公共施設のしまいかた

堤洋樹 編著 小松幸夫・池澤龍三・讃岐亮・寺沢弘樹・恒川淳基 著

内容紹介

人口減少と財政難の時代を迎え、もはや自治体も住民も「老いる公共施設」の問題からは逃げられない!一方的な総量削減ではなく、自治体と住民の協働による削減・整理・再活用で非効率な公共支出を減らし、公共サービスの質の向上もしくは必要最低限の継続を実現し地域の価値を上げる、縮充社会の公共資産づくりマニュアル。

体 裁 A5・192頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2726-6
発行日 2019/11/20
装 丁 中川未子(よろずでざいん)

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はじめに 堤洋樹

1章 自治体も住民も「老いる公共施設」から逃げられない

小松幸夫

1 お荷物の公共施設
2 使い捨てだった公共施設
3 老いる公共施設と財政危機
4 どう公共施設をしまうのか
5 住民の役割
6 施設だけではない「公共資産」
7 公共サービスの維持と住民

2章 誰が公共施設をしまうのか

堤洋樹

1 自治体職員は公共施設の管理者にすぎない
2 住民が自治体を変えなければ何も変わらない
3 住民の立場から公共施設整備に関わる
4 「つくる」方法よりも「つかう」工夫が重要
5 多世代の住民協働を実現する方法
6 三つの視点から多世代協働を考える
7 様々な意見をとりまとめる方法
8 公共施設の整備とは日常生活をつくること

3章 自治体全体の公共施設をどう見直すか

堤洋樹・恒川淳基

1 公共サービスからみた公共施設
2 公共サービスの提供にハコモノは必要か
3 ハコモノを増やさない方法はあるか
4 共有できるものは公共、占有するものは民間へ
5 切るべきは切り、再生すべきは活かす
6 住民には必要な整備ではなく活動をきく
7 「誰も決められないしくみ」を変える
8 自治体内の協働作業を実現するポイント
9 公共施設整備を実現する自治体のしくみ
10 整備実現の可能性を高めるためのチェック事項

4章 個別の施設整備をリデザインする方法

堤洋樹

1 目指すべき産業と生活の方向性を明確にする
2 施設単体ではなくエリアで考える
3 情報が公共施設の配置や内容を決める
4 運用方法から整備内容を検討する
5 自治体を変える住民の働きかけ
6 計画を変えるために準備段階を変える
7 住民ワークショップをリデザインする
8 インフラも公共施設と同様に考える
9 再整備の概念をリデザインする

5章 ハコモノ・インフラのしまいかた

1 学校プールを撤去、水泳授業を民間のスイミングスクールに委託(佐倉市)[ハコモノ削減型]  池澤龍三
2 過疎地の行政と住民が協力して公共施設を集約(長野市)[ハコモノ削減型] 堤洋樹
3 使われていなかった公共建築物を活用する「文創」(台北市)[ハコモノ活用型]  讃岐亮
4 日本初のトライアルサウンディング実施!公共資産を放置しない自治体戦略(常総市)[ハコモノ活用型]  寺沢弘樹
5 個人・民間企業・自治体の協力でできた質の高い公共空間整備(小布施市)[インフラ活用型]  堤洋樹
6 行政×市民で河川空間を見直し、まちなかを活性化(前橋市)[インフラ活用型]  堤洋樹

おわりに 「公共資産」を「地域資産」に 堤洋樹

〈編著者〉

堤 洋樹(つつみ ひろき)
前橋工科大学准教授、博士(工学)。早稲田大学助手などを経て現在に至る。著書に『公共施設マネジメントのススメ(建築資料研究社)』など。

〈著者〉

小松幸夫(こまつ ゆきお)
早稲田大学教授、工学博士。東京大学助手、新潟大学助教授、横浜国立大学助教授を経て現在に至る。著書に『公共施設マネジメントのススメ(建築資料研 究社)』など。

池澤龍三(いけざわ りゅうぞう)
一般財団法人建築保全センター保全技術研究所第三研究部次長。佐倉市職員を経て現在に至る。著書に『公共施設マネジメントのススメ(建築資料研究社)』など。

讃岐 亮(さぬき りょう)
首都大学東京建築学科助教、博士(工学)。同大学特任助教を経て現在に至る。受賞歴に、日本都市計画学会論文奨励賞、台湾物業管理学会優秀論文賞など。

寺沢弘樹(てらさわ ひろき)
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会業務部長。元流山市職員。全国の自治体、民間事業者とともに実践的な公共資産活用に取り組む。

恒川淳基(つねかわ じゅんき)
日本管財株式会社マーケティング推進部。前橋工科大学大学院建築学専攻を修了後、現職にて建物管理の視点から公共施設マネジメントに取り組む。

