まちのファンをつくる 自治体ウェブ発信テキスト
内容紹介
\自治体のウェブ発信術を全国・海外の100事例から解説/
「この街に住み続けたい」「あの街に暮らしたい」と選ばれるまちに欠かせないウェブ発信の基本知識・盛り上げるためのアイデアを、全国の先行事例からひもとき丁寧に解説。どのSNSサービスがおすすめ?どんな風に運営すべき?炎上のリスクは?……現場の悩みに寄り添い続けてきた著者だからこそ伝えられる実践型マニュアル!
体 裁 四六・240頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2745-7
発行日 2020/08/01
装 丁 美馬智
イラスト 日比野尚子
はじめに
本書の使い方
第1部 自治体ウェブ発信の実践
1章 移住も関係人口も地域ブランディングも
1.〈移住促進〉PRポイント:暮らしやすさ/働き口/結婚と子育て
(1)暮らしやすさ ─熱量のこもった記事でまちの魅力を発信する
(2)働き口 ─仕事をつくるという姿勢を発信する
(3)結婚と子育て ─家庭や子育ての孤独をあたたかくサポート
2.〈関係人口創出〉PRポイント:ユーモア/住民目線/クリエイティビティ
(1)ユーモア ─アカの他人の心に、なにがなんでも引っかかりたいという気合いの観光振興
(2)住民目線 ─地元民と一緒にまちの魅力をアピール
3.〈地域ブランディング〉PRポイント:ユルさ/キャラ
(1)ユルさ ─まちづくりにはユルさが大事
(2)キャラ ─まちへの愛着を”育てていく”という考え方
2章 まだまだフィールドは広い!あらたなチャレンジ
1.次の時代を拓く行政サービス <防災><環境><コミュニティ>
(1)防災 ─不安な住民に寄り添う情報発信を心がける
(2)環境 ─ユルいイラストと写真で真面目に楽しく
(3)コミュニティ ─オンライン上にある地縁型コミュニティ
2. 顔の見える自治体づくり
第2部 ウェブの使い方 基本編
3章 まずは知っておきたい ウェブ発信の基本ツールと心構え
1. あなたのまちも、もう一工夫してみませんか?
2.自治体・観光協会が活用しているウェブメディアの種類と特徴
(1)何はなくとも玄関口〈ウェブサイト〉
(2)拡散力絶大の手軽な発信ツール〈Twitter〉
(3)世界最大の利用者数〈Facebookページ〉
(4)言葉よりもビジュアル派〈Instagram〉
(5)ストーリーを伝える動画の力〈Youtube〉
(6)相手に直接情報を届けよう〈LINE〉
(7)マイレシピをシェアして楽しむ〈クックパッド〉
(8)多彩なメディアを自由にミックス〈Tumblr〉
(9)BGMがクセになる、スマホ向けショート動画配信アプリ〈TikTok〉
(10)無料でつくれるお手軽ウェブサイト〈Jimdo/Wix+ブログ〉
3.ソーシャルメディアとウェブサイトの関係
4章 誰に何を発信すればいい? 自治体ウェブ発信はじめの一歩
1.発信の基本となる3つのポイント
(1)まずは「発信の目的」をはっきりさせよう
(2)読みたくなるのは、話し言葉の延長
(3)フォロワーを増やす導線づくり
2. 地縁型発信のコツ
(1)地域のうれしいニュースはワクワク感を伝える
(2)役立つ地域情報や生活ノウハウをおすそわけ
(3)プロジェクトや催し物の告知はこまめに投稿する
(4)「なぜ?」や「そうそう!」という気持ちをつくる
(5)あえてターゲットを絞る
3.テーマ型発信のコツ
(1)記念日を利用してまちへの愛着を高める
(2)トレンドを掴んでまちの「今」をつねに更新する
4.地域の情報は”面”で見せる
(1)数字は万人を納得させる最強アイテム
(2)写真のインパクトを活かす
(3)地縁型×テーマ型が出会う場所
第3部 ウェブの使い方 応用編
5章 「伝える」から「伝わる」へ
1. あなたのまちのメディアをリデザインしてみる
(1)ブログの価値を見直す
(2)コンテンツをストックとするか、フローとするか
(3)なんのためのストックなのか?
