空き家・空きビルの福祉転用

日本建築学会 編

内容紹介

既存建物の福祉転用は、省コスト、省資源につながり、新築では得難い便利な立地やなじみ感のある福祉空間が作り出せる。だが実現には福祉と建築の専門家の協働が欠かせない。そこで関係者が共通認識を持てるよう建築や福祉の制度・技術を紹介し、様々な限界をクリアしている先進37事例を、その施設運用の実際と共に掲載した。

体 裁 B5・168頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3200-0
発行日 2012/09/20
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに

1章 福祉転用とは

1-1 「支え合いの福祉」の環境づくり
1-2 既存建物を再活用することの意味と価値
1-3 福祉転用に関わる既存制度への対応と課題
1-4 既存建物を活かす計画と技術
1-5 福祉転用における安全とリスクの考え方

2章 事例に見る工夫

事例の読み方―分類とその特徴
2-1 住宅から
事例01 [住宅→認知症グループホーム]
グループホームせせらぎ
伝統的な農村住宅を活かす最小限の改修
事例02 [住宅→精神障害者グループホーム]
あおいホーム
作業所に歩いて通える空き家を活用
事例03 [住宅→自立援助ホーム]
ステップハウス
間仕切りの工夫で空間の質を高め法規もクリア
事例04 [住宅→小規模多機能拠点]
ほたる
懐かしい伝統的空間と現代的新築空間の共存
事例05 [住宅→高齢者デイサービス]
潤生園やすらぎの家 成田
建物が醸し出すやすらぎの力を活かす最小限の改修
事例06 [住宅→障害児デイサービス]
ちゃれっこくらぶ
所有者の意向を尊重し良好な関係を築く
事例07 [住宅一部→保育拠点]
保育ママさんの「おうち」
使い方の工夫で自宅を保育空間に
コラム1 グループホームとは
2-2 集合住宅から
事例08 [集合住宅→高齢者共同住宅]
まきつかだい高齢者生活支援住宅
画一的住戸から生活の馴染みや多様性を生み出す
事例09 [店舗付き共同住宅→重度身体障害者グループホーム]
重度身体障害者グループホーム よこかわ
設計者が利用者の自宅に泊まり込んでニーズを把握
事例10 [集合住宅一部→高齢者デイサービス]
いずみの里
1階の2住宅をウッドデッキでつなぎアプローチを確保
事例11 [集合住宅一部→コミュニティカフェ]
花しょうぶ
角地の特徴を活かしたアクセスと入りやすい雰囲気
事例12 [集合住宅一部→地域包括支援センター]
あんしんすこやかルームふかえ
高齢者が訪れやすい団地内住戸を活用
コラム2 コミュニティカフェ・コミュニティレストランとは
2-3 宿泊系施設から
事例13 [宿泊施設→特別養護老人ホーム]
うつくしの丘
動線が長くならないようユニットに分割
事例14 [病院→サービス付き高齢者向け住宅等]
安心ライフ寿
病院隣接の旧建物を利用し医療と介護の連携を実現
事例15 [病院→特別養護老人ホーム等]
みなとレインボーハイツ
動線や採光を工夫しコストを抑制
コラム3 宅老所・小規模多機能拠点とは
2-4 文教系施設から
事例16 [小学校→サービス付き高齢者向け住宅等]
ヘルスケアタウンにしおおい
地域のシンボルを敷地分割により転用
事例17 [中学校→高齢者デイサービス等]
ケアコミュニティ原宿の丘
地域のシンボルを残しつつ大規模な容積を活用
事例18 [小中学校一部→保育所]
湯涌保育園
学校の堅い空間を柔らかくする工夫
事例19 [小学校一部→保育所]
中延保育所分園
改修を抑え小学校へのスムーズな就学を目指す
事例20 [コミュニティ施設一部→保育所]
A認証保育所
間仕切りのない開放的スペースのまま活用
コラム4 デイサービスとは
2-5 店舗等から
事例21 [ホームセンター→有料老人ホーム等]
榛名荘
まちなかの立地を活用
事例22 [醸造酢工房等→認知症グループホーム等]
鞆の浦 さくらホーム
まちなかの立地と建物の歴史性を活かす
事例23 [料亭→小規模多機能拠点]
ちくぜん
美しい建物と庭園を最大限活かす
事例24 [店舗→保育所]
木もれ陽保育園
開放的な空間のまま食・寝・遊を分離
事例25 [店舗→障害者や近隣住民の集うカフェ・ギャラリー等]
地域活動支援センター のぞえの杜
国道沿いの店舗を暖かみのある空間に
事例26 [店舗→コミュニティレストラン]
まきつかだいレストラン
2店舗をつなぎ多様な階層の利用空間を実現
事例27 [店舗→コミュニティレストラン]
ふれあいお食事処明舞ひまわり
団地内センタービルの空き店舗活用
コラム5 学童保育・子育てサロンとは
2-6 事務所・工場・倉庫から
事例28 [倉庫→集合住宅+精神科デイケア]
生活支援ホーム シェホームM
減築により質を上げ法規もクリア
事例29 [作業員詰め所→高齢者デイサービス等]
関三倶楽部
簡易な建物で落ち着ける空間を実現
事例30 [支店社屋→高齢者デイサービス+障害者・児日中活動支援サービス]
福祉交流館
パレットせいわ 増築等も併用し多様なニーズに対応
事例31 [信用金庫→高齢者デイサービス等]
中込デイサービスセンター
金庫の湯として親しまれる空間を実現
事例32 [事務所→精神障害者デイサービス]
豊玉障害者地域生活支援センター きらら
近隣との協働のまちづくりで理解を得る
事例33 [木材置き場→重症心身障害者デイサービス]
デーセンターモモの家
五感を刺激する開放的な空間と屋上緑化でグッドデザイン賞受賞
事例34 [診療所→高齢者デイサービス+コミュニティレストラン]
わたぼうしの家
最小限の改修を積み重ね使い込む
事例35 [貸し事務所→障害児デイサービス]
じらふ難波
音漏れ対策を施し繁華街に外出しやすい立地を活かす
事例36 [機械工場→障害者が働くカフェ]
路地カフェ
既存建物の特徴と敷地の制約を逆手にとった隠れ家
事例37 [事務所→コミュニティカフェ]
芝の家
新たな関係・活動が生まれるしかけづくり
コラム6 支援付き住宅とは