財政状況が厳しい自治体では、公共施設の総量削減が不可欠である。
…という説明を、この本を手に取っていただいた方であれば、自治体職員である・なしに関わらず、一度は聞いたことがあるでしょう。基本的に建物の維持管理費や運用費は建物の規模や延床面積に比例することから、財政状況が厳しい多くの自治体では、負担削減のために公共施設の削減が必要な状況にあるのは間違いありません。もちろんその前提として、全国的に地方都市では人口減少や少子化などが進んでいることが挙げられます。例えば全国の公立小学校数は、1989(平成元)年には2万4608校でしたが、2016(平成28)年には2万11校と2割弱減っています。この数字を見る限り、着実に公共施設の総量削減は進んでいるように思えるかもしれません。

しかし全国の自治体における公共施設の整備実態を見る限り、その進捗の雲行きは怪しい状況です。実は全国の公立小学校に通う生徒数は、1989(平成元)年には約950万人でしたが、2016(平成28)年には約637万人と3割以上減っています。ちなみに全国の公立中学校は、同時期に1万578校から9555校と1割程度減っていますが、生徒数は約539万人から約313万人と4割以上減っています。このように施設数は利用者数に比べて減り方が少ない場合が多く見られます。また小中学校に限らず、現在全国的に老朽化した公共施設の建て替えが進んでいますが、その規模や延床面積は建て替え前よりも大きくなる傾向が見られ、施設総量はむしろ増えている自治体が多いのが実態です。

しかし公共施設の総量削減は、自治体の財政状況の改善の一つの手段でしかなく、目的ではありません。そもそも財政状況の改善が必要になる理由は、自治体が公共サービスの質を向上させるためであり、より現実的な理由を答えるならば、必要最低限の公共サービスを継続させるためではないでしょうか。仮に公共施設の総量削減が実現しても、公共サービスの質も低下すれば本来の目的は果たせませんし、必要最低限の公共サービスを将来的にも継続できれば、総量削減の優先順位は低くなります。公共施設の再整備に求められる成果は、公共施設の多少ではなく、公共サービスの質の向上もしくは必要最低限の継続が実現できるかが問われます。単なる総量削減では、その両方とも実現できなくなるでしょう。

このように将来的な視点から自治体全体の公共サービスのあり方を検討し、その成果を実際の公共施設の整備や運用に結び付ける活動は、一般的には公共施設マネジメントと呼ばれ、関係者の間では広く認識されるようになってから数年経ちました。しかしその一向に進まない状況から、「本当に公共施設マネジメントは有用なのか」と疑問を抱く方が増えているような気がします。

そこで関係者だけでなく、広く一般の方にも公共施設マネジメントの概念や手法を知っていただくとともに、公共施設マネジメントの実現と普及のために一般の方にも具体的な作業に積極的に参加してほしいとの思いから、本書を執筆することになりました。また『公共施設のしまいかた』という書名は、公共施設の総量削減の現場で苦慮している多くの自治体で、改めて公共施設マネジメントの基本から総量削減の意義や方向性を確認していただきたいとの思いから命名しました。「しまう」には、「閉める・終了する・たたむ」という終了を示す意味だけではなく、「片付ける・納める・整理する」といった行動を示す意味も含んでいます。つまり公共施設の適正規模・配置は、今ある公共施設の運用管理次第で変わるのです。また公共施設の適正規模・配置は、自治体を取り巻く状況や環境にも大きく影響されるため、残念ながらどの自治体にも当てはまる「正解」はありません。財政状況が厳しい自治体ほど、公共施設の総量削減だけではなく公共サービスの質の向上もしくは必要最低限の継続を実現する「しまいかた」を本気で考える必要があります。

なお公共施設を適切に「しまう」ためには、いくつかの視点から検討することが求められます。まずは公共施設の適正規模・配置を検討するためには、自治体全体の状況を客観的に踏まえる必要があります。そこで1章では、公共施設の状況を、「老いる」という視点から解説します。

次に「老いた」公共施設をどのように再整備することができるのか、具体的な対策を検討する必要があります。しかし残念ながら、多くの自治体の財政は危機的な状況にあり、自治体単独では適切な整備ができない状況です。そこで2章では、住民や民間企業などとの「協働」・「共有」という視点から、公共施設を「しまう」必要性と進め方について解説します。

そして実際に公共施設を「しまう」ためには、個々の整備計画だけでは不十分です。なぜなら仮に将来的にコンパクトシティを目指すのか、もしくはさらなる拡張を目指すのかでは、目指す都市構造が異なるからです。また施設整備に使える財源は限られているため、自治体全体のバランスを考慮して優先順位などを決める必要があります。そのため自治体全体の整備計画も個別の整備計画の策定も、どちらも公共施設を「しまう」ために必要な手続きになります。そこで3章では自治体全体の整備計画の視点から、4章では個別の整備計画の視点から、そのしくみと進め方について解説します。