(4)ツイートのログを自動的に記録してくれるサービス「ツイログ」
(5)案外インパクトあり!アカウント名の活用
(6)冷凍アカウントは放置しない
(7)定期点検でさらにパワーアップ
2. どんな言葉で伝えるか、親しみやすさと公平性のシーソーバランス
(1)公式アカウントも思い切ってキャラ化
(2)攻めの言葉遣いという姿勢
3. コミュニケーションを誘発する
(1)ハッシュタグの活用バリエーション
(2)思い切ってコミュニケーションを図る3つの方法
(3)その1:投票機能で会話する
(4)その2:ハッシュタグで自治体間興隆
(5)その3:街頭インタビューで市民を巻き込む
4.公式アカウントの更新頻度やタイミング
(1)更新は1日1回以上。毎日顔を見かけてもらって親しくなろう
(2)「1人ができること」ではなく「チームでできること」
(3)リアルタイムで知りたい情報の拡散効果を狙う
5.ウェブ発信は心を折らずに地道に続ける
(1)「私たち」と「私」の違いを知ってから始める
(2)顔の見えない公共施設こそSNS人格を
(3)担当者のプライベートアカウント防衛策
(4)後任者への引き継ぎを想定しておこう
(5)継続のモチベーションを高めるアクセス解析
(6)職場と住民の情報格差を埋めることこそがあなたの仕事
(7)そもそもまったくアクセスがないときに見直すべきこと
6. アカウントの成長とリスクマネジメント
(1)有事は担当者不在でもSNSを動かせる体制を
(2)コロナ対策の最前線で、自治体はウェブで何をどう情報発信したか?
(3)備えよつねに。炎上を引き起こす本当のリスクとは?
(4)悩みはつきない「公」から「公」への発信
(5)成果物の二次利用には細心の注意を
(6)発注も1つの愛着循環活動
(7)うまくいかない場合は引き際も肝心
6章 ウェブ発信を使ったコミュニティデザイン
1. 自分たちのまちは自分たちでつくる
2. コミュニティをユルくつなげていく手段としてのウェブ発信
(1)住民が地域の価値を高めてくれる状況をつくる
(2)まちの魅力をどう編集し、アップデートしていくか
(3)地域を盛りあげてくれる外部パートナーの存在
3. リアルなコミュニティづくりを加速させる、Facebookグループの使い方
(1)目的にあわせたSNSの活用事例
(2)リアルで継続するための、閉じないコミュニティ
(3)コンテンツとコミュニティの相互作用で考える
(4)自分に地元愛の火をつけて、情熱を広げていく
おわりに
ハコモノをつくらなくても、派手な芸術祭を仕掛けなくても、「このまちに住みつづけたい」「あのまちで暮らしたい」「ここにいつか帰りたい」と選ばれるまちに必要な条件とはなんでしょう? 移住や起業、子育て・高齢者への行政サービスが充実していて、市民活動をサポートする地域拠点があることでしょうか。もちろん、行政サービスを拡充させ、暮らしやすいまちを実現することが最大のポイントでしょう。でもそれと同じくらい大切なのが、その取り組みや成果をしっかり「発信」することです。せっかくの地域の魅力も、それを「発信」したり「広報」したりすることを怠っていては、伝わってほしい相手へ届くことはありません。魅力が伝わらなくては、選ばれることもありません。
雑誌やウェブメディア中心のフリーランス編集者兼ライターとして独立し10年目を迎えた2009年ごろから、筆者のもとにさまざまな自治体の事業で市民向け情報発信のノウハウを教えてほしいという依頼が舞い込んでくるようになりました。きっかけとなったのは、後ほど詳しく説明するTwitterやFacebookといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の登場です。当時は企業や大学、NPO、芸能人やクリエイター、まちの自営業者、子育て中のママ……あらゆる組織や個人がウェブ上で自由に発信しはじめたころ。自治体広報担当者のなかにも、いち早くこうしたツールを使いこなして、まちの魅力を発信しよう! という人が現れるようになりました。ですが、そうしたウェブ活用が一般化する一方で、意欲はあっても使い方がわからず右往左往する広報担当者も続出。どう発信したらよいのかわからない、届けたい層になかなか思うように届かない、そもそもどのサービスを使うべきかわからない……と悩んでいる人が本当にたくさんいることに気が付いたのです。