3章 制度と技術

3-1 福祉施設の制度と基準
1 社会福祉施設の制度化の流れ
2 高齢者系福祉施設の制度と種類
3 障害者系福祉施設の制度と種類
4 子ども系福祉施設の制度と種類
コラム7 最低基準
コラム8 運営形態
3-2 建築の制度と基準
1 建築に関する法規
2 用途変更と複合用途
3 公営住宅における目的外使用
3-3 建築の技術
1 省エネルギー対応
2 シックハウス・アスベスト対策
3 耐震改修
4 設備改修
3-4 バリアフリーの制度と技術
1 バリアフリー改修
2 エレベーターと段差解消
3-5 消防の制度と技術
1 消防の考え方と対応
2 スプリンクラーの種類と効果

森 一彦(大阪市立大学大学院生活科学研究科教授)
加藤 悠介(豊田工業高等専門学校建築学科講師)
松原 茂樹(大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻助教)
井上 由起子(日本社会事業大学専門職大学院准教授)
絹川 麻理(高齢者住宅研究所研究員)
倉斗 綾子 (千葉工業大学工学部デザイン科学科助教)
黒木 宏一(新潟工科大学建築学科准教授)
古賀 誉章(東京大学大学院工学系研究科助教)
古賀 政好(東京電機大学大学院先端科学技術研究科博士課程)
小林 陽(東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻修士課程)
佐伯 博章(株式会社地域総合設計代表取締役)
橘 弘志(実践女子大学生活科学部教授)
隼田尚彦(北海道情報大学情報メディア学部准教授)
藤田 大輔(岐阜工業高等専門学校建築学科准教授)
北後明彦(神戸大学都市安全研究センター教授)
松浦 正悟(大和ハウス工業株式会社シルバーエイジ研究所設計部長)
松田 雄二(お茶の水大学女子大学大学院人間文化創成科学科准教授)
三浦 研(大阪市立大学大学院生活科学研究科准教授)
室崎 千重(奈良女子大学生活環境学部住環境学科講師)
山田 あすか(東京電機大学未来科学部建築学科准教授)
厳 爽(宮城学院女子大学学芸学部生活文化デザイン学科教授)

本書は、近年急速に広まりつつある地域の中の空き家・空きビルを活用して福祉施設に転用する実態についてまとめたものです。

ここで紹介する福祉転用(福祉コンバージョン)の37事例は、その元になる建物に小さな住宅から大規模な集合住宅や病院・ホテルまでさまざまな種類が含まれています。この結果からも、わが国の地域資源が少しずつではありますが、幅広く活用されつつある状況に気づくことができます。