そして5章では、具体的な「しまいかた」について、六つの事例を取り上げて解説します。どれも地域全体の視点から実施もしくは計画策定が行われた事例ですので、自分が住む自治体や地域に置き換えて確認すると良いでしょう。ただし事例を単に真似ると失敗する可能性が高いので、自分なりに事例の方向性やしくみを整理し、公共施設を「しまう」ための実務作業に落とし込むことが重要になります。
時代は平成から令和に変わりましたが、公共施設マネジメントの実現には、まだまだ高い障壁が立ちはだかっています。しかしその障壁を全員で乗り越えてこそ、新しい世界を共有することが可能になります。本書が、目の前にある障壁に手をかけるために置く踏み台の代わりになれば幸いです。

なお本書は、平成28年度JST/RISTEX「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域採用研究「地域を持続可能にする公共資産経営の支援体制の構築」(JPMJRX16E3)、略称「BaSSプロジェクト」)の中で、もがきながら生み出した3年間の成果を取りまとめた結論です。BaSSプロジェクトにご協力いただきました皆様に深く感謝致します。

堤 洋樹

「公共資産」を「地域資産」に

本書では、一般的には「公共施設マネジメント」と呼ばれる概念を、「しまう」という視点から再構築することで、従来の公共資産(ハコモノ+インフラ)の整備方法を見直し、新しい公共資産を生み出す方向性や手法を提示するとともに、その具体的な事例を紹介してきました。今までの「公共施設マネジメント」に対するイメージは、本書を読んでも同じだったでしょうか。

「公共施設マネジメント」と聞くと、なんだか知らないうちに日頃使っている公共施設がなくなってしまうのではないかと心配になる方が多いようです。一方で大きな公共施設を建設する計画が持ち上がると、日照や騒音などの被害を受けるのではないかと反対運動が起こる場合もあります。このように公共施設の整備にはネガティブな反応を示す人が多いことから、老朽化した公共施設を早急に再整備しなければならない場合でも、自治体職員はできる限り反対意見が出ないように、なるべく現状どおりの公共施設整備を進めてしまう傾向があります。さらに自治体内や住民らとの調整の中で上がってくる様々な要望に対応しているうちに、当初の整備方針から少しずつ脱線してしまい、気が付くと過大な規模や設備になってしまうことも少なくありません。それでも人口増加が前提であった時代は、いずれ必要になるからと楽観的な対応が許されたため、あまり問題にはなりませんでした。しかし今後は従来同様の対応を繰り返すことはできない状況であることは明白であり、だからこそ全国の自治体が「公共施設マネジメント」に注目しているのです。

本書で何度も繰り返して説明していますが、公共施設を「しまう」とは、単に施設を減らすことではなく、質の高い公共サービスを提供できる状態にすること・なることを目指した活動なのです。質の高い公共サービスは、その地域の産業や生活を向上させる基盤となります。そして公共サービスに求められる内容は、立地や環境が大きく異なるため、公共施設に求められる公共サービスも地域によって形や機能が異なるはずです。またハコモノだけでなく、インフラも同様に地域によって形や機能が異なります。それならば、「公共資産」は地元産業や伝統産業などと同様に重要な「地域資産」であるはずです。しかし皆さんの住んでいる地域には、胸を張って「地域資産」と呼べる「公共資産」があるでしょうか。魅力がある「公共資産」が地元のどこにあるかすぐに思いだせるでしょうか。

ここで少し話は変わりますが、最近アメリカを中心に世界中で話題になっている「こんまりメソッド」をご存じでしょうか。「こんまり」こと近藤麻理恵氏が提唱する「片づけをすることで、人生を変える」メソッドのことですが、その最大の特徴が、片づけした後に残すものを「ときめくかどうか」の基準で選ぶ方法です。この方法を始めて聞いたときに、「公共資産」でも全く同様ではないだろうかと思いました。必要でないからと言って何でも削減するのではなく、「ときめく公共資産」であれば残す、つまり継続的な運用を検討するべきでしょう。一方で「ときめかない公共資産」は民間企業などと連携しながら積極的に手放し、新しく整備する必要性があるならば「ときめく公共資産」を整備するべきだと思います。

例えば5章で示した6事例は、どれも「ときめく公共資産」の整備を目指した事例、もしくは実現している事例であり、自信をもって「地域資産」の整備をしていると言えるでしょう。このように「しまう」ことは決してネガティブな活動ではありません。どちらかと言えば、地域産業の活性化や豊かな生活の実現を目指すポジティブで楽しい活動なのです。確かに少し面倒で大変な作業が必要になるかもしれませんが、本気で向き合わなければその楽しさを感じることはできません。誰もが地元産業や伝統産業を直接盛り上げることはできなくても、誰でも「公共資産」を「地域資産」にする活動には参加することができるはずです。年齢や立場などに関わらず、まずは「公共資産」に関心を持つところから始め、できる範囲で空間を「共有」し、できることから「協働」していただければ、間違いなく「公共資産」は「地域資産」に変わるはずです。

堤 洋樹