最近では、毎年のようにNPO╱NGOや文化施設、市役所、商店街、商業施設、舞台関係者向けなど、毎年どこかのまちで講座の依頼を受けています。それらの経験を通して、いまは自治体の情報発信を応援・研究するサイトを運営しています。
本書は、そんな筆者の持ちうるかぎりの経験と知識を詰め込んで、自治体の広報に携わることになった担当者ならばぜひ知っておいてほしいルールを整理し、「良い情報発信」のノウハウをまとめた1冊です。初めてのソーシャルメディア活用に必要な心構えや基礎知識の解説、リスクや不安を乗り越えてまちの個性を打ち出すことに成功した果敢な情報発信例までをじっくりと読み解きました。ただでさえ忙しいのに情報発信なんてとても手が回らない……という方にこそ、手に取ってもらいたいと思っています。
2020年7月 狩野哲也
2008年にiPhoneが日本に登場し、TwitterやFacebookを目にする機会が増えてきた2009年ごろ、国際支援系のNGOの方から「ソーシャルメディアの使い方を話してくれませんか?」と声をかけてもらったのが、SNSを通じた情報発信について人に話すことのはじまりでした。
その講座がきっかけで、2010年にNGO相談員に推薦していただき、関西のさまざまなNPO╱NGOの方向けにソーシャルメディアの使い方の提案をしました。
その様子をFacebookやTwitterで見たコミュニティデザイン事務所studio-Lのスタッフの方から水都大阪レポーターのコアメンバーにも話してほしいと依頼があり、勉強会を開きました。その後も、大阪府下のさまざまな自治体のまちづくり会議、商店街や文化施設(いずみホール、江之子島文化芸術創造センター(enoco)、大阪市立芸術創造館)の活性化にまつわるレクチャーなどを引き受けてきました。また、水都大阪だけでなく商業施設や市民ワークショップでのウェブ発信にまつわる市民ボランティアの育成や、市民大学やアーティストのやサポート……と、ジャンルや対象となる人はバラバラなのですが、毎年どこかのまちで「知らない人にどうやって自分たちの活動を伝えるか」が趣旨の情報発信講座を開く機会が増えていきました。
ビジネスで活用したい方などは、ちょっとコツを話せば上手に利用されますが、特に難しいのが自治体の方です。置かれている状況や課題によって、伝えることのグラデーションがありすぎることと、そもそもSNSに疎いのに担当になってしまった、と後ろ向きな方が上司からいわれていやいや参加していることもあるからです。
ソーシャルメディアの情報は圧倒的にフロー型が多く、気になった事例をすべて自分のウェブサイトで記事化し、アップデートしつづけてきたのですが、それを読んだ学芸出版社の岩切江津子さんから「本を書きませんか」とお声をかけていただきました。
ちなみに岩切さんは先に書いた水都大阪レポーターのコアメンバーとして参加されていたのがきっかけで知り合ったので、まさに発信することでつながりが生まれたわけです。
こうして蓄積した筆者のウェブサイトから、特に読まれている記事をブラッシュアップして、追加で自治体の担当者に取材し、大幅に加筆したものが本書となります。
今回ご協力いただいた自治体のみなさまに感謝いたします。また、この発信が上手だなあと感じる担当者の方にピンポイントに連絡をとっているからか、担当者の方はやる気に満ち溢れている方が多かったように感じます。もしかするとその方たちは、ひとり組織内で孤軍奮闘しているのかもしれません。その温度が少しでもこの本書を通じて伝わり、日本各地の自治体に伝染していけば幸いです。
まちを使いこなす住民とウェブ発信を使いこなす自治体職員が多いまちは、おのずと魅力的になっていくと確信しています。
これからも自治体ウェブ発信の最新情報はブラッシュアップしていくつもりです。続きが気になるという方はぜひ狩野哲也のウェブサイト、Facebookページ、Twitterの動向をチェックしていただければ幸いです。
2020年7月 狩野哲也