内容を丁寧に調べていくと、いろいろな経緯を経て、さまざまな工夫をこらしながら、福祉転用を実現させていることがわかります。特に、いままで新築によって建てられていた福祉施設とは異なるかたちで、地域のニーズを汲み上げ、既存建物のさまざまな条件との折り合いをつけた個性的な事例が、建築関係・福祉関係の双方の専門家に強い関心を呼び起こすでしょう。それらは、従来の制度の枠からはみ出し、解決すべきさまざまな課題や問題点も抱えていますが、これからの新たな可能性を示しているとも言えます。

東日本大震災の経験は、わたしたちの住まいや地域のあり方に大きな転換を迫るものです。単に災害に対する備えをするだけではなく、日常の生活をその基盤から見直すことが求められています。それは、わが国が抱えている人口減少、高齢社会、財政制約といった社会構造変化や気候変動・地球環境問題を踏まえたうえで、持続可能で活力ある国土・地域づくりを構想することにつながっています。そのなかで、地域で社会的な弱者を受け止め、互いに支え合う福祉の仕組みづくりは重要な柱の1つであると言えます。福祉転用はその先駆けであり、これからの地域のあり方を考える手がかりであるとも言えるでしょう。
なお、本書では、次の考えに基づいて用語を使用し、内容を記述しています。

  • 本書には、運営者や執筆者の考え方により、同じ内容でも使用する用語が異なる箇所があります。これは福祉転用の多様性を伝えることに重点を置いたためです。特に、2章の「事例に見る工夫」においては、運営者・執筆者の意思を尊重して用語の統一を最小限にとどめています。
  • 福祉転用に関わる制度は社会情勢により大きく変化してきました。今後もその可能性があります。本書ではできる限り現在(執筆時)の制度を踏まえた内容を記述しています。
  • 本書の施設名称やサービス名称は必ずしも正式名称ではありません。ケアの現場に携わるスタッフや福祉転用の設計を行う方々にも伝わりやすい表現になるように考慮した結果、通称を用いている箇所があります。

本書が、既存建物を使った新しい施設のあり方を模索している福祉関係者、そのお手伝いをしている建築関係者、そして地域の空き家や空きビル、また放っておくとそうなりかねない建物を福祉転用によって甦らせ、地域の再生につなげようとしている所有者や地元の方々への指針・参考になれば幸いです。

一般社団法人日本建築学会

福祉施設小委員会「福祉施設のあり方研究ワーキンググループ」主査

森一彦(大阪市立大学)

家・ビル・小学校・店舗・工場などの既存建物を福祉施設に転用(コンバージョン)することが増えてきました。これからの社会状況や地域社会と福祉施設のあり方との関係ついて議論をしていた「福祉施設のあり方研究ワーキンググループ」では、これらの施設を訪問した際、独自の物理的な工夫が施されることで既存建物が持つメリットが最大限に活用されており、利用者もスタッフもその空間で生き生きと過ごしていることが実感できました。

本書では、多種多様な既存建物を転用した37の事例からさまざまな工夫を紹介し、福祉施設に転用するうえで留意すべき基本的な法律・制度・技術について解説しました。また、既存建物を福祉施設に転用することの意味や価値にも触れました。37の事例を振り返ると、改修費が0円や数百万円から数億円までさまざまな福祉施設があります。もちろん改修費は運営者の資金等によるところが大きいのですが、資金の多寡にかかわらずしっかりした理念とユニークな工夫があるので、利用者やスタッフが生き生きと過ごしているところばかりです。

本書では各事例の実像を伝えたかったため、紙幅の制約もあり37の事例しか触れることができず、地域や施設種別に多少のばらつきが生じています。事例を絞る前段階で、私たちがリストアップしただけでも多数存在することが確認できたので、読者の方々が住む地域にもきっと優れた転用した福祉施設はあるでしょう。それらも参考にしつつ、本書がこれから既存建物を転用して福祉施設を始める方々のきっかけになり、実現に向けての一助になれば、この上なく喜ばしいことです。
最後になりましたが、本書に協力していただいた福祉施設や設計事務所等関係者の皆様に、心から感謝を申し上げます。また、学芸出版社の前田裕資様、森國洋行様には出版までの時間が少ないなか丁寧に編集をしていただきました。お礼申し上げます。

一般社団法人日本建築学会

福祉施設小委員会「福祉施設のあり方研究ワーキンググループ」幹事

加藤悠介(豊田工業高等専門学校)

松原茂樹(大阪大学)

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