SDGs先進都市フライブルク

中口毅博・熊崎実佳 著

内容紹介

環境、エネルギー、技術革新、働きがい、人権、教育、健康……フライブルクではSDGsに関わる市民・企業活動が広がっている。本書では、それらがなぜ個々の活動をこえて地域全体の持続可能性につながっているのかを探り、SDGsを実現するために自治体や企業、市民が考えるべきこと、政策や計画立案、協働・連携のヒントを示す。

体 裁 A5・220頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2713-6
発行日 2019/08/25
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


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■序章 フライブルク市はなぜ「SDGs先進都市」と言えるのか 11

1 ドイツでもっとも「SDGs先進都市」に近いまち─フライブルク市

2 推進のための行政システム

■第1章 貧困をなくそう 25

1・1 貧困層へのケアと省エネ改修を同時に実現─ヴァインガルテン地区

■第2章 飢餓をゼロに 32

2・1 市民の共同出資による有機農業―ガルテンコープ・フライブルク

■第3章 すべての人に健康と福祉を 39

3・1 自然保育で身につく主体性―ホイヴェーク森のようちえん

■第4章 質の高い教育をみんなに 45

4・1 生徒の主体性を高めるエコワットプロジェクト─シュタウディンガー総合学校

4・2 オールラウンド型の環境学習拠点―エコステーション

4・3 多種多彩なプログラムを有する生涯学習センター─フォルクスホッホシューレ・フライブルク

■第5章 ジェンダー平等を実現しよう 68

5・1 カフェや書店でジェンダー平等活動─女性に対する暴力反対キャンペーン

■第6章 安全な水とトイレを世界中に 73

6・1 水の問題に市民の立場からアプローチ─レギオヴァッサー

■第7章 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 81

7・1 市民出資で太陽光や風力発電所を建設─エコシュトローム

7・2 生徒主体で太陽光発電事業会社を運営─独仏ギムナジウム

■第8章 働きがいも経済成長も 93

8・1 企業との連携で行う職業教育─リヒャルト・フェーレンバッハ職業学校

8・2 クリーンエネルギーを販売し地域経済・雇用を下支え─バーデノーヴァ

■第9章 産業と技術革新の基盤をつくろう 103

9・1 最先端の太陽エネルギーシステムを開発─フラウンホーファー研究機構・ISE

■第10章 人や国の不平等をなくそう 108

10・1 グローバルな貿易による不平等の解消を目指す─ヴェルトラーデン・ゲルバーアウ

■第11章 住み続けられるまちづくりを 116

11・1 車の少ないまちづくりの中核を担う─フライブルク市交通公社(VAG)

11・2 住みやすさ抜群、車に依存しない街─ヴォーバン地区

11・3 協働作業で作った環境配慮型住宅とコミュニティ─ヴォーバン地区の建築グループ

■第12章 つくる責任つかう責任 143

12・1 リサイクル率60%超えを実現─フライブルク市廃棄物管理・清掃公社(ASF)

■第13章 気候変動に具体的な対策を 152

13・1 歴史的建造物を保存しながら省エネに挑戦─ヴィーレ地区

■第14章 海の豊かさを守ろう 159

14・1 魚類保全のため、菜食の寿司を提供する─魚のない寿司

■第15章 陸の豊かさも守ろう 166

15・1 森の大切さや経済的価値を学ぶ拠点施設―ヴァルトハウス

■第16章 平和と公正をすべての人に 173

16・1 ローカルな戦略でグローバルな武器貿易に反対─兵器情報センター・リプ

■第17章 パートナーシップで目標を達成しよう 181

17・1 エコステーションと連携し生徒主体の環境活動を実践─ヴェンツィンガー実科学校

17・2 多様な市民団体の連携でSDGs達成を目指す─アイネ・ヴェルト・フォーラム

■終章 「SDGs先進都市」を目指して 193

1 「SDGs先進都市」の成立要因

2 日本における持続可能な地域づくりの課題

3 「SDGs先進都市」に向けての日本流の取り組みのアイデア

中口毅博(なかぐちたかひろ)

執筆担当:序章、1~3章、4章1~2節、5章、7~9章、11~13章、15章、17章、終章

静岡県三島市生まれ、筑波大学比較文化学類卒業、博士(学術)
芝浦工業大学環境システム学科教授、(特非)環境自治体会議環境政策研究所所長。
自治体の環境政策を専門とし、地域創生やSDGsに関わる教育・啓発活動を自ら実践する。主な編著書に『環境自治体白書』(生活社、毎年発行)『環境マネジメントとまちづくり―参加とコミュニティガバナンス』(学芸出版社、2004年)『環境自治体づくりの戦略―環境マネジメントの理論と実践―』(ぎょうせい、2002年)など。

熊崎実佳(くまざきみか)

執筆担当:4章3節、6章、10章、14章、16章

東京都昭島市出身。2010年よりフライブルク市在住。通訳兼フリーライター。
環境保護や反原発運動などに関わっており、市民団体と広いネットワークを持つ。エネルギーコンサルティングを行うドイツ人の夫と、二人の子どもと暮らす。

国連が世界の共通目標として、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な発展のための目標)を2015年に決めてからまだ4年も経っていないが、書籍の通信販売サイトで検索すると、「SDGs」を冠する単行本は、2019年6月現在53冊もある。これらにはSDGsの17の目標の意味や国際的課題の解説、企業経営や教育への指針、具体的取り組みの紹介や行動のヒントなどが書かれている。しかし、地域の持続可能性や地域課題解決の取り組みなど、地域とSDGsの関係性について深く言及した本はごく少なく、これらの本を読んでも、持続可能な都市=本書で言う「SDGs先進都市」の理想的な姿・形は見えてこない。これは、これまで私自身が共著者・編著者として関わった二つの著作にもあてはまる。

