この点で、実際に改造計画を考えている商店街の関係者や実務家にとって実用的で指針となる一冊である。また、後半部は事例集としても有用であり、種々の試みに接するうちに、知らずにヒントがつかめるのではないだろうか。

『民家』(日本民家再生リサイクル協会) No.24

1990年代に入って地方の中核都市の商店街が衰退しはじめ、都市の活力が失われつつあることに危機感が高まっている。

商店街の復活にはハードよりもソフトが求められていると、著者は言う。欧米の成功例、国内の取り組みを紹介し、個性ある都市活性化の方法を提起している。

これまでの問題提起が出店者側の論理に基づいているのに対し、本書では市民サイドの論理にたって都市や商業を考え直そうとの視点を打ち出している。

『建築士事務所』((社)日本建築士事務所協会連合会) 2002.4

需要を無視して拡大を目指す事業や、なんでもありの容積率アップを市民は最早望んでいない。科学的に需要を見据えて、商店街を適切規模に縮小し、市民が住みたくなる中心市街地を再構築することこそ、本当の都市再生ではないだろうかと説く著者が、都市が元気になる構造改革とは何かを、夢や理想ではなく、統計資料や先進事例をふんだんに盛り込み、中心市街地活性化論を展開する。街づくり、TMO関係者の必読書である。

『建設通信新聞』(日刊建設通信新聞社) 2002.4.9

欧米の事例から市民サイドの視点で提唱

繁栄している個人商店は、たったの2.2%(中小企業庁商店街実態調査)だそうである。都市を活性化する商店街が、危機に直面していることを、このデータは如実に物語っている。

ではなぜ、商店街は危機を迎えたのか。

著者は、いままで商店街について数多く出版された書籍は、出店者サイドの理論にもとづいており、市民サイドのものでなかったことが、商店街づくりを間違った方向に導いたと見る。

そして、商店街を「楽しい買い物の場であるだけでなく、地域のコミュニケーションの場」であり、「イベントを通じて地域社会に貢献する」場であったと指摘。コミュニティーに密着した商店街の活性化なくして市民のための都市再生はないと論じる。

同書は、欧米の事例を分析しながら、今後のわが国の都市再生のあり方を提唱する。

街づくり・TMO関係者の必読書としてぜひ推薦したい

いわゆる「街づくり三法」が制定されてから3年になるが、その成果はまだ未知数である。著者は、世界各国における都市づくり、街づくりを足と目と耳で確かめ、その成果から21世紀の日本の都市づくりに有効な提案を行っている。
本書の随所にみられる著者自身の筆になる都市のスケッチやイラストは臨場感に満ち、素晴らしい効果を醸し出している。今後の日本の都市づくり、街づくりに携わる者にとっての必読書として推薦したい。

東京都大規模小売店舗立地審議会会長
(社)商業施設技術者・団体連合会理事
十合 あきら

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