私は語呂合わせが得意なので「SDGs先進都市」の定義=必要条件を以下のような語呂で示したい。

S:Shimin→市民主体の取り組み
D:Douji→同時解決の取り組み
G:Goal over Generation →世代を超えた明確な目標に基づく取り組み
s:Sekai→世界と繋がった取り組み

私は取り組みの大半がこの四つの条件に当てはまる都市こそが「SDGs先進都市」を名乗るにふさわしいと考えている。ではこの定義に沿うと、「SDGs先進都市」は、日本にどれくらいあるであろうか?

内閣府は「SDGs未来都市」として、2018年、2019年それぞれ約30の市町村・都道府県を指定したが、これらの都市はまだ発展途上であって、私が定義する「SDGs先進都市」のレベルには達しているとは言いがたい。具体的に言えば、SDGsに関する取り組みの大半は行政主導で実施されており、数分野で“市民参加”が行われていればまだ良いほうである。また、既存の施策を17の目標と紐つけしただけで、複数課題の同時解決の視点から組織横断的な新たな施策を打ちだしているところは少ないし、持続可能な発展のための将来目標・指標を設定しバックキャスティング(未来を起点に今取り組むべきことを考える方法)で施策を選定していることは稀である。ましてや世界の国々や都市と連帯し、国際的課題を解決しようとしている自治体はごくごく少数である。

一方海外の都市に目を転じてみると、「SDGs先進都市」と言えそうな都市はいくつか存在する。本書で取り上げるドイツのフライブルク市は、上記の4条件に当てはまる都市の最右翼である。本書は、SDGsの17のゴールに対応した17章で構成しているが、そのすべてがフライブルク市民もしくはフライブルク市役所による取り組みである。17分野すべてを一つの都市でそろえられる自治体は日本には存在しないし、世界的に見ても稀であろう。

本書の終章では、フライブルク市がなぜ「SDGs先進都市」にもっとも近いと言えるのかという成立要因や、日本の自治体がフライブルク市に近づくための秘訣=指針と取り組みのアイデアを紹介した。したがって本書は、内閣府の言う「SDGs未来都市」を目指す自治体の“指南書”として活用いただけるものと確信している。むろん、フライブルク市とは違った形の理想型がいくつも存在すると思うが、少なくとも自治体の首長や行政職員の行動指針や新機軸の政策実行のヒントになる書である。

繰り返すが、本書で詳述しているフライブルク市のSDGsに関する取り組みの主役も、社会・経済・環境の好循環の恩恵を受けているのも市民であり企業である。したがって本書は行政だけでなく、SDGsの取り組みを実践する市民の活動指針として、また企業の地域レベルのCSR(社会貢献)や市場開拓のヒントとして、幅広い読者に有用であるはずである。

令和という新たな時代の幕が開けた。本書で紹介した取り組みをヒントに、日本でも多くの自治体・市民・企業が新たな一歩を踏み出し、多様な主体による地域課題解決の取り組みが実践されることを願ってやまない。

2019年7月 著者代表 中口毅博

「政治家が何かをするのを待つのではなく、自分たちでできることをしようと思った」。ドイツの市民団体に話を聞くとこんな言葉を度々耳にする。日本人がドイツ市民から一番学べることは、ここにあるのではないだろうか。ボトムアップで市民が社会を作る、政治の主役は自分たちである、そんなフライブルク市民の意気込みが本書を通して伝われば非常に嬉しい。

とはいえ、この本で取り上げた以外にもフライブルクではさまざまな分野で市民団体が活動している。掲載した団体であっても紹介しきれなかった部分も多い。ドイツやフライブルクの市民社会がいかにダイナミックであるかを語るには、自分の能力もページも足りないと痛感する。

本の出版に際し、快くインタビューに応じてくれた市民団体や企業・公社、とりわけ、多忙な中プライベートの時間を削り話をしてくれた方々にまずお礼を述べたい。また学芸出版社の前田裕資さん、編集協力の村角洋一さんには、完成まで辛抱強く付き合っていただいた。スケジュールの遅れや諸事情の変更にもかかわらず出版できたことに改めて感謝したい。

この本は共著ではあるが、私熊崎が執筆したのは4・3節、6、10、14、16章のみで、他の章節と取りまとめは中口さんが担当された。ヒアリングのほとんどは共同で行い、私の方で中口さんの原稿に加筆したり、独語から和訳をした部分もあるが、この書はフライブルク市民の取り組みを日本に伝えたいという中口さんの熱意の賜物である。その契機としては、すでに書籍などでフライブルクを日本に紹介されている今泉みね子さん、村上敦さん、前田成子さんの功績が大きい。フライブルクに一時滞在していた

新田純奈さん、木紗弥さん、芝井彰さん、フライブルクをテーマに卒論を書いた研究室の元学生さんたちも本書作成に大きく貢献されたという。

最後に、本の仕上げ段階に長女の出産が重なってしまい、皆さんにご迷惑をおかけしたことを深くお詫びする。また大変な時期にいろいろサポートしてくれた夫と、フライブルクの友人たちに心から感謝を捧げる。

2019年7月 熊崎